19話:最終決戦④
おしまいまで 残り3話
「紛い物では、やはり駄目か」
パルムートが砲弾を受け、倒れ込む中、玉座に鎮座するカルパス王は小さく呟いた。
パルムートの意識外、警戒範囲外からの超長距離射撃。一度は皇女も撃ち抜かれかけた必殺の銃弾は、ようやく、成果を上げる。
そしてその好機を、皇女とマクルスは逃さなかった。
皇女は、瞬時にヴァールを動かし、パルムートの両腕に収まるマルルとクルルを飲み込み、ヴァールを手元に戻した。
マクルスは、動揺するであろうカルパス王に、部分獣化した手の爪で襲いかかる。
だが、マクルスの攻撃はすんでのところで、水の膜に邪魔され、届かずに終わる。すぐさま距離を取り、皇女の横へと戻る。
「私が動揺するとでも思ったかい?あっはは!使い捨ての道具に、感情など抱くわけがないだろう?例え行為を行おうとそこに愛はないよ。ただの、都合の良い性処理道具だったよ。まあ…物は一級品だったがね。役立ってくれるって意味では、これと同様だね」
マクルスの攻撃を防いだのは、カルパス王の玉座の後ろから現れた〝勇人〟だった。
その整った容姿にマホが恋し、皇女が惹かれ、ともに旅をし、試練を乗り越え、最後には魔王(マクルスと途中で交代した皇女)を討ち取った勇者。
常に異世界に目を輝かせていた転生者の姿は、もうそこにはなかった。虚ろな目で下を向き、枝垂れ柳のように垂れ下がった頭から涎を垂らす。頬はこけ、面影がほんの少し残る程度だ。
「ああ、だが回収はしないとね――ヴァールよ、私の影へ」
カルパス王の発言とともに、倒れ込んだパルムートの影から、もう1柱の〝ヴァール〟が現れた。世界に必ず1柱しか存在しないはずの存在が、今ここに、2柱揃う。
「あ″いよ」
皇女と共にいるヴァールより、少し渋い声が小玉する。最果ての蛇は、カルパス王の影へと入り込んだ。そして、その姿を現す。
「俺様が索敵できないほどの遠距離からの狙撃…くくっ…流石は今代の継承者だぜぃ…!やるなぁ″!」
「(まあお婆様が復活してる時点でこの可能性はあると思ったけど…あれ?なんか向こうのヴァール、やけにオラついてない?)」
「(はぁ…恥ずかしい限りだ。昔の自分ってやつは)」
「(ふふっ、ヴァールにも若気の至りってのがあったんだね!ぷぷっ!)」
「(全力で面白がってるだろ、嬢ちゃん。はぁ…あの頃はパルムートと一緒になってヤンチャしてた時期だからな。男漁りも酷かったが、魔獣とか他の国の兵士とかとの戦いも日常だったから、言葉も荒むさ。でも、あれだ…自分で思ってる以上に…酷いっ…)」
パルムートについていたヴァール(以後、旧ヴァールと呼ぶ)が姿を見せ、話しかける中、旧ヴァールが皇女たちに勘付かれないよう、背中の方からカルパス王を包み込んでいた。
そして、最後に勢い良く、顔や胸などの身体の正面側を包み込み、カルパス王は旧ヴァールを纏う形となった。
ヴァールとの会話に花を咲かせていた皇女だったが、相手の動作に勘付き、声を発する。
「なっ…!?ヴァール!!闇影だ!!」
「あいよ!!」
ヴァールの特殊能力の一つ。
身体全体を闇で包み込み、闇に紛れ、隠密行動を行う能力:闇影。
光すらも飲み込む闇は、反射した光が人の目に入り込むことを拒み、認知する事を阻害する。
皇女の考えがロスタイムなしでヴァールに伝わる。瞬時の判断により、ヴァールは皇女から順にマクルスを包み込んだ。だが、ヴァールの包み込みより早く、
「乾水」
―――勇人の魔法が発動する。
ヴァールからの包み込みが間に合わず、漏れ出ていたマクルスの左腕の肘から先が、刹那の間に乾燥していく。しっとりした肌はコンマ何秒でカサつき、肌は荒れ、肌の表面の水分が無くなるやいなや、その奥にある血液すら気化していく。そして最後には、ミイラのような皮と骨だけが残る乾涸びた腕となった。
「かっはは…やっぱり最強じゃのぉ〜勇人よ」
前に、煌の盾の試験で説明したが、おさらいしよう。
勇人の魔法は、水の原子を操作し、状態変化を任意で起こすことができ、なおかつ、原子量を増やすことで、水の量自体を増やすことが出来る。
湿度とは、空気中に含まれている水蒸気の度合いを指す。水蒸気とは、水が蒸発し気体となったものを指す。
これすなわち、空気がある所であれば、勇人は空気中の水蒸気を操り、水や氷を作ることが出来るというわけだ。
更に、水の量を増やせるということは、それら全てを無尽蔵に作り出すことが可能となる。
水は高圧縮すれば、ダイヤモンドを優に切れる刃となり、不純物を取り除き蒸留水を作れば、弱点である雷もほとんど通さない。
更に、蒸発した時の水蒸気で目眩ししたり、きれいな氷を作って高級かき氷を食べることだって出来る。
それだけでも十分に脅威なのだが、勇人はこうも言っていた。
〝間接的に触れれば、操ることが出来る〟と。
空気というのは、この世界で生きている存在であれば、絶対に触れ合っているものだ。生きるために呼吸し、空気を体内に入れる。
勇人がその気になれば、吸引した空気に含まれる水蒸気から間接的に触れているモノ―――血液を操ることが出来る、というわけだ。
手を触れずとも、空気を媒介にするだけで、血液を沸騰させて気化したり、人為的に血を固め、脳梗塞等を起こすことが出来る。
だからこそ、最強のチート魔法。
触れずとも、近寄らずとも、相手を殺すことが出来る。
そしてなにより、この世界にいる限り、それを防ぐことができないのが、最も厄介だ。
ただ唯一それが効かない存在がいる。それは上位魔法以外を無効にする〝古の三柱〟である。
だから、皇女もカルパス王もヴァールを纏うことで、勇人の攻撃を無効化していた。万が一、ヴァールの外に出ようものなら、マクルスの腕と同じ末路を辿る。
「いきなり必殺の初手を繰り出してくるとは、カルパスとやら…貴様、なかなか残酷よな?」
「お褒めいただき光栄だよ。元バネルパーク皇国の皇女様」
両者笑みを浮かべながらも、目は全く笑っていない。ぶつかり合う視線が、見えない火花を散らす。
「貴様も分かっておるだろうが、この状況では互いに魔法は使えん…が、こっちには最強がいる。私が最も得意とする体術で、その勇者が張り合えるとでも思っておるのか?」
ヴァールを纏っている間、魔法は使えない。勇人の攻撃を防ぐため、間接的に触れられる外からの空気を遮断し、ヴァールの体内から空気を出し、循環している。
ヴァールを境に、外と内が完全に分断されている。干渉できないのだ。そのため、魔法を使おうにも内側でしか発動することができず、外敵への攻撃魔法を使うことが出来ない。結果、纏っているヴァールごと物理的に相手に当たって攻撃する手段しかなくなる。
魔法を使っている当の本人――勇人も〝乾水〟の常時発動で、水と原の2種類を使用しているため、他の魔法は使えない。残るは各々が持つ物理的強さがモノを言う――という皇女の予想は、
「ええ、ええ。分かっております、分かっておりますとも。ええ―――魔法が使えなければ、ね」
ものの見事に覆されることになる。
「君に持たせておいて良かったよ。やはり保険というものは何重にもかけておくべきだね。
―――――開眼せよ、魔法使いの目ぇ!!」
カルパス王の発言に呼応し、勇人の首にかかっているネックレスが輝き、動き出す。丸い球体の外側を覆う金属の蓋が動き出し、幾重にも折り重なった蓋が開く。
皇女はそれに見覚えがあった。
キラキラと輝く短髪の白い髪。
口は少し悪いがよく笑い、仲良くなると懐いてくる犬のような少女。
普段は茶色なのに、光が入ると少し赤みがかって見える瞳。
それは―――――マホの目だった。




