表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
化物皇女と勇者?と魔王?  作者: 北田シヲン
第2章 世界の始まり
53/57

17話:最終決戦②

おしまいまで 残り5話

「で、誰から死にたい?」


 時は、王城バルトに攻める少し前、バネルパーク皇国のあった辺りで、皇女たちが休憩のため、キャンプをしていた頃まで遡る。(第二章10話(ep.46):進軍の続き)


 軍議が終わり、各々がテントに戻る中、皇女は清竜騎士団の狙撃を受けた。だが、それを逆手に取り、相手の居場所を突き止め、逃げようとする清流騎士団の面々に今、問いかける。


 突如溢れ出る殺気。全身の毛が逆立ち、汗が吹き出す。背中から流れ落ちる汗は冷たく、背筋を震わせる。


 騎士団員は全員、死を覚悟した。固唾を飲み、団長が一歩前に出た。


「責任は」


「あっらぁ〜!久しぶりじゃないぃ〜?皇女様ぁ♡」


 それを遮るように、心大臣が団長の前に割り込んだ。心大臣の額にも、小さな脂汗が滲んでいた。


「久しいな、心大臣…え、ちょっと待って。そんな喋り方じゃったっけ?」


 あまりの変わり様に、皇女は驚く。シリアスな雰囲気から場の空気が少しばかり和む。


「貴方様に魅了(チャーム)をかけられてからぁ〜ん、こうなっちゃいましたぁ〜♡」


 皇女によってかけられた魅了(チャーム)の支配力はとてつもないもので、清竜騎士団お抱えの魔導士ボンボルバートの力を持ってしても、完全には解除できなかった。


 そのため、皇女と話す心大臣の目は常にハートマークがチラついていた。もし、心大臣に尻尾がついていたならぶんぶんと振っていることだろう。


「はぁ〜ん♡やっぱり皇女様って、素敵♡見惚れちゃう♡」


 皇女に近付いたことで、抑えていた魅了の効果が増し始めていた。


「はぁー昔は良い男だったのに…あ、そうか」


 皇女が何か思いついたかと思った瞬間、影に潜むヴァールが動き、心大臣を丸呑み。一瞬の出来事に、場の空気が凍りつく。だが、すぐに心大臣は吐き出された。


「良し。これで魅了(チャーム)は完全に解けた。心大臣よ、腹を割って話そうではないか」


「…こ、皇女様。あぁ、本当に解けている。貴方を見るだけで高鳴っていた胸の鼓動がこんなに落ち着いているだなんて」


 心大臣は、右手を胸に置き、鼓動を確認する。先ほどまで、自分でも驚くほどに高鳴っていた鼓動は、普段通りに戻っていた。ようやく、心大臣の目からハートマークが消えた。


「感謝は、致しません。しかし、これでやっと貴方様と普通に話しができる。今はただ、それが嬉しい限りです」


 少し潤った心大臣の目だったが、瞬きでそれを拭う。


「うむうむ、戻ったな。して、話じゃが、こやつらもおった方が良いじゃろ」


 ヴァールから新たに二人、吐き出される。心大臣の目の前に現れたのは、かつての旧友であり、同僚だった右大臣と左大臣だ。


 商人上がりで一番歳を食っており、ふくよかな体型と毎朝ノリで綺麗に整えられた口髭が特徴の右大臣。40代後半。


 よく日を浴びた褐色の肌に、黄ばみ一つない真っ白な歯。短く切り揃えられた髪型で、中年ダンディという言葉がよく似合う左大臣。40代前半。


 そして、心大臣はというと、二人の大臣と比べると突出した特徴は少ないが、3人の中で一番身長が高く、色白で、顔が整っていた。別段、身体を鍛えているわけではないので、中肉だが、その顔の良さに皇女は惹かれた。30代中頃。


 若さも皇女に見初められたポイントである。皇女曰く「若い方が新鮮じゃからな!」とのこと。


 バネルパーク皇国を最後に、3人は久しぶりの再会を果たす。


「おぉ…久しぶりですな〜心大臣殿」


「元気にしていたか?心大臣殿」


 右大臣、左大臣の順で声をかける。


「ええ、元気にしておりましたとも。お二人も元気そうで…よかった」


 感極まり、泣いて抱擁する、まではいかないにしろ、3人は手を出し合い、握手を交わす。熱く、固い握手だった。


「なんじゃ、つまらん。もっと激しく抱きしめ合ったりせんのか?ちょっと期待してたのに」


「あっ、はは、こう見えて某たちにとってはこれがハグのようなものですよ」


「そおか?そんなものか。ま、よいよい。して、今後の話をしようではないか。団長殿の覚悟も見れたことだしの」


「こ、これはどういうことだ?心大臣の話では、右大臣、左大臣ともに殺されたのではなかったのか!?」


 状況を読み込めていない清竜騎士団の面々。団長が代表して質問を投げかける。


「ふむふむ、真っ当な質問じゃな。右大臣、説明を」


「御意に」


 右大臣は、一歩前に出る。肩掛けの鞄からiPadより2回りほど大きな箱を取り出した。


「皇女様より任命いただきました、今は亡きバネルパーク皇国で右大臣を勤めておった者でございます。えー口頭で説明しても良いのですが、いかんせん某は口下手なもので。話を盛ってしまう癖も、商人柄少々ありますれば、こちらの液晶画面にて、ご説明させていただきたく存じます。よいしょっと」


 魔法で手頃な高さの机を作り出し、そこに液晶画面を置く。公園で絵本の読み聞かせを行うように、右大臣は少し前屈みで液晶を支える。


「さあさあ、皆様。少々長丁場になりますれば、立ったままというのもなんですから、今作りました木の椅子に座っていただいて、お聞きください」


 そこから、液晶画面に映像が映し出させる。魅了されていた心大臣にも分かるように、バネルパーク皇国が無くなる前、皇女がまだ裏切られる前から、動画が流れ始める。



 皇女の旅をまとめたダイジェストムービーが流れた。編集は、マルルとクルル、それとマクルスとパルムが協力して実施。皇女大好きな人だけでなく、パルムを入れることで、くどくなく、見応えのある映画へと仕上がっていた。


 初めて見る映画というものに、清竜騎士団、心大臣含め、食い入るように魅入った。その中には左大臣も。


「ここまでの出来とは…素晴らしいっ!」


 最も目を輝かせて見ていたこんがり肌の左大臣。映画が終わるや否や、真っ先に感想を漏らした。


「…これは、事実なのですか?両大臣殿」


 顎に手を置き、流れていた映像に対する真偽性を、心大臣が問いかける。両大臣とも、交互に目を合わせ、しっかりと頷く。


 今の情勢、我々が置かれている立場―――


「そう、ですか…団長殿、これは」


「心大臣殿。言わずとも分かっておりますとも。我々の因縁など、大国同士の戦いに比べれば些細なもの。分かっております…分かってはおるのです。しかし、今目の前に、故郷を壊し、愛する人を殺した相手が目の前におるのです…!」


 西の大国と東の大国の戦争、西の大国による他の国々への侵略、破壊行為の数々。映画の後半に、鮮明に映し出されていた。


 団長は自分に言い聞かせるように。強く握られた拳から、激しい感情の濁流を感じられる。重い空気が再度、洞窟内に充満しようとした。


「全員を復活させるのは無理じゃが、うーん、そうじゃなー…一人当たり二人までなら出来ると思うぞ」


 空気を読まない皇女の、救いの声が響いた。


「―――は、え、いまなんと?」


「ん?じゃから、一人当たり二人までなら復活できると思うぞって」


「本当か!?」


 団長は食い入るように皇女へと詰め寄る。その間に、右大臣と左大臣がさっと入るも、その興奮具合が伝わってくる。


「嘘偽りはないのだな!?本当だな!?」


「うむ!!嘘は好かん性格での。それに、愛する人が側におらんのは、本当に辛いからの」


 皇女の視線が少し落ちる。憂いを帯びた表情に、その場にいる男女問わず全員が、見惚れる。


「それで?誰から復活させる?」


 ヴァールの特殊能力の一つ。

喰らった相手の記憶を呼び起こし、第三者の記憶を補助として使用することで、復活させる:復元(ふくげん)

なぜ制限があるかというと、ヴァールは今までに大量の人間を喰らっており、ストックしている記憶量が膨大なため、一人一人の記憶を鮮明に覚えているかと聞かれると、曖昧なためである。そのため、第三者の愛する人への強い記憶を元に、関連する記憶を数珠繋ぎで思い起こし、該当する人物を構成、復元する。強く、鮮明な記憶を抱く人物というのは、人生の中で多くても2人ぐらい。中にはそれより多い人もいるが、皇女は過去の経験から、二人までとした。


「…私は最後でもいい。選んだ者から先に行きなさい」


 選ぶ。その言葉が、あまりに不謹慎なのは分かっていた。自分の記憶の中から、大事な人を2人選ぶ。友だちや同僚、仲の良い隣人など、今まで関わりのあった膨大な人の中から2人だけを選ぶ。言い換えれば、他を見殺しにするわけだ。だから、なおさら、慎重に選ぶ必要がある。


 最初に出てきたのは、火筒部隊のアルタだった。常に3人一緒にいるマルサ、カルミ、アルタ。姉妹ではなく、赤の他人だが、容姿から身長までそっくり。他人の空似とはよく言ったものだ。


 左耳にまでかかる前髪が右耳に向かうにつれ、斜めに短くなっているマルサ。左耳から右耳まで綺麗な直線で切られたパッツンのカルミ。マルサと正反対で、右耳から左耳にかけて短くなっているアルタ。団長たちも見分けがつかないほど似ているため、自分たちで決めた髪型で分かるようにしている。


 そんな3人の中のアルタが、冷や汗をかきながら、一歩前へと足を運ぶ。


「あ、兄と母の復活をね、ねね願います」


 片膝を地面につき、恐怖と緊張で上手く回らない口を必死に動かし、懇願する。


「うむ、任せたまへ。では母親の方から。少し頭に触れるぞ」


 皇女は優しく、こうべを垂れるアルタの頭に右手を置く。触れた手から頭皮を通り、脳へ。脳の中にある記憶を司る海馬へと入り込む。中は膨大な記憶情報が溢れかえるハードディスクのようなもの。人によって整理されていたり、ぐちゃぐちゃだったりと様々だが、誰であっても、大切な人の情報だけは大々的に、そして、分かりやすく配置されている。


 それを見つけ、コピペするように情報を保存。逆の手順で、海馬から出て脳から、頭皮を通り手の中へ。保存した情報を元に、ヴァールの中にあるデータと照合・検索。該当する情報を集める。


 皇女が空いている左手を腰上ぐらいまで上げると、突如、左手から光の粒が溢れ出す。光の粒は意思を持って固まり、その密度を増していく。とめどなく溢れ出る光の粒が集まり、空いていた空間を埋めていく。それは徐々に、人の形を成していった。


 ものの数分で、皇女の左手から粒の放流が止まる。イルミネーションのように燦々と輝く光が、閃光弾のような一際大きな光を放つ。その場にいる全員があまりの眩しさに目を閉じた。


 閉じた瞼を通し、光が収まったのを確認する。アルタは、恐る恐る目を開ける。そこにいたのは―――


「…お、お母さん…?ほんとに、お母さんなの?」


 今は亡き母の姿だった。


 眠るように目を閉じてはいるが、そこにいるのは、絶対に母だ。見間違うはずがない。アルタは、溢れ出る涙を拭うことも忘れ、大きく一歩、踏み出した。


 すぐそこに、すぐ近くにお母さんがいる。アルタは、両手を目一杯広げ、飛び込みながら、強く抱きしめた。


「お母さん!!」


 その衝撃に、母も目を覚ます。よろつきながら、アルタを抱きしめ返す。


「…ん?えっと、、これはどういう状況なのかしら?」


 目が覚めた母親は、周囲を見渡し、自分が置かれている状況を確認しようとする。だが、まるで分からない。なぜ洞窟の中にいて、泣きじゃくる娘に抱きしめられているのか、想像力豊かな人でも、この状況を考察するのは難しいことだろう。


「あ、れ?アルタ、あなた。少し大きくなったわね?」


「ふふっ、そりゃそうだよ。だって、2年ぶりに会うんだから」


 泣き笑いながら、アルタは答える。


「2年…?え、待って。ほんとにどういうこと?」


 混乱する母。それもそうだ、アルタの説明が少なすぎる。


「アルタの母君、久方ぶりだな」


「だ、団長さん!?団長さんじゃありませんか!確か…隣国へ化け物退治に行かれて」


「あ、あのだね…そこら辺も踏まえて、説明させてほしい」


 隣国の化け物。それすなわち、皇女である。バツが悪そうに、皇女をチラチラと見ながら、団長は説明を始める。


 化け物の存在により、故郷は消え失せた。

だが、今ここに御座(おは)すお方の尽力によって、復活。

そして、長年探し続けた故郷を襲った化け物――皇女ではなく西の大国に変えて――をようそく見つけ、これから倒しにいく。


 アルタの母にされた説明を要約するとこうなる。

嘘を言う時は本当のことを混ぜると、真実味が増す。


 アルタの母は疑うことなく、それを信じた。真実を言うと、確実に皇女が恨まれ、なぜ一緒にいるのか?なぜ殺さないのか?などなどの質問が濁流のように押し寄せることは、明白であったからだ。


 こうして、一人の目の復活が滞りなく行われたことで、清竜騎士団の面々の表情に、幾許(いくばく)かの嬉しさが滲んだ。


 その後、それぞれが望む大事な人の復活が無事執り行われ、涙溢れる感動の再会で幕を閉じた。



 復活の儀が終わり、休憩の時間となった。疲れた皇女は右大臣が作ったソファーに座り、清竜騎士団の面々は、もう一生無いだろうと思っていた、大切な人との何気ない時間を過ごしていた。


「ふー…流石に疲れた。ヴァールもお疲れ様」


「ありがとよ、嬢ちゃん。ただまあ、なんというか、あの嬢ちゃんがこんなことをするなんて、国にいる時は思いもしなかったぜ」


「ふっふ〜ん、そうじゃろ〜。私も自分で変わったと思うよ…人との出逢いというのは格も恐ろしいものじゃな」


「確かにな。ふっ、そう言いながら喜んでる嬢ちゃん。案外可愛いじゃねぇか」


「失礼な!私はこれでも、清廉潔白で、誰もが振り返る美人だぞ?可愛くないわけがない!」


「そこまで振り切れてるともう何も言い返せねぇな」


 久しぶりのヴァールとの何気ない時間。昔の冷酷で、性欲の塊であった皇女はもういない(性欲は相変わらずだが、マクルスが全面的に対応)。ヴァールも、皇女の変わりようが嬉しかった。長年見てきたからこそ、余計に。


 皇女とヴァールの話が一区切りつくのを見計らい、心大臣がそっと皇女の前に跪いた。


「お話し中、申し訳ございません。ただ、どうしても気になっていることがあり、皇女様にご回答いただきたく」


 こうべを垂れ、恐る恐る言葉を紡ぐ。心大臣は、昔の皇女の恐ろしさをよく知る人物だ。


「ふむ…表を上げよ。今日は気分が良い。何でも聞いていいよ」


「ありがとうございます。気になっていることというのは、先ほどの我々の砲撃について、です」


 顔を上げ、跪いたまま、皇女と視線を合わせる。


「恐れながら、我らの砲撃は完璧でした。前回の反省点を活かし、より強力に、一撃であなた様を屠ることを前提に日々、努力してまいりました。あの砲撃が、なぜあなた様に届かなかったのか、それを教えていただきたいのです」


 前回の彷徨いの森以降、清竜騎士団は並々ならぬ努力を続けていた。今度こそ、皇女を殺すために。


 皇女はにやりと笑いながら答える。


「心大臣ともあろうものが、気付かなかったのか?私の側に、ヴァールがいなかったことに」


 ヴァールがいないことに気付いたのは、ただ一人。マクルスだけだった。


「事の真相はな?ヴァールを索敵範囲内ギリギリまで薄く伸ばし、風船のように膜のように、配置しておったんじゃよ。もちろん、其方ら対策じゃ」


 ヴァールの特殊能力の一つ。

まだバネルパーク皇国があった頃、右大臣の後をつけるために使った闇影(やみかげ)

あの時は皇女の身体全体を闇で包み込み、闇に紛れ、隠密行動を行ったが、今回はヴァールだけに使用。


 薄く伸ばしたヴァールの身体は闇から影へと姿を変え、ほんの少し辺りを暗くした。光すらも飲み込む闇は、反射した光が人の目に入り込むことを拒み、認知を阻害する。


「そこに見事!其方らの攻撃が来た!ヴァールに触れた瞬間から捕食が始まり、私に届く前に全て喰らったわけじゃ。どうだ?完璧な対策じゃろ?そのおかげで、其方らを見つけられたし、心大臣も元に戻せた。我ながら、良い結果となったわ!」


 皇女は、ソファーに座ったまま、満足そうに話すのだった。


そして、今に至る。


「命中!3度目の正直です!対象にようやく、命中しました!」


 副団長は嬉しそうに報告する。

マルサ・カルミ・アルタが放った対皇女用特攻弾。その残り3つを惜しげなく投入し、ようやく、その意義を達成した。1つは胸元に当たり、心臓を貫通。胴体に空いた穴から、向こう側が見える。そして、残り2つは、額と喉元に直撃。あまりの衝撃に頭部は吹き飛び、残った身体も後ろ向きに倒れ込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ