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化物皇女と勇者?と魔王?  作者: 北田シヲン
第1章 勇者の旅
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5話:勇者御一行

 バネルパーク皇国、インティグル竜国の消滅から早1ヶ月が過ぎた。

当の本人である皇女は、当てもなくふらふらと放浪の旅を続けていた。

西に東に、北に南に。目的地などなく、ただ思いつくままに行きたい方向へと進んでいく。


 一人だったら寂しかったろうが、皇女であるマルファムルには、ヴァールがいた。話し相手がいた。


 しかし、その放浪の旅にも徐々に飽きを感じ始めていた。どの街に行ってもいい男はおらず、新しい国を作ることも叶わず、これからどうしようかと考える日々。


 そんなある日、自然の花が大量に群生しているという話題の観光地に、皇女は一人で訪れていた。

辺り一面、色とりどりの花が咲き乱れ、見ているだけで心が癒される。


 皇女は、道の途中にあるベンチに座り込み、空ろな目でその光景を見ていた。


「人は、自分では作り出せない物にこそ、美しさを感じるのかもしれない」


 心に思っていたことが、ついうっかり口から出てしまった。

少し恥ずかしさを感じながら、周りを見るが、誰もいない。皇女は、安心して、胸を撫で下ろす。


 だが、そいつはいた。

ベンチの後ろ、地面に横になりながら、静かに眠っていた。


「…確かにそうかもね。作り出せないから、手に入らないからこそ、儚くて、尊くて、美しいのかも」


「きゃっ!だ、誰ですか?」


 皇女がベンチに腰掛けたことで目が覚め、美しい皇女の言葉に共感を示す謎の男。

ベンチの後ろから、地面に寝転がった姿勢のまま、声をかける。見るからに怪しい。


 一方、皇女は、いきなり後ろから声をかけられ、驚きのあまり、可愛らしい声をあげながら、ベンチから飛び上がった。


「ごめんごめん。俺の名前は、嘉者熊勇人かしゃくまゆうと。一応、勇者やってます。よろしく、綺麗なお姉さん」


 寝転がった状態から立ち上がり、皇女の前に現れたその男は、ただただイケメンだった。

長身。整った顔立ち。少し長めの茶髪は自然とまとまっていて、おっとりとした声と少し低めの声音が、安心感を相手に与える。

そして、なにより、笑顔が凄まじい破壊力を秘めていた。


 爽やかで、どこか可愛らしさが残った笑顔。

その笑顔を向けられた女性はもれなく、恋に落ちることだろう。

もちろん、皇女も例外ではない。すでに、ザワザワと心が波打ち始めていた。


「ご、ご親切にどうも。わたしの名前は、マルファムル・ファン・バネルパークです。こちらこそ、よろしくお願いします」


「うん、よろしく」


「か、しま?ゆうと、さん?珍しいお名前ですね、どこから来られたのですか?」


「難しい名前だよね。かしゃくまゆうと、だよ。どこから来たかと聞かれると、少し困るんだけど…あんまり人に言うなって言われてるけど、お姉さんとはお近づきになりたいし、正直に言うね」


 悪戯っぽい笑顔でそう言うと、皇女の耳に口元を近付け、囁く。


「俺、異世界から来たんだ。地球の日本って場所から」


(耳元で喋るな!ゾクゾクして気持ち悪いじゃろが!)


「西の大国?とかの王様に、召喚されてこの世界に来たんだよ。これで、俺の自己紹介は終わり。次はお姉さんの番だよ。お姉さんはどこから来たの?―――あれ?ちょっと待ってね。今、バネルパークって言った?」


(異世界人の召喚?あ、確か…最近読んだ本がそんな内容じゃったような…)


「えっとー、もしもーし?聞こえてる?」


 勇者を名乗る怪しい男の言葉と、最近読んだ本の内容を必死に思い出そうとする皇女。

しかし、その男の顔がどんどん近付いてきて、考え事を強制的に停止させられる。


「え、あ!ごめんなさい!ちょっと考え事をしていまして!そ、それで何でしたか?」


「ふふっ、お姉さん可愛いね。お姉さんはバネルパーク出身なのかな?」


「あ、はい、そうです!なんで、わかって…あっ!そっか、名前に入ってれば分かりますよね」


(やばい、今更ながら、イケメンの魔力で普通に名前を言ってしまった。

バネルパークなんて名乗ったら、不審に思われる可能性が高いではないか!)


 皇女は自分の失言を悔い、相手の次の発言を警戒した。


(もし、あの日、喰いそびれたやつがいて、そいつが各地に噂をばら撒き、既に世界全土に広まっているとすれば…まさか、この勇者と名乗った男も、わたしを討伐するために、召喚されたんじゃ…)


 物事を考える際、常に最悪のケースを想定する。

皇女は、母親である先代皇女からそう教えられていた。

最悪のケースを想定し、準備することで、大抵のことは切り抜けることが出来る。

相当な想定外(イレギュラー)が起きないかぎり。


「うん、そういうこと。でも、大変だったね…バネルパーク皇国は、魔王によって滅ぼされたんでしょ?」


 勇者の発言は、皇女にとって、想定の斜め上。

まさに想定外(イレギュラー)な回答だった。

皇女が喰い尽くしたバネルパーク皇国は、なぜか、魔王が滅ぼしたことになっていたのだ。


 皇女は瞬時にそれを汲み取り、違和感のないように、ボロが出ないように、慎重に返答する。


「そうなんです…あの日、突如、魔王の軍団が現れて、わたしの国は…ぐすんっ」


「うん…辛かったね」


 嘘泣きをする皇女とそれをいとも簡単に信じ、優しく抱きしめてくる勇者。

女の涙は武器、とはよく言ったものだ。

状況が分からない以上、下手な発言は避け、泣いて、相手の情を誘う。作戦は、見事に成功した。


(なんじゃこの頭の中お花畑野郎は。これ、イケメンじゃなかったら、ただの痛いやつじゃよ?許されないよ?)


 皇女が落ち着いたのを見て、回していた腕を解く勇者。

一歩離れ、相手の目を見る。純粋に輝く目で。


「ファムちゃん、俺と一緒に来ない?一緒に、魔王を倒しに行こうよ」


「え、いいんですか?わたしなんかが、勇者様の冒険に同伴させていただいても?

(な、なんじゃこいつ、ひと狩り行こうぜ!みたいなノリで言いおって。それに、ファムちゃんってなんじゃよ?)」


 心の声でツッコミを入れながらも、ついていくことを決める皇女。


(こやつについていけば、多少なりとも退屈は凌げるか。それに、他の良い男も見つかるかもしれんしな)


「うん、ファムちゃんみたいな綺麗で可愛いお姉さんがいれば、俺も頑張れると思うから」


「そ、そんな、綺麗で可愛いだなんて…ありがとうございます。これから、よろしくお願いします!」


 こうして、皇女ことファムは、勇者である勇人の仲間になった。


「こちらこそよろしく。それで、ファムちゃん。いきなりで申し訳ないんだけど、ここってどこかわかる?俺、迷子になっちゃって」


(なんじゃそれ!天然か!)


 心の中で強く、強くツッコミを入れる。

これからは一人じゃない。本音がバレないよう、冷静に対応しようと心に決めた皇女なのであった。



 花の観光地から離れ、皇女は、勇人とともに街道を歩いている。近くの街に向かうためだ。


話をしつつ、それとなく、バネルパーク皇国やインティグル竜国の情報を集め、ついでに、他の国の情報も集めていく。


 生まれてこの方、自国と同盟国にしか行ったことのない皇女にとって、勇人から聞く話しはどれもこれも、心踊るものだった。


 2人が楽しく話しながら歩いていると、街道の先に街が見えてきた。

その街の入り口、門の前で、いかにも冒険者といった風貌の3人が待っていた。


「あっ!あれ!あそこ!勇人じゃない?!」


「おっ、ほんとだ。ん?なんか、可愛い子と一緒じゃね?」


「本当だな。綺麗な女性が横にいる。また、勇人の犠牲者でなければいいのだがな」


 勇人を見つけた3人は、勇者の仲間だった。

いつも、突然いなくなる勇人を3人は街で待っていた。


 仲間と合流するやいなや、勇人は新しく仲間になったファムを3人に紹介した。


「こちらは、ファムちゃん。あ、マルファムル・ファン・バネルパークさん。迷子になってるところを助けてもらったんだ。魔王に故郷を滅ぼされたみたいで、今日から魔王討伐の仲間になってもらった。みんな、よろしくね」


「うちの名前は、マホ・ツガミ!勇人は誰にだって優しいんだからな!?勘違いすんなよっ!?」


「は、はい!よろしくお願いします!

(めんどくさいタイプじゃなーさっそくマウントとってきよるし。勇人は確かに顔はイケメンじゃが、何考えとるかまだ分からんからの、狙おうにも狙えん…ま、候補ではあるがな)」


 小柄できゃんきゃんと鳴くポメラニアンのような女の子。

前髪から襟首まで、段差なく、短く切りそろえた白髪が、太陽に照らされ、キラキラと光り輝いている。

手にはステッキが握られていて、魔法使いだと見てわかる。


「オレは、ソウマ・バレン!気楽に、ソウマって呼んでくれ!よろしくな、マルファムルちゃん!って長いから、勇人と一緒で、ファムって呼んでいい?」


「あ、はい!そう呼んでもらえる方が嬉しいです!

(なんて馴れ馴れしい男じゃ。こいつ、女慣れしとるのぉーはぁー嫌じゃ嫌じゃ。浮気性のやつは好きになれん)」


 いかにも女慣れしたチャラついた男。

伸ばした黒髪を後ろで束ね、片方の肩に矢筒と弓を携え、背中には短めの槍が装備されている。


「ぼくの名前は、マコト・ホーガンだ。よろしく頼む」


「はい!よろしくお願いします!

(やっとまともなやつが来よったな。じゃが、こやつ、女か?男か?声的には女じゃが、服装とかは男のそれじゃ…)」


「ちなみに、ぼくは女だ。こんな服装をしているのは、女の子らしい格好があまり好きじゃないからさ。

それに、男どもに舐められたくなくてね」


 自分なりの芯を持った、真面目で、パーティのまとめ役である男装の麗人。

荒く、ただ短く切られただけの黒髪が、ボーイッシュな印象を強くする。

パーティの中でもっとも重装備であり、背中に装着されている大楯が印象的だ。


 こうして、パーティ全員との挨拶が済み、ようやく、旅が始まる―――かと思いきや、話題はファムの名前、バネルパークへと移っていった。


「マルファムル君、少し聞いてもいいかい?」


「はい?何でしょう?あ、ホーガンさんも気軽に、ファムって呼んでください。」


「では、お言葉に甘えて。ぼくのこともマコトと呼んでくれると助かる。それで、ファム君、君の故郷はあのバネルパークなのかい?」


「はい、あのバネルパークです…」


「そうだったのか…最近まで、バネルパークにはよく訪れていたんだ。あそこの防具や道具は物持ちがよくて、愛用していたんだが、残念だ」


「ありがとうございます…そう言って頂けると、亡くなった国民たちも、報われます」


 ファム、マコト、両者ともに手を合わせ、黙祷を捧げる。

するとそれを聞いていたソウマが、2人の会話に割り入ってきた。


「そういえば、ファムちゃんって、どうやって生き残ったの?」


 不躾で失礼な質問。だが、皇女は怒らない。

今は、清廉潔白の乙女仕様だからだ。


「おい、貴様。それを聞いてどうするんだ?ただファム君の心を痛めつけようとしているんだとしたら、ただじゃおかないぞ」


「落ち着けよ、マコト。オレはただ気になっただけさ。魔王どもに襲われたんなら、どうしてこう服装が綺麗なままなのかな〜ってさ?」


 探りを入れるような目で、皇女を見つめる。


(こやつ、チャラそうな見た目の割に、多少は頭が回るようじゃの?)


「確かに!うちも気になる!それに、その真っ白なドレスじゃ一人で旅するのも辛そうだし!」


 宿屋へ向かうため、勇人と一緒に前を歩いてたマホも、ソウマの問いかけにつられてやってきた。


 聞き耳を立てていたのだろう。

それに便乗するように勇人も現れ、ファムは話さざるおえない状況に追い込まれた。

さっきまで味方をしていたマコトも、ソウマの問いかけが気になったらしく、申し訳なさそうな顔で、視線をそらした。


(本当のことを言えば、こやつらは確実にわたしを排除しようとするじゃろうな)


(気をつけろよ、嬢ちゃん。下手すりゃ、魔王の手先なんて言われて、指名手配だぜ?)


(うむ、わかっておる。安心せい、心配ない。

なぜなら、わたしは清廉潔白の乙女。泣き真似と演技には、ちと自信があってな)


 宿屋へと向かっていたパーティ一行だったが、その途中にある軽食屋に入り、昼食を食べながら、ファムの話を聞くことになった。


「では、あの日あったことを、お話しします。皆さん、わたしの名前から気付きかと思いますが、つい先日まで、わたしはバネルパーク皇国の王でした」


「やはり、そうだったのか」


 マコトだけが頷き、他の3人は何故かぽかんとした顔をしている。

鳩が豆鉄砲を食らったような顔だ。


「え、ちょっと待って!ファムさんって王さま!?え、王女様ってこと!?」


「そう、ですね。王女ではなく、皇女と呼ばれていましたが」


「えー!!じゃーうちら、皇女様に対してすごい失礼なことしてたんじゃないの!?」


「た、確かに…ファムちゃん、ごめん。まじ打ち首は勘弁して!まだ、道具屋のあの子も、騎士見習いのあの子も、あの子もあの子もあの子とも遊んでないんだよ!!」


 今までの自分たちの言動を思い出し、失礼があったと詫びる2人。

だが、勇人だけは、全く違う感想を述べた。


「勇者に王女さま…あぁ、実感する。本当に異世界転生なんだ…!」


(嬢ちゃん、こいつら、アホだな)


(ああ、確実に、アホじゃ…)


「いえ、気にしないでください。私はもう皇女ではありませんから」


 皇女は、激しく後悔し、土下座しようしていた二人を宥め、あの日の続きを話す。


「続けますね。あの日はちょうど国の繁忙期でした。わたしは同盟国であるインティグル龍国へと外交に出ていました。作ったものの仕入れをいくらでしてもらうか、両国騎士団の演習をいつ行うか、など、向こうの国の王や閣僚たちと話し、一泊してから、帰路につきました。そして、国に帰ってくる最中のことです。丘を抜け、自分の国が見えた時、街は赤く赤く燃え上がっていました。急ぎ街へと馬車を走らせ、門をくぐると、そこには、大勢の魔王軍の方々がいらっしゃったのです。わたしも魔法使いの端くれ、応戦しようと覚悟を決めました。しかし、わたしが戦うことはありませんでした」


 全員がファムの声に耳を傾け、次の展開はまだかと目で訴える。

ファムは真実と嘘をうまく混ぜながら、続ける。


「国最強の騎士である騎士団長がわたしを逃すため、囮になったのです。わたしのことを任された副団長は、他数名の騎士とメイドを引き連れ、国から逃げました。しかし、魔王軍の追撃は激しく、一人、また一人と騎士はいなくなりました。ようやく逃げ切った時には、傷だらけの副団長とメイド。そして、わたしだけでした。近くの街の宿を借り、副団長とメイドの傷を手当てしましたが、その甲斐もなく、2人は弱っていきました…先に、副団長が亡くなりました。メイドももう自分で起き上がることすらも出来なくなりました。メイドが亡くなる前日、最後の力を振り絞り、バックの中から、唯一残った一張羅であるこの服を、手渡してくれたんです…

これが、ことの顛末です。わたしの服が綺麗なのも、傷一つないのも、全てはわたしの国民たちのおかげなのです。本当にありがとう、みんな…ぐすん…」


 皇女は涙腺から涙を絞り出し、4人全員への同情を買う作戦に出た。

その作戦は―――効果抜群だった。


「うぅっ、ごめん、ごめんね。ファムさん…うち、強く当たっちゃって。そんな辛いことがあったなんて知らんくて」


「オレの変な勘ぐりのせいで、辛いこと思い出させてちゃったね…本当にごめん。今度、ご飯奢るからさ、それで許してよ、ね?」


「…辛かったね、ファム君。ぼくたちじゃ、君の気持ちを分かってはあげられないだろうが、せめて、君の心が悲しみに囚われないように、これからは一緒に、様々なところに行こう。

悲しい記憶は、楽しく、斬新で、新しい記憶で埋め合わせるしか、救えないのだから」


 勇人以外の3人。

一人は泣きながら優しく接するようになり、一人は申し訳なさを感じながらも下心満載のクソ野郎で、一人は心から心配してくれるいい人物だった。


 最後に、パーティの要である勇人は、長い沈黙の末、言葉を絞り出した。


「………俺、実は異世界転生したって分かった時、めちゃめちゃ嬉しくて、はしゃいじゃったんだ。

特殊な力もあるし、ライトノベルとかで読んだまんまだし、今まで生きていて、最高に楽しい、報われてる――なんて思ってて、これからも気楽に冒険して、異世界の女の子たちと楽しくお茶して、最後に魔王倒して、ハッピーエンドで元の世界に帰ればいいかな、なんて軽く考えてた。でもそれじゃダメなんだってわかった。異世界だからって、この世界にも俺の世界と変わらず、一生懸命生きている人たちがいるんだ。そんな人たちに悲しい気持ち、苦しい気持ちをさせている魔王が……許せない!

ファムちゃんの話を聞いて、俺、決心したよ。

この世界の人たちを救うため、絶対に魔王を倒してみせる。俺が絶対、世界を救ってみせる…!」


 一人、席から立ち上がり、店の中だということを忘れて、気迫のこもった声で所信表明をした。

そして、勇人はファムの手を取り、


「ファムちゃん。君の国の人たちの仇は、絶対にうってみせる。俺は、世界を救う勇者だから」


 目がきらきらと光っている、ように見えた。

勇者らしいキラキラとしたオーラが全身から放出されている、ように見えた。


「ありがとうございます、勇者さま。でも、無茶はしないでくださいね。わたしは、みなさんのような素敵なお仲間に出会えただけで、救われたのですから」


 だが、それを上回るほどの煌めきが皇女から放出され、煌めきは神々しい光となり、皇女を照らす後光となって、4人を照らした、ように見えた。


 4人は、皇女に手を合わせ、お辞儀をした。

皇女の内面の気高さ、美しさに触れ、心が洗われていくようだった。

もちろん、全員、すっかりてっきりきっかりと騙されているのだが、それに気付くこともなかった。


 その後、仲の深まった一行は、軽食をシェアしながら食べ、仲睦まじく、軽食屋を後にした。


この時、皇女はというと、


(ちょろいのぉ〜こんなありきたりな言葉で絆されるとは)


なんて思ってはいたが、決して顔にも表情にも、ましてや態度にすら出さなかった。出すはずがなかった。


 その後、一行は宿屋に到着。男女別に宿を取り、それぞれベットで眠りについた。



 次の日。


 一行は、街を離れ、どんどん人気ひとけのない森の中を進んでいた。疑問に思ったファムは、そのまま思ったことを、質問としてぶつける。


「そういえば、皆さんはどうしてこんな場所に?ここ周辺は、わたしの記憶違いでなければ、特に名産品もない地方だった気がするのですが」


昔、本で読んだことのある知識を思い出しながら。


「今ぼくたちは、勇者の装備を集めているところなんだ。街の近くにある洞窟の奥深くに、勇者の宝剣という伝説の武器があるという噂を聞いて、ここまで来た」


「うん、そういうことだよ。俺にしか装備できない武器みたいで、それがないと魔王を倒すのに苦労するって、言われてさ」


「そうそう、あのしわしわの婆さんにな。あの婆さん、絶対オレらのこと嫌ってるぜ?こんな辺鄙な地に行かせてよー」


「まあ、そういうなよ、ソウマ。俺たちのレベル上げにもなるし、倒した敵の素材で新しい装備も作れるし、色んな国の色んな場所に行けて楽しいし、一石三鳥だろ?」


「そりゃそうだけどよーせめて、城から馬車とか出して欲しかったぜーもう足がくたくただ」


 道は、徐々に険しくなっていく。

ソウマのぐちぐちとこぼれ出る愚痴と相まって、少しずつ周りの苛つきが増していく。


 それを汲み取ったのか、最初に声を上げたのは、マコトだった。


「貴様の足はこの程度でくたばるのか?脆い足だな、ここに置いて行ってもいいんだぞ?」


 かなり喧嘩腰だった。

最も重装備であり、一番辛いはずのマコトから言われた一言。


「はぁ!?マコト、てめ、まじで―――はぁ!?喧嘩売ってんのか!?あぁん!?」


 パーティで誰より軽装備であり、男であるソウマは、何も言い返せすことができず、ただただ、思いついた言葉だけを喧嘩腰に返すしか出来なかった。


「ちょっとちょっとちょっと!2人ともやめろ!ただ、ファムさんが質問しただけで、なんでそうなるんだよ!さっきまで、いい雰囲気だっただろ!?ほらぁー勇人も止めてくれよぉー」


「こら、みんな仲良く行こう。俺らは、運命共同体なんだ。くだらない喧嘩は、魔王を倒した後でも出来る。それよりも、早く、洞窟に向かおう。時間が惜しい」


「あ、ああ、そうだな。すまない、言い過ぎたようだ、謝る」


「こっちこそすまねぇ。ぐちぐちと弱音吐いちまってよ」


(昨日、話してる時も思ったが、まだ全然仲が深まっておらんのー。見るからに、最近パーティを組まされたばかりじゃろ。装備が明らかに弱すぎる。まあ、どうでもいいんだが、せめて、旅してる間ぐらい、仲良くしてもらいたいもんじゃな)


 皇女は、このパーティで今後大丈夫なのか、心配になりながらも、勇者の旅というものに多少なりとも興味を示していた。

今後、この5人パーティがどうなっていくのか、楽しみである。

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