11話:西の大国へと
皇女一行は、長い道のりを超え、西の大国ウェルムボストン王国へ侵入。そして、王都ガルステンにたどり着いた。島を出てから2日後の出来事である。
燦々と輝く満月が夜を照らすそんな夜。王都ガルステンより少し東、王都が一望できる丘の上に、皇女たちは集まっていた。
「ようやくここまで…誰一人欠くことなく辿り着いた。今だかつて、2日で大陸を横断したものはいないだろう。この出来事を胸に刻み、誇りとするが良い。そして、気を引き締めよ。今から行うは、戦争だ。善も悪もない、それが戦争…だが、そこに意味はある。奴らも我らが生き延びていることに、もう気付いているはずだ。人を殺すな、とは言わん。だが、関係のない一般人を巻き込むつもりはない!我らは侵略者だが、殺戮者であってはならない!狙うは、王と側近、関係者のみとする!行くぞ!!!」
皇女の言葉に感化され、それぞれが声を上げる。小さく、だが、しっかりとした声で。皆の士気は最高潮となっていた。
その後、一行は3つの部隊に分けられた。
①第1部隊:北門
リーダー:アルート、パルム兄妹
主要メンバー:クルルとマルル
②第2部隊:南門
リーダー:元バネルパーク皇国団長ゴードン・フレッド、元副団長マルネ
主要メンバー:アネモネ、守護大使カミーユ
③第3部隊:東門
リーダー:皇女、マクルス
主要メンバー:リュース国団長アルバ
各隊それぞれの特徴に合わせ、リーダーが選出され、各国連合軍の人数が均等になるように振り分けられた。各リーダーに合った人員配置が済み、各隊150人強の人員を抱え、移動の準備を進める。
小さな国々が集まって出来た西の大国ウェルムボストン王国。その中でも最も西に位置する王都ガルステンには、東南北に門がある。西は海に面しているため、門は作られておらず、海が天然の要塞となっている。
アルートとパルム兄妹が率いる第1部隊は、北門へ。
元団長ゴードンが率いる第2部隊は、南門へ。
そして、皇女とマクルスが率いる第3部隊は、主要門である東門へと向かう…段取りのはずが、
「なんでお姉様と一緒じゃないの!?」
「やだやだやだぁー!!」
マルクル姉妹が盛大に、駄々を捏ねていた。
「こら!しょうがないでしょ!駄々捏ねるんじゃありません!!」
「「…パルムの話なんて聞かないもーん」」
「はぁいぃ!?二人揃って言うこと!?」
喝を入れるパルムだが、全く相手にされていない。遠くで各隊へと指示を出す皇女。その光景が目に止まる。ふぅ、と少しため息を吐きながら、マルルとクルルの元へ向かおうとするが、横にいたマクルスが手を伸ばし、それを止める。
「いいよ、ここは僕に任せて。そっちをお願い」
「ふむ、そうか?ならば任せるよ、旦那さま」
皇女は各隊のリーダーとの最終調整を続け、マクルスはその場を離れ、マルクル姉妹の元へと歩み寄る。
「どうしたの?」
座り込む姉妹と目線を合わせるように、腰を下ろし、優しく問いかける。
「「あ、マクルスお兄ちゃん…」」
姉妹揃って顔を上げる。
「お兄ちゃん、聞いて。私たち、お姉様と一緒の部隊じゃないの」
「うん、そうなの。お姉様とずっと一緒にいたいのに」
うるうるとした瞳で、真っ直ぐにマクルスを見つけながら、上目遣いで言葉を紡ぐ。その姿に、説得に来たはずのマクルスの心が揺らぐ。だが、ここは王として言わねばならない。
「うん、うん。そっか、それは悲しいね。でも、よーく考えてごらん。マルルとクルルが任された部隊で、頑張って敵を倒したら、お姉様はどう思うかな?」
「…うーん、喜ぶ、かな?」
「…うーん、嬉しい、かな?」
「うん、きっとそう。二人の活躍を聞いて、喜ぶし嬉しいと思うんだ。二人はとても強い。だから、他の人が死なないように助けて欲しいんだ。でもね、やっぱり寂しいよね?内緒だけど…お姉様も寂しがってたんだよ」
「「え!?ほんと!?」」
「うん、ほんとだよ。そこで提案!お姉様と別の部隊になるのは嫌だよね?でも、一緒だと活躍できない。だからね?別々の部隊で頑張って活躍して、早く敵を倒して、合流すればいいんだよ。そうしたら、お姉様は褒めてくれるし、その後はずっと一緒にいていいんだ!」
「た、確かに…!」
「マクルスお兄ちゃん流石なの!」
「なら、早く動かないと!ね、クル!」
「うん!マル!」
「くるっと♪」
「まるっと♪」
「「出発だー!!」」
マルルとクルルの姉妹は機嫌を直したようで、ニコニコと笑いながら、タタタタとマクルスを置いて駆けていった。
「よしよし」
それを遠目に見ながら、マクルスは下げた腰を上げ、皇女の元へ戻る。ちょうど、皇女の方も終わったようで、それぞれのリーダーが部隊に戻っていった。
「ありがとの、旦那様」
「お安い御用だよ。ファンもありがとう。お疲れ様」
労いの言葉を掛け合い、二人も部隊へと戻る。各隊への伝達が滞りなく進み、進軍が始まる。
丘から門まではそう遠くない。各隊順調に進み、
「第1部隊、現着」
アルートが言葉数少なめに報告。
「少し遅れたが、第2部隊も現着した」
元騎士団長ゴードンも続く。
「第3部隊も現着じゃ。各々、覚悟を決めろ…行くぞ」
皇女の掛け声とともに、それぞれの部隊にいる音魔法使いが、門周辺の音を吸収。本来であれば、仰々しく音の鳴る門は、静かに、何も音を発さずに開かれる。
各部隊のリーダーと副リーダー、主要メンバーには、皇女が用意した音魔法を駆使した通信デバイスが渡されており、黒く光沢のあるそれを耳に引っ掛け、各部隊の伝達を行っている。そして、全員に隊ごとに色分けされた細いリストバンドが渡されていた。
第1部隊:黄色 第2部隊:青色 第3部隊:黒色
門を開け、それぞれが門の中へ侵入。深い夜の中、チラホラと灯る街灯だけが暗闇を照らす。深夜ということもあり、外に出ている人はいない。
本来であれば、門の上や近くに守衛がいるはずだが、魔王が討伐されてからというもの、配置されていない様子だ。守衛室に溜まる埃がそれを物語っていた。
各隊150人を超える大所帯。それが街の中に入れば、鎧の繋ぎ部からガチャガチャという音が漏れたり、呼吸音や足音だけでも相当なものだが、そこらへんの対策はバッチリ。
各部隊ごとに均等に割り振られた音魔法使いが、進軍開始とともに音を消し、次に光魔法使いが隊全体を包み込むように、ドーム上に光を湾曲させ、認識を阻害する魔法をかけている。リュース国戦でクルルが使った透過やマホが勇人にかけた擬似光学迷彩との違いは、魔法の精度だ。
遠目に見れば分からないが、近くで見れば確実に違和感に気付く。その程度の精度である。もちろん、もっと魔力をかけて、精度を上げれば、質の高いものになるのだが、そこまでの精密さは、今この場面で求められていない。
各部隊、敵と遭遇することなく、城の前へと到着。各門から真っ直ぐ大通りを進んだ先にあるのが、王都ガルステンの中央に聳え立つ王城バルト。深夜だというのに、城はライトアップされ、金色の壁面がギラギラと煌めいている。前回、皇女が来た時、壁面は白く、荘厳なイメージだったのだが…
「なんて悪趣味な…我々に勝った記念か?」
それを見たマクルスが愚痴をこぼす。基本、お人好しであるマクルスがピリつくほど、場は緊張していた。
王城バルトは、アセナ狼国にあった城より一回り大きく、城をぐるっと囲むように川が流れている。川は西の果てである海に繋がっており、海から入った水が城の周りを囲み、複数の用水路へと分かれ、大国中に張り巡らされている。
城の中へと入るには、川を渡るために造られた橋を渡る他ない。橋は全部で三つ、門と同じように、東南北に設置されている。橋の手前、奥にそれぞれ守衛室があり、流石にそこには人が常駐していた。だが、やる気はないようで、立って見張りをしている者は欠伸が絶えず、守衛室の中からは笑い声が聞こえてくる。
各隊、橋より少し離れた場所でその様子を伺っていた。これは戦争…そう割り切り、そこにいる者全てを殺して進む。それが一番確実であり、城の中にいる者たちへ情報が漏れることもない。それぞれのリーダーの考えにより、行動パターンが違うとはいえ、やる事は決まっていた。
最も速度に長けた1人が、様子見とともに認識阻害のドームから出ようとしたーーーその時、ブーブーブー!!とブザー音が辺りにけたゝましく響く。
「国内二侵入者!!侵入者ガ紛レ込ンデイル!王カラノ緊急連絡デアル!!」
その後、音魔法による放送が続く。どこかの隊がしくじったわけではない。今この瞬間に、マルネが放った伝書鳩が、王の元へ辿り着いたのである。
「ははっ!バレてしまっては仕方ないのぉ!皆、戦闘準備…は、良いな。よし、行くぞ!!」
通信デバイスより皇女の声が響く。皇女率いる第3部隊が、進軍を開始する。光のドームを解き、姿を現す。
「ナニッ!?ドコカラ現レ」
立っていた守衛の首が、話しを終える前に宙へと飛び、守衛室は、上空から落ちてきた岩により、ぺちゃんこに潰れた。まるで、熟した果実が地面に落ち、潰れ、果汁が地面に滲むように。
「派手に行こうかっの!!!」
有言実行。皇女は、右腕に岩を纏ませ、その大きな大きな腕を振りかぶり、勢いよく、東門を殴りつけた。激しい音ともに、門が金具ごと吹き飛ぶ。
「やっぱり戦うのって楽しいっ…!」
自身の感情の高鳴りを感じる皇女。その後、各隊それぞれ、門を破壊なり、飛び越えるなりして城内に侵入。配備の済んでいない軍を蹴散らしながら、城内を進む。




