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化物皇女と勇者?と魔王?  作者: 北田シヲン
第2章 世界の始まり
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8話:騎士団総督 その6

 準決勝二回戦ーーー


一回戦の盛り上がりが醒めぬ中、二回戦が始まる。対戦カードは以下の通りだ。


バネルパーク皇国副団長 マルネ・ロマンチカ

VS

アセナ狼国国王 マクルス・オウルハイム


「団長不在の中、騎士団を牽引する若き副団長。凍えるほど冷たい目線は、一部のファンを駆り立てる!!扱う魔法も相まって、付けられた二つ名は、氷の女帝!準々決勝で見せた圧倒的魔法センスに乞うご期待!!

バネルパーク皇国副団長!マルネ・ロマンチカの登場だー!!!」


 こちらの世界で女子高生に人気の高いヒールローファーに似た、短く太いヒールとローファが組み合わさった靴を履き、コツコツと音を立てながら、颯爽とステージ中央へと歩く。凛とした雰囲気の中、短く切り揃えられた黒髪が揺れ、合間から群青の髪がチラチラと見え隠れする。


 騎士団に配給されている副団長用の制服、鎧、盾、両刃の片手剣の一式を身につけ、手に兜を持つ。


 目線は鋭く、口元に笑みは浮かんでいない。バネルパーク時代からあるファンクラブの会員たちが、一際大きく、声を上げる。人々の歓声は、もちろん、マルネに聞こえていた。ただ、今、マルネの心を支配しているのは、皇女への復讐心のみ。


 手に持っていた兜を被り、臨戦態勢へと移行する。


「先王亡き後、若くして王の座につき、アセナ狼国を良き方向へと導いた立役者。自らの犠牲を顧みず、敵地に進軍し、自国の脅威となる者を排除する闘う王様!!今日はどんな活躍を見せてくれるのかー!!?

アセナ狼国国王!マクルス・オウルハイムー!!!」


 マルネとは正反対に、手を振りながら、笑顔で観客の歓声に応えるマクルス。昨日の晩餐会で、自国民から優勝を願われ、ここで負けるわけにはいかないと気を引き締める。使命感は勿論だが…マクルスは観客席で見守る妻へと視線を移す。


 目が合う。皇女がウィンクで返すと、照れた顔で目を逸らす。今、マクルスにあるのは、使命感よりも、ただ好きな人にかっこいい姿を見せたいという、男の子らしい感情が強かった。


 黒の軍服にベレー帽を被る。アセナ狼国共通の仕事着がそれに当たる。王や将軍、警視総監といった上の階級に上がれば上がるほど、ジャラジャラと徽章を付けたり、服装に変化があるのが多いが、アセナ狼国ではその制度を、マクルスの代から廃止していた。


 理由はただ、無駄だからだ。アセナ狼国は、他の国と違い、移民を受け入れていないため、国民全員が始祖アセナの血を少なからず引いている。そのおかげか、ネットワークのような不思議な繋がりがあり、あったことのない人でも、おおよそ、誰か見当がついていた。


 そのため、階級制度がなくとも、誰が上官なのか分かり、なおかつ、敵軍に悟られない強みが生まれた。


 マクルスは、いつも通りの服装で、普段通り、一本も剣などの武器を持たず、ステージ中央へ。


 どちらも皇女を想いながら、真反対の感情を持つ二人。両者睨み合い、マルクルの合図とともに戦いが始まる。


「「始めー!!!」」


 最初に動いたのは、マルネ。右肘を引き、片手剣を胸元まで上げ、地面と平行に構える。盾を持つ左腕を前に出し、指先で相手へと狙いを定める。


 弓の弦が引かれ、矢が飛び出すように、引いた右腕が突発的に前へと突き動く。


バネルパーク皇国騎士団 剣段の壱〝子突(しとつ)


 団長の仇である皇女と結婚した男。マルネからしてみれば、なぜ結婚したのか?甚だ理解できないが、逆恨みするような性格ではなかった。だが、皇女と戦うためには、倒さねばならない。相手が王であろうと。


 洗練されたマルネの突きは、それを見守る隊員たちの見本となる素晴らしいものだった。四肢を貫き、相手を戦闘不能にする。そのために、まずは右腕を狙う。


 だが、その剣先は、相手に刺さることなく、火花を散らしながら弾かれる。


 マクルスは、相手の攻撃が届くより早く、土鎧を発動しようとした。しかし、マルネの突きが予想より早く、全身を覆うより早く、身体に到達することを悟った。


 昨日の夜、皇女と話したのを思い出す。

ベットに腰掛ける皇女とソファーに座るマクルス。白いシルクの薄い服を着た寝巻き姿の皇女にマクルスは、目のやり場に困っていた。


「明日の対戦相手…マルネのことじゃが。まず、其方の四肢を破壊しようとしてくるはずじゃ。なぜかって?あの子は、根が優しいからの。周囲の期待に応えるため、冷徹な姿を装っておるが。本来なら、心臓や頭を狙った方が確実じゃろ?それも初見の一点であれば、反応が遅れることもある。私なら確実にそうするしな。だが、あの子はそうはしない。だから、まずは四肢を守れ」


 皇女の言葉を思い出し、全身から両手両足に土を集中。覆い重なった土は、瞬時に固まり、硬度をもつ。次の瞬間、両刃の片手剣が右腕に当たった。ほんの少しでも遅れていれば、土が固まる前に、腕を貫かれ、使い物にならなかったことだろう。


 一瞬の攻防で相手の実力を理解したマクルスは、地面を蹴り、後方へと下がった。そして、おもむろにしゃがみ込むと右手を地面につける。


土棘(つちとげ)


 マクルスの呟きとともに、地面が隆起し、複数の棘となって、マルネへと襲いかかる。


 前からだけじゃなく、左右にも広がる土の棘。襲いくる棘を順番に、片手剣で薙ぎ払う。だが、津波が止めどなく押し寄せるように棘が迫り来る。その多さにマルネは面を食らう。剣で捌ききれず、徐々に後方へと押しやられていく。


 棘はマルネの周りを取り囲むように蠢き、気付けば、後ろに逃げる隙間もなくなっていた。四方八方から這い寄る鋭利な棘が、視界の外ーー死角から襲いかかる。


 棘がマルネの白い肌に刺さろうとした瞬間、するっと滑るように、マルネが動いた。棘は何もない空間を突き刺した。だが、マクルスは諦めなかった。棘の先端から爆ぜるような勢いで、新たな棘を作り出し、避けた相手を強襲。しかし、それもするりと避けられた。


 マクルスは相手の出方を伺っていた。先日の対戦で、氷を使うのは分かっていたが、もう一つの魔法が分かっていない。アルートと違い、相手の実力が分からない以上、慎重になるのは当然のこと。そのため、近距離での戦闘を避け、遠距離戦に切り替えたのだが…今、目の前で繰り広げられている光景には驚きを隠せなかった。


 迫り来る棘をまるで踊るように避けている。何かの競技かと思わせるほどの洗練された動き。目で相手を追いながら、チラリと陽光が目を差した。太陽が頭上を越え、マクルスの方へと傾き始める中、目に入った陽光。マクルスは気付く。その煌めきが、地面から反射している光であることに。


 マルネは、試合開始と同時に準備を進めていた。相手に勘づかれないよう、薄く、ゆっくりと氷を地面に浸透させていた。高密度の氷は、耐久力が高く、マルネが飛んだり、跳ねたりしても、全く傷つかない。氷上のマルネは、まるで、フィギュアスケートの選手のように、美しく踊っている。


「…っ!!?」


 マクルスは突然、指を地面から離した。鋭い痛みを感じたからだ。指先を見ると、綺麗に皮だけが剥がれている。地面を見ると、そこに氷が張られていた。マルネの氷がステージの端の方にいるマクルスのところまで張られた証だった。


 マルネは棘の進行が止まったことを確認するやいなや、棘の集合地帯を、背面跳びでひとっ飛び。見事な着地を見せ、平らな氷の面を滑走し、マクルスに迫る。足元をよく見ると、靴の底から氷のブレードが出ていた。


 マルネは剣の柄を両手で握り、その両手をへその下にぴたりとくっつける。


バネルパーク皇国騎士団 剣段の弐 〝牛衝(ぎゅうしょう)


 剣先を相手に合わせ、滑走した勢いを乗せて突っ込む。まるで闘牛が赤い布に勢いよく豪快に走り込むように。スピードに乗れば乗るほど、この技の威力は上がる。マルネは氷を蹴り、勢いを増した。


 相手が迫ってきていることに気付いたマクルス。すぐさま、土鎧を発動。距離があったため、全身を覆い隠すことが出来たが、下が凍っているため、動けずにいた。下手に動き、こけたところを狙われては元も子もない。マクルスは更に右手で持つように土で分厚い盾を作り、マルネの軌道上に構えた。


 土の盾と片手剣が凄まじい音とともに激突。周りに衝撃波が飛んだかのように錯覚するほどの衝撃。マクルスの盾から土が崩れ、宙に舞う。そして、マルネの剣はーーーマクルスの盾を貫き、その先にある右手にまで到達していた。


「くっ…!!」


 鋭い痛みが身体中を走る。痛みでマクルスの顔が歪む。だが、ここで逃がすわけにはいかない。逃がせば、氷上のアドバンテージを活かされ、負ける可能性も出てくる。肉薄した今だからこそ、相手ごと土で覆う。そう考えた矢先


バネルパーク皇国騎士団 剣段の弎 〝虎顎(こがく)


 マルネは動き出した。剣を抜こうと力が入るのを感じたマクルスは土を凝縮。剣を抜けないようにした。


 マルネは薄く笑みを浮かべると、剣を持つ指を(ほど)き、軽いジャンプの後に両手足を広げた。


氷刀(アイストブレード)


 マルネの呟きとともに、両方の手の中に柄ができ、その先から刀身が生まれる。剣先は腕の下にいる相手へと向いている。そして、両足の靴の先端にも氷の刀を生やす。マルネは、限界まで上体を逸らし、跳ね返るように腰を前へと折り曲げる。


 両手両足4本の刀が、同時に襲いくる姿が虎の噛みつきに似ていることから名付けられた〝虎顎(こがく)〟。本来は、支給の片手剣を両手で持ち、揃えた両足と剣で相手を挟み込むことで、より深く、剣を突き刺すのだが、マルネはそれを応用してみせた。


 四方向から襲いかかる刃に、マクルスは焦る様子もなく、対処する。


「土鎧 解除(パージ)


 纏っていた土鎧が、ポップコーンが弾けるように爆発的に爆ぜる。マクルスを中心に四方八方へと飛び散った土の塊が、マルネの身体へ容赦なく当たる。土の塊の勢いは強く、マルネは後方へと弾け飛ばされ、受け身を取ることもできず、凍った地面へと叩きつけられる。


「かはっ…!」


 背中から地面に落ちたマルネは、一瞬、呼吸ができなかった。身体中に電気が走ったかのような痛みで、視界が感電したかのようにパチパチと火花が散る。


 何度かの瞬きとともに、深く、そして早急に深呼吸。上体を起こし、相手へと視線を戻すーーー刹那、右の頬に相手の拳が当たっていた。目を疑ったが、次には、鋭い痛みとともに吹き飛んでいた。


 マクルスは、解除(パージ)した後、地面に突き刺さった土の塊を踏み、マルネに近付いていた。そして、相手が起き上がるタイミングに合わせ、拳を振った。


 吹き飛んだマルネ。場外まで飛ばされ、勝敗が決する。


「「激闘の末!勝利したのはー!!マクルスお兄ちゃーん!!!おめでとうー!!!」」


 こうして、準決勝二回戦は幕を閉じ、決勝戦のコマが出揃う。


決勝戦は、夫婦対決ーーー


バネルパーク皇国皇女 マルファムル・ファン・バネルパーク

VS

アセナ狼国国王 マクルス・オウルハイム

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