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化物皇女と勇者?と魔王?  作者: 北田シヲン
第2章 世界の始まり
42/57

6話:騎士団総督 その4

 準々決勝3回戦ーーー


リュース国国立騎士団長 アルバ・バイロン

VS

バネルパーク皇国副団長 マルネ・ロマンチカ


 リュース国から唯一6強に残ったアルバと団長代理として忙しい日々を送るマルネの対決。

190を優に超える身長と無骨な筋肉を持つアルバと160にも満たず、線の細いマルネ。

対照的な二人の戦いは、マルネの勝利で幕を閉じる。それも圧倒的な勝利で。



 準々決勝4回戦ーーー


 朝から始まった準々決勝。

合間に休憩などを挟みながら、気付けば日が暮れ始めていた。

夕日が会場を朱色に染める。


 観客席とは別に用意された参加者の観覧席には、勝利したマクルス・アネモネ・マルネが。

負けたもの達は、観客席の最前列から試合を見守る。

そこに、カミーユの姿もあった。


「皆さま、大変お待たせいたしました」

「本日最終戦でございます」


 先ほどまでと打って変わって、司会のマルクルが畏まる。


「今からご紹介に上がりますのは、今は無きバネルパーク皇国の王であり、最果ての蛇さまをその身に宿す最強のお方」

「国一つを飲み込み、逆らう者を蹂躙してきた圧倒的力の象徴にして、その常人離れした美貌は誰をも魅了する」


 二人とも大きく息を吸い込む。


「「清廉潔白の乙女 マルファムル・ファン・バネルパークお姉様のご入場です!!!」」


 目をキラキラと輝かせ、鼻息荒く、マルクルが叫ぶ。それに合わせ、皇女が颯爽と舞台に上がる。


 神の鍛冶屋(ヘパイストス・ハウス)の女主人から受け取った鎧を、その身に纏う。

くすんだ白の中に、淡い水色が入り込む美しい鎧が、夕日に照らされ、より一層輝きを増す。


 今日一番の歓声が湧き上がる。そこかしこから皇女を呼ぶ声が響く。髪を後ろでくくったポニーテール姿の皇女は、それに応えるように笑顔で手を振りながら、舞台の中央へと。


「そして、最強のお姉様に挑むのは、アセナ浪国索敵部隊代表 パルム・ボォム」


「私の説明、適当じゃありません!?」


 双子の短めな説明に不満を吐きながら、パルムも登場。

黒の軍服にベレー帽。皇女より頭ひとつ分大きな彼女は、腰にレイピアを携えている。


 両者、舞台の中央に揃う。

皇女が見上げ、パルムが見下ろす形で、両者睨み合う。


「前回のゲームでは無視されたけど今回はそうはいかない!あんたの実力しっかり計ってあげるわ」


「相変わらずの減らず口じゃな。御託は良い。戦えばすぐ分かる」


 両者の間で、バチバチと見えない火花が散る。

双方の準備が整ったことを確認し、マルクルが大きな声で叫ぶ。


「「試合開始ーーー!!!」」


 その合図とともに、皇女は両手を叩き合わせる。

パンっという音ともに、極彩色の粒が集まり、三日月刀の形を成す。

それを利き手である右手で持つ。


「ヴァールは使わん。全力でかかってこい」


 空いている手をそれみよがしに動かし、相手を挑発する。


「言われなくてもーーーそのつもりよ!!」


 一方、パルムも試合開始とともに、腰のレイピアを右手で抜き取り、正中線に平行に構えていた。

左手は握り拳を作り、腰へと回し、背中にピッタリとつける。

そして、皇女の挑発を受け、レイピアを鋭く、突き出した。


 パルムの動作は、とても美しい。

流れるように流動的で、なおかつ力強く、素早い。


 一度突き出した腕が瞬時に戻り、次の瞬間には突き出されている。

パルムは間髪いれず、連続で攻撃を仕掛ける。


 皇女はそれを一本の刀で受け流す。

まるで踊っているかのような、華麗なステップとともに。


「(口だけかと思っとったが、なかなかのやり手じゃ)」


「(負けるなんてことありえねぇよな?嬢ちゃん)」


「(な〜にを当たり前のことを言っとる。なかなかの実力じゃが、結局は人の域を出ん)」


「(流石は嬢ちゃんだな)」


「(うむ、知っておる)」


 ヴァールの心配をよそに、パルムの攻撃は続く。

少しずつ動きながら、攻撃を続ける。


 パルムの靴が、石畳同士のわずかな隙間に引っかかった。

ほんの一瞬、攻撃の間隔が開く。それを皇女は逃さない。


 右手で持つ三日月刀を横なぎに振り抜く。

すでに、引き戻していたパルムのレイピアと接触。火花を散らす。

差し込む夕日がそれを幻想的なものに変える。


 そこから、両者の攻防が始まる。

相手の隙を見つけては、的確につき、その都度、攻防が入れ替わる。


 両者一歩も譲らない展開。

だが、少しずつ。確実に形勢が傾き始める。


 パルムの額に汗が滲む。

実戦でも感じたことのない緊張感。一手でも間違えば確実にやられるという不確かな恐怖。

だが、それでも、パルムを突き動かすのは、マクルスへの好きという気持ちだ。

その気持ちだけは、誰にも負けない。そんな自信があった。


「(パッと出の、この女にだけは絶対に負けたくない!)」


 怒りが、恐怖を上回ったその時


「太刀筋が単調になったの」


 皇女の蹴りが、パルムの腹部に直撃。その威力に、息が止まる。

パルムは吹き飛びそうになるのを、足先に力を入れ、耐えてみせる。

数歩後ろに飛ばされながらも、どうにか耐え切った。


 怒りは冷静さをなくし、動きを単調なものに変える。

幼い頃から部隊で教わってきたことを、パルムは改めて実感する。


「そろそろ魔法を使ってはどうじゃ?」


 そう言った皇女の瞳は恐ろしく冷たい。


「まるで、蛇に睨まれた蛙ね」


 冷や汗がパルムの首筋を伝う。


「ん?何か言ったか?」


「何でもないわよ!お望み通り、魔法使わせてもらうわ!」


 パルムは息を整え、魔法を唱える。


「光の隠れんぼ(プララム・ハイド)!勝つためなら手段を選ばない・・・夕日、利用されてもらうわ」


 パルムの身体から色素が消えていき、透明に変わる。

強く差し込む西陽と重なり、完全に姿を消す。


 前に煌の盾の試練で見せた勇人の擬似光学迷彩に近い。

あの時は、辺り一面の雪の反射を活用し、なおかつ、数の有利を利用することで相手の気を逸らし、使うことが出来たが、今回のような1対1ではまずバレてしまう。

それに、範囲限定だったため、動くことすら出来なかった。


「消えてそこにおるだけってオチだとつまらんぞ?」


 皇女は地面を蹴り、勢いをつけ、刀を振り抜く。

しかし、刀は空を切る。何にも当たっていない。

まるで、マルクルと初めてあった時の透過を使っているかのような感触。


 だが、透過は原属性の上位魔法。

ただの人であるパルムに使えるはずもなく、よって導き出される答えは単純ーーーパルムが動いている。


 勇人との違いはただひとつ、精度の違いだ。

パルムのそれは、即興の思いつきとは違い、普段の任務で使用している常習的なものだ。

そのため、魔法の練度は高く、精度も圧倒的に高い。


 パルムが代表を務める索敵部隊は、自国に敵対する国や中立国に対する潜伏・潜入活動から、国外での資源調査や確保などを行う部隊だ。

そのため、敵に見つからないことが大前提であり、光魔法はそれに打ってつけなわけだ。


 日々の訓練で練度を高め、光の反射を調整することで違和感なく、移動することを可能にした。

パルムは、音のしない独特の歩行で皇女へと詰め寄る。


 皇女は接近するパルムに気付いていない。

それに気付いたヴァールは口に出さず、考えもしないように眠りにつく。


「透過と違って見えないだけじゃから…これで良いかの」


 皇女は背を逸らし、口を大きく開ける。

人の耳に聞こえない高周波の音を発する。360度全方位に音を放つ。


「そこじゃろ?」


 放った音と返ってくる音を頼りに何もないその場所を蹴る。

皇女の足先に何かが当たる感触。鈍い音ともに、透明なそれが地面に転がる音が聞こえてくる。


 皇女の蹴りは見事に命中。

透明化していたそれが姿を現す。

そこにあったのは、人型に作られた土の塊。


「んなっ!?」


 驚く皇女。その背後から


「ざ〜んねん」


声が聞こえた瞬間、皇女の背中に嫌な気配が漂う。


「っ!氷守こおりのかみ!」


 彷徨いの森で見せた氷属性の魔法を、自分の背中に展開。何層にも重なった美しい形状の氷の盾が発現。

刹那、トラックが衝突したかのような何か大きな物が当たった時に似た衝撃が皇女の背中を襲う。


 流石の皇女もその衝撃には耐えられず、勢いそのまま宙に舞い上がった。

相当な強度も持つ氷守が、木っ端微塵に砕けていた。


 皇女は宙に浮いた状態で、地面を見る。そこには、姿をみせ、ニヤリと笑うパルムの姿があった。

注目するのは左腕。それは、土や岩が集まり、ファンタスティックフォーに出てくる石男のような腕になっていた。

皇女を襲った凄まじい衝撃の原因はあれだ。


 そしてパルムは、また光の隠れんぼで姿をくらませる。


「ちと侮りすぎたかの」


 皇女は宙に浮きながら、呟く。


 一連の行動を見ていた観衆からはざわざわと声が漏れ聞こえてくる。

皇女を知っているものからすれば、あの皇女様が攻撃を受けたなんて!と驚き、あまり知らないものからすれば、最強って言ってたけど過大評価では?と疑念が湧く。


 皇女は宙に浮きながら、それを見ていた。

心の中で思う。“安心せい。今から少し本気出すから”と。皇女はニヤリと笑みをこぼす。



 パルムは光と土魔法を習得している。

仕事上必要な光魔法とは違い、土魔法はマクルスに憧れて習得した。


 時折マクルスと一緒に訓練する機会があり、その度に魔法を教えてもらっていた。パルムにとって、それはとてつもなく幸せな時間だった。


 好きという気持ちは、努力する力を何倍にも引き上げる魔法のような感情。気付けば、仕事で使う光魔法より土魔法の方が得意になっていた。


 姿をくらましたパルムは、次の行動に出る。

さっきは、自分の前方に土で作った人形を置き、皇女の音魔法による感知を見事欺いた。皇女が音魔法を使うのは、さまよいの森で把握していたため、事前に対応を検討することが出来た。


 だが、同じ手が通じないのは分かっている。

そのため、パルムは、マクルスが見せた土魔法〝土竜〟を使い、地中に潜り込んだ。そして、皇女が地面に着地するその瞬間を狙い、地中から土の形態を操り、先端を鋭い杭に変化させ、襲いかかる算段だ。


 地中であればどんなものでも武器に出来るのが、土魔法の強みと言える。ただ弱点もある。それは、一度土の中に入ってしまうと、外が見えないというところだ。魔法名通り、土竜はほとんど目が見えない。


 でも、パルムは抜け目ない。

目が見える仕組みは、簡単にいうと目から入った光が視神経を通じて信号として脳に伝達され、像として認識することで見ることができる。


 光魔法〝点外鏡(てんがいきょう)〟。

視点の外から鏡を通し光を見る魔法。鏡を地上に設置すれば、それを通して、外の景色を見ることができる。


 パルムの視界に、外の景色が浮かぶ。

皇女はゆっくりと地面へと降下を始めていた。


 パルムは固唾を飲んでその時を待つ。

吹き飛んだままの崩れた体勢が戻り、地面に対し垂直になる。そして右脚を上げた。色白で美しく、程よく筋肉のついた脚が、ぼっと瞬時に膨れ上がる。競輪選手よりも二回り近く大きくなった脚が、着地と同時に地面へと、勢いよく振り下ろされる。


「ただの踵落とし(ビックバン・インパクト)」


 皇女いわくただの踵下ろし。

だが、その威力は凄まじく、隕石が落下してきた時と同様に衝撃波が起こり、地面が隆起した。


 それは地中にまで影響を及ぼした。皇女を中心に地面が陥没する。パルムは慌てて、地上に這い出た。


 透明化のまま、地上に出たパルムと皇女の目が合う。パルムは偶然?と思ったが、


「お?そこにおったか」


 皇女のニヤリと笑った顔から偶然じゃないことを察した。急いで体制を整えようとしたが、時すでに遅し。


 皇女の脚が再び、膨れ上がる。土煙が上がる中、砂が目に入り、パルムは瞬きをした。目を閉じ、開けた。視界に映ったのは、眼前に迫る皇女の拳だった。


 避けられるはずもなく、拳はパルムの顔面を完全に捉えた。勢いよく、後方へと吹き飛ぶ。今回は、耐えることができなかった。


 攻撃を受けた衝撃から透明化が解け、その姿が顕になる。

パルムの頭の中は〝なぜバレたのか?〟その疑問でいっぱいだった。


 少しふらつきながら、パルムは起き上がる。あの一瞬でなんとか顔をずらし、鼻が折れるのは回避していた。だが、右頬には大きな跡がついている。口の中は血の味。数本折れた歯が口内で踊る。


 土煙が舞う中、血とともに歯を吐き出す。

そこで気付く。この土煙が原因だということに。


 周り全てに舞う土煙の中、透明化した自分がいれば、そこだけ不自然に土煙がなくなる。そこを突かれたのだと察する。パルムは毅然と前を向いた。


 皇女は、殴った腕をぷらぷらとさせながら、


「魔法も飽いたの〜どうじゃ?決着は殴り合いで決めんか?」


明らかな挑発をしてみせた。


 パルムは〝そんな安い挑発に乗るわけないでしょ!〟と思ったが、視線の先に、皇女の向こうに、マクルスを見つける。


 想い人の視線は、自分ではなく、皇女へと注がれている。分かっている。そうなることは分かっていたが…それが、とてつもなく悔しかった。


「いいよ?でも、私の拳はすっっごく痛いわよ?」


 だから、パルムはその挑発に乗ることにした。


「ふっ、相変わらずの減らず口じゃ。だが、それで良い」


 皇女はニヤリと笑みをこぼす。

そして、両者ともに近付き、観客席にいた子どものくしゃみを皮切りに殴り合いが始まる。


 一切譲らない殴り合いの末、その場に立っていたのはーー皇女だけだった。口元から流れ落ちる血が、相手が強敵であったことを示していた。


「「お姉さまの勝利ぃ〜!!!きゃあ〜かっこいいいぃぃぃ!!!」」


 本大会でもっともテンションの高い2人。

手を取り合い、ぴょんぴょんと跳ねながら、嬉しそうに勝利を宣言する。


 こうして、ベスト4が出揃った。

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