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化物皇女と勇者?と魔王?  作者: 北田シヲン
第2章 世界の始まり
41/57

5話:騎士団総督 その3

 大会は滞りなく進んでいき、シードである皇女とマクルスを除く6強が出揃った。


リュース国

 国立騎士団長 アルバ・バイロン


アセナ浪国

 近衛騎士団  アルート・ボォム

 索敵部隊   パルム・ボォム

 守護大使   ゴルバチョフ・シード


バネルパーク皇国

 副団長    マルネ・ロマンチカ

 二番隊隊長  アネモネ・ハーツ


シード枠

 皇女     マルファムル・ファン・バネルパーク

 国王     マクルス・オウルハイム


 観客たちの盛り上がりが凄い。

歓声と拍手。それを後押ししているのが、投票による賭けだ。


 日々の疲れ、鬱憤を上手く消化していた。


「いよいよ、準々決勝だね!マル」

「うん!そうだね!クル」


 双子の姉妹もワクワクしながら、司会を進行。


「準々決勝 1回戦は・・・」

「アルート VS 国王マクルスお兄ちゃんだよ!」


 どっと会場から歓声が沸く。

ついに現れる最強の一角、マクルス・オウルハイム。


 皇女に魅入られ、認められたその実力。

アセナ狼国だけでなく、リュース国などの近隣国からも声援が聞こえてくる。


 ステージには、まずアルートが現れ、その後、マクルスが登場。手を振りながら、歓声に応える。


「ああ・・・まさか、また。王様と剣を交える日が来るとは」


 眉を顰め、なんとも言えない表情のアルート。


「ほんとだね、僕も同じ気分だよ」


 マクルスも似た表情だ。


「でも、負けないよ。今日は、僕の最愛の人が見に来てるからね。無様な姿は見せられない・・・!」


 だが、その目には闘志が宿っている。


「あの日みたいに本気でね、アルート」


「貴方がそう望むなら」


 双方の準備が整ったのを確認。


「「試合開始ー!!!」」


 マルクル二人揃って、試合開始の合図を出す。


「土鎧」


 マクルスがすぐさま魔法を発動。

周囲の土がマクルスを取り囲み、鎧となる。


雷迅らいじん


 同時にアルートも魔法を発動。

全身に電気を纏う。一回戦とは比べ物にならないほどの電気が、パチパチと火花となって周囲を舞う。


 アルートが一歩踏み出す。

強化された脚力は、一瞬でマクルスとの距離を詰める。


 アルートは拳は前に出す。

鈍い音とともに、土鎧とぶつかる。


 雷にとって、土は相性が悪い。

天気で例えると、空から落ちてきた雷は地面に当たると、周囲に拡散し霧散する。

土は電気を通さない絶縁体であり、雷にとって、弱点とも言える。


 だが、それは雷単体の話である。

今回のアルートの場合、雷で強化した打撃のため、殴り続ければ土だけでなく、岩すらも壊すことが出来る。


 アルートは、間髪入れずに全方位から攻撃を続ける。


 固まった土の鎧にヒビが入る。

ヒビはどんどん広がっていく。


 アルートの拳が土鎧を貫通する。

だが、当たった感触がない。


 アルートは突き出した腕を引く。

貫通した穴から中を覗き込む。


「流石ですね・・・」


 そこにマクルスの姿はなく、あるのは地面に掘られた穴のみ。


 土魔法:土竜もぐら

土竜のように地中を自由に移動することが出来る。


 全てを悟ったアルート。次の瞬間、マクルスがいた土鎧を中心に地盤が沈み、崩落。


 マクルスはアルートが攻撃している間、地中を掘り進め、大規模な地盤沈下を引き起こした。

身体強化しているとはいえ、地面を蹴って逃げられる範囲を超えており、アルートは諦め、静かに沈んでいった。


「「アセナ狼国国王マクルス・オウルハイムの勝利〜!きゃあ〜お兄ちゃんかっこいい〜!!」」


 マルクルが嬉しそうにはしゃぐ。


 勝敗は決した。

マクルスは崩落した地面の中からアルートを掘り起こす。


「大丈夫?アルート?」


「この程度で死ぬ私ではありませんよ、王様」


「ハハッ!知ってるよ!」


 マクルスは手を伸ばす。アルートはそれを握る。

両者握手し、健闘を讃え合い、試合は次へと移る。



 準々決勝2回戦ーーー


アセナ浪国守護大使 ゴルバチョフ・シード

   VS

バネルパーク皇国二番隊隊長 アネモネ・ハーツ


 国を守護する盾と超攻撃型の矛。

矛盾の証明をするような戦いが始まる。


 先に現れたのは、アネモネ・ハーツ。

ピンクに近い長い赤髪を後ろで束ね、下半身は黒のズボンに関節を守るプレートが付く。


 上半身は必要な部分だけ隠した布地の少ない服とそれに合わせる形でプレートが付いている。

布の間から見える腹筋はバキバキに割れている。


 本人曰く、戦闘が激しければ激しいほど、1gの重さが命取りになってくるらしい。

その結果、今の服装になった。


 腰に一振りの剣を、左腕に小さなバックルを携え、笑顔で手を振りながら入場。


 その後、ゴルバチョフ・シードが入場。

アネモネとは正反対の全身鎧(フルアーマープレート)

頭部を守るヘルムが顔を隠し、表情すら見えない。


 右手に大楯、左手にメイスを携え、堂々とした姿で、開始位置に立つ。


 両者出揃う。


「「試合開始ー!!!」」


 マルクルの合図とともに試合開始。


 盾を構え、動じないゴルバチョフ。


 アネモネは腰にある鞘から剣を抜き、相対するように、にこにこと笑みを浮かべながら、距離を詰めて行く。


 アネモネの間合いに入る。

刹那、観客が目で追えないほどの速度で剣が横薙ぎに動く。


 甲高い音と共に火花が舞い散る。

アネモネの攻撃は止まらない。


 激しい連擊。凄まじい速度。

当然、ゴルバチョフにかかる衝撃も凄い。


 だが、ゴルバチョフは一切動じない。

相手の隙を見つけ、左手に持つメイスを横薙ぎに振り払う。


「へぇ〜反撃できるんだ!」


 少し驚いた表情を見せるアネモネ。

瞬時に腰を曲げ、身体をそる。

その上をメイスが通った。


ぽたぽた・・・


 会場がざわめく。

メイスを持つゴルバチョフの腕、甲冑の隙間から血が滴っている。


「あれぇ?おかしいなぁ?腱まで切ったはずなんだけど♪なんで動けるの?」


 驚くことに、アネモネはメイスが自らの上を通っているその瞬間に、相手の腕を切り付けていた。

それも、甲冑の隙間を正確に狙って。


 アネモネは、楽しそうに、不思議そうに疑問を投げかける。


「・・・」


 ゴルバチョフは、それを無言で返す。

腕に力を入れ、流れ出る血を止める。


「無視ぃ?ひどくない〜?ちょっとムカつく」


 ニヤニヤと笑みを浮かべながら、後ろに飛び退き、魔法を唱える。


風刃ウィルラムエッジ


 風が集まり、形を成す。

不可視の風の刃が、勢いよく、前へと飛ぶ。


 ゴルバチョフは気合をいれ、盾を構え直す。

凄まじい音と衝撃音。


 だが、一回で終わらない。


風刃ウィルラムエッジ・十連」


 十の風の刃が各方位から襲いかかる。

衝撃とともに砂煙が舞う。


 ーーー砂煙が晴れる。

観客から小さな悲鳴が漏れる。


 そこには、甲冑の隙間から血を垂れ流すゴルバチョフがいた。

足元には既に、血の水溜まりが出来ていた。

誰が見ても明らか。致死量だ。


「あははっ!そんだけ重い鎧着てたら格好の的だよ?♪あ、もう意識飛びかけてて聞こえない?かな?」


 ニヤニヤとした笑みを止めることなく、身体をくねくねさせながら、相手に近づいていく。


 人は大量に血を失うと、体温の低下とともに強烈な睡魔に襲われる。

その睡魔に負けたら最後、意識を失い、死へと真っ逆さま。


 アネモネはそれをよく理解していた。

会場からのブーイングがそこかしこで起き始めるが、勝利を確信したアネモネは気にしない。


 最後に、相手のその無様な顔を見てやろうと、近づき、ヘルムに手をつけた。

ーーーアネモネの手を、ゴルバチョフの手が掴んだ。


「やっとこさ、捕まえた」


 初めて発した言葉。

その声は、重く低い中高年の男性の声ではなく、まだ声変わりしていない少年の声だった。


 一瞬の油断。勝利を確信しているからこその傲慢。その隙を、勝機を、ゴルバチョフは見逃さなかった。


 相手が逃げ出すより早く、メイスがアネモネの身体を捉える。メキメキと鈍い音を立てながら、会場端まで吹き飛んだ。


 一部から歓声が上がる。

だが、ゴルバチョフはそれに応えない。


 盾を構え直し、相手の出方を伺う。


 その間、アネモネは動かない。

正確には動けずにいた。


 薄く開いた視界に、パチパチと閃光が走る。

アネモネの左腕は骨ごと粉々に、肋も3本ほど折れていた。


 呼吸は浅く、頭からも血が流れている。

ぼーっとする思考の中、アネモネは


「きひっ」


 ーーー笑う。

誰にも聞こえない小さな声で。


 久しぶりに感じる痛みと血の匂い。

現場でしか味わえない命のやり取り。

その全てが、アネモネの感情を昂らせる。


 アネモネは立ち上がる。

頭頂部からおでこ、頬をつたい、血が流れ落ちていく。それを舌で舐めとる。


 溢れ出るアドレナリンが痛みを吹き飛ばす。

アネモネは離さず握っていた剣とバックルを捨てる。


そして唱える。


風鎌ウィルラムサイス


 風が集まり、鎌の形を作り出す。

本来、色のないそれに、アネモネの血が混じり、赤黒く変貌を遂げる。


 アネモネは、鎌の持ち手を両手で掴み、ゆらりと動いたーーー刹那、緩急つけた動きで距離を詰める。


 アネモネの鎌がゴルバチョフの盾と当たる。


 ゴルバチョフは完全に防いだつもりだった。

だが、なぜか、鎧の隙間から血が吹き出す。


 アネモネの乱撃が始まる。

狂ったように振りまわされる鎌。


 全て防ぐが、その度、至る所から血が吹き出す。

すでに致死量を超えている中での出血は、観客に、死をイメージさせた。


 だが、実際のゴルバチョフは、一切、血を流していない。

鎧の隙間から溢れ出しているのは、着色した水だ。

限りなく血に似せた色水。


 いかついおじさんのイメージだったゴルバチョフの中身は、まだ幼い14歳の子ども。

幼くして父親を亡くした彼は、家計を支える為、父のふりをして仕事をすることを考えた。


 家に残った父の形見である鎧に袖を通す。

まだ身体の小さな少年が着こなせるはずもなく、ぶかぶかであった。


 彼は、更によく考えた。

しかし、学のない自分では答えに辿り着けなかった。


 父は、アセナ狼国の守護大使だった。

勇猛果敢に国を守る姿に、彼は憧れを抱いていた。


 戦死した父の葬式に、国王マクルスが現れる。

涙を流し、棺に声をかける。


 それが、少年とマクルスの出会いだった。


 葬式の後、彼は声をかけた。

そして、相談する。どうすれば良いのか、を。


 マクルスは問いかけた。


「君はどうしたい?」


 彼の心は既に決まっていた。

父の代わりに、守護大使になる。ただそれだけだった。


 マクルスは優しく笑いかける。

そして、その(すべ)を教えた。


 少年の名前は、カミーユ・シード。

今は亡き、父ゴルバチョフ・シードを継ぐ者。


 鎧の中、その大部分が水だ。限りなく血に似せた色の水。そして、火の魔法で水温を体温と合わせている。


 そして、その中から水を自らの手足のように動かし、戦う。それが、カミーユとマクルスが見出した答え。


 故に、アネモネの攻撃は鎧の隙間から見える水を切っていただけに過ぎず、カミーユは一切の傷を負っていない。

そして、今まさに、切られ、水溜りとなった水の上に、自分と相手がいる。


 触れている液体の水を操る魔法。

カミーユは勝利への切符を掴もうと腕を伸ばす。


「水の薔薇檻(スプライローズプリズン)


 声変わりしていない声が小さく響く。


 水溜りの水が、薔薇の蔓の形を模す。

そして、その上にいるアネモネの足元から急速に蔓が伸びる。


「いいねいいね〜!!!」


 一際楽しそうにアネモネが笑う。

蔓はものの数分で身体全身にまで伸び、動きを拘束する。


 カミーユの必勝法は、相手の動きを奪い、メイスでトドメを刺す。至ってシンプルなものだ。


 派手な魔法で倒すことも出来るのに、それをしないのは、父の影響が大きい。

守護大使である以上、国内への敵の侵入を許すわけにはいかない。

そのため、相手の生死を確実に確認する必要がある。


 派手な魔法で攻撃した場合、相手が粉々になったり、消し飛んだりすることがあり、それだと生死の判断が取れない。

父ゴルバチョフはそれを大いに嫌った。


 そのため、ゴルバチョフは、魔法で相手を拘束し確実に自分の手で葬ることを信条にしていた。

子どもであるカミーユにもそれは継承されていた。


 アネモネに巻き付いた蔓の所々にある蕾がぷくっと膨らみ、綺麗な赤い薔薇を咲かせる。

それを合図に、カミーユはメイスを大きく振り上げる。


「・・・ばいばい」


 彼はそれを無慈悲に振り下ろした。


「え?」


 カミーユの小さな声が漏れる。

それもそのはず、今まさに振り下ろしたメイスが、アネモネに当たるほんの少し前で止まってしまったからだ。


 見えない壁に阻まれている感触。

アネモネは、蔓の隙間からニヤリと笑みをこぼす。


 アネモネは風魔法を得意としている。中でも、風で作る鎌はお気に入りだ。ただ、それだけでない。


 攻防一体の風魔法、それがアネモネが目指す魔法の最終形態。


 アネモネは自分の体を覆うように不可視の風の鎧を纏っていた。

カミーユの攻撃はそれに防がれたわけだ。


 そして、風はその姿を自由自在に変える。

鎧だったものが、瞬時に攻撃に転用される。


暴風鎌バーストウィルラムサイス!!」


 アネモネを中心に集まっていた風の鎧が暴発。

鋭い風の刃が鎌鼬となって周囲を襲う。


 地面に敷かれた石畳に無数の傷が、遥か遠くまで刻まれる。

そして、その中心の最も近くにいたカミーユは、カミーユの鎧は、見るも無惨に切り刻まれた。

四肢はなく、胴体も。


 風は、鎧の下の水すらも切り裂き、中にいる少年の胴体を、真っ二つに切断した。

圧倒的な風の質量に運ばれ、分かれた身体は手の届く範囲にない。


 血に似せた水と本物の血が混じり合い、流れていく。激しい痛みと相反するように遠のいていく意識。


 カミーユは目を閉じる。

上映前の映画館のように、画面に明かりがつき、走馬灯が流れようとしていたーーーその時、大きな、暖かい何かに包み込まれた。


 カミーユはあまりの居心地の良さに、痛みを忘れ、眠りについた。



「バネルパーク皇国二番隊隊長 アネモネ・ハーツの勝利〜おめでと〜」


 カミーユの意識の外では、試合の結果が発表されている。

勝利を宣言したマルルのテンションは低い。

いやマルルだけではなく、クルルや観衆達も同じだ。


 アネモネの試合は、あまりに刺激が強すぎた。

当の本人は何食わぬ顔で手を振り、歩き出す。

そして、


「皇女っさま♪わったしの傷も、直してくれないですか〜?」


ニコニコと笑いながら、皇女の前に。


「うむ、構わん」


 皇女の影が動き出し、アネモネを飲み込んだ。

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