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化物皇女と勇者?と魔王?  作者: 北田シヲン
第1章 勇者の旅
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4話:インティグル竜国

「ふぃー食った食った。腹一杯だ」


「よし、次じゃ次!」


 バネルパーク皇国がいかに小さな国家であろうと、普通の者は、国自体を物理的にどうこう出来るものではない。

しかし、皇女に仕えるヴァールは、その口を大きく開き、国土全体を飲み込むと、全てを喰らい尽くした。


 そこに残るのは、更地となった地面だけ。

ほんの数分前までそこに都市があったとは、誰も思わない。そう思うほど、跡形もなく消えていた。


 次に皇女が向かったのは、同盟国であるインティグル竜国だ。

皇女は、ヴァールの力を使わずとも、空を飛ぶことが出来る。

空を飛ぶ魔法:空駆そらがけは、本来、宮廷魔導士や上位魔導士といった魔力の才がある者にしか使えない魔法だ。


 皇女は、全速力で空を駆け、1時間もしない内に、インティグル竜国にたどり着いた。

いつもは馬車を使って向かうが、それだと、バネルパーク皇国からインティグル竜国まで行くのに、丸3日はかかる。

谷や森、関所を通過するため、陸の通路だと、どうしても時間がかかってしまう。


 それを全てショートカットし、皇女は今、インティグル竜国の王都インティグルの上空に鎮座している。


「なんで他の国は、こうもバカデカイんじゃろうな?街など、一つで充分じゃろうに」


「まあまあそう言うなって、嬢ちゃん。人ってやつは、強欲だからよ。自分の土地が欲しい、もっと欲しい、もっともっと、って求めちまうのさ」


「そういうもんかのー?わたしには理解できん。で、本題じゃが?ヴァールよ、さっきの5倍ほどの大きさじゃが、問題ないか?」


「ああ、問題ないさ。食後の運動も、今さっきしたからな」


「食後の運動って、さっきのあれか?」


 皇女が、空駆そらがけを使い、インティグル竜国へと向かっている最中、ヴァールは身体全体を薄く、大きく伸ばし、パラシュートのようにして、遊んでいた。


「完全に遊んでおったじゃろ、さっきのは」


「甘いなぁー嬢ちゃん。あれで、身体全身の筋肉を使うんだぜ?」


「そうなのか?まあ、ヴァールにしか出来ない芸当じゃな。って、別にそんなことはどうでもいいんじゃ。

ヴァール、さっさと裏切り者どもを喰い殺せ」


「あいよ、嬢ちゃん。あーーーーーっ、がっ、あっがが!」


 国全土を覆い尽くすように、大きな大きな口を開け、口が王都に接触するかと思われた時、鋭い閃光ともに、光の壁が出現。

光の壁は、ヴァールの侵入を拒み、拒絶するように、国土全体を覆った。


「ちっ、守護魔法か。ヴァール、少し本気を出せ―――ぶち壊せ」


「ふぁいお、じょふぁん。あっーーーっむ」


 守護魔法とは、外部からの遠距離魔法による都市の破壊や狙撃による権力者への暗殺を防ぐ魔法のことだ。

対象となるものの周囲に、透明な光の壁を作り出し、攻撃を防ぐ。


 壁は、注ぎ込む魔力の量によって硬度が上がり、王都を守る壁であれば、相当な硬度のはずなのだが、ヴァールの口の前では、少し足止めするほどで終わりを迎えた。


 パリンッと弾ける音ともに、光の壁が粉々に砕け、破片が空に舞う。

それはまるで月明かりに照らされる雪のように。


 そして、ヴァールの口は国土全体を飲み込み、全てを喰らい尽くした。

残ったのは、バネルパーク皇国と同じ、更地のみ。


「ふぃー食った食った。腹一杯だ―――うっぷ。ん?ちょっと胸焼けがする」


「はっは!ヴァールも胸焼けをするのか?」


「嬢ちゃんの代になってからは初めてだ。相当、良質なものを喰らったらしい」


「ま、こんだけ喰えば、そうもなるじゃろうって!

よし!これでわたしの正体を知るものは誰もいなくなったし、わたしはわたしの国を作るため、最高の旦那でも探しに行こうかね!」


「どこまででもお供するぜ、嬢ちゃん」


「ありがとの、ヴァール!じゃ、とりあえず、ちょっと疲れたし、下にでも降りて休むとするかの」


 皇女は、ゆっくりと降下し、1時間ぶりに地に足をつけた。

そこは、元王宮があった場所。

変幻自在の身体を持つヴァールは、自身の身体を変化させ、二人掛けのソファーを作り上げ、皇女を座らせる。


 夜ももう遅く、空には満天の星空。

少し欠けた月が、今日も綺麗に輝いている。

皇女とヴァールは、何をするわけでもなく、ただ空を見上げていた。



 時は皇女がインティグル竜国を喰らい尽くす少し前に遡る。

王都を一望できる谷の上。そこに多くの人が集まっていた。


「王様、今しがた得た情報によりますと、清竜騎士団は昨日、同盟国であるバネルパーク皇国へと出立した模様です。理由まではわかりませんが、これは好機かと」


 夜に紛れるよう、黒装束に黒帽子の人たち。

先頭に立つ1人に対し、人々は、膝を降り、頭を垂れている。


「ありがとう、アルート。――うん…しょうがない、よね。―――――みんな!行くよ!僕について来て!」


「「おおおおおおお!!!!!」」


『バチチチチチチッッッ!!!!!』


 突如、辺りになり響く爆音。

人々は、音のする方へ目を向ける。


「なに、あれ…」


 その視線の先には、今まさに、インティグル竜国全てを飲み込もうとするヴァールの姿があった。

光の壁に阻まれ、少し困った様子の。


「む、無謀だ!あの守護魔法は、インティグル竜国お抱えの宮廷魔導士が、建国以来、毎日、魔力を注いできた最高の盾!伝説に聞く最強の矛、勇者の宝剣でも破れるかどうか―――あっ」


 王様と呼ばれていた男の側近、アルートが声を大にして説明をするが、それも虚しく、一瞬にして壁は破れ、まばたきをし目を開けた次の瞬間には、インティグル竜国が無くなっていた。跡形もなく。


「す、すごい…」


 圧倒的な力の前に、王は放心状態。

感心と感銘を受け、その力の出所を知りたいと思い、次の瞬間には身体が動きだしていた。


「みんなはちょっと待ってて!僕が先行して様子を見てくる!」


「―――え…あ、ああ!王様!お待ちください!危な―――もう行ってしまわれた…」


 目の前で起こった現象に、放心状態の側近が、言葉を理解する前に、王は飛び出していった。

王は自分の好奇心を抑えることが出来ず、空駆そらがけを使い、飛び出していった。



 皇女とヴァールは、ただ空を眺めていた。

何もなくなった夜空はこうも美しいのか、とおそらく思っていることだろう。


 ヴァール製のソファーはふかふかで凄く快適であり、魔力を使い、疲れた皇女に、ゆっくりと睡魔が忍びより始めたところで、


「あ、あの!」


皇女の元にたどり着いた王が声をかけた。


 空駆を使い、大急ぎで王都のあった場所へと向かっている途中、上空から降りてきた皇女を見つけ、声をかけたわけだ。


「さ、さっきのあれ、その、貴方が」


「誰じゃ、ウジウジ話すな。用件だけを早急に言え。さもないと、喰い殺すぞ」


 皇女にとって、安眠を邪魔されるのは、もっとも嫌なことであり、過去、起こしにきた母親をぶん殴ったこともある。


「す、すいません!先ほどの、インティグル竜国を覆い尽くしたあれは、貴方様の力なのでしょうか?」


「ああ、そうじゃが。もしや貴様、あの国の生き残りか?」


「い、いえ、違います。ただ、僕たちもインティグル竜国へ攻め込もうとしていたので」


 とてつもない殺気を感じ取った王は、相手の機嫌を損ねないよう敬語で話しかける。


「インティグル竜国へ攻め込む?貴様、命知らずじゃな」


 インティグル竜国の騎士団は有名であり、周辺諸国の中では強い力を持っていた。ここ100年ほどは侵攻された記録もない。

さらにそこに、宮廷魔導士が加われば、天下無敵と言われるほどだった。


「い、いえ、何も国ひとつ落とすつもりではなく、ある物を壊しにきただけなので。

それに、昨日から、清竜騎士団も出払っているようですし」


「(あ、完全に忘れてた。そういえば、わたしを討つために国に行っとるんじゃったな。ま、いいか)

なるほど。それで?わたしにはなんの用じゃ?」


「あ、いえ、その。先ほどの力、凄まじいものでしたので、その使い手の方をひと目見てみたいな、と好奇心が湧き立ちまして」


「好奇心が?あっはは!貴様、面白い!じゃが、その好奇心、いつか貴様を殺すかもしれんよ?」


 ソファーに寝転がり、会話中も空を見ていた皇女は、相手の発言に興味を示し、顔をそちらへ向ける。


 口調は悪いが、皇女は紛れもなく絶世の美女だ。

月の明かりに照らされ、なおも綺麗に輝く。まさに、最高の美女だ。


 その美しさに、王も目を奪われた。

相手の言葉に返すことも忘れ、目の前の人物から視線を外せない。まさに、釘付けだ。


「おーい、聞いておるのか?おーい」


「ありゃ、嬢ちゃんに一目惚れだな」


「それは嬉しいんだけど、今、わたしかっこいいこと言って、忠告しようとしてたんじゃよ?」


「一応、嬢ちゃんは最高の美人だからなぁ。男としてはしょうがない。多めに見てやんなよ」


「う、うーん。そういうものかね?」


 皇女とヴァールが話していると、王の後ろから、パカラパカラと馬の蹄の音が聞こえ、瞬く間に、大勢の人が現れた。


「王様!一人で飛び出されてはいけません!相手は、インティグル竜国を一瞬にして飲み込むほどの強者!貴方様の身に何かあれば、私は―――って、聞こえてます?王様?」


側近アルートの声も耳に入らず、王は皇女を見つめていた。


「こりゃ駄目だな。みんな、王様を連れて行ってくれ、頼む」


他の従者が5人がかりで王を運び出す。その途中、我に帰ったようで、


「ぼ、僕の名前は、マクルス・オウルハイムです!東の大国の王です!どうか、僕の国に来られることがあれば!門番に僕の名を!!」


「ほら、行きますよ、王様」


「あ、ちょっと待って!待ってってば!みんな!どうか、どうか、お名前だけでも―――」


皇女へと手を伸ばすも、従者に連れて行かれ、声がどんどん遠くの方へ。


 一人残った側近アルートは、皇女に深く頭を下げ、


「感謝を。インティグル竜国は、我らが繁栄の妨げになる可能性を秘めていた。貴方様が全てを飲み込んでくださったことで、我らの犠牲もなく、目的を達成できました。この御恩は、いつか必ず。それでは、失礼いたします」


 騒がしい一団は、その場を去った。

まさに嵐のように慌ただしい面々だったが、お礼を言われて満更でもない様子の皇女であった。


「嬢ちゃん、あいつらは喰わなくてよかったのか?」


「ま、問題ないじゃろ。あの時の子どもと違って、わたしの名前を知らんじゃろうしな。それにもし知っていたとすれば、噂となって広まり、近いうちにわたしの耳にも入ってくるじゃろ」


「そうしたらどうするんだ?」


「なに、簡単な話。ヴァールも分かっておるだろ?

あやつらの国、東の大国ごと、全てを喰らう。それだけじゃ。―――自分の国をわたしに言ったのが運の尽きじゃな」

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