2話:平和の崩壊
「っ、団長。貴方の無念は、私が晴らします…」
カーテンで締め切った部屋の中、1人、女がいた。瞳に涙を浮かべながら。
女は、部屋を出る。
街のメインストリートを通り、最近作られた騎士団本部へと入っていく。
「皆のもの!副団長に!敬礼!!」
女が入るのを見かけるやいなや、待ち構えていた兵士たちが、号令のもと、敬礼を行う。
数十人の兵士が、一糸乱れぬ動きを見せる。
「みんな、おはよう。今日も1日、街の平和を守っていこう」
「「「はっ!」」」
「敬礼やめっ!各自、仕事にかかれ!」
女、もとい副団長の指示を受け、騎士たちは仕事を始める。
その様子を確認し、副団長は、自分の部屋へと移動する。
部屋まで続く廊下を歩いていると、後ろから追いついてくる者がいた。
「おっはよ♪だいぶ様になってんじゃない?団長への昇格も間近かな?♪」
「もぉ、やめてよ。いつも気を張って疲れるんだから」
副団長と親しく話す女。
同じ方向へ話しながら歩いて行く。
「おはようございます!副団長殿!二番隊隊長殿!」
「おはよう」「おっはよ♪」
廊下ですれ違った兵士と挨拶を交わす。
バネルパーク皇国時代からあった騎士団は、大きく分けて6つの隊に分かれている。
その中でも二番隊は、実力の高い者が多く、攻め込んできた諸外国との戦闘が最も多い隊だった。
そこで隊長を務めているこの女は、並々ならぬ実力を持っていた。
剣の実力だけであれば、騎士団長と同様かそれ以上だろう。
ただ、彼女は、性格に難があり、一度、戦闘が始まれば、最前線を突っ走る戦闘狂へと変貌する。
普段のへらへらとした陽気な性格と戦闘中の真反対の性格が、騎士たちの間で人気を博し、本人には内緒だが、ファンクラブまであるほどだ。
その女と副団長は、幼なじみ。
小さい頃からともに修行し、過ごしてきた。いわば、旧知の仲である。
「んじゃ!ここらでばいなら〜♪」
「あんまり部下の子たちをいじめちゃだめよ?」
「いじめじゃないもーん!稽古だもーん!」
軽く手をあげ、副団長は1人で歩き出す。
「………あの子には言ってもよかったかな」
副団長は呟く。
通路を抜け、城の大広間に出る。太陽が眩しく照らす。
「おう!副団長ではないか!元気にしておったか!?」
「ーーーえ?は?あの…な、なんで、団長がこここ、ここに?亡くなられたはずじゃ」
副団長の目の前に、死んだはずの団長が現れた。
あの日、首を喰われ、血を噴き出していた団長が、今、目の前にいる。
副団長の目から涙がこぼれ落ちる。
それと同時に、激しい罪悪感にかられる。
タイミングが悪かった。もう少し早く団長にあっていれば…
この時すでに、全てが終わった後だった。
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副団長は走っていた。全速力で走っていた。
「はぁはぁはぁ!!まずいまずいまずい!!!」
自分の早とちりで、取り返しがつかない状況に変わっていく焦燥感。刻一刻と状況が変わっていると思い込む焦り。
副団長は、部屋の前にたどり着いた。
固唾を飲み、ドアをノックする。
「し、失礼いたします!皇女様!面会を求めますっ!!」
「良い。入れ」
静かだが凛とする声が帰ってくる。部屋の扉を開け、中に入る。背筋から冷たい汗が流れ落ちる。
「どうした?そんな青冷めた顔をして」
皇女は、椅子に腰掛け、読んでいた書類から目を離し、部屋に入ってきた副団長へ気さくに話しかける。
「あ、あの!先程、中庭にて団長にお会いしたのですが」
「おぉ!よかったよかった!お前、団長のこと好きだったろ?今日、というか、いまさっき、修復が終わったところでな?首元からバクっといっちまったせいで、神経の繋がりがなかなか悪くて時間がかかってしまった。すまんかったな」
副団長の言葉に食い入るように皇女が返す。
「余計なお世話かもしれんが、そろそろ想いを伝えてみるのもいいんじゃないか?あ、すまんすまん。こちらばかり話をして。それで?話とはなんだ?」
副団長の胃がキリキリと痛む。自分の浅はかな行動を激しく後悔する。
だが、言わなければ状況は悪くなる一向。
副団長は意を決し、
「大変申し訳ございません!!団長が死んでしまったと思い込み、皇女様へ復讐するため、西の大国にここの情報を流してしまいました!!」
両膝を床につけ、大粒の涙を流しながら、報告した。
「…」
沈黙ーーーそして、
「はぁぁぁぁぁ!?!?!?」
皇女の怒号が、城中に響き渡った。




