お伽話③
3匹が眠りにつき、数千年が経ちました。ある日、ふとヴァールが目を覚ましました。
ずっと地の底で眠っていたので、世界がどうなっているのか気になり、地上に出ました。
ヴァールは驚きました。数千年の間に、世界は酷く汚れ、人々は醜くなっていました。
吸えば肺いっぱいに広がった美味しい空気も、今では咳き込んでしまうほどに。
ただ、夜を照らす光だけはこの歪んだ世界で唯一、綺麗に思えました。
冷静なヴァールは、なぜこうなったのか?その原因を探す旅に出ました。
ただ、蛇の姿のままだと、目立ってしまうため、近くに住んでいた人に乗り移りました。
人に乗り移ったヴァールは、その足で世界を見ました。
そして、気付きました。
人に、世界を任せるべきではなかった、と。
ヴァールの前には、欲と権力で、酷く汚れた人中心の世界が広がっていました。
3匹の神様がいなくなった後、人は、次に神様になる人を決めようとしました。
しかし、中々決まりません。
決まらない理由として、3人の候補が、言い争いを続けていたからです。
「私は頭が優れている!計算だっておちゃのこさいさい!だから神様に最も近い!」
「私は身体が優れている!猪だって熊だって、ゴブリンだって龍だって倒せる!だから神様に最も近い!」
「私は人望に優れている!みんながいれば、計算だって、龍を倒すことだって出来る!だから神様に最も近い!」
三者三様。みんなで協力すれば済む話なのに、人は、我こそは我こそは、と譲りません。
話し合いでは、いつまで経っても埒があきませんでした。
その後、3人は他の人を自分の仲間に引き入れ、3つの組ができました。
人は、語り合うことを辞め、暴力で神様の地位を手に入れようとしました。
これが、人の最初の戦争となりました。
その後、数千年、人は戦争をし続けました。代が変わり、技術も進歩していきました。
最初は3人だった代表も、1人、また1人と増えて、その数だけ組が増えました。
その後、組は国になり、代表は王になりました。
自分に無いものを奪おうとしてはいけません。
自分が持っているものを誰かに貸し与え、自分に無いものを誰かから貸して貰う。
そうすれば、世界はより良くなるのです。
人は知っているはずなのです。
はるか昔、貧しい時代に、自分の好きなこと・嫌いなことを知り、協力し合い、生活していたのですから。
出来ないことは恥ずかしいことではありません。
出来ないことを認めることで、人は成長するのです。
嫌いなことでも続ければ好きになるかもしれません。
好きにならなければ、それを好きな人と仲良くなればいいのです。
柔らかい考えで、生きていけばいいのです。
しかし、欲にまみれた人は、全てを手に入れようとします。
どんな手段を使おうと、誰が傷つこうと、気にすることもなく。
ヴァールは思いました。
このままでは世界が壊れてしまう。
今からでもあの時のようにすれば、元に戻るのでは、と。
しかし、それは、叶いませんでした。
人たちの心は、神様だったヴァールを信じられないほどに、汚れてしまっていたのです。
自分たちが築き上げてきた富と権力を奪われてしまうという焦り。
神様なんて存在しない、人より上の存在はいないのだという驕り。
人々は突然現れたヴァールに対し、怒りました。
信仰をやめ、各地にある大神殿を破壊しました。
戦争は、技術を何世紀も向上させる魔の薬。
より多くの人を、より強い人を殺してきた技術への信頼が、人々から正常な判断を奪います。
ヴァールは、理解しました。
そして、人々の怒りを遥かに超える怒りで、狂ったように暴れ出しました。
生まれて初めて、心の中が煮え繰り返るほどの怒りを覚えました。
元々大きな身体でしたが、ぐんぐんと身体を伸ばし、世界の最も先、最果てまで伸びていきました。
人々は驚きました。空を見上げて、口をぽかりと開けています。
見上げた先には、真っ黒なヴァールの胴体だけがあって、その先にある空が全く見えませんでした。
ヴァールは身体をうねうねと動かしました。
一つうねる度に、身体が地面に触れ、街は壊れていきました。
人は必死に抵抗しました。
しかし、長い時を過ごし、少しずつ高まっていた技術も、圧倒的な力の前では、無意味でした。
ヴァールは、人の社会を滅ぼしました。
人が、欲に溺れたその時、また現れ、慈悲などかけることなく、全てを無に返すことでしょう。
ヴァールは今も生きています。
生きて、最果ての地から私たちの暮らしを見ているのです。
気をつけなさい。
欲に溺れたその時、空に青はなく、ただ漆黒だけが目に映ることでしょう。




