30話:勇者と魔王⑩
「土鎧、発動!」
どこからともなく土が現れ、マクルスの身体の周りを覆っていく。あっという間に、土でできたフルプレートアーマーの完成だ。図体が2回りほど大きくなった。
マクルスは、猪突猛進で突っ込んでくるマコトの盾目掛けて、拳を振る。
「ぐッ…ガはァ!!」
当たった瞬間、踏ん張り、必死で堪えるマコトだったが、相手の拳から繰り出される威力の方が強く、後方へと吹っ飛ばされる。
「はっはっはっ!この程度かぁ!!」
高笑いをするマクルス。
「オチついテ…こっチは数デ勝ッテる」
「スまナイ…いつモ通リでイこう」
勇人が声をかけ、マコトは深呼吸をして、感情の昂りを抑えた。
マコトの指示により、いつも通りの隊列へ。前衛が、勇人、マコト、皇女。その後ろにソウマ。後衛にマホ。
何かに操られ、強化され、強くなっているのはいえ、相手は王。修羅場を潜ってきた数が圧倒的に違う。戦闘経験も、マコトよりはるかに多く、センスもピカイチ。その実力は、皇女が認めるほどだ。
ここからの戦いは、終始、魔王優勢で進んでいった。
果敢に攻める勇者たち。数で優っており、なおかつ、連携も取れているのに、魔王一人に翻弄される。
第三者がその場を見ていれば、魔王が勝つのは時間の問題かと思われた。
だがしかし、その状況に疑問を持つ者が二人いた。一人は魔王であるマクルス。もう一人は、皇女である。だが、考えていることは全く違った。
マクルスは、『この程度の実力なのに、少数精鋭で挑んできたのは変。何かとっておきの秘策があるのかな?』と警戒。
皇女は、『動きは普段より良いが、なぜ、狼の力を使わんのじゃ?あれを使えば、マクルスの土鎧など一瞬で壊せるじゃろ』と疑問を感じていた。
双方違う考えの中、戦闘は進む。ここで、勇人が動きを見せる。ソウマとバトンタッチし、配置を交換。マコト、ソウマ、皇女で前衛を支える中、勇人はおもむろに、宝剣をかざすと、
「無慈悲の強奪 第二スろっト、解放」
灯っていた水晶の光が一つ消え、直後、極大サイズの扉が魔王の頭上に出現。その扉は、リュース国で手に入れたものだ。
大扉は、ふと思い出したかのように落ち始める。重力がかかり、ゆっくりと徐々に確実に速度を上げ、落下していく。
「これを落として、オレ様を潰そうって?そうは問屋が卸さねぇなー!双璧をなせぇ!土壁!」
マルクスの呼びかけに応え、左右の土が盛り上がる。長く伸びた土は硬質な壁となり、落ちてくる扉の落下地点へと。
『ドガァァン!!』
一際大きな衝突音とともに、土壁と扉が衝突。マクルスの頭上1メートルの所で動きを止める。
――ミスディレクション。それは、注意を意図していない別のところに向かせる現象やテクニックのことを指す。
「無慈悲の強奪 第一スろっト、解放―――――焼キ払エ!」
頭上に扉を出現され、相手がそれに注意を向けている間に、勇人は、宝剣に隠された切り札を出現させた。
煌の盾の試練で戦った青狼が、今度は味方として、勇人の前に現れる。
青狼は、主人の指示を受け、口を大きく開き、放つ。完全燃焼の炎が、竜のブレスのように放出される。
その名を、『青狼の吐息』。身体に纏う炎と同じ青い炎を、狼のとてつもない肺活量から生み出される吐息に乗せ、吐き出す。
「(これはまずいの…マクルスのやつ、やられかねんぞ?)」
マコトの指示で、すでに前衛から離れている皇女は、何かあれば、すぐさま交代出来るよう、心構えをしていた。
だが、その憂慮は、いらぬ心配で終わる。
「ミスディレクションか…甘い甘い!」
そう言うと、マクルスは、土鎧により伸びた腕を使い、頭上の扉を掴み上げ、自身の前に、間隔を開けて突き刺した。
扉だけでは相手の攻撃を防ぎ切ることは不可能。放出されようとしている魔力反応から、相当な威力であることは、理解していた。
「オレ様を守れ!土壁!更に、土盾と土鎧だ!」
現状の土鎧の上に、更に土鎧を重ね、両腕に土の盾を付け、交差するように構える。
間隔を空けて置いた扉と自分との間に、10個の土で出来た壁を作り上げた。
マクルスの防波堤完成直後、狼の口から青い炎が放出。周囲の温度を急激に上げながら、真っ直ぐに大扉へと向かう。
『バァン!」と風船が割れたような音とともに大扉と接触。拮抗し相反する力は、青炎に軍配が上がる。
レーザー光線のように真っ直ぐな線を描く炎。当たった箇所が黄色、オレンジ、赤へと変わり、ドロリと溶けて、扉を貫通した。
半分近く勢いは殺したものの、10ある土壁を難なく貫通し、遂に、マクルスを捉える。
マクルスを気合を込め、一歩前へ。青炎と交差した双盾がぶつかる。
「くっ…ぅぉぉおおおおお!!!」
結果―――――マクルスの勝利
紙一重の所で耐えて見せた。二重土鎧の内側まで到達していたが、何とか耐え切った。
だが、至近距離で1000度近い炎と相対していたため、身体からは尋常ではない汗が吹き出し、極度の脱水症状と熱中症に。
目眩、吐き気、全身脱力感、筋肉の痙攣が同時にマクルスを襲い、気力でどうにか失神せずに済んでいる状態。とても、戦える状態ではなかった。
そんな状態のマクルスに、皇女は助け舟を出す。
「勇人さん!危ない!」
突如、皇女が声を発し、宝剣を持ち立っていた勇人を突き飛ばす。
「…ハ?」
何が起こったのか、理解できない勇人は、すぐにその理由を知ることになる。
先ほどまで自分がいた場所の周囲360度を取り囲むように、無数の土でできた杭:土杭を、視界に捉える。
まずい、これは避けきれる数じゃない。瞬時にそれを理解し、その場にいてはいけない、皇女へと視線を戻す。
勇人と皇女は目が合った。皇女は、優しく笑いかける。その笑顔を、動き出した数万という土杭が覆い隠し、無惨な結果となった。土杭は多く、深く、皇女の身体へと突き刺さる。
「ファむ、ちャん!!?ドうシテ!?」
勇人は急いで、皇女の元へ。血みどろでぐちゃぐちゃになった皇女を、両手で優しく支える。
「あの、時の…お返し、です、よ……皆さんと、冒険でき、て、ほんっ、とに、楽しかった……」
皇女が言っているのは、煌の盾の試験の時、狼から庇ってくれたことを指していた。皇女は借りを返し、最後の言葉とともに、事切れた。
自分の腕の中で、ふっと軽くなるのを感じる。勇人は直感的に感じ取った。魂が肉体から抜け出たことを。
「許さナい…許サれナイ…絶対ニ、絶対ニ殺しテヤル!!!!!!!」
皇女の死をトリガーに、勇人は怒りを爆発させる。いや、勇人だけではない。マコト、マホ、ソウマも、怒りを爆発させる。
「お?やっと一人死んだか。はぁー貴様らの相手は骨が折れる。はよぉ全員死んでくれ」
魔王からすれば突然だが、勇者たちにとって、その心ない一言は、油に血を注ぐこととなった。
「「「「「貴様ぁぁぁァァアああア!!!!!」」」」」
勇者パーティ全員が、怒りで身体のリミッターを外し、火事場の馬鹿力を発揮。今までの戦闘から、相手の力量を推測していた魔王は、想定外の事態に対応しきれない。
「なっ!?貴様ら、どこにそんな力が!?」
勇者たちは、各々が持つ最高魔法を放つ。
「太陽光線!!」
マホが放つ光の線。集めた光を圧縮し、一気に放出する。圧縮した光は熱を帯び、触れたものを焼き払う。
「鎌鼬!!」
ソウマは、無数の風の刃を飛ばす。切れ味は鋭く、いかなる物も切伏せる自然の刃。
「瞬間冷凍網!!」
術者であるマコトから投擲網のように放たれた氷が、緩い曲線を描きながら対象へと襲いかかる。それは、触れた物全てを瞬時に凍りつかせる氷の網。
「八岐大蛇・改!!」
煌の盾の試験で見せた八岐大蛇の改良版。氷ではなく、高圧縮した水を使う。高圧縮した水に手や物を入れれば、容易に切断されてしまうため、九つの龍に触れられた者は、皆等しく、断ち切られてしまう。まるで、ダイヤモンドを切るように。
『青狼の吐息』
追い討ちをかける様に、もう1発、青狼の口から青い熱線が放出。
氷の網が魔王の逃げ場を無くし、熱線と光線が魔王へと突き刺さる。残っていた内側の土鎧を破壊し、土を結晶化させる。
結晶化した土は水晶のように光を反射しキラキラと光り輝く。すなわち、マホから放たれた太陽光線が、結晶に当たり、乱反射。奇しくも、魔法ごとの弱点属性を塗り替えた瞬間である。土は光を通さないため、本来であれば、あまり効果がないのだ。
乱反射した光は、威力は下がるものの、広範囲に不作為に動き回る。人体を焼くには十分すぎる火力に、魔王はその場を離れようとする――がしかし、タイミングよく、無数の風の刃が駆け抜ける。本来、土の弱点属性は風だけなのだが、光と風の相乗効果により、より多くのダメージを与える結果となった。
既に魔王は虫の息。細切れになった魔王へ、最後の追い討ちをかけるように、水の竜がその大きな口を開く。顎から覗く牙が、深く身体を刺したかと思えば、次の瞬間には口を閉じて食らいつき、残った魔王の身体を貪り食う。
残った肉片は残りわずか。だが、まだ攻撃は終わらない。最後の締めとして、マコトが網を下ろす。とても細かな網の格子目が、無慈悲に覆い被さる。残った肉片は全て凍りついた。
戦いは、終わりを告げた。
「やッタ…倒シタヨ、ふァムちャン」
勇人は、倒れている皇女の元へ近寄り、膝をついた。瞳からは涙が流れている。
「君のオカゲデ、勝テタンだ…笑ッテ、褒メテほシイナぁ………姉さん」
どこか遠くを見据える目は、遠き日の出来事を思い出していた。口から出た言葉から、一瞬だけだが、憑き物が落ちた様な気がした。
―――勇人には、姉がいた。とびきり美人で、気の強い姉が。
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