3話:バネルパーク皇国③
「ふー今日の仕事終わりっと!右大臣、この後の予定って何かありましたか?」
「今日は――特にございませんね。また、街に行かれますか?」
「いいえ、今日はしたいことがありますので。ふふふっ」
「左様でございますか。では、私は、残りの仕事を頑張って終わらせましょうかね」
「ふふっ、頑張ってください。それでは、お先に失礼します」
ペコリとお辞儀をし、公務室を出て、離れた場所にある自分の部屋に向かう。
時刻は18時。住込のメイドも仕事を終え、それぞれの自室に戻っていく時間。
廊下で顔を合わせれば、談笑に花を咲かせ、自室に戻る頃には、19時になっていた。
「ヴァール、今、この部屋の周辺に人の気配はあるか?」
「ネズミ一匹いやしないぜ、嬢ちゃん」
「よし。じゃー始めるとするかの。わたしを裏切ったスパイ探しを」
そう言うと、ベットに腰掛け、独り言のように推理を始める。
「まずは、昨日思った疑問点から挙げていこう」
一つ目、外交日がバレていたこと。
二つ目、同盟国からの帰り道を先回りされたこと。
「そして、3つ目。今日の街でのへび姫さまという愛称。あの母親、それっぽいことを言っておったが、怪しいな…」
「ああ、あれは何かを必死で隠そうとしてる目だったなぁ」
「ヴァールもそう思うか?ならば、怪しいのは上層部だけじゃなく、街全体なのか?街の人々、全員が裏切り者?うーん………ダメじゃ!考えとるだけじゃ分からん!よっし!とりあえず、行動あるのみじゃ!」
リリリリン!!リリリリン!!
「きゃっ!?びっくりしたぁー!なんじゃ、誰じゃ、こんな時に電話しくさりよって!」
突如鳴った据え置き型の電話機に、悪態をつける。
「こほんっ」と軽く咳払いし、受話器をとる。
「はい、もしもし?」
「皇女様、ご夕飯の準備が整いましたので、食堂までお越し下さい」
「わかりました、いつもありがとうございます。すぐに向かいますね」
受話器を戻し、そそくさと食堂へと向かう。
食堂は、メイド達とは勤務体形が違い、三交代制となっている。
城や街のパトロールをする騎士団、城の近くにある病院に勤めている者のために、常に営業している。
一般の人が普通に食事を摂ることもできる。
食堂に到着した皇女は、皇女様特製夕食をテキパキと食べていき、すぐに食べ終わると従業員にお礼を行って、急ぎ、部屋へと戻っていった。
そして、戻るやいなや、
「ヴァール、昨日の頭目になれるか?」
ヴァールの力を使い、黒幕を引き摺り出すための作戦に出た。
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・
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街灯がほのかに照らす夜の街。
「おぉ、貴方は!いやー無事で何より!先日はお世話になりましたなぁ!貴方たちのおかげで、皇女様への疑惑が核心へと変わりました!この国が救われます!ありがとうございました!あぁ!報酬は、そちらのお国の方へ送っておきましたので!それでは、某はここらへんで。まだまだ準備しておく事がございまして!あー忙しい忙しい」
少し腹の出た、お喋りの右大臣は、相手が話す暇も与えず、自分の要件だけを言うと、そそくさと城の方へと戻って行った。
その相手が、皇女が化けた偽物であるということに、気付く様子など微塵もなかった。
ヴァールの特殊動力の一つ。
食べた相手に化ける事が出来る能力:変体。
容姿、癖、喋り方、声など外見的な特徴全てを真似ることが出来る。
皇女はこの能力を使い、街の奥深く、ディープな空間に立ち並ぶ居酒屋店の一つで待っていた。
そこは、右大臣がよく使う居酒屋だ。
皇女は、近しい人物の好みや嫌いもの、趣味や行きつけの店など、色々な情報を仕入れている。
もちろん、相手にその事を悟られないように。
相手が現れるのを静かに待っていると、予想通り、右大臣が現れ、こちらが聞くまでもなく、べらべらと話してくれたわけだ。皇女の作戦通り。
「大臣全員にかまをかけていこうかと思っておったが、一発で当たるとはのぉ。ヴァール、闇に紛れて、あいつを尾けるぞ」
「あいよ、嬢ちゃん」
ヴァールの特殊能力の一つ。
身体全体を闇で包み込み、闇に紛れ、隠密行動を行う能力:闇影。
光すらも飲み込む闇は、反射した光が人の目に入り込むことを拒み、認知する事を阻害する。
皇女は、闇に紛れ、右大臣の後ろをついて行く。
後ろを見て、誰にも尾けられていない事を確認した右大臣は、そそくさと城の中へと入っていく。
そして、他国との状況を確認する場であり、戦術会議をする場でもある会議室に行き着いた。
会議室は、ドーム状になっており、国を運営、管理する人物が全員入ったとしても、余裕があるように大きめに作られている。
右大臣が会議室の扉を開くと、すでに、多くの人が集まっていた。
三大臣の一角、左大臣。
大臣1人に対し、2人ずつ仕えている、副大臣。
城や街を守る騎士団の長、騎士団長・騎士副団長。
その他各官僚など、先ほど言った国を運営、管理するほぼ全ての人間が一堂に会していた。
バネルパーク皇国は、皇女の下に、三大臣という役職がある。右大臣、左大臣、そして、心大臣。
しかし、この場にいるのは、右大臣と左大臣だけで、心大臣の姿は見当たらない。
それもそのはず。右大臣は、皇女の正体について疑い始めた時から、心大臣だけにはその話をしていなかったからだ。
「左大臣殿、心大臣殿の方は?」
「ああ、問題ない。処理済みだ」
右大臣の問いかけに左大臣が答える。
右大臣は、露天商から成り上がってきた商売人だ。
人を見る目があり、その腕前は一級品。
お喋りな事を除けば、優秀な人財だ。
そんな右大臣の目から見た心大臣は、皇女に心を奪われた傀儡にしか見えなかった。
だからこそ、信用できる者にだけ声をかけていき、今こうして、上層部のほとんどの人物を味方につけることに成功していた。
そんな右大臣の読みは、当たっていた。
心大臣は、大臣に就任して早々、より近くで見る皇女の美しさに心を奪われた。
それにいち早く気付いた皇女は、自らの部屋に誘い込み、行為を行った。
心大臣は、皇女の能力により、愛の虜と化した。
皇女の特殊能力。
一度行為を行った相手を自分の虜にする能力:魅了。
いや、魅了という言葉だけでは足りない。もはやそれは、支配と言っても過言ではないだろう。
魅了された者にとって、皇女の命令は絶対であり、どんな命令であろうと愚直にこなし、その命令に疑う余地などは存在しない。
死ねと言われれば、喜んで死ぬ。それほどまでに強制力の強い能力。
もちろん、一度行為をしなければ虜に出来ないので、色仕掛けの効かない相手には、無力である。
「(ふっ、お喋りのくせに、割と食えない男じゃなぁー右大臣よ)」
皇女が、心大臣に下した命令は、「わたしの正体に勘付き、妙な動きをする者がおれば、どんな些細なことでもいいから教えろ」というものだった。
愛の虜である心大臣は、日々の業務をこなしながら、他の大臣や副大臣、ましてや街の人々にまで疑いの目を向ける―――が、ある日突然、その姿を消した。
皇女が襲われたあの日から、ちょうど2日前の出来事だった。
今思うと、皇女が帰国してから一度も顔を合わせていない。そんな心大臣のことを、皇女は完全に忘れていた。
異常があれば、その都度、部屋に来るため、わざわざ自分から聞くことはなく、帰国してからというもの、何も言ってこなかったため、完全に忘れていた。
皇女は、闇に紛れ、部屋の隅っこで、右大臣たちの会話を聞いていた。
「右大臣、皇女様は?」
「大丈夫だ、もう寝ておられる。今日の食事には、睡眠薬を入れておいてもらったからの。今頃ぐっすり。朝まで起きんだろう。だから安心せい、左大臣殿」
「そうか、ならばよかった。あのお方に聞かれては、今回の計画も全ておじゃんだからな」
「なに、細心の注意を払っているともさ。それより、今は計画の話を進めよう」
「(うーん?ヴァール、今日の食事、変な味したか?)」
「(言われてみれば…いつもより違和感があったような…)」
2人の会話を聞きながら、皇女は声に出さず、心の中でヴァールと話す。
皇女とヴァールは一心同体。どんなものでも喰らうことが出来るヴァールにとって、睡眠薬などあった所で効果はない。
例え、猛毒が入っていたとしても、ヴァールはその成分ごと喰らい、消化する。最強の胃袋を持っていた。
右大臣は、話を聞かれていることなど露知らず、胸元から一枚の紙を取り出した。
「これが、同盟国であるインティグル竜国からの契約書だ。みな後で目を通しておいてほしいが、簡潔に言おう。
我らの国、バネルパーク皇国は、インディグル竜国の下命国となる!
その代わり、インティグル竜国の清竜騎士団本部隊があと2日後、ここに到着し、皇女様討伐を担ってくれる」
下命国とは、体のいい言い方だが、要は植民地のことだ。
相手国の支配の元、生活する事になる。
「我々は、化け物に仕えるより、同じ人であるインティグル竜国に命を捧げる。
我々は古くからの同盟国。下命国になるとはいえ、今までと同じ待遇、対応で良いと、かの国の王からの盟約も頂いている!」
「おぉ!ならば、皇女様さえ、いなくなれば、この国は我らのものということか!?」
「ああ、そういうことだとも!」
各々顔を見合わせ、喜びを噛みしめる。
みな、皇女との付き合いは長く、幼い頃からお世話をしてくれた人たちばかり。
しかし、皇女が、化け物であると知るや否や、掌をひっくり返し、自国を我がものにしようと暗躍している。
人とは、いかに醜いものなのか。皇女だけではなく、先代、先先代から受けた恩恵を忘れ、自分たちの私利私欲のために動く。
「(哀れじゃな。だが、こやつらの気持ちも分からんでもない。ずっと信じておったものが、化け物だったんじゃからな。だが、わたしもこれを許すわけにはいかん。こやつら全員、今、この場で食い殺してやる)」
皇女は、纏っていた闇を解き、ヴァールに命令を下そうとした。だが、その時、お喋りの右大臣がまたも口を開く。
「街の人々も、昨日、皇女様が帰ってきたことで分かったであろう。我々が、化け物の下で働き続けていたことを。腹立たしさもある。悲しみもある。まだ信じられない者もいるだろう。だが、みな、あのお方にバレぬよう、いつも以上に声をかけてくれていた。顔に、声に出ぬよう、頑張ってくれていた。まあ、子どもがへび姫といった時は驚いたがの」
「母親と我らが話していたのを聞いていたんだな。しかし、良かった。蔑称とは言え、へび姫様と呼んでおけば、今回のように、子どもたちが覚えていたとしても、愛称だと言い訳する事ができる」
「ほっほっほっ!流石ですなぁ、左大臣殿」
「あのお方は、ああ見えて勘が鋭いのでな。念には念を入れておかねば」
左大臣は、国の行政を主に担っており、周りへの手回しが上手く、頭の回転も速い。
大臣の中では最も若く、街の人たちからの人望も厚い。
街の人々に皇女のことを説明したのも、この左大臣だ。
左大臣が言うのであれば、それは事実なのだろう、本当のことなのだろう、と人々は信じ、皇女が化け物であることを、信じた。大半の者は。
しかし、まだ全員ではなかった。まだ、皇女を信じる者は確かにいたのだ。
皇女が一人で帰ってきたあの日が来るまでは。
皇女が襲われたあの日から遡ること2日前。
同盟国インティグル竜国へ、皇女は少ない護衛と共に旅立った。
二月に一度行われる晩餐会という名の親睦会に呼ばわれたわけだ。
だが、それも全て、計画の内であった。
皇女が旅立ったその日、心大臣に仕える2人の副大臣は、力づくで心大臣をロープで縛り上げ、地下牢にぶち込んだ。
心大臣から皇女へとリークされることを恐れた左大臣が手を回し、心大臣にかかった呪い(魅了)を解くために、インティグル竜国の宮廷魔道士に依頼していた。
左大臣は、副大臣、宮廷魔道士に後を任せ、今日のメインイベントの準備に取り掛かる。
全ての住人に聞こえるよう、緊急集合用の鐘を鳴らす。
街の全住人は、こんな忙しい時期に、何で集められたのか分からないと言った顔で、緊急集合先である城の広場に集まる。
何かの催し物かと考え始めた住民たちであったが、現れた左大臣から告げられた言葉は、到底信じがたい話だった。
ーーー皇女様が、化け物であると。
住民たちは怒った。心の底から怒った。
左大臣は、そんな住民たちの心を落ち着かせることはせず、今までの皇女の武勇伝や今まであった不思議なことを、話し始めた。
幼い頃、敵対国に誘拐され、一人無事に帰ってきたこと。
16歳の戴冠式まで、魔法の才覚が全くなかったというのに、戴冠したその日から魔法を使えるようになったこと。
街を一人で歩いているところを見かけると、誰かと話すようにぶつぶつとひとりごちっていたこと。
怒った時、口調が荒々しく変わること。
そして、何より、戴冠式の1週間後、先代様が、突然の病で亡くなったこと。
今まで、信じて疑わなかったその全てが、彼女が化け物であると思うと、急に怪しいものへと感じられる。
人々の左大臣への怒りは、徐々に皇女への怒りへと変わる。
左大臣は知っていた。一度湧き起こった怒りは、すぐに収まることを知らず、その怒りの矛先を誘導してやれば、簡単に民衆を味方につける事ができることを。
今回の計画の全容を噛み砕きながら、街の人々へ伝えていく。
「今回、皇女様には少数の護衛しかつけておらぬ。
同盟国であるインティグル竜国からの帰り道、多数の盗賊に襲われれば、まず助かることはないだろう。
皇女様が、ただの人ならば」
こうして、皇女様への怒り、不信感を募らせ、最後に強く言い放った。
「皇女様が一人で帰ってこられることがあれば、我の言ったことは真実となる!あと2日、皇女様の帰りを待とうではないか!!
だが、しかし、皇女様が2日経とうと3日、4日経とうと帰ってこなければ、我々は国の王である皇女様を殺した事になる…その罪を償い、すぐさま、皇女様を追いかけ、あの方の元へ行くことを…約束する!!!」
あの演説から、3日が経った今、街の人々の心中には、恐怖と罪悪感が混在していた。
盗賊たちから逃げ出し、血みどろになりながらも帰ってきた皇女様への申し訳なさ。
それとは裏腹に、華奢で細腕の皇女様が盗賊たちを倒し、一人で帰ってきたという事実に恐怖を覚えた。
「(今日の街のやつら、変に媚びているような気がしたのは、そういうことか。あの親子も、全部知っておったんじゃな)」
皇女は、ずっと感じていた違和感の正体がわかり、スッキリした。
そして、心に決めた。この国ごと、全てを飲み込み、リセットしようと。
「おいおい、貴様ら。わたしがいないところで、密談しよってからに…いかんではないか?」
だけど、その前に、一つ訂正しておかなければ。
こやつら、甚だ勘違いしておる。
「なっ!?!?!?そ、その声は皇女様!?い、いずこにおられるのですか!?」
「ここじゃここじゃ」
慌てふためく裏切り者たちの前に、闇影を解いた皇女が姿を現した。
「わたしの正体に気付いたことは褒めてやろう。じゃがな、一つ訂正じゃ。確かにわたしは化け物じゃが、貴様らみな、わたしと同じ血が流れておるぞ?」
突然のカミングアウトを前に、一同、反応できない。
人は、本当に驚いた時、声も出せず、固まってしまうのだろう。
反論がないことをいいことに、皇女は追い討ちをかける。
「考えてみろ?貴様ら、他の国の人間より長生きであろう?他の国の人間は長生きしたとしてもせいぜい100年ほどじゃが、貴様らはその2倍、200年は優に生きる」
「そして、わたしら皇女は、500年の時を生きる。
先代から生まれしもっとも才覚のある者が、皇女を継ぐわけじゃが、才覚のなかった者はどうなると思う?
そやつらは、城から街におり、普通の人として生活するのじゃ。分かってきたかの?貴様らは、先代、先先代の皇女に選ばれなかった者の子孫なんじゃよ。
だから、普通の人間より長生きし、他国ではエルフの末裔、エルフ・ディセトなどと呼ばれておるわけじゃ。ま、化け物のわたしの言うことなんて聞く耳持たんだろうが、各々、思い当たる節が少なからずあるだろうな。じゃ、そういうことで、わたしは失礼させてもらうよ」
まだ情報を処理しきれていない様子の面々を横目に、会議室から出ようとする皇女だったが、
「ま、待て!我々の話を聞いて、何もしないのか!?あと2日後には、清竜騎士団が貴方を討伐しようとこっちに来ているのですぞ!?」
それを止めるように、左大臣が声を荒げた。
そんな左大臣の言葉に笑みを浮かべる皇女。
「左大臣、君はとんだ甘ちゃんだな?こんな時でもわたしの心配をしてくれるのかい?でも、心配無用じゃ。今日この後、今すぐにでも、この国も同盟国であるあの国も、全部喰い殺してやるからな」
突如として出た不吉な言葉。
その意味を誰よりも早く理解した騎士団長は、左大臣と皇女の間に入り、剣を抜刀。
「聞き捨てなりませんな!皇女様!いくら貴方が化け物であろうと―――」
「煩い。わたしはお前が嫌いじゃ。いちいち暑苦しい。ま、これでちっとは血が抜けて涼しくなったじゃろ」
一瞬の出来事だった。
騎士団長が話している途中、皇女の影が伸び、一瞬にして、騎士団長の頭を喰らった。
首から上が綺麗になくなり、そこから大量の血柱が迸る。
「で、この阿呆と同じく、わたしに挑もうとする者はおるか?―――ふむ、いないのなら、今度こそ、わたしは失礼させてもらうよ」
バネルパーク皇国、最強の男である騎士団長が、一瞬にして殺されたことで、その場は凍りついた。
誰もが、この化け物には勝てないと判断し、口を塞ぐ。
今すぐ逃げ出したい気持ちを、理性で抑え、皇女が部屋を出ていくのを待つ。
そして、部屋の扉が閉じようとした時、
「今までありがとう、世話になった…ばいばい」
皇女から出た子どもっぽい言葉がより一層不気味さを際立たせ、部屋の中に木霊し、扉は重々しく閉じるのであった。
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バネルパーク皇国は、王都であるバネルパーク以外の街は無く、一つの街とその周辺の土地だけが、国土であり、とても小さな国だ。
そんな小さな国、バネルパーク皇国の王都バネルパークの上空。皇女はそこにいた。
王都を全て見渡せる高さから、人々の暮らしを見ている。
会議室を退出してから、およそ3分後の出来事だ。
「ヴァール、頼む。全て、食らい尽くせ」
「本当にいいのかよ?嬢ちゃん。先代、先々代が築いてきた国で、嬢ちゃんが生まれ育った場所だろ?」
「いいんじゃよ。街のみんなを殺してしまうのは、心苦しいし、悲しい気持ちももちろんある。じゃが、皇女の正体を知った者を野放しには、出来ん。それがわたしに流れる血の性じゃ。それに、わたしの正体を知った今、昔のように分け隔てなく接してはくれんじゃろ?
わたしは…わたしの国を作る。祖先が今までそうしてきたように。じゃから頼むよ、ヴァール」
「そうか。これ以上、無粋なことは言わねぇさ。じゃ、あ―――っむ」
その日、二つの国が地図から姿を消した。
バネルパーク皇国、インティグル竜国。
両方ともに、栄え、豊かな国であったが、一夜のうちに跡形もなく消え、噂だけが各国へと流れていく。
巨大な装置の暴発。大型動物による破壊。竜種の襲撃による滅亡。その他もろもろ。
その中に、皇女の噂はなく、皇女の目的である目撃者の排除は、無事、達成された。
だが、その頃、巷ではある噂が最も有力視され始めていた。
それは、魔王軍による攻撃であった。