29話:勇者と魔王⑨
夜が明け、朝を迎える。食料は底をつき、空腹とどうしようもない状況に、誰しもが苛ついていた。
今日も何も進まない日が始まる。後方から近づいてくる軍団がいつ追いつくのか、それすらも分からない。
「この状況だからこそ思い出したのですが、昔、まだバネルパークがあった頃に、古文書を読んだのです。そこには、古の三柱 アイダ・ウェドを呼び出す方法が書かれていまして、今、その内容を思い出しました!この状況を、打破できるかもしれません!」
少々強引ではあったが、今の状況だからこそ、勇人たちはそれを信じた。
思い出すように話しながら、皇女が指示を出す。
皇女、マホ、マコトが正三角形を作るように、各辺の位置に立ち、呪文を唱える。
『世界を渡る白き竜よ。知恵を、恩恵を、力を、我ら小さき者に分け与えたまへ。境渡りの竜よ、今ここに、顕現せよ!』
三角形の中心から光が漏れ出し、中からニュルっと、アイダ・ウェドが現れた。
神々しい光は、白き竜の鱗を照らし、紅蓮の瞳が勇者たちを捉える。
「我名はアイダ・ウェド。我に何ようか?小さき者たちよ」
カッコ良く登場を決めたはいいが、頭がイカれているためか、無反応の勇者たち。実際、こんな畏まった召喚シーンはいらなかったのだが、アイダ・ウェドは昔から、どうもこういうのに憧れる節があるようで、皇女は仕方なく従ってあげたのだ。
勇者たちの反応に、少ししょげたアイダ・ウェドだったが、そんな事はお構いなしに、話はとんとん拍子で進む。結果、竜の背中に乗り、勇者一行は崖を越えた。
もちろん、怪しまれないように、無数の火の矢が飛んできたが、アイダ・ウェドにそんな攻撃が効くはずもなく、危なげなく、アセナ狼国へと到着したのであった。
その後、アイダ・ウェドは飛び立った。勇者たちは、一切感謝することなく、前へ前へと目標に向かって、突き進む。
目の前には、今まで蹂躙してきたどの国よりも大きな門がそびえ立っている。だが、いつもの光景とは違った。
なんと、門が空いているのだ。それも全開に。まるで、勇者一行をもてなすかのように開かれている。
「空いテル…ナゼ?」
「ワナかも…気を、ツけロ」
勇人たちの身体を蝕んでいた何かは、既に身体全身に回ったようで、全員が片言でしか話せなくなっていた。ちなみに、最初に話したのは勇人で、それに返事をしたのはマコト。
門から入ると、真っ先に見えたのは城だ。遠目から見ても、その大きさはよく分かる。王都にあるガルステン城と大差ない大きさだ。
門から城までは、一本道となっていて、左右には様々な店が立ち並ぶ。しかし、そこにはひとっこ1人いない。それもそのはず、住人たちの殆どが皇女の中に収納されているのだから。
「人ガいなイ…気配もカんジナい」
「オンな、おんナがいネェ…」
「(こいつはおかしくなってもまんまじゃの)」
マホ、ソウマが言葉を発し、それにツッコミを入れる皇女。勇者一行は、城へと進むしか選択肢は無かった。
大通りを進み、城の前へと到着。
今回のような非常事態の場合、本来であれば、城へと続く門は閉じられ、通りと門を繋ぐ可動橋も上がっている。この機会を狙って、賊が入らないようにするためだ。
更には、門の前には詰所があり、従者たちが常駐しているのだが、それももぬけの殻だ。
橋は下げられ、門も盛大に開いている。まるで、勇者たちの侵入を歓迎するように。
勇者たちは無言で進み、門を抜けると、そこは豪勢な中庭があった。
真ん中には盛大な噴水。変な銅像が所々に建っている。その周りには赤白黄青と色鮮やかな薔薇が咲き誇り、客人の目と鼻をもてなす。
「(綺麗じゃし、良い匂いじゃの〜そういや、正面から入ったことなかったな〜)」
いつものマホとマコトであれば、皇女と一緒に薔薇を愛でるのだが、今の状況ではそうもいかない。
勇者一行は、一切立ち止まることなく、スタスタと中庭を通り抜けていく。落ちている薔薇を踏みつけようとお構い無しに。
中庭の先には、国の入り口で見た壮大な門とは比較にならないほど小さなーー通常サイズの門が待ち構えていた。門というより扉に近い。白木で作られたシンプルだが美しいデザイン。
「こノ先、イる」
「うン、イルイる」
「殺ソ!早グ殺ソっ!」
「魔王ォォ殺ズぅゥゥ!」
勇人、ソウマ、マホ、マコト。おかしくなっているとはいえ、それぞれが扉の奥に、宿敵が待ち構えていることを察する。
「やット…オワる…」
勇人はか細く呟きながら、扉を開ける。
「ふ、ふふふっははははは!!!待っていたぞぉ!勇者たちよぉ!!!」
そこには、マルクス演じる、温度差凄まじい魔王が待っていた。
「(あちゃーあやつ、緊張して変な方向にいっておるのぉ。でもまあ、作戦通りではあるし、いっか)」
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アイダ・ウェドが現れ、会議室が手狭に感じ始めたその頃、勇者たちをアセナ狼国へと送り届けた後の話を、詰めていた。
「マクルス、其方は魔王じゃ。それらしく振る舞い、勇者たちとの激闘の末、やられよ。これは重大な任務じゃぞ?あまり弱いと裏ボスがいるんじゃないかと思われるし、強すぎても駄目じゃ。死なない程度に痛めつけながらも、自身も少しずつ攻撃をくらわなければならない」
「ゆ、勇者たちの実力が僕に近いとどうなるか分かりませんが、が、頑張ります!責任重大ですね…」
「うむ。最後のやられる間際は替わってやるから安心せい。じゃが、彼奴ら、魔王が極悪非道だと思っとるから、何かそれっぽいの考えといた方がいいかもな」
「――住民全てを喰らい、更なる力を得た、というのはどうでしょう?街に住民たちがいないのも、これで納得がつくかと」
側近であるアルートが意見を述べる。
「ほぉ…なかなか良いアイディアではないか!それ、採用じゃ!」
「ありがとうございます」
皇女からのお褒めの言葉にぺこりとお辞儀で返し、前を見ると、羨ましそうな目でこちらを見るマクルスと目が合った。心の中で「申し訳ございません」と述べ、軽く会釈をする。
「(やれやれ、王様には困ったものだ…それがまた愛らしいのですが)」
内心毒づきながらも、先代から仕えているアルートにとって、マクルスはどこか自分の子どものような存在であった。
@@@
アルートの提案した作戦に従い、マクルスは極悪非道な魔王役を演じていた。
「勇者たちよ、なぜ、街に誰もいないのか、気になっている事だろぉ…それはな?オレ様の腹の中にいるからだぁ!!!はっはっはっ!食ってやったぞ!自分の国の住人たちを、守るべき存在である住民たちを、自分の利益のために、食ってやったぞぉ!!!ほら、見ろぉオレ様の後ろを!!」
大袈裟な身振り手振りを加えつつ、視線を自分の後ろに向ける。そこには、肉片と化した住民たちの亡骸が、山のように積まれていた。もちろん、ヴァールの贋作造で作った偽物ではあるが、出来栄えは本物の死体と遜色ない。
「オレは特殊な能力があってな?人の脳味噌を食う事で、自分を強化出来るんだぁ…どうだ、凄いだろぉ!?」
マクルスが言った通り、偽死体の全てが首から上がない状態で放置されている。大量に出たであろう血が滴り、床を真っ赤に染めている。
「下衆ガァぁぁぁアアぁあァ!!!!!」
起きてしまった残酷な現状に、正義感が最も強いマコトが一番に反応し、叫びながら盾を構え、魔王に向かって猪突猛進。
「かかってこい、勇者どもぉ…魔王の力、見せてやるぞぉ!!!」
腕を広げ、身体を軽く後ろに仰け反り、強者のフリをする。魔王と勇者の戦いが、勃発した。
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