23話:勇者と魔王③
「今更ながら、やばいんじゃないか?嬢ちゃんの魔法は、音と原って設定だろ?なのに、ガンガン別属性の魔法使ってたけど」
戦闘が終わり、落ち着いたところで、ヴァールがふとした疑問を述べる。
「あ、確かに…でもそれはさーあれだよ、あれ!この子たちが、上位魔法とか使ってくるから、こっちも上位魔法で対抗しないと勝てないから!!」
「まあそうだけど、それはそれ。置いといて。勇者たちにバレたら、嘘ついたってことで、殺されるかもだぜ?」
「今の状態なら、ありえる…うん、ヤダなぁ」
厳しいヴァールの前に、返す言葉もない。
しかし、思わぬ助け舟が現れた。
「大丈夫だよ、お姉様!この街には、外から中を見ることが出来ないようにする妨害用のシールドも張ってあるの!」
「ここでの戦闘や会話は、完璧に外に漏れないようになってるの!それに、誰も邪魔できないように、この路地周辺の入り口は全て塞いであるから、お仲間さんにバレたってことも無いと思うの!」
双子特有の流れるような言葉繋ぎ。
「はぁーならよかったぁー!安心したわぃ!ヴァールが脅してくるから、びっくりしたじゃろうが!」
「別に脅したわけじゃねぇけど」
難を逃れ、安心した皇女と少しバツの悪そうなヴァール。皇女たちは、すっかり打ち解けていた。
最初は警戒する皇女だったが、共通の話題であるひい婆さまの話を境に、ぐっと仲が深まった。同じ血統というのもあるのだろう。
皇女は、ヴァールの姿を見せはしなかったが、心の会話ではなく、普通に会話するほどには、信用していた。
「で、これからどうする?お主らの国民たちが、惨殺されとるわけじゃが。助けに行くかの?」
「ううん、全然大丈夫。別に、マルたちの家族ってわけじゃないもん。ね、クル?」
「うん。ただ、クルたちの国が欲しかっただけで、ここはお試しって感じなの」
「おぅ…流石は皇女の血筋。他者への無関心さと自分の国への憧れは、まるで昔のわたしを見てるようじゃ…」
母親からヴァールを譲り受ける前の、幼き日のことを思い出し、懐かしむ。
遠い目で宙を見つめる皇女。
「あ、一応、お主らはわたしに捕まったわけじゃから、このロープで手を縛ってもよいか?」
ふと状況を思い出したようで、太めのロープを取り出し、問いかける。
「「うん、問題ないの!」」
双子は、屈託のない笑顔でそう返す。
双子の手を後ろに回し、慣れた手つきで縛る。一本のロープで、姉妹の手を縛り、余った分を自分で持てば、簡易的な拘束具の出来上がり。
「これなら大丈夫じゃろ!よし!勇人たちのところに行こうかの」
皇女は気合を入れる。相対する相手は、頭のネジが吹き飛んだイカれた連中。拘束しているとはいえ、会うと同時に切りかかってくるかもしれない。
細心の注意を払い、路地の終わりに行き着いた。
「解除するよ?お姉様?」
「ああ、頼む。ちなみに、わたしは勇者たちの前だと猫を被ってるから、そこんところよろしく頼むぞ!」
「くるっと」「まるっと」
「「かしこまりんりん♪」」
「なんじゃそれ、可愛いのぉ」
皇女たちの前には、路地の入り口を塞ぐように地面が盛り上がっている。高さ5メートル近くせり上がったそれを、この状況化で超えようとする者は、まずいないだろう。
横並びで立つクルルとマルルは、片手を繋ぎ、目を閉じる。2人の周りに魔力が高まっていくのを感じる。
そして今まさに、地面を元に戻そうとする間際、
「そういや、収納せずにいくんだよな?嬢ちゃん?」
ヴァールが横槍を入れた。
「あ、その点があったか」
何かを思い出したようで、ヴァールに指示を出す。
「ごめん、忘れてた。なので、よろしく頼む!ヴァール!」
「本当に忘れてたんだな…わかったよ、嬢ちゃん」
ヴァールは漆黒の身体を晒し、皇女の指示を受け、動き出す。後ろにいる皇女の方で進展があったことを感じ取った姉妹は、一時停止し、視線をそちらへ向ける。
「「あぁ…漆黒の蛇さまを見れたの…なんて神々しい…」」
「感動してるところすまねぇが、ちょっと失礼するよ。あ―――っむ」
おもむろに姉妹を飲み込んだ。
ヴァールの特殊能力の一つ。
食べたものを消化するのではなく、中で保管することが出来る能力:収納。
出し入れも自由で、中にいる間は腹も減らず、年も取らない。例えるなら、四次元ポケットだ。
「よし、これで勇人たちに勘付かれる心配はなくなったのぉ!」
「でも、この土壁はどうするんだ?嬢ちゃんは、原と音って設定だろ?」
「あ…」
この後、物陰に隠れ、姉妹たちを吐き出し、魔法を徐々に解けるようにしてもらい、再度、取り込み、皇女は路地裏から出て、勇人たちの元へと向かうのだった。
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