22話:勇者と魔王②
「ひっとり目、みっけ〜♪」
勇人たちとはぐれ、城を目指し、路地の中を走っていると、目の前に双子の姉妹の片割れが現れ、指を指しながら、そう言った。
クッキリとした二重瞼に、クリっとした翡翠の目。その上に太めの眉毛がちょこんと、あどけなさの残る顔立ちだ。
茶色の長髪を三つ編みにし、後ろで束ねている。見るからに、可愛らしい幼女である。
「え?あの、それはどういう―――」
「うるさいのですよ、とりあえず、死んでくーださいっと」
皇女が目の前の女の子に意識を向けている最中、路地横に建つ家の上から、片割れが飛び降りた。
レイピアのような鋭く尖った武器で、頭を突き刺そうと狙う。
「それで、気配を隠したつもりですか?」
だが、それしきのこと、皇女が気付かないはずがない。
城を目指し走り出してから、尾行されているのには気付いていた。
だからこそ、皇女は、相手を引きずり出すために、わざと、ひとっ気のない路地の中へ入ったのだ。
「よいっしょ!」
さらに言うと、自分が戦いやすい場所へと誘っていた。
皇女は、地面を蹴り、路地横に立ち並ぶ家のすぐ近くまで横一文字に飛んだ。
そして、家の壁を蹴り、空へと飛び上がる。空中で、器用に体を回転させ、蹴りを入れる。狙いは、相手の首元。
「うそっ!?そんな動き、ありえ」
相手に話す暇を与えず、皇女の蹴りは、見事、首元に命中。
勢いをつけたことにより、蹴りの威力は、固いかぼちゃならば粉砕するほどの威力となっていた。
「貴方たち、双子?では、片割れの元へおかえり」
目の前に現れた幼女と瓜二つの幼女。
皇女は足先の向きを器用に変え、下でまだ指を指しながら、ぽかんと口を開けている片割れの方へ、吹き飛ばした。
首からも、衝突した指からも「グキッ」という生々しい音が、空虚な路地に響いた。
だが、悲鳴は聞こえない。泣き声も聞こえない。見た目年齢10歳にも満たない子たちだというのに。普通の子なら、痛さで泣き叫んでもおかしくはない。
「こやつら、何か変じゃな…」
「嬢ちゃん、なんだろうな…変な感じがするぜ?あの2人。どこか懐かしいような」
「懐かしい、じゃと?どういうことじゃ?」
「上手く言葉に出来ないけど、なんかそんな感じがするんだよ」
「ふむ。よー分からんが、とりあえず今はこやつらの撃退じゃ。ヴァール、これは罠かも知れんからの、まだ出てくるなよ」
「わかったぜ、嬢ちゃん。でも、危険だと判断した場合は、許してくれよ」
「ああ、それで構わん」
体制を整え、相手の出方を伺う皇女。
「ねえ、今誰と話してたの?」
「もしかして、独り言?」
「貴方たちには関係ないことですよ。それで、まだかかってきますか?」
周りに自分たち以外いないことは確認済みだが、誰が見ているか分からない以上、素で話すのはまずいと判断。
双子の問いに、敵意剥き出しで返す。
「ぶー!けち!教えてくれたっていいじゃん!」
「ほんとほんと!でも、ボッコボコにして聞き出せばいいよね、クル?」
「頭いいね、マル!よーし、じゃーくるっと」
「まるっと」
「「フルボッコだぁー!!」」
先ほどの痛みなど無かったかのように、両手を上げ、はしゃぎ出す姉妹。
「上位魔法 神風!」
「上位魔法 透過!」
「へぇー…上位魔法が使えるんですね。貴方たち、一体、何者ですか?」
「「けちんぼには教えてあげないの〜!!」」
声を合わせ、そう返した双子のうち、片割れは光速と同等の速さで動き、姿が見えなくなり、もう片割れは光の屈折を変え、姿を消した。
「そうですか…では、こちらも少々本気で、相手をするしかありませんね」
皇女から出た言葉から、とてつもないプレッシャーが放たれた。
双子もそれを感じとるが、攻撃をやめることはない。
「上位魔法 超高速走行。まずは、すばしっこい方から捕まえさせて、頂きます」
皇女は、光速を超える超高速で動き出した。
@@@
「聞いたことない魔法…あ、わかった!はったりだ!マルを騙すつもりだな?そうはいかないのだ!」
マルルは、路地横の家の中へ入り込み、相手の動きを観察していると、突然、皇女が消えた。
「んなっ!?え、どこ行ったの!?」
「とーんとん」
キョロキョロと辺りを見渡す。視界の中には、どこにもいない。そんな焦るマルルの肩を、わざとらしく、皇女は優しく叩く。
マルルは、恐る恐る、叩かれた肩の方を見る。そこには、満面の笑みの皇女がいた。
「―――っ!!!?」
すぐさま、その場から離れる。
「怖い怖い怖い怖い怖い!!なんなのあいつ!?神風より速い魔法なんて聞いたことないの!!早く、クルに伝えなきゃ。今回の相手、本気でいかないと、まずいって…」
マルルは、その路地をよく知っている。
自分の庭といっても過言ではないほどよく知っている。
だから、一見遠回りに見えても近道だったり、近道に見えて遠回りだったりと、入り組んだ家と道の配置を完璧に覚えていた。
それが、皇女と双子のアドバンテージの違いであった。
「クルー!!アラート クリムゾンレッド〜!!!」
近道を通り、家から出て路地へと顔を出す。
そして、クルルに警戒度をマックスに引き上げることを伝える。
「とりあえず、クルには伝えた。後は二人がかりで―――え、なんで…」
双子には地理によるアドバンテージがある、にもかかわらず、皇女は、マルルの前に立っていた。
単純な話だ。
皇女は、後ろを振り返らずに焦って家の中を駆け回るマルルの後ろを、ピッタリとついていき、最後に、抜かしただけに過ぎない。
それが可能なほどに、2人の速度差は圧倒的だった。
「とりあえず、逃げなき」
「はい、捕まえた」
踵を返し、家の中へ戻ろうとするマルル。
一歩踏み出した――次には、右足が掴まれ、ひっくり返され、宙ぶらりんになっていた。
遅まきながらそれに気づいたようで、逆さになりながらも、ジタバタと抵抗を見せる。
「はなっせ!離せー!」
「(よう見えるところで、捕まえたんじゃ。片割れを助けに来るかの?)」
「離せー!聞いてんのー!」
「え?あーごめんなさい。少し、黙ってて頂けますか?じゃないと、殺しちゃいますよ」
少しお茶目ぶってはいるが、その言葉から放たれた殺気は本物だった。
片割れが危ないことを本能的に感じ取ったクルルは、皇女の前に現れる。
「うーん、これは参りました。全く見えませんね。はぁ…どこにいるんでしょうか」
だが、皇女には見えない。すぐ近くにいるのに、姿形、匂いすらも認知できない。
「しかし、この子が捕まったのは見えているはず。もうすぐそこまで助けに来ているのでは?」
皇女は、捕まえている腕とは反対の腕を前に突き出し、左右に動かす。
警戒度を最大まで引き上げている相手のひょんな行動から、クルルは瞬時に距離を取った。
あのまま、近くにいればやられる。透過しているにも関わらず、そう思わせる何かを感じ取っていた。
「しょうがない、ですね。闇の視界」
皇女は魔法を唱える。上級魔法ではない、ただの魔法を。
「これをすると、何も見えなくなるので嫌なのですが…よかった。すぐ近くにいてくださいましたか。では、失礼して」
闇の視界は、目に入る光を吸収し、視界を断つ魔法だ。
それにより、光の屈折を利用した目の錯覚が無くなり、透過や勇人が工夫して発動させた擬似光学迷彩を、見破ることが出来る。
ただ致命的な欠点がある。それは、光魔法以外、全ての視界が見えなくなること。
目は、外からの光が入らないと、何も視界に捉える事が出来ない。
皇女は、話し終えるより早く、動き出し、一瞬にして、クルルとの間合いを詰めた。
「捕まえた―――あれ?」
逃げようとする相手の片足を狙い、手を伸ばした。しかし、皇女の手は、相手をすり抜ける。
クルルが使っている透過は、光の屈折により見えなくする、勇人が使用していたものとは完全に別物で、見えなくなるだけでなく、その言葉通り、透明になり、壁や扉など関係なく、すり抜けることが出来る魔法だ。
これすなわち、誰も触れられないということ。
「(ヴァール、透過ってどうやって破るんじゃったっけ?)」
「(久々に使ってるやつを見たな、嬢ちゃん。うろ覚えだが、手闇で、手に闇を纏えば、触れたような…)」
「(ヴァールもうろ覚えかぁーま、とりあえず、それでやってみようかな。ありがとう、ヴァール)」
「(嬢ちゃんの役に立てて、良かったぜ)」
「上位魔法 手闇」
どこからともなく、たんぽぽの綿毛のような闇が手に集まっていき、皇女の右手の周りに付着。
いくつもの綿毛が集まり、膜のような闇が手の周りを覆う。
「さあ、覚悟は出来ていますか?」
放たれる殺気。それを一人で受け止め、涙目になりながらも、次の行動に移すクルル。
マルルの方を見て、心を通わせる。
マルルに、透過しているクルルを見ることはできない。
だが、何かを感じ取ったようで、ニヤッと笑みを浮かべ、
「あんたの方こそ!」
逆さの状態から、地面に両手をつけ、そこを軸に身体を捻る。
それにより生まれる回転力に自分の力を上手く乗せ、捕らえられている手を弾いた。
「なっ!?こやつ!?」
「クル!合わせて!!」
「うん!合点承知!!」
皇女が反応を見せるが、それよりも早く、呼吸を合わせ、双方が別の魔法を放つ。
「上位魔法!太陽の紅炎!」
「上位魔法!絶対零度の吐息!」
マルルは、太陽から漏れ出る紅炎を彷彿とさせる高火力の火属性魔法を、身体全身から放出。
クルルは、万物を凍らせる吹雪をイメージさせる極低温の氷属性魔法を、口から放出。
勇人がいた元の世界、地球では、硬すぎる物体に対し、ある方法を使うことで、粉々に壊す技術がある。
それには、超高温と超低温、その両方が必要であり、なにも難しい技術は要らない。
ただ単純に、両面からその2つを放出し続ければいい。
そうすることで、片側は冷たくなり、片側は熱くなり、物体内の温度同士が反発し合い、粉々に壊れるのだ。
今まさに、双子はそれをしようとしていた。
相手は自分たちよりも強者。だが、こちらは2人。勝つための手段ならいくらでもある。
双子は、格上の相手への勝ち方を知っていた。
だがしかし、今回は相手が悪かった。皇女でなければ、通用しただろうが…
皇女は、相手に逃げられたことには驚いたが、その後の行動には、微塵も驚かなかった。
「上位魔法!鏡返し!
(なんちゃって。そんな魔法ないんじゃが。それっぽく、見せればよいよい。ヴァール、頼むぞ?)」
皇女は光を集め、2枚の鏡を作り出し、対に襲いくる魔法へ当てがう。
襲いくる超火力の火炎放射と触れた者を凍てつかせる吹雪。
しかし、皇女が出した鏡に当たった瞬間、くるっと回って、相手へと跳ね返った。
ヴァールが一度口の中に含み、飲み込まずに吐き出しただけに過ぎないのだが。
「「んなっ!?うそっ」」
両者ともに息の合った同じ言葉を言いながら、必死に身体を動かす。
身体をよじり、紙一重の距離を魔法が通る。
「はぁはぁはぁ。あっぶない!なにこいつ!?」
「(マル!大丈夫!?)」
「(うん、大丈夫!クルも怪我してない?)」
「(うん、大丈夫!それより、こいつ…)「
「(クルも感じた?ってことは、やっぱり)」
「(うん、お母様と同じ気配…)」
「(だよね…でも、この人がお母様なわけないの。だって、お母様は)」
「(…うん。あと、考えれることといえば、お母様がぼくたちを生む前に、生んでるのかも)」
「(じゃあ、もしかしてこいつは、いや、この人は、ぼくたちのお姉様ってこと!?)」
「(分からない。でも、ありえない話じゃないと思うの)」
「(そっか…じゃあ、これ以上戦う意味もなさそうだね)」
「(うん、お母様と同じなら、ぼくたちが勝てるはずないもん)」
皇女から漏れ出るヴァールの気配に、何かを感じ取った双子。相手に勘付かれないように心で念話する。
そんな相手の状態を見て、皇女が声をかける。
「どうしました?もう降参ですか?」
「「はい、降参します」」
「やれやれ、しょうがない。もっと力の差を見せつけて――って、ん?今なんと仰いました?まさか、降参って言いましたか?」
「「はい!」」
「そ、そうですか!ならよかった!無意味な戦いをする意味が無くなって、よかったですよ!うん!」
相手の返しが、予想外であり、拍子抜けした皇女。
「あのぉーつかぬ事をお聞きしても?」
「え?あぁ、はい。いいですよ」
「最果ての蛇って知ってますか?」
双子の一人、マルルから言われた一言は、皇女にとって、意外な言葉だった。
「え、ええ、もちろん。それがどうかしました?」
狼狽ながらも、必死で隠し、言葉を返す。
「貴方の中に、いますよね?」
「―――ほぉ、気付いておったか」
「「っ!!!」」
今までの殺気とは比べものにならないほど、深く重い、重圧。
息をすることすらも憚られるプレッシャーを前に、双子は、膝をつき、平伏する。
「貴様ら、わたしの正体を知って、どうするつもりじゃ?返答次第では、ここで殺す。よー考えて、言葉を返せ」
「ま、待って…!ぼくたちは、貴方をどうこうしようとは思ってません!ぼくたちのお母様も、最果ての蛇様を身に宿していたのです!」
「なん、じゃと?それはどういうことじゃ?説明せい」
皇女候補の生き残り?しかし、なぜこんなところに?いやそもそもどの世代だ?
皇女の中で様々な疑問が、頭をよぎる。
「お母様の名前は、パルムート・ファン。ご存知ですか?」
「ふむ…
(ヴァール、聞いたことあるか?ちなみに、わたしはない。そもそも婆さままでしか覚えとらんが)」
「(知ってるぜ…そいつは、嬢ちゃんのひい婆ちゃんだな)」
「(ひい婆さま?ん?ちょっと待って…まさか、ひい婆さまってあの?)」
「(あぁ…大陸にいる男を全て食い尽くしたという、あの伝説のパワフル皇女さまだよ)」
「(あぁーじゃー他に子どもがいるのも納得じゃな。ひい婆さまは、長い歴史の中で唯一、自分の国を作らず、放浪しつづけた人って、母さまが言ってた)」
「(あれは酷かったなぁ。出会う男全てを誘惑し行為に至り、良い遺伝子であれば、子を生む。何もしない日はなかった…
だけど、歴代の皇女の中で、大陸全土を渡り歩いたのは、パルムートただ一人だけ。
色んな景色を見れて、結構楽しかったんだよな。懐かしいぜ)」
「(…そうか。国を持った皇女たちは、その国から離れることはほとんど無いから、ヴァールにとって、退屈な日々じゃったろうな)」
「ああ、知っておる。わたしのひい婆さまに当たる人物じゃ。貴様らは、その子、ということじゃな?」
「「はい!そうですそうです!」」
「そうか…して、質問なんじゃが、貴様ら、年は幾つじゃ?」
「え?あー何歳だっけ?クル?」
「うーんっと、たぶん―――」
「(わたし、母さま、婆さま、ひい婆さま。4世代分だから、少なくとも、1500歳はいっとるはず…でも、そうは見えんの。何故じゃ?)」
「今年で、37歳だったと思います」
「はぁ!?37じゃとっ!?」
あまりの驚きに声を荒げてしまう。
「「ひっ…あ、あの、」」
その声に恐怖し、ビクつく二人に、すかさずフォローを入れる。
「ごめんごめん、ちょっと予想外の返しだったからの
(ヴァール、一体、これはどういうことだと思う?)」
「(分からん、さっぱりだ。37年前は、もう既に嬢ちゃんの中にいるし、一度入れば、嬢ちゃんの許可なく、外に出ることはできない。だから、あり得ないはずだ…)」
「(じゃよなーま、とりあえずは、こやつらを拘束して、事の真相は闇の中、かの?)」
「(まあ、それが妥当な線だな)」
「では、君たちがひい婆さまの子どもだということを信じたとして、の話をする。ここにいれば、勇者たちに確実に殺される。だから、君たちには、二つの選択肢を与える。
1つは、ここで、わたしに殺されること。
もう1つは、わたしについてくること。
もちろんその場合、君たちの命をわたしに託すことになるから、要は死んだも同然ってこと。さあ、どうする?」
皇女の問いに、双子は当然と言った顔で頷き合い、
「「一生ついていきますの!お姉様!」」
笑顔でそう答えた。
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