21話:勇者と魔王①
宿屋でぐっすりと睡眠を取った勇者たちは、移動しながらパンなどを食べ、なおも移動を続ける。
昼、夜も軽食と言っていい食事で済ませ、ただひたすらに目的地へと向かう。
驚異の速度で、本来であれば、10日はかかる道のりを1週間に短縮することができた。
「あれが、最初の街…ごくりっ。
(こやつら、おかしくなっておるとはいえ、いきなり切りかかったりせんじゃろうな?)」
内心ヒヤヒヤの皇女を他所に、勇人が先頭に立ち、街にある門の方へ向かう。
普段であれば、堂々と開かれているであろう門も、今は、人1人がやっと入れるほどしか空いていない。
更に、その門の前には門番が立っており、街に入ろうとする者に検問をかけていた。
先客は数人。全員街の者だったらしく、すぐに門をくぐり、中へと入っていく。
「我は、リュース国 国立騎士団 団長アルバ・バイロンである。名を聞かせては貰えないか?」
「俺の名前は、嘉者熊勇人。ウェルムボストン王国で召喚された勇者だよ」
「ほぉ、貴殿が…」
両者挨拶を済ます。
相手は、身長190を優に超え、ガタイの良さは、ボディビルダーを彷彿とさせる。
違う点をあげるとするならば、トレーニングでついた綺麗な筋肉ではなく、実戦で鍛えられた無骨な筋肉だということ。
「あのさ、一つ質問なんだけど。この国って西と東、どっちについてる?」
「ここに来たということは、もうわかっているのだろう?
―――我が国は!東の大国を支持する!!
西の大国の奴隷である貴殿らを、通すわけには行くまい!!」
外見から想像できる、イメージ通りの野太い声が、大音量となって、勇人たちの行く手を阻む。
「そっか、入れないのか。じゃ、無理やり入るよ――――死ね…!」
突如感情の糸が切れたように、殺意を剥き出しにする勇人は、普段では考えられない、驚異的な速度で宝剣を振り上げ、相手目掛けて振り下ろした。
既に、抜剣していた相手は上段に構える。
だが、それは悪手としか言いようがなかった。
「きひっ!無駄無用無利益ぃぃ!!」
突如、宝剣から青い炎が迸る。
一瞬にして、宝剣の温度は800度を超え、剣同士が触れた瞬間、相手の刀身は赤くなり、グニャリと曲がって、切断された。
バックステップで避けていれば、こんなことにならなかったはずだ。
宝剣は、守りのなくなった相手の身体を、脳天から縦半分、真っ二つに切り裂いた。
断面から血は一滴も出ない。
なぜなら、切られた瞬間から、高温により皮膚が焼け、止血されているためだ。
「魔王の手下ごときが!!俺に指図するなよ!!」
グチャッと音を立てながら、地面に倒れ込む二つの身体。
勇人は、悪態をつきながら、相手の亡骸に蹴りを入れる。
「ふぅーみんな、行くよ…楽しい楽しい残党狩りダぁー!!!」
「「「オオぉーーー!!!」」」
その国最強である騎士団長を、流れるような速さで殺した勇人。
仲間たちは、その状況に歓喜し、雄叫びを上げ、少し開かれた門へと近付いていく。
「うそだっ…団長が、そんな…」
「馬鹿かお前!団長の指示を忘れたのか!早く門を閉じるぞ!!!」
「くっ…!団長…!」
団長は、部下である団員たちに指示を出していた。
万が一、自分に何かあった場合、すぐに門を閉め、我が国だけは守れ、と。
門は、毎日、宮廷魔道士が魔力を込め、強度は並みの魔法では傷ひとつ付かないほどに、強固だ。
更に、街の周りには大きな塀が立ち並び、街へ入るには、東西南北の門から入るしかない。
そして、今空いているのは西の門のみ。
すなわち、勇人たちの目の前にある門だけだ。
この門さえ閉めれば、敵は容易に攻め込めなくなる。
もちろん、相手が塀を飛び越え、襲ってくることを考慮し、守護魔法で光の壁を上空に展開している。
これで、地面と上空、双方の侵入経路を断ったわけだ。
そんなリュース国には、2人のお抱え宮廷魔道士がいる。
宮廷魔道士が多くいる国ほど強く、豊かである証明なのだが、リュース国はあえて、2人だけにしている。
その理由は、この2人が圧倒的な強さを兼ね備えており、なおかつ、超がつくほどのわがままだからである!
自分たち以外の宮廷魔道士を認めず、過去、何度か雇った者は、次々と、嫌がらせを受け、辞めていった。
そうこの2人――双子の宮廷魔道士の名前は、クルルとマルル。
幼く、可愛い外見のイメージとは裏腹に、心の中はどす黒い。
そんな双子が今現在どうしているかというと、街の中央にそびえ立つ城から門を観察していた。
城下を一望できる屋上テラスから。
「あ〜あ、やられちゃったね、マル」
「うん、やられちゃったね、クル」
「あの剣やっかいだね〜どうする?どうやって殺そっか?」
「うーん、後で考えよ!とりあえず、下降りようよ!」
「うん!よし!じゃー、くるっと♪」
「まるっと♪」
「「ぶっ殺しちゃうぞ♪」」
双子は、きゃっきゃっとはしゃぎながら、城の階段を降りていく。
迫りくる相手に恐怖など微塵も感じず、どうやれば殺せるか、それだけを楽しみにしながら。
@@@
一方その頃、勇人たちはというと、目の前の門が直前で閉まってしまい、どうしようもない、八方塞がりの状況に陥っていた。
だが、誰も何も話さない。
どうやって中に入るのか、作戦はどうするのか、聞くべきことは山ほどあるはずなのに、誰も何も話さず、ただ、門の方を見ている。
異質な空気。
皇女だけが「なんじゃこいつら、きもっ」と内心思いはしたが、周りに合わせ、喋らず、その場で立ち尽くしていた。
最初に動き出したのは、勇人だった。
ゆっくりとした足取りで、門へと近付いていく。
腕を伸ばせば、門に触れられるほどの距離まで近付き、また、宝剣を振りかぶる。
「喰らえ、宝剣ぇんん!!!無慈悲の強奪ぃぃ!!!
前回、マホが説明したように、勇者の宝剣は、剣の腹で触れた物を3つまで吸収することが出来る。
だが、その物質が魔力を帯びていなければ、吸収することは出来ない。
勇人は、それをなぜか理解していた。
だからこそ、閉じられている門に向かって、宝剣を振り下ろしているのだ。
そして、宝剣の腹が、門に触れた直後、試験の時と同様、跡形もなく消失した。
その代わりに、宝剣に嵌め込まれている水晶に灯りが灯る。
「きひっ!こんなもんで、俺らを止められると思ってんのぉ?きひひひっ!」
「「「がっはははは!!!!!」」」
勇人の不気味な笑いに、ソウマ、マホ、マコトも下品な笑いで答える。
一行は、堂々と、門から街の中へと入っていく。
皇女も遅れないように、付いていく。
少し、距離を置きながら。
ここからの戦況は、一方的なものとなった。
団長なき後を継ぎ、副団長が指示を飛ばすが、勇者一行の力量は凄まじく、国民を守るために奮闘するも、無残に殺されていった。
一人、また一人と次々に命を落とし、街中に血の花が咲き乱れ、血生臭い匂いが充満していく。
「なに、これ。おかしくなってるとはいえ、こんなの……残酷すぎる」
目の前で行われている惨状に、皇女は何もできず、突っ立っている他なかった。
人を助けようと手を出せば、疑われ、自分も殺されるかもしれない―――なんてことは微塵も思っておらず、皇女はただ、仲間たちのことを心配していた。
「操られているとしても、心の中には自我が残っているはず…マコトさんは武人だし、ソウマさんやマホさんもこの世界で、死と隣り合わせの戦いを経験しているから、だから、どうにか耐えられるかもしれないけど、勇人さんは、恐らく耐えられない…」
平和な日本で、戦場からかけ離れた平和な世界で、勇人は生きてきた。
人を殺したことは、もちろんない。
ゲーム内であれば、別だが、ゲームと現実では、重みが明らかに違う。
仲間たちの心を救うため、どうすればいいのか、そう考えていた矢先、それは起こった。
「ボコボコボコ!!」
石畳の道路が盛り上がり、まるで意思を持ったかのように動き出し、勇人たちと騎士団の間に、高い壁を作り出した。
「あぁ、クルル様とマルル様だ!お二人が、我々を助けてくださったのだ…!!」
「感謝いたします―――皆のもの、下がれー!!退却だー!!」
団員たちが予想した通り、あの双子の仕業である。
副団長は声を上げ、団員たち全員を下がらせた。
なおも動き続けている道路は、勇人たちを中心に、螺旋状に壁を作り出す。
不気味な笑いをあげながら、各々、壁を壊し始める。
だがそこに、皇女はいない。壁の中に囚われていなかった。
それはなぜか?
あまりの不気味さを前に、勇人たちから距離を取っていたからだ。
皇女が一人も殺していないのも該当していたが。
その後、壁と道路は無数の螺旋を生み出しながらも、ゆっくりと動き出し、外からでは中の様子が分からないようになっていた。
「これでは、どこに皆さんがいるのか分かりませんね…あの壁より高いところから見れれば」
皇女は辺りを確認しながら、高いところから見渡せる場所を探す。
「あった!あそこなら見えるはず!」
見つけたのは、街の中心にそびえ立つ城だ。
双子が先ほどまでいた城を目指し、皇女は走り出した。
「かかったかかった!」
「予想通り予想通り!」
それをどこからか見ていた双子が、不敵な笑みを浮かべながら、嬉しそうにはしゃぐ。
勇者一行に、最大のピンチが訪れようとしていた。
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