2話:バネルパーク皇国②
「あぁーダメじゃダメじゃ!どうにも分からん!よし、こんな時は気分転換じゃな。街まで行こう」
昨日のことを夜通し考えていた皇女だったが、考えがまとまらず、気分転換のために、城下町へと足を運ぶ。
古き良き文化と新しい文化が混ざり合う街。バネルパーク皇国の王都バネルパーク。
伝統模様をあしらった外観と最新設備の整った内装が、この街の特徴だ。
国内、国外からの人気が高く、観光客がよく押し寄せる。
しかし、今の時期は、観光客の出入りを禁止していた。
理由としては、今まさに繁忙期を迎えているからだ。それも、観光客が大量に押し寄せる繁忙期ではなく、生産作業の繁忙期だ。
この国には、2つの繁忙期がある。
生活に必要な物、観光で売る物、その他もろもろの物という物を、この国では自分たちで作っている。
2ヶ月の間に、1年間で必要な物を全て作るため、今、観光客が来たとしても誰も対応することが出来ない。
しかし、観光客はいないが、街は活気で満ち溢れている。
この国の人々は、物を作るのが恐ろしく好きで、好きで好きでたまらないのだ。
そして、城から降りてきた皇女が街を歩けば、
「おう!皇女様!昨日は災難だったな?アッガル、食べてくかい?」
「皇女様、今日も綺麗…そうだ!このカチューシャ似合うと思うんだけど、どうですか?退院祝いに」
「あら!もう大丈夫なの?そう!よかったよかった!じゃー聞いてよ、皇女様ーうちの旦那がさぁー」
人々が集まり、更に活気が溢れ出す。
皇女は、そんな人々のことが大好きで、この街も大好き。
いつもお忍びで来ては、街の人が集まり、城へ帰る頃には、両手にいっぱいのお土産を持って帰っていた。
「あー!へび姫さまだぁー!」
街のメインストリートを歩いていると、正面から子連れの親子が歩いてきて、皇女を見つけるやいなや、子どもが走りながら、近寄る。
「よしよーし。僕?今、わたしのこと、へび姫さまって呼んだ?」
「うん!呼んだよ!みんな、そう呼んでるから!」
「こんにちわ、皇女さま。子どもたちの間で流行っているんですよ、その愛称。この国の紋章、最果ての蛇さまを見た子どもたちが、蛇と皇女様のことを合わせて、へび姫さまって、呼ぶようになったんです」
「あ〜なるほど!皇女って呼ぶより言いやすそうですし、わたしもそう呼ばれた方が嬉しいかもっ!ありがとね、僕!」
「えへへ〜どういたちまして!」
こうして、皇女が親子と戯れていると、突如、大きな声量とともに、
「皇女さまー!!!マルファムル皇女様ー!!!公務の時間ですよぉー!!!」
皇女を呼ぶ声が聞こえてきた。
皇女を呼ぶのは、バネルパーク皇国右大臣。
3人いる大臣のうちの一人。国のNo.2だ。
「あ、いっけない!もうそんな時間!?はぁーーーい!!今から戻りまーす!!」
右大臣に負けない大声で返事をし、皇女は、親子に手を振り、そそくさと城へと戻っていった。
「ふぅー」
母親は安心したように息を吐き出した。
そこへ、右大臣が駆け寄り、
「何も失言しておらぬな?」
心配そうに、声をかけた。
「はい、この子がへび姫さまとお呼びしましたが、すぐさま、事前に教えていただいていた言い訳をしましたので、問題ないかと思います。むしろ、へび姫さまと呼ばれ、皇女様は喜ばれていました」
「ふむ、ああ見えて勘の鋭いお方だ。あと少しの間、発言には注意しておくれ」
「はい、わかりました」
親子に注意喚起をし、右大臣も城へと戻っていった。