14話:煌の盾②
!盆休み企画 最終段(第四段)!
駄目だった…一章、もう少し…いやだいぶ続きます
転移後、目を開くとそこには、前回の闘技場とは全く違う、自然の風景が広がっていた。
見渡す限りの銀世界。勇者たちは、雪原の中央に立っていた。
そして、その雪原を取り囲むように雪の降り積もった木々が立ち並び、やつは、そこから現れた。
高さ3メートル超え。
背中から曇天の空を思わせる紺色、腹からは雲が霞む春の空のような薄く淡い青緑色の毛が生え、身体の真ん中付近で混ざり合っている。とても綺麗で、幻想的な毛色。
口元には恐ろしく鋭い牙が姿を見せ、太い木の幹のような四足の先端には、刃物よりも良く切れそうな爪が伸びている。
身体の所々に刺さっている剣や槍、斧や矢といった武器が、本来の美しい毛並みを損ない、相手の化け物感をより一層際立たせていた。
今回の相手は、大型の狼だ。
射殺すほど迫力のある眼光。
青をベースとした毛色の中、真っ赤な眼が強く印象に残る。
皇女を除く全員が、相手の気迫に押され、緊張していた。だが、負けるわけには、逃げるわけにはいかない。
魔王を倒すんだと強く意気込むと、身体の奥底から力が湧いてきた。
それを知ってか知らずか、グッドタイミングでアナウンスが入る。
「皆さま、今から目の前の相手と戦っていただきます。勇者のパーティとしての実力、ワタクシたちにお示しください。では、試験―――開始です」
相変わらず、抑揚のない機械のような声が、校内放送のように響いた。
前回同様、試験開始の合図とともに、相手は動き始める。
緊張感を糧とし、各々が今持てる全力を出し切るだけでは足りず、連携を上手く行い、ギリギリの命の駆け引きを勝ち取ってこそ、ようやっと勝利を掴み取ることが出来る。
今回の相手は、それほどまでに強い。
その時、ヴァールは、動揺していた。
「(こいつはまさか…いや、そんなはずはない。こんな場所にいるはずがない。それに毛並みは似てるが、大きさは違う…でも)」
皇女にもそれは伝わってきていたが、フォローに入るより早く、相手が動き出したため、そちらを優先する形となった。
@@@
戦いは凄まじいものとなった。
開戦するやいなや、誰よりも早く、狼が駆け出す。
圧倒的な速さだったが、パーティ内で皇女の次に戦闘経験の多い、マコトが咄嗟に反応。
決めた隊列から身体一つ分前に出る。
直後、「ギィィッン!!!!」と甲高い音が鳴り響く。
狼の振り下ろした爪とマコトの大楯が衝突。
普通の大楯使いであれば、その一撃で、吹き飛ばされていたことだろう。
だがマコトは、大楯を地面に突き刺し、靴だけを地面に氷で張り付け、耐えてみせた。
皇女は、マコトが前に出たのを確認し、背後に張り付くと、狼の攻撃後、すぐさま、大楯から出て、振り下ろされた腕へと切りかかる―――――が、狼は異常な反応速度で、すぐさま、もう片方の腕を皇女に向かって振り下ろす。
「やらせるかよっ!!くそがっ!!」
中距離にいるソウマは、悪態をつきながら、構えていた矢を躊躇なく放つ。
マコトと同じ王国騎士団に所属しているソウマは、素行と女癖は悪いものの、その実力だけは確かなものだった。
矢は、狙い通りの場所――狼の腕へと吸い込まれていく。
それを匂いで感知したのか、狼は鼻をぴくぴくと動かし、直後、背後に飛び退いた。
「よし!ひっかかった!」
マホは相手の動きを予測していた。
幼い頃から、王都ガルステンの宮廷魔道士たちに鍛えられ、魔法だけでなく、戦術や実戦での戦い方も叩き込まれていた。
飛び退いた瞬間は、すぐに行動できないことも知っていた。
「縛り上げろ!木縛!」
地面を破り、地中から数十本の木の根が現れ、狼を脚から捕縛していく。
木の根は、相手に行動する暇を与えず、あっという間に身体全身へ伸びていく。
身体を激しく動かし、木の根に噛みついては千切っていくが、それを上回る速度で根が張っていく。
「勇人、これを使って君の魔法を」
「ありがとう、マコト。使わせてもらうよ」
「無論だ」
その間、咄嗟のことで行動できなかった勇人へ、マコトは一本の大きめな氷柱を作り、差し出した。
勇人は、それに手を当て、水性特化型の統制魔法で、氷の量を少し増やす。
そして、氷を変化させ、9つの龍を作り出し、相手へと向かわせる。
「昔からこういうのに憧れてたんだ。行け!八岐大蛇!」
9つの龍は、木の根で身動きの取れない狼の身体へ、鋭く冷たい氷の牙を食い込ませる。
「―――――――――ッッッ!!!!!!」
声にならない声が、辺りに響く。
狼の身体から、透き通った青い血が流れる。
「みんな!畳みかけろ!」
マコトは、よく通る声で指示を飛ばし、大楯の内側から二本の短剣を抜き、力強く投げた。
皇女は両手で持っている刀を投擲。
ソウマは風を纏わせ、飛距離と速度を上げた矢を5連続で射る。
マホは木の根を維持しつつ、土属性魔法を唱える。
周囲の土を集めて固め、金槌とそれを持つ豪腕を作り上げ、相手に向かって振り下ろす魔法:土槌。
狼の身体を超えるサイズの土槌を作り上げ、勢いよく振り下ろした。
まさに四面楚歌。絶体絶命。
普通の状態であれば、優に避けられる攻撃。
だが、今は木の根のせいで動きを封じられている。
前方から迫りくる危機に、何もできず、狼は全ての攻撃をモロに受けることとなった。
最後に、土槌が放たれた後「―――ズズズンン……」という重い音が余韻のように響き、狼がいた辺りに土煙が上がった。
「やったか!?」
「待って、ソウマ…それフラグ―――」
ソウマの発言が、呼び水となり、それは起きた。土煙の隙間から、不自然な光が見える。
「ウウゥウオオォォォオォゥゥゥゥーーーン!!!」
突如として響く遠吠え。
咆哮に似たそれは、自身の周りに揺蕩う土煙を吹き飛ばし、遠くにある木々を大きく揺らした。
姿を見せた狼は、全身に炎を纏っていた。燦々と輝く、透き通った青い炎。
氷の龍は溶け、水蒸気すら残さずに燃やし尽くされ、身体に巻きついていた木の根は燃え朽ちた。
マコト、皇女、ソウマの刀や矢は、相手の身体に当たる直前で、ドロンと溶けて地面に落下。
最も攻撃力の高かったマホの土槌は、頭の部分だけがポッカリと無くなり、残った柄の一部は結晶化していた。
土に含まれている砂が、超高温で焼かれることで、ガラスのように結晶化したのだ。
―――だが、最初から身体に刺さっていた武器だけは、溶けずに残っていた。
そこからは、狼の一方的な攻撃が始まった。
スピード、パワー共に先ほどの比ではなく、パーティは陣形を固め、守りに入る他なかった。
攻撃に移る暇はなく、常に相手の攻撃に遅れた形で合わせ、致命傷を避ける。
振り下ろされる爪に湾曲刀を当て、相殺。
食らい尽くそうとする牙を大楯で防ぎ、無数の傷が増えていく。
狼の身体に纏う青い炎は、10000度を超える完全燃焼の炎だ。
狼が通った場所は、雪が溶け、雪原に道が出来る。
凍てついていた空気は、灼熱に変わり、パーティを苦しめる。
唯一武器を創造できる皇女が前に立ち、相殺すると溶けてダメになる武器を、捨てては作り、捨てては作りを繰り返し、その背中をマコトが守護していた。
中立から攻撃するソウマ。
矢は溶け、槍は先端から崩れ落ちる。
相手を切り裂く風は、熱で揺らぎ、威力を殺され、赤い炎の火では、火力で押し負ける。
後方で間髪入れず、魔法を放つマホ。
氷は一瞬にして溶け、水は蒸発して消滅。
落雷はそれを超える速度で避けられ、痺れ罠を張っても感づかれ、破壊される。
光を集め、放つレーザー光線は、熱による異常な屈折で、ぐにゃりと曲がり当たらない。まるで蜃気楼のように。
闇は、青い炎から放たれる燦々とした光の前には無力。
そして、相手の咆哮を超える声量は、マホには出せなかった。
まさに絶体絶命。今はまだ、皇女とマコトの踏ん張りにより、どうにか戦線を維持しているが、それもいつまで持つか…
どちらかが倒れれば、パーティは確実に全滅する。
狼の攻撃は続く。何度も何度も腕を振り下ろし、食らいつく。
白髪の相手からの魔法を華麗に避け、少しずつ相手の体力、気力を削っていく。
焦る必要はなかった。
こいつらとの戦いに勝とうと負けようと、この空間から逃げることは出来ないと、理解していたからだ。
時間はたっぷりある。体力もまだまだ残っている。
相手からの攻撃でダメージになるものはなく、勝敗はすでに決している。
だが、油断はしない。相手にチャンスは与えない。ゆっくり、じっくり、着実に体力を削っていく。
―――だが、狼はそこで気が付いた。
あの氷の龍を放った男がいないことに。
そして、雪原とその周りにある木々たちから、全ての雪が無くなっていることに。
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