11話:彷徨いの森②
ここ最近の話は、時間がなく内容の確認もあまりしていない状態で投稿していたため、自分的に納得していませんでした。
このままではダメだと思い、盆休みのこの機会に、自分が満足する話を書こうとしたため、投稿が遅くなってしまいました。申し訳ございません…
「貴様、あの夜、わたしに話しかけてきた、好奇心暴走ヤロウか!?」
皇女はあの夜のことを思い出し、目の前で謝罪の形を取る相手に質問を投げかけた。
相手は、頭を上げ、真っ直ぐに皇女へと視線を向ける。
固唾を飲み、呼吸を整え、はちきれそうな動悸を必死に抑えながら、慎重に言葉を返す。
だがしかし、隠しきれない嬉しさが、声の節々から漏れ出ていた。
「覚えていてくださるなんて…!こ、光栄です!あの夜はそそっかしい挨拶となりましたので、改めまして―――ぼ、僕の名前は、マクルス・オウルハイム。僭越ながら、東の大国の王を務めております」
そこにいたのは、インティグル竜国を飲み込んだあの夜、暴走した好奇心から皇女に話しかけてきた命知らずの若者であった。
「やはり、そうか…それで、貴様がどうしてここにいる?」
「ま、前と同じく、探し物をしていましたところ、猛烈な爆発音が聞こえてきまして、興味を引かれ、様子を見にきてみれば、あ、貴方様があの火の玉に狙われているのが目に入り、恥ずかしながら、身体が勝手に…」
「ふむ、なるほど。
(そういえば、こやつ、わたしに惚れておるんじゃったっけ?)」
「(ああ、確かそうだったはずだぜ、嬢ちゃん。一目惚れってやつだ)」
「(そうか。では、こやつが言ってることも理解できないこともないな。惚れた者のためなら、自らを犠牲にしてもいい、か。わたし好みの考え方じゃ)
その、なんじゃ…ありがとな、マクルスとやら。さっきも言ったが、一人でも大丈夫じゃったろうが、ああいう風に助けられるのも、あながち悪くはない」
頬を少し赤く染め、気恥ずかしそうに返す。
自分の思い上がった行動に、申し訳なさを感じていたマクルスにとって、皇女からの言葉は、まさしく、赦しであった。
罪を懺悔する犯罪者が、神に与えられるそれのように。
この時マクルスは、「助けて良かった〜!!!」と心の中で叫んだ。
込み上げてくる嬉しい気持ちを、声を荒げて叫びたくなる衝動を必死で抑えるため、深く深く深呼吸。
二回、三回と繰り返し、気持ちを落ち着かせる。
そうして、前回会った時にどうしても聞きたかったことを、勇気を振り絞って、声に出した。
「あ、有り難き言葉…!そう言って下さると、僕もとても嬉しいです…!それであの、不躾なのですが、今回こそは、貴方様のお名前を、教えて頂くことは可能でしょうか?」
口から出た言葉は、少し震えていた。
名前を聞くことで、この方の怒りを買うかもしれない。
インティグル竜国を飲み込む圧倒的強者、自分よりも数段格上の存在を前に、マクルスは萎縮していた。
だが、せめてもの抵抗として、視線だけは真っ直ぐ、逸らさない。
「そうか、前の時は名乗っておらんかったか。こほん…では、こちらも改めて。
わたしの名前は、 マルファムル・ファン・バネルパーク。今は亡き、バネルパーク皇国の皇女である」
「―――あ、ありがとうございます…!!あぁ、やっと、やっと貴方様のお名前を知ることが出来た…」
緊張感漂う中、難色を示すことなく、すんなりと名前を告げる皇女。
王は、緊張感と名前を知れた嬉しさから、自分でも気付かぬうちに、涙を流していた。
嗚咽は出さず、ただただ綺麗に涙だけが頬を伝って、地面へと落ちていく。
「そ、そんなに知りたかったのか?」
若干引き気味の皇女との温度差は、凄まじい。
「は、はい!!お名前をお聞きできなかったあの日から、毎晩毎晩、後悔の炎がこの身を焼き、夜しか眠れない日々を送っておりました…あぁ、神よ。今日の出会いに感謝いたします。本当に、ありがとうございます…!」
「それほどまでにわたしの名前が知りたかったのか。少々行き過ぎてるような気もするが、ここまで真っ直ぐに好意を向けられると…少し照れ臭いの〜」
気が強く、自分一人で何でも出来る皇女だが、実は、シンプルで真っ直ぐな好意に弱い。
回りくどく好きだと言われるよりも、大量のプレゼントを貰うよりも、突然のサプライズよりも何よりも、真っ直ぐに飾りっ気無しに寄せられる好意には、心底弱いのだ。
バネルパーク皇国で皇女に就任して以来、毎月どこかの国から、お見合いの話が来ていた。
その相手は、国の王子や貴族の息子等の上流階級の者が殆どだった。
そういう相手に限って、自分の財力を武器に仕掛けてくる。
プレゼントとしては、美しい装飾が施された食器や、陽光が射すと色の変わる特殊な糸で編み込まれた、昼と夜で色のわかる珍しい衣服、等々。
そして、アポ無しで突如、バネルパーク皇国に現れ、108本のバラの花束を渡されたり。
外交で訪れたその日の夜、火と光の魔法を駆使した花火を打ち上げ、「これは全て君のために」などと恩着せがましい言葉を投げかけられたり。
大臣や騎士団たちに物を渡し、周りから固めていく者もいたし、毎日何通も手紙を送ってくる面倒くさいのもいた。
正直に真っ直ぐに、飾りっ気なしに、皇女に愛を伝える者は、その中にはいなかった。
自分は王族だ、貴族だと無駄なプライドが邪魔をして、ただ単純に愛を伝えることが出来なかったのだ。
だからこそ、皇女は、真っ直ぐな好意に弱い。
愚直に馬鹿正直な方が、分かりやすく、好きなのである。
二人の間に、気恥ずかしい空気が流れる中、それをぶち壊すように、王の側に側近の男が、焦った様子で現れた。
「王様!また一人で飛び出して!あれほど危ないからダメだと言ったでしょうが!!――ってあれ?貴方様は、いつぞやの」
「ん?ああ、貴様もあの時一緒にいたやつか」
明らかにテンションの低い皇女の返し。
だが、側近はそんなことを気に止める様子もなく、
「インティグル竜国の件は、大変お世話になりました。申し遅れましたが、私、アルート・ボォムと申します。以後、お見知り置きを」
ぺこりとお辞儀と挨拶をし、次は王の方へと詰め寄っていく。
マクルスの耳元に口を近づけ、皇女に聞こえないように囁く。
「これは一体、どういう状況ですか?まさか先程の爆発は」
「う、うん。アルートの予想通りだと思う。さっきまで続いてた爆発は、あの方が攻撃されているものだった。僕の方が弱いのに、咄嗟に土鎧で守っちゃって…ちょっと恥ずかしかったなぁ。でも、でもね!やっと名前が聞けたんだ…!」
「そ、それは、喜ばしいことですね。あの日からずっと悔やまれてましたから」
「うん!だから、今、凄く幸せな気分なんだ!あ、そうだ!いきなりなんだけど、あの方を僕たちの野営地に呼べないかな!?」
「それはよかっ―――え?あの、それは、一体どういった理由で…?」
「単純に、あの方とお話したいから!どうすればあんなに強くなれるのか聞きたいし、可能なら手合わせをお願いして、稽古をつけてもらいたいし、それに何より、あの方と、マルファムル様と一緒にいたい!」
「はぁーーーーー。王様のその膨大な好奇心には、流石の私もお手上げですよ。はぁ、わかりました。ここは私が折れましょう。しかし、私たちがなぜここにいるのか、その理由は話されませんように」
「うんわかった!ありがとう!アルート!」
忠告する従者に、にかっと笑顔で答え、マクルスは、皇女の方へ小走りで向かっていく。
「マルファムル様、もし、もしですが、お時間があるのであれば、良ければ、僕たちの野営地にお越しになりませんか?」
「お主たちの野営地に?うーん…」
皇女は考えた。勇者たちと離れた以上、この霧の中で合流することは難しく、ただ彷徨うよりは、この者たちと行動した方がいいのではないだろうか、と。
「うむ、わかった。案内してくれるか?マクルス」
「は、はい!こっちですこっち!」
こうして、皇女はマクルスの後をついて行き、マクルスたちが野営するテントにたどり着いた。
「こ、ここが、僕たちの野営地です!」
案内されたその場所には、幾つものテントが立ち並び、設置されている照明が、薄暗い森の中で、一際綺麗な光を灯していた。
テントの外に出ている人たちは、男女でデザインは異なるが、黒をベースにした軍服のような衣服を纏っており、頭上には、同一デザインの黒のベレー帽を被っている。あの夜と同じ服装である。
「僕のテントはこっちです!どうぞどうぞ!」
「う、うむ」
きらきらとした目で言われては、皇女も断るのに気が引ける。
相手の真っ直ぐな思いに、ただただ、たじたじするばかりである。
「王様、少しこちらへ」
だが、またも二人を邪魔するように、側近のアルートが王を、少し離れたところに呼び出した。
「どういうおつもりですかな、王様。あのお方を、ご自身のテントに案内して」
「どういうも何もないよ?地べたで話すよりも、テントの中で話した方がいいかなって思っただけさ」
「それならば、わざわざ、貴方様のテントに呼ばずとも、作戦本部用の大きなテントで話せばよろしいではないですか!
あそこであれば、大きな椅子やクッションもありますし、飲み物もすぐに用意できると思うのですが、どう思われますか?王様!」
「うっ、痛いとこをつかれた…アルートの言ってることは凄く正しい、と思う。けど、あそこで話してたらみんなに見られて、恥ずかしい思いをする気がするんだよ。主に僕が」
「それは、まあ、確かにそうかも知れませんが、しかし」
王と側近が問答を繰り返しているその頃、皇女はその内容を全て聞いていた。
いや、聞こえてきた、という方が正しい。
ヴァールの力により、地獄耳と化している皇女にとって、少し離れたぐらいであれば、普通に聞こえてくる。何か対策をしていない限り。
問答を聞きながら、どう反応したものかと考えていると、案内されたテントの横にある別のテントから、1人の女性が出てきた。
黒の軍服に、ベレー帽を被った長身のその女性は、王が皇女を案内している一部始終を、テントの隙間から盗み見ていた。
「あの女ね…」
そう呟かれた声には、とてつもない怒りが込められていた。
女性は、王が側近に呼び出され、皇女から離れていくのを確認するやいなや、テントから出て、急ぎ足で、皇女の前に立ち塞がった。
そして、声を荒げながら、
「貴方ね、マクルス様を誘惑した悪女は!?宣戦布告します!!私と勝負を!!マクルス様をかけて!!」
皇女に対し、宣戦布告。
これには、王も側近も、周りにいる他の仲間たちにとっても、予想外の出来事だった。
「…は?」
「だ・か・ら!マクルス様をかけて、私と勝負しなさいって言っての!!」
こうして、謎の女からの宣戦布告を受け、あれよあれよと話が進み、あっという間に勝負の舞台が整えられた。
@@@
「ルールは、先にお宝を見つけたチームが勝ち!それでは、よーい…スタート!!」
開戦の狼煙が上がり、2人1組に分かれたチームが一斉に森の中へと入っていく。
総勢5組のチームが、森の中に隠された宝を見つける宝探しゲームが、幕を開けた。
皇女は王であるマクルスとチームを組み、視界の悪い森の中へと入っていく。
ルールは至って簡単。
決められた範囲内にあるお宝を見つけ出し、野営地であるテントに、最初に持ってきたチームを勝者とする。それ以外のルールは無い。
相手チームの妨害をしても良いし、チーム同士で同盟を組み、他のチームをリタイアさせても良い。
勿論、お宝を見つけ出しテントに戻ろうとしているチームから、お宝を奪い取っても良い。
年中視界の悪い彷徨いの森で行なわれるこのゲームは、訓練にはもってこいだ。
どこにあるか分からないお宝を探す持久力と忍耐力。
足元には、木の幹が露出していてぼこぼこ。所々に泥濘みがあり、足を取られるため、下半身のトレーニングになる。
視界が悪く、どこから敵が現れるか分からないという緊張感が、感覚を研ぎ覚ませる。
お宝を愚直に探すか、誰かが探すのを待つか、自分たちで作戦を練る頭脳を鍛え、2人1組で行動することで、親睦を深めることが出来る。
そんな中、マルファムル・マクルスチームはというと、手加減など全くする様子もなく、最初から本気でゲームに取り組んでいた。
皇女は、音属性魔法を使い、周囲の地形や他チームの状況を把握し、心属性魔法で、マクルスと心を通わせ、視界と状況を共有。
他チームの動きを確認しながら、1チームずつ、追いかけては潰していく。
マクルスは土属性魔法を使い、足と地面をくっ付け、行動を止める。
相手が魔法を使い、足についた土を落とそうとする前に、皇女が弱めた雷を落とし、気絶させる。
その後、相手を寝かせ、首より下に大量の土を貼り付け、地面とドッキング。
[最初のチーム、リタイア]
次は、皇女が先に動き、木属性魔法を使い、木の幹や蔓で束縛。
相手が動けなくなったことを確認し、姿を見せる――が、捕まっているふりをしていたようで、火属性魔法を使い、束縛から脱出。
だが、皇女たちの方が上手だった。
相手チームが皇女へ仕掛けようと動き出した瞬間、マクルスは雷属性の強化魔法を使い、超高速で相手の背後に移動。
二人の首の後ろに手刀を入れ、気絶させた。
わざと相手の前に出て、気を引く。戦闘での常套手段の一つである。
その後、蔓などを使い縛って木にぶら下げ、焼き切られないように、首より下を水で覆う。側から見れば、大きな冬瓜のようだ。
[2チーム目、リタイア]
3チーム目は、近接戦闘が得意な2人。
皇女たちは、颯爽と前に現れ、魔法を使わず、殴り合い、完膚なきまでに叩きのめした。
相手チームの連携は凄まじいものだったが、魔法で心が繋がっている2人の連携には敵わなかった。
一撃も当たらず、ボコボコにされた相手チームは心が折れたようで、泥濘んだ地面に三角座り。そのまま動かなくなった。
[3チーム目、リタイア]
最後の4チーム目、宣戦布告をしていた女性のチームとは出会わないように、常に距離を取りながら、お宝を探し、先に見つけ、それすらもバレないように行動し、野営地に帰った。
宝探しゲーム勝者 マルファムル・マクルスチーム
【作者からのお願い】
「面白い!」「楽しい!」「早く続きを読みたい」「ま、多少は楽しめたし応援してやるか」なんて思っていただけたのなら、広告下にある【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります!
よろしくお願いいたします!




