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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その14 J特定検査

作者: 天城冴

彼女と結婚するためにある検査を受けて、結果をまつパカセガワ。果たしてその結果は…

「ああ、まだか。まだなのか結果は」

ホテルの一室のような、しかし薄暗いこの部屋にいるよう言われて数週間、パカセガワはイライラしていた。確かにこの検査は必要だ、だが

「こんなに時間がかかるなんて。いくら重要なことだからって、何週間も囚人のように閉じ込められるなんて」

文句をいいつつドアを見るが、一向に開く気配はない。食事は毎日決まった時間にドアの窓アからロボットが差し入れる。何か不足なものがあれば、ロボットにいえばいい。風呂もトイレもついているし、開かないとはいえガラスの窓もついていて、日の光も少しさす。

本や雑誌テレビもみれるが携帯電話やインターネットなどの外部への通信は遮断されている。

「いくら人との接触は厳禁だからって、少しぐらいいじゃないか…。寂しいよ、ホントに」

パカセガワはため息をついた。

「やらなきゃならないけれど、こんなにキツイことだなんて。だけど彼女と一緒になるためだ、結婚して子供をつくるにはやるしかないんだ」

本来、この検査は国民全員に強制ではない。そうすべきであるという意見もあったが、それはやりすぎではないかとされ、人生の転機、主に結婚のときにやる。それも相手方が主張しなければ、やらなくて済む場合もあるのだが

「俺の名字が名字だし、だいたい親兄弟に会わせてない時点で疑われるってのはあるんだが」

離婚して女手一つで育ててくれた母は何も言わなかった。しかし、父のことになると言葉を濁したりすることや、自分自身の顔立ちをみてパカセガワは疑いを持っていた。彼女もそうだったのかもしれない。もしかして…

「ああ、くそっ」

思わず、壁紙をたたくと、見えないスピーカーから声がした。

『139番パカセガワ氏結果判明、J検査 …』

パカセガワは天井をみあげて固唾をのむ。

『陽性 A-A判定』

「Aだって!しかも二つ!そんなバカな。俺があいつ等の遺伝子をもってるっていうのか!俺は一応大学試験にも合格した!あの旧政権のアホトップどもと親戚だと!」

叫ぶパカセガワに構わず、天井からの声は淡々と検査結果の詳細を述べる。

『J国旧政権トップ、A総理とほぼ同一のY遺伝子。彼に直接の子孫がいないことから、甥の子孫と推定。遺伝的変異もそれを示しており、また他にも類似性もみられたことから親族と考えられ…。さらにAT副総理と同じDNA配列もあり…』

「あ、あいつらと俺が…。こ、このJ国を破滅においこんだ旧政権のバカトップどもと同じだと、こ、この俺が」

『放置すると大変危険、子孫を残すことは禁止。一般社会においても愚かで危険な主張をふりまいて社会を混乱させる恐れ…』

「お、俺はそんなことしない!彼女と幸せになりたいだけなんだ!」

『検査結果により消去決定』

「や、やめてくれえええ」

パカセガワの叫びもむなしく、無臭のガスが壁から噴き出してきた。


「やっぱり、そうだったのね」

パカセガワの断末魔を画面越しにみながら、レイコはつぶやいた。そばで聞いていた検査官が不思議そうに尋ねる。

「失礼ですが、恋人が死んだ、いや殺されつつあるというのに冷静ですね」

「恋人って、まだ手を握られただけよ。一応婚活サイトで知り合ったの。条件はよかったわ、両親もいないし、学歴も悪くはなかったけど…。でもね、なんとなく」

レイコはため息をつきながら

「人の気持ちは無視するような感じだし、自分より下の人をすぐ見下してバカにするし。学歴はともかく、たいして頭もよくなさそうなのに威張って、私に指図したがるし」

「頭はよくても、性格というか一緒に暮らしていくのは難しそうですね。DVとか確かにやりそう」

「頭ねえ。まあ学歴なんて、あてにならないんだけど、だってあのAT副総理だって出た大学はいいってことになってたんでしょ」

「旧政権は皆そんな風な見掛け倒しの中身最悪の男ばかりでしたからね。この検査、一応女性もやりますが、主に男性がやるのは、そのせいですよ。男尊女卑で頭が固くて、さげすんでいた隣国の疾病封じ込めはバカにして利権にしがみついた挙句、本当にJ国をダメにした政府で、その政府はほとんどオジサンばっかりだったんだから」

「そうよねえ、女性もオジサンのいいなりで。占領されてるって言うけど、今のほうが女性にはいいかもね、貴女にも私にも」

「そうですね、こうしてカス男を捕まえずに済みますしね。処分されるからストーカーされる心配もない。悪い遺伝子を隠して子供を産ませようなんて奴から逃げられるというわけです。とはいえ、この人本当に自分がだれか知らなかったようですけど」

「あら、良かったかもよ。今、父親がどういう人間かわかって。あの世、いや地獄で仲良くできるかもしれないわ」

フフフっとレイコは笑って、ロクな夫にならなかったであろうパカセガワが死にゆくのを眺めていた。


どこぞでは検査を制限したばかりに、感染拡大し、外出自粛。婚活もろくにできずに嘆く方々が少なくないようです。オンラインお見合いが代わりに盛んなようですが、電子的な粉飾をされてロクデモナイ相手をつかまないよう、ゆめゆめ注意していただきたいものです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] DNA配列ていったって、全世界の人間の9割以上が同じなわけだが、これで見分けようと思ったやつと機械を作ったやつは馬鹿じゃないの。 [一言] こんな理由で人を破滅させるやつの関係者が地獄…
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