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自業自縛
前話と同じ三題噺「電車」「定期券」「リップクリーム」でもう一本。
リップクリームを塗る彼女の唇が艶かしく光る。
満員電車。眼前で挑発的にリップを塗った彼女が私の目を捉えて囁く。
「これ」
私の手にリップを握らせ、
「塗って」
そう笑う彼女に私は何故か逆らえなかった。
彼女の唇を塗ったクリームが私の唇に重なる。
「タナカさん」
いつの間にか懐から定期券を抜いた彼女に名前を呼ばれた私は、
「よろしく」
この瞬間に昨日自分が痴漢した女の微笑みから、もう逃れる術がない事を直感したのだった。