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電車の定期が切れていたので
拾い物の三題噺「電車」「定期券」「リップクリーム」で書きました。
電車の定期が切れていたので出社を諦めた私は、逆方向の切符を買って終点の海へ来た。
「なにやってんだろ」
漁港の護岸で冬の海風を浴びていると荒れた唇のひび割れが痛んだ。
リップクリームを塗る。
「ああ、そうか」
この時間は心に塗るクリームか。そう思うと腹が鳴った。
「うま」
見つけた定食屋で海鮮丼を食べる。
唇のひび割れが痛んだ。
クリームを塗っても傷はすぐに癒えない。
でもこの満腹感に痛みが少しだけ和らいだ気がした。