友人
すぐそばで寝息が聞こえる。最初は蚊かコバエでも飛んでいるのかと思った。
目を開けるとフィズがベッドに潜り込んでいた。起こそうとすると布団の下に素肌が見えたので慌てて飛び起きた。
「起きた?」
「なにをしてるんだよ」
「あれぇ、健は男が好きなんじゃないの」
「違うよ。女の子のほうだよ。参ったな」
健はお馴染みの、Tシャツ、短パン
姿でカツラを外している。緊張のせいか全身が痒くなりとりあえず背中を掻いた。
キッチンで料理がてらリビングにフィズを待たせておく。いつものジーンズ姿に着替えてくれている。
「まったくひどい目にあった」
「お婆様なら居ないわよ」
「そういうことなのかなぁ」
「意気地無し」
「やれやれ」
サーヴァントの機嫌取りは難しい。もっとお堅い、エレメンタルのように忠誠心マックスみたいなら扱い安いのに、と健はため息を吐いた。
せっかくの祝日なのにもう少し寝ていたかった。
ーー生きていい!
ホムンクルスは生きていい、というフィズの言葉が胸を刺す。ふざけているように見えても彼女なりに一生懸命なのだろう。だからこそ簡単な道は歩めない。
「欲しいものが欲しいだけなのにな」
自分はあめ玉か何かかと健は思った。
フィズに名前をつけたホムンクルスの友人に会いたかったな。
その友人は死んでしまっていることからこの話題も憚れるのではないか。
俺達の関係ってなんなんだろう。どうなればいい。そんなことばかり考えてしまう。
「マスターって責任重大だな」
「今頃わかったの」というとフィズは笑った。
「フィズに名前をつけた子ってどんな子なの」
「強い子よ。あの子は自分の運命についてはみんなわかってたと思う。洞爺の地下魔術工房の一つで出会って。その子は名前のないまま死んだわ。お礼に私が彼女に名前をつけるはずだったのに」
「そうか」
フィズは整った目元から涙を流した。
「ごめんなさい、感情的になって」
「いいよ。俺が聞いたんだから」
「ほんとよ」
「ハハハ」
「ほんとのことをいうと彼女について語れることなんて私にはたいしてないの。ねえ、泣いたらお腹空いちゃった」
「うん。もうすぐできるよ」