序章
深夜、閑静な住宅街の一戸建て、安賀多健の家の前に大きなトレーラーが1台横付けされていた。作業服の男達は運転席を降りるとトレーラー後部の扉を開く。
ガタン、と辺りに金属音が響いた。
「グルル……グウァ……」
トレーラー内の闇にグール達の金色の瞳が四十ばかり浮かぶ。20体のグールは作業員2人の、右手の甲に刻まれた魔術刻印に導かれて前進を始めた。
「健、地下室じゃ!」
「あぁ、婆ちゃん」
安賀多家は事態を当然察知していた。
2階で寝ていた健は怪しいトレーラーが横付けされてすぐにナギナタを持ち出した祖母に起こされていた。
明かりのないなか、夜行性の動物のように手慣れた足取りは健を魔術部屋にいざなう。
だけどよ、本当に俺に出来るのか!?
今さらぶるっちまうなよ、俺!
あとはやるだけなんだ!
地下室の魔術部屋に入った健はまっすぐ進み、Tシャツ、ジャージズボン、パンツを脱いでしまう。
全裸になると魔術礼服が納められたクローゼットを開ける。
カチャ。
「これだ、これだ! ついにこれを着るときが来たぜ!」
デザインはすべて女物の魔術礼服一式が暗闇のなか青い輝きを放っていた。
「おい、待てよ! こんな住宅街で襲撃とかずいぶんいっちまってるなぁ? 俺が許さないぜ!」
「なんだこの女の子は!?」
「邪魔するな女の子がぁ!」
「違う俺は男だ!!」
「なにぃ。……やっぱり女じゃねーか! 」
「もうちょっと髪が身近かったら、おじさんの好みだったが、ライン交換せずに、ここで死んでもらうぞ」
「行けグール達! 女、こいつらに倒されたあとでお前の魔術刻印は頂く」
「女の力じゃ勝てねーだろうなぁ! 洞爺様もお喜びだろうなぁ!」
「しゃーねぇ!! 喰らえ螺旋の獄炎!! ホーリー・アロー!! ライジング・サンダー!!」
「ガアアアア……!!」
健の魔術が冴え渡りグール達は断末魔を上げて20体が揃って塵に帰っていく。男達は煽りを受けて高ダメージを受けており、しまいには肩を組んでよろよろと歩いてトレーラーに乗り込み、「覚えていろよ!」と捨て台詞を吐いた。ゴウン、とトレーラーはエンジン音を鳴らすと彼らは洞爺様なる謎の人物の元に逃げ去っていった。
「洞爺様か。一体、何者なんだ」
健は片手を上げると玄関のドアを開けた祖母にもう大丈夫だと合図をした。