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眠り姫  作者: ルンルン
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~夢に生きる少年少女の物語~

      眠り姫 ~夢に生きる少年少女の物語~

      

           第0話「夢」

 

 都会のような喧噪は全く感じないのに、田舎のようなさみしいほどのもの静けさも感じない。

暑すぎるほどにまっすぐ、夏を照らし続ける太陽のきらびやかな光を、海はそれを受け取り、海面に光を散りばめる。

そんな神秘的な景色を遮るかのように、深緑色に身を包んだ海路線電車が気持ちよさそうにその身を走らせる。

街行くところに下校途中の子どもたちの、争うような元気で弾けんばかりの声や足音が響き渡り、それを横目に眺めながら軒先で身もふたもない噂話や笑い話で盛り上がる主婦たちの姿が見える。

ここが本当に、私が眠っている間にだけ行きつくことができる「夢」の中なのかと、今でも疑問に思わずにはいられない。

私が、普段起きている時に生きている世界よりもよっぽど現実味のある「夢の中」。

自分の眼に映る景色全てが色付いていて、信じられないほどにまで綺麗に透んだ空気を、自分の体の隅々にまで取り込むことができる。

呼吸をするだけで、自分にとって心地よかったり、相反して気持ち悪かったり…様々な形をした夏にしかない特別な匂いが身を包んでくれる。

耳に入ってくる全ての音は心地良く、頭の奥まで素直に響き渡る。

鏡なんか見なくても、スマホのインカメを使って自分を写したりなんてしなくても、

自分がどれだけ幸せそうな顔をしているのかがわかってしまう。

私が自然と、こうなってほしいと願っているのであろう憧れの現実が目の前に広がっているのだから仕方のないことなのだろう。

……ああ、目覚めて欲しくない。

ずっとこのまま眠り続けて、なんならそのままこの夢が現実になってしまえばいいのに。

そんなことを願ってみても、無情にも朝は必ず訪れる。

一瞬にして憧れの現実から引き離され、無色な現実に戻らなければならなくなる絶望すら感じてしまうあの瞬間が、私は大嫌いだ。

いっそのこと…夢なんてもの見なくなれれば、済む話なんだろうけど。



第1話

心春こはる


「心春!早く起きなさいよ!今日から学校始まるんでしょ!?起きないならお母さん、ほんと、もう知らないからね!」

というお母さんの焦りと、怒りが混じった声と同時に私の部屋のドアが打ち開けられた。

大切な用事がある時に限って、私が必ず寝坊するという悪癖を、お母さんはよく知っているからだろう。

この日も、私が寝坊したと思い込んでか心配して起こしにきてくれたらしい。

 「お母さん。起こしに来てくれたのはすごくうれしいけど、今日だけは遅刻できないって自分でよくわかってるし、なにより今日という日をずっと心待ちにしてんだもん。ちゃんと起きてるし準備ももうできてるよ」

と、私が余裕しゃくしゃくな表情でにやけながら答えると

 「何寝ぼけたこと言ってるの!時計よく見なさい、もうほんとなら、とうに家でてるような時間でしょ!?」

と言われ、半信半疑でスマホの画面を眺めてみた。

午前七時五十九分。

まずい。長らく学校に行ってなかったせいもあり、朝が苦手なおかげかボケっとしていたせいもあり、遅刻寸前ぎりぎりの時間になってしまっていた。

 「やっばぁい!完全にボケっとしてた!」

と大きすぎる独り言を叫んだ私は、久しぶりに始まる学校生活に心を躍らせながら、過去に見たこともないほどにまできれいに着飾った自分を自分で崩しにかかるほどの勢いでベッドから飛び出し、掻き込むようにして朝ご飯を食べつくした後でほんの気休め程度に身なりを整えると、そのまま逃出すように家を飛び出し、学路についた。




 2019年4月1日。春。

冬の身を突くような凍てつく寒さはとうに失せ、桜の木は一面淡いもも色のドレスに身を包み、私たち新高校生は、おろしたての制服に身を包む。そんな季節。

その日私は妙に浮かれていて、どこか落ち着きがなく、気づけば走り出してしまいそうになるくらいに気分が舞い上がっていた。

というより、すでに全力疾走しているところだけど。

都立夕ヶ丘高等学校。東京の杉並区に建つこの学校に、私は今日というこの日から通うことになった。

入学式、という言葉の響きを聞くだけでも少しテンションが上がる。

自分以外の誰かならば、みんな口先そろえて、

「学校になんて行きたくない。めんどくさいし、楽しみなんて一つもない」

なんてことをいうだろう。

・・・もしかしたらそうじゃない子もいるかもしれないけれど。

でも私はそんなことを思うことは全くなく、むしろ学校に通えることが楽しみで仕方がなかった。

なぜなら、私はある日を境に小、中学校に全く行くことができなくなってしまったからだ。

いけなくなってしまった理由も、自分には解決のしようがまったくなかったもので、どれだけもがいてみても叫んでみてもどうにもならなかった。

悔しくてしかたがなかった。悲しくてどうしようもなかった。

その事実を、恨みさえしただろう。

学校に通ってさえいれば、かけがえのない友達と出会うことができたかもしれない。

周りの人たちと、身の丈を合わせながら勉強をしたり、放課後を共にしたり、漫画や映画のようなロマンチックな恋の時間を共に過ごしたり・・・人生に一度しか訪れることのない学生生活を堪能できたかもしれない。

そんな、溢れんばかりに沸いてでてくるやるせない気持ちを持ちながら生きてきた私からすれば、学校に通えるというこの事実がうれしくて仕方がなかった。

過去にできなかったことを嘆くより、その溢れんばかりの気持ちをもって今を生きることに尽くせ。

私にとって命の恩人である、とある人の言った言葉だ。

その教訓を胸に、私は、憧れ続けた学生生活に身を投じることになる。

多くの人が、学校という1つのコミュニティに属することを普通のことと捉えていると思う。

でも私にとって、それはとても難しいものであり決してあって当たり前なことではない。

正直、怖くもある。今まで何年間も社会性のあるコミュニティに属してこなかった自分に、友達なんてできるのだろうかと。馴染めるのだろうかと。勉強というものにちゃんとついていけるのだろうかと。今は収まってはいるものの、ふとしたことを拍子に病気の「発作」がまた出てきてしまうのではないかと考えだしたらきりがなかった。

でも、それでも。

今を生きることに尽くして、自分にとって有益である三年間を過ごそうと、そう誓った。

・・・のにも関わらず、一番大切な入学式から遅刻しそうになっているというこの事実。

そんなことばっか考えてないで走ることに全力注げよ!と思いながら、果てもなく並び立つ桜並木を横目に見ながら、入学を祝ってくれてるかの如く降り注ぐ桜の花びらをかき分け、息を切らしてスカートをなびかせ颯爽と走る。

不思議なことに、焦りと自分への怒りでどうにかなりそうなこの間にもなんでか、不安や恐怖のような、そんなネガティブな気持ちが湧いてでてくることはなかった。

前を向いて思いっきり走れるということがここまで気持ちの良いものなのかと、改めて感じた。

この前向きで新鮮な気持ちを持って、1日1日を大切に乗り越えていこうと決心したのだった。
















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