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ひんやり③
バス通りに古い空き家があった。
もう何年も、何年も。
ある朝、ブロック塀が崩れていた。地震も台風も、交通事故もなかったのに。
翌朝、雨戸が外れていた。
次の朝、屋根瓦が落ちていた。
「この家をみていたひとがいなくなっちゃったからねえ」
老婦人はそう言って、小雨のなかバスに乗り込んでいった。
2019/06/28 「見ていた」
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その雄の三毛猫は看板猫だと女将は言った。
「昔、旅の男が宿賃代わりに置いてったんですよ。来たときは仔猫なんて連れてなかったのに、見れば袂や袖に三毛がぎゅうぎゅう。あれは猫又だったって、まあうちの曾祖母様の話で。この子はまだ尻尾も割れないんですけどね」
撫でられた仔猫はにゃんと鳴く。
2019/08/03 「看板猫」