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ひんやり①
下校の路。藍の夕暮れ。
頬を打った雫。傍らぽつりと落ちた呟き。
「涙雨だ」
「なんのだよ」
「すぐにわかる」
「出た、もったいぶり」
「……いや、わからないか」
「はいはい、ご勝手に」
重いショルダーバッグを担ぎなおして前へ一歩。
ヘッドライト。衝撃。最期に耳が拾った、「じゃあな」
2019/2/27「涙雨」
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「Nさんのお宅はどちらでしょう」
蝉しぐれに削られたような細い声に、草を抜く手を止めた。
「Nの家ならあれだよ」
指した手で額の汗を拭い、はっとした。
勝手に教えてよかったのか?
慌てて男を追ったが、澄んだ陽のした逃げ水が揺れるだけ。
念のため、Nに伝えて…………
N? Nって、誰だ?
2019/3/6「N」