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28 薬草




 かくして、ノーラの病気の原因を突き止めることに成功した俺は、マケラと共に食堂で祝杯をあげていた。


「プッピよ。本当にありがとう」

 マケラは喜んでいる。


 俺も、まんざらでもない気持ちだった。

 ハリヤマに症状をネット検索させて病名を調べてもらったからだとはいえ、俺が元看護師でなければ問題を適切に処理することは出来なかったかもしれないではないか。

 人助けが出来て、正直嬉しかった。



 マケラは俺の職業、すなわち「看護師」について興味津々のようで、いろいろと質問をしてきた。

 マケラと話すうちに、この世界にはいわゆる「医者」という職業が明確には存在していないということがわかった。

 病気になれば、祈祷師に祈りを捧げてもらうか、魔術師に癒しの魔法をかけてもらうか、薬草師に処方または処置をしてもらう、といった対処方法をとっているらしい。



 祈祷師の祈りは、マケラの話を聞く分には、おそらく単なるまやかしの類だと思われた。


 魔術師の癒しの魔法は、病状によってはよく効くことがあるようだ。

 多分、“回復の呪文”とか、“毒消しの呪文”といったものがあるのだろう。



 俺が一番興味を持ったのは、“薬草師”だ。

 さきほどノーラの部屋にあった柳の樹皮で作った鎮痛薬は、現代世界で言うアスピリンのようなものだと思われる。

 中世ファンタジーの世界でも、この世界なりに科学的な要素を生活に活用している場面があるのだ。

 ようするに、魔法だの祈祷だのといった世界には疎いが、俺にとっては薬草が一番とっつきやすく感じるのだ。


 この世界の“薬草師”に興味がある、とマケラに話したところ、明日、村の薬草屋を紹介してくれると約束してくれた。



「薬草屋と話して、いろいろと学んでみるといい」

 そしてマケラは座りなおして姿勢をただし、俺に新たな話を持ち掛けてきた。



「それにプッピよ、おぬしさえ良ければ、これからもこの村に残り、怪我人や病人を診てもらえないだろうか。どうだろう? 力を貸してくれないか?」



 人助けをして良い気分になっている所だったので、マケラの誘いは余計に嬉しかった。

 しかし、よくよく考えてみれば、今回のノーラの診療の件は、全くの偶然が重なった結果である。

 ビギナーズラックといえる。


 基本的には、俺はただのポンコツ看護師であり、毎回毎回人の役に立てるとは思えない。

 今回はたまたまノーラの病気がただの過呼吸だった、というオチがついている。

 しかし、次に俺の目の前にくる病人や怪我人が、俺の手に負える相手だとは到底思えない。

 残念だが、ここは辞退したほうがいい。ボロが出る前に、今のうちに退散するのだ。



 そう考え、俺はマケラに話した。

「せっかくのお言葉、ありがたいですが、私はまた修行の旅に出るべきだと考えています。

 今回は娘さんをたまたま助けることが出来て良かったです。

 でも、正直に言いますけど、これは偶然です。たまたま知識があっただけなんです。

 ですから、これ以上マケラ様の役に立てることはないと思います」



 マケラは腕組みして、目を閉じてしばらく考えた後に言った。


「とにかく明日、薬草屋を紹介してやろう。

 実は我が村の薬草屋は現在人手不足で、助手を探しているのだ。

 もし良ければ、そこで働いてはどうだろう? 

 そうすれば、人助け云々はともかく、お主も働きながら薬草の勉強ができるではないか。

 どうだ?」



 俺はマケラの提案について考えてみた。


 もし、明日にでもこの村を去って放浪の旅を続けることになれば、旅路には様々な危険が待ち受けているに違いない。

 ネズミと戦ったことしかない俺が、一人旅なんてできるだろうか?


 それよりも、しばらくこの村に滞在して、この世界について知識を得たほうが良いのではないか……。


 薬草屋でバイトか。それも良いかもしれない。



「わかりました。明日はよろしくお願いします」


 俺はマケラの提案をのんだ。


 



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