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19 マケラの娘ノーラ




 俺は、マケラの強引な頼みを断れず、結局次女ノーラの診察をすることとなった。

 彼女の病状について、俺はマケラとノーラから話を聞いた。



 ノーラは健康状態に問題ない元気な子供時代を過ごした。

 しかし、最近は活気がなくなり、一日の大半をベッドで横になって過ごす生活となっている。


 それというのも、一日に何度か、ある発作を起こすようになったのだという。


 その発作とは、めまいと動悸がし、それが段々と激しくなり、胸の痛みや手足の痺れを伴いながら、呼吸もままならない状態になるのだ、と。


 発作時は不安が強く、ときに短い時間、意識を失うこともある、とのこと。



「今まで、何度も祈祷師や魔術師に診察を依頼したが、ノーラの発作が消えることはなかった」

 マケラは言った。


「様々な薬草も試したが、どれも効果なしだった」



「いつ発作が起こるかと思うと、不安で仕方なく、私はほとんど一日中ベッドに横になって過ごしているのです」

 と涙を流しながらノーラが言う。



 

 ビロードの寝間着を着て、ベッドに横になるノーラの表情には精気が失われている。

 頬はこけ、唇の色もやや悪い。長い髪の色は青だ。



「食事と水分はしっかり摂っていますか」

 俺は質問した。


「はい。できるだけ食べるようにしていますし、お茶もよく飲んでいます」

 ノーラが答える。


 ベッドサイドにはお茶の準備がなされており、ティーカップには飲みかけのお茶が残っている。

 ……水分は摂っているようだ。脱水症状ではなかろう。


「ちょっと失礼」


 俺はノーラの腕をとり、手首に触れて脈拍を測った。

 脈は強く規則正しく触れていて、特に不整脈も感じられない。


「発作が出るとき、一番苦しいのはどの症状ですか?」

 俺は問診を続ける。


 ノーラは間を置かずに答えた。


「息ができなくなるのです。

 息が苦しくて苦しくて、たまらなくなります」




 呼吸困難……、発作……、めまいに動悸、手足の痺れ……。

 うーん。



「どうかな、プッピ君。何かわかるか?」


 マケラが心配そうな表情で俺に聞く。



 俺は脳の片隅に追いやられた看護学生時代に勉強した知識をなんとか引っ張り出してこようと努力したが、これといった疾患名を思いつくことはできなかった。

 何か、こんな病気が、あったような気がするんだけどなぁ。

 だめだ、思い出せない……。

 こんなことなら、勉強を怠けなければ良かったなぁ。


 スマホさえあれば、ネットで症状を検索して見当をつけることもできるだろうに……。

 そうだ、スマホだ。

 やっぱり早い所、あの森の中に置き去りにしてきたスマホを回収しなければ。




「発作は、どんな時に起こりますか?」

 俺は再びノーラとマケラに質問した。


「昼間に起こることもありますが、夜が多いです」

 少し考えてノーラが答える。



 俺は爪先で前歯をコツコツ叩きながら、少しの間考え事をするフリをした。

 そしてマケラに言った。


「何にせよ、実際に発作が起こっている様子を見てみなければ、判断がつきません。

 夜に発作が起こることが多いというのであれば、夜まで待ってみても良いでしょうか」



「確かにそうだな。

 実際に苦しんでいる所を見てもらわなければ、治療法を見つけることは困難であろう。

 ではプッピよ。本日は我が屋敷に泊まっていってくれぬか。

 娘の発作が起きたときに、お主を呼び出すとしようではないか」

 マケラは言った。



 よし、なんとか夜まで時間稼ぎをすることに成功したぞ。


「では、お言葉に甘えて、本日は泊まらせていただきます」

 俺は頭を下げる。







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