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17 ネズミと戦う




 気が付くと、俺は再びあの牢屋にいた。

 しばらくの間、何も考えられずにぼんやりと壁を見つめて過ごす。

 どうやら生き返って戻ってきたらしい。


 再びこの牢屋からリスタートっていうわけか。


 激しい喉の渇きを覚えた。

 腹も減っている。

 牢屋の中の悪臭が鼻につく。


 鉄格子の向こうを見ると、ノッポがこちらを見てニヤニヤと笑っている。


 どこまでが夢で、どこまでが現実なのか、記憶を整理しようと試みる。

 さきほどまで、暖かい光に包まれた場所で、女神リーナと面談をしていた。

 思い返せば、美しい女性だったなぁ。

 六本木ヒルズで会った長身ロングヘアの美女にどことなく雰囲気が似ていたような気がする……。



 ガチャリ。

 ノッポが鉄格子の扉を開けた。

 手には食料の載ったトレイを持っていた。

 ノッポはトレイを牢屋の中の床にぽんと置いて、再び鉄格子の扉を閉めた。


「領主様に会わせる前に死んでしまっても困るから、飯を食わしてやる。食え」


 ノッポが床に置いた汚いトレイの上には、木のコップに入った水と、パンと干し肉のような物体が載っていた。

 水もパンも決して旨くはなさそうだったが、俺は喉が渇いて仕方なかったため、ノッポへの礼の言葉もそこそこにコップの水を飲み干した。


 次にパンを手に取る。

 固くていかにもマズそうだが、背に腹は代えられない。いただくとしよう。

 パンに齧りつこうとした時だった。



 カサカサ…と何か物音がした。

 鉄格子の向こうに、小さな動物が数匹集り、こちらを睨みつけている。


 ネズミだった。

 子猫くらいの大きさの汚い灰色のドブネズミが二匹。

 俺の食糧に狙いをつけて、今か今かと様子を伺っているのだ。


「おっ、ネズミがお前の食い物を狙ってるぞ。ネズミに横取りされないように頑張れよ」


 ノッポはネズミと俺を交互に見ながら笑ってそう言った。



 ネズミ……ネズミ……!!



 そうだ! 思い出した!



 俺はこのネズミ共に食い殺されたのだ。

 頸動脈を噛みちぎられた記憶が蘇り、背筋が凍る。


 しかし、今回はちがう。

 女神リーナが俺に力を与えてくれたのだ。

 今度こそ、目の前に立ちはだかるネズミと闘い、俺が勝ち残るのだ。



 俺は二匹のネズミを睨みつける。

 しかし、ネズミは怯むことなく、逆にこちらに近づいてきた。


 近づくネズミを踏みつけてやろうとしたものの、ネズミの方が動作が俊敏だった。

 俺の足を避けた二匹のネズミは、俺に飛び掛かって襲ってくる!


 ネズミの一匹が、パンを持っている俺の右手に噛みついた。

 驚きと痛みでパンを取り落とす。

 慌てて左手でネズミを払い落とそうとするが、すばしこいネズミはそのまま肩までチョロチョロと登ってきた。


「キーーー!!」


 小さなネズミとは思えない音量でネズミが雄たけびをあげる。

 


 しかしネズミの攻撃はそこまでだった。

 俺は右肩に駆け上がってきたネズミを、左手で掴みとり、そのまま振りかぶって、思い切り壁に投げつけてやった。ドーン!!


 壁に叩きつけられたネズミは「きゅ、きゅーー」と泣き声をあげて、鉄格子の向こうに逃げ出していく。


 それを見ていたもう一匹のネズミも、俺の力に恐れをなして、同じく逃げて行った。



 ……勝った。


 俺は勝利の雄たけびをあげて、取り落としたパンを拾い、力強く噛みちぎり貪り喰ったのだった。






 粗末な食事が終わり、しばらくした頃に、鉄格子の扉が再び開いた。

 鉄格子の向こうにはノッポと口ひげ野郎が揃って立っていた。


「これから領主様の屋敷までおまえを連行する」


 かくして、俺は領主の屋敷に連行されて行った。



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