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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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92/800

父、依頼を受ける

「それで、儂に依頼したいこととは?」


 執務室らしい場所に案内され、互いに椅子に座ったところでニックが早速話題を切り出す。


「はい。ですがその前に、先ほどモーブ君と話していたと思うのですが、その内容を覚えていますか?」


「ん? さっきの今なのだから当然覚えているが、それがどうかしたのか?」


「実は最近、彼のようなトラブルに巻き込まれる冒険者が急速に増えてきているんです」


 そう言って、コレッキリが真剣な表情でニックの顔を見つめた。だがニックの方は今ひとつ言いたいことがわからず軽く眉根を寄せて問う。


「あの男のように……というと、実力以上の魔物に襲われているということか? その手の冒険者が増えているというなら、本格的に魔物の生息域が移動しているのだろうが、そんなもの儂にはどうしようもないぞ?」


 ニックの力を持ってすれば、魔物を根絶することも不可能ではない。だが不可能ではないだけで、相応の広範囲の魔物を一匹残らず倒し尽くすというのはかなりの手間だ。


 それにそんなことをすれば生態系が乱れて他の魔物がどうなるかもわからないし、その魔物を倒して生計を立てている冒険者からすればたまったものではない。


 ならばこそ「どうしようもない」と称したニックだったが、それに対してコレッキリは顔をしかめて首を横に振る。


「いえ、違うんです。今のところはあくまでも聞き取り調査の結果でしかありませんが、魔物の生息域は変わっていません。変わっているのはアツ・イーネンの気温・・なんです」


「気温?」


「はい。チョードの町を活動拠点としている冒険者は、その多くが自身の体に感じる気温……暑さや寒さでおおよその山での位置を判断しています。実際魔物も植物もそれぞれに適した気温のなかでしか生育しませんから、下手に地形なんかで判断するよりもそっちの方が確実とすら言えます。


 ですが、それはあくまで長い年月をかけて、ゆっくりと気温が変化するならの話です。どうやらここ一週間ほどで、アツ・イーネンの気温が急速に下がっているようで……そのせいで自分の位置を勘違いし、結果として上に登りすぎてしまって強い魔物に襲われた……という報告が多数あがってきているのです」


「ふむん? それが問題なのはわかるが、それこそ儂にどうしろというのだ? 山の気温など魔物以上にどうしようもないぞ?」


「それは勿論。なので私が依頼したいのは、何故急速に気温が下がったのか、その原因の調査なのです」


 そんなコレッキリの言葉に、しかしニックは困惑の表情を浮かべる。


「原因の調査なぁ……余計にわからん。確かに儂は両方の山の山頂に行ったことがあるが、ここに来たのはほんの二週間ほど前だぞ? それ以前と今の変化を調べるのであれば、それこそ地元に根ざした冒険者に調べさせた方がよいのではないか?」


「はは。それは当然そうですので、地元のパーティにも声をかけるつもりです。ただその……彼らは今不在でして」


「そうなのか?」


「ええ。何というか……ニックさんが伝説の魔物を倒したということで、地元の冒険者である自分達も負けていられないとサム・イーネンの方に登っておりまして……」


「あー、そういうこともあるのか……」


 コレッキリの言葉に、ニックは微妙な表情を浮かべる。ニックだからこそ日帰りしているが、普通は山頂まで登るとなれば一週間ほどの予定を組んで登る。事前準備や吹雪などの不測の事態も考慮すれば、今ここにいないというのは十分に理解出来る説明だった。


『やはり貴様が原因なのか。クックッ、ここでも「厄介ごとを呼び込む力」は健在だな』


「? どうかされました?」


「ああ、いや、何でも無い。ちょっと埃がついていただけだ」


 不本意なオーゼンの言葉にパスンと腰の鞄を叩いたニックに、コレッキリが不思議そうに声をかけてきた。だが慌ててニックが誤魔化すと、すぐに真面目な顔に戻ってニックの顔を真っ直ぐに見つめてくる。


「どうでしょう? 引き受けていただけませんか?」


「うーむ……引き受けること自体は構わんのだが、儂にできるのはアツ・イーネンの麓から山頂までを歩き回り、パッと見てわかるような異常がないかどうかを調べることくらいだぞ? それで本当にいいのか?」


「勿論です! それで全く何の異常も見当たらないということであれば、それこそ冒険者ではなく学者を派遣しないといけませんから、その辺をはっきりさせるためにも是非とも早めの調査をお願いしたいのです」


「わかった。そういうことなら引き受けよう」


 必死な顔のコレッキリに、ニックはほんの僅かに逡巡してからそう言って頷いた。するとコレッキリの表情がパッと明るくなり、すぐに満面の笑みでニックの手を取ってくる。


「ありがとうございますニックさん! では、詳細の方を詰めましょう。依頼内容はアツ・イーネンの調査。何かが見つかっても見つからなくても、山全域を調べ終わるか一週間たったら町に戻ってきてください。その調査結果に関わらず生還した時点で依頼は達成とさせていただきます」


「む? 本当にそれでいいのか?」


 その内容だと、何も見つからないどころかニックが山に行ったことにして町を出て、何処かで一週間休んで戻ってくるだけで報酬が受け取れることになる。後日再調査して明らかな異常があったとしても、「その時は何も無かった」と抗弁されればそれが嘘だと証明はできないからだ。


「構いません。見てわかる異常があるかどうかを調べたいのに、異常が見つからなかったら失敗とするわけにはいかないですし、それにあれだけ町やギルドで人気になっているニックさんが、今更依頼に手を抜いたりしないでしょう?」


 そう言ってニヤリと笑うコレッキリの言葉は、挑発であり抑止だ。だが端からそんなことをするつもりのないニックは堂々とその言葉を受け止める。


「無論だ。何かが見つかると確約はできぬが、手を抜いたりしないことは約束しよう」


「ならばそれで十分です。それで報酬の方ですが、銀貨三〇枚くらいでどうでしょう?」


「なかなかに高額だが、大丈夫なのか?」


「問題ありません。そもそも普通ならパーティに依頼するものですから、これを高額と感じるのはニックさんが一人だからですよ」


「はは、そう言われればそうか。わかった、それで引き受けよう」


「ありがとうございますニックさん。どうぞよろしくお願いします……それと、この件はどうかご内密に」


 頭を下げるコレッキリを背に、ニックは執務室を後にした。その後は話を聞きたがる受付嬢や冒険者達を軽くあしらいつつ、ニックは早足で町の外に出てアツ・イーネンの方へと歩いて行く。


『内密に、か。まあそうであろうな』


 そこそこに人に会う道のため、不自然でない程度の速さで歩くニックに、オーゼンが声をかけてくる。


「安全を考えるなら山への立ち入りを制限するべきであろうが、そうすると冒険者達の生計が成り立たなくなってしまうからなぁ」


『それだけではあるまい。この町そのものがイーネン山脈の特殊な環境を前提としているのだ。それの変化は影響が大きすぎて、冒険者ギルドからの公式の注意喚起すらできぬのだ。公然の事実と公認は違うからな』


「それでもあくまで噂だと誤魔化せる期間はそう長くあるまい。わざわざ儂に依頼を振ってきたのも、実力は勿論だがよそ者だからというのが一番大きそうだからな」


 山頂に登れるほどの冒険者であれば、地元でも名が通ってその発言には影響力がある。だがよそ者のニックであれば、仮に情報が漏れたとしても「よそ者の戯言、あるいは勘違い」で押し通すことができる。


『多数の人間の人生に影響が出るからこそ、軽々に動けぬのはわかる。だが動くに足る証拠が出揃う頃には、大抵の物事は手遅れ。政治の難しいところだな』


「ならばこそ、儂等のような者がいるのだ。何、最悪はマグマ溜まりをぶん殴って強制的に噴火でもさせれば……」


『やめんか馬鹿者! そんな事をしたら山中の冒険者のみならず、町にどれほどの被害が出ると――』


「オーゼン……冗談だぞ?」


『貴様が言うと冗談に聞こえんのだ! 実際、やれるのであろう?』


「できるかできないかで言うなら、まあできるが……」


『そういうところだ! 貴様のそういう所が駄目なのだ! むしろそこはできなくてよいのだ! 人として! 人として!』


「ぬぅ、二回も言うことはあるまい?」


『大事なことは二度言うべきなのだ! さあ、下らぬ戯言を抜かしていないで、さっさと山に行ってしっかりと調査するのだ!』


「わかったわかった。丁度人の流れも切れたようだし、少しだけ急ぐか」


 そう言ってニックは意図的に道を外れると、今までの数倍の速さで山の方へと走り出した。

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