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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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89/800

父、伝説を狩る

12/14 8:00 パロディに関する直接的な描写を削除しました。不快に思われた方は申し訳ありませんでした。

「おお、これはいい眺めだな!」


 あっさりと登頂を果たしたアツ・イーネンの山頂付近。眼下に雲を見下ろす雄大な景色に、ニックはご機嫌な声をあげる。山頂に近づく程魔物が強くなるこのアツ・イーネンにおいてここまで登ってくるような酔狂な冒険者はまずいないため、ニックは絶景を贅沢に独り占めしていた。


『そうだな。背後のこれが無ければ我としても同意したいところだが』


 対して、オーゼンの方は若干呆れ声だ。何故ならニックの背後には、大量の魔物の死体が堆く積まれていたからである。


「何という名前の魔物であったか……おそらくはドレイク種だと思うが」


 ドレイク種とは、言ってしまえば大きな蜥蜴である。見た目はドラゴンに近いが大きさは半分もなく、翼も無ければブレスも吐かず、人語を解するような知能も持ち合わせてはいない。


 もっとも、では弱いのかというとそんなことはなく、魔物ならではの高い膂力と抜群の俊敏性を持ち、しかもそれが数十の群れをなして襲ってくるので、正面から立ち会うのであれば銀級冒険者が二パーティ、一〇人前後は欲しい……そのくらいの脅威である。


 つまり、ニックの敵ではない。


『それで、どうするのだ? これだけ素材があれば十分ではないのか?』


「うーむ。それはそうなのだが、せっかくならもうひとひねり欲しいな。元がエルダーワイバーンの皮なのだし、修復に使う魔物も固有種や希少種のようなものが……お?」


 死体を前に腕組みをして考え込んでいたニックの警戒範囲に、不意にひときわ大きな気配が入ってくる。そのままニックが悠然と待ち構えていると、やがて山の斜面から一匹の魔物が姿を現した。


『どうやら貴様の願いが叶ったようだぞ?』


 皮肉げに笑うオーゼンの声を聞き流し、ニックは仁王立ちしたままその魔物を観察する。


「ドレイクの亜種か? いや、ここまで違うともはや進化とでも言うべきだろうか?」


「グルルルル……」


 目の前に立つ魔物は、明らかに今までのドレイクとは異なっていた。まず通常のドレイクが真っ赤な鱗に覆われているのに対し、そのドレイクはエメラルドのような鮮やかな緑色の鱗をしている。


 しかも、他のドレイクと違って完全な直立二足歩行をしている。妙に太った……というか寸胴な体つきをしているというのに、立ち姿はまるで熟練の格闘家のように一分の隙も無い。


 ニックは知らない。それがかつてこのアツ・イーネンを火山と変えた恐るべき竜の末裔であることを。本気を出すに値する、かつ単独行動の冒険者の前にしか姿を現さない絶対強者であることを。


 だが、知らずともその力はわかる。強敵を前にニックは笑みを浮かべ、己もまたギュッと拳を握って腰を落とす。


「これはなかなか楽しめそうだ。さあ、疾くかかってくるがよい!」


「グルァァァ!!!」


 咆哮と共に緑の立竜が猛然と踏み込み、振るう拳をニックの拳が迎撃する。血も涙も瞬時の蒸発する獄熱の山頂にて、魔物と親父の激闘が、今ここに幕を開けた――





「と言うことがあったのだ!」


「えぇぇぇぇ……」


 鮮やかなエメラルドの鱗に全身を覆われたイーネン・ドレイクの亜種と思われる死体を持ち込んだニックの話に、受付嬢は懐疑とも呆気ともとれる微妙な声をあげる。


「話を聞く限りでは、おそらくイーネン山脈に住む伝説の魔物の一体だと思うんですけど……」


 言いながら、受付嬢の視線はニックの担ぐそれに向けられる。その緑のドレイクは金級冒険者に匹敵するほどの強敵だったが、死体となった今では太い体つきはむしろ弱そうに見え、今ひとつ確証にかけたからだ。


「ハッハッハ。まあ別に手柄をどうこうのと言うつもりは無い故、話半分で構わんさ。それより依頼の方はこれでいいのか?」


「あ、はい! 確認します……大丈夫ですね」


 笑いながらニックが差し出したキノコを受け取り、それが間違いなくモエールキノコだと確認して受付嬢が笑顔を取り戻す。そのまま書類にサインをして、本来ニックが受けていた依頼である「キノコの採取」はこれにて完了した。


「では、こちらが報酬になります。それで、その……その魔物はどうされるんですか?」


 ギルドの方に売却するとなれば、話半分ではなくきちんと査定しなければならない。それを懸念した受付嬢の問いだったが、ニックは笑顔で首を振る。


「ああ、これは予定通りこの皮鎧の補修に回すつもりだ。それでちょっと気になったのだが、お主さっきこいつを『伝説の魔物の一体』と言ったな? それはつまり他にもこいつのような魔物がいるのか?」


「え? ええ。伝説ではアツ・イーネンとサム・イーネンの両方に一体ずついて、アツ・イーネンの方が武術を極めた竜人、サム・イーネンの方が凄まじい剛力を誇り、全身を獲物の返り血で染めた真っ赤な雪男イエティだという話でしたけど……」


「これが竜人なぁ……確かに直立はしておったが」


「あはは。まあ昔からの伝説ですから」


 かつての仲間、ロンの姿を思い出して渋い顔をするニックに、受付嬢が乾いた笑いを返す。もしここにロンがいたなら、「拙僧とこれを同じにするなら、人とゴブリンも同じですな」と涼しい顔で言い放っていたことだろう。


「とは言え、種族はともかくこれがいたならもう一体もいる可能性が高そうだ。ならば今度はサム・イーネンの方にも行ってみるか」


「えっ!? な、何でですか!? 今着てる皮鎧なら、それで十分直せますよね?」


 ニックが背負っているドレイクは、ニックより頭三つ分ほど小さい。故にこれ一体でニックの皮鎧を一着仕立て上げるのはやや厳しいが、補修であれば何の問題も無い大きさだ。


「それはそうなのだが、せっかくならばそちらの伝説の魔物とやらも使って、綺麗に仕立て直そうかと思ってな。そもそもこんな色の皮でそのまま穴を塞いだら目立って仕方がないではないか」


「ああ、それは確かに……でも、ニックさん銅級なのに……」


「なに、アツ・イーネンが問題無かったのだ。サム・イーネンの方も大丈夫であろう。ちゃんとポーションも飲んでいくしな」


「そうですね。あ、山頂まで登ったならわかってるとは思いますけど、私がお渡ししたポーションだと精々中腹の入口くらいまでしかしのげませんから、今回忘れずに濃縮済みの奴を買っていてくださいね」


「…………うむ、当然だな。では、儂はこいつを鍛冶屋に預けてくる」


「はい。いってらっしゃいませ」


 受付嬢に笑顔で見送られ、ニックは貼り付けたような笑みを浮かべたまま冒険者ギルドを後にした。そうして鍛冶屋に向かう、その道すがら。


『おい貴様。いつ濃縮ポーションなど買ったのだ? というか、そもそも入口で飲んだあの一本以外を口にしたところを我は見ておらぬのだが……?』


「……まあ、あれだ。多少暑かった気はするが、人間気合いがあればあの程度はどうとでもなるものだ」


『あの山の頂上付近は、水が液体として存在できないほどの気温だったのだぞ!? 聞いた値段の割に妙に効果の高い薬だと思っていたが、そうか、やはり貴様が非常識なだけだったのか……』


「こ、今度は飲むぞ! ほれ、鍛冶屋に寄ったら次は道具屋だ! 必要な物をまとめて買っておかねばな!」


『蟻達のところから持ってきた完全栄養食がまだ山ほどあるし、解体用のナイフも研いだばかりだ。傷薬は砂漠を抜けた最初の町で補充してあるし、水は井戸で汲めば良い。今の貴様が一体何を必要としていると?』


「と、とにかく行くのだ!」


『まったく、貴様という奴は……』


 小馬鹿にするようなオーゼンの声に、ニックは口をへの字にしながら道を歩いて行った。

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