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父、新しい町につく

12/10 18:30 初めて来た町なのに「以前に立ち寄った」と誤って書いてしまっていたのを修正しました。

 イーネン山脈……それは元々三つの山が連なる山脈だった。だがある日、天から星が落ちたとも古代の遺物が大爆発を起こしたとも言われる謎の大災害により、中央の山が綺麗さっぱり消し飛ぶという事件があった。


 更に、異常はそれだけに留まらない。残された二つの山のうち、片方は常に灼熱のマグマを噴き出し続ける火山に、もう片方は吐息すら凍る雪山となり、その様相は記録に残る限り千年以上変わることは無い。


 だが、そんな二つの地獄の狭間、もともと中央の山があった部分に、人は町を作った。灰すら焼き尽くす極熱の山、アツ・イーネンと、魂すら凍てつく極寒の山、サム・イーネンの間にある町。人はそれを――





「着いたぞオーゼン。ここが儂のお勧めの町、チョード・イーネンだ!」


 サイッショと比べても遜色が無い程に人で賑わう町の入口にて、ニックがオーゼンに話しかける。魔力が濃そうな……環境が異常な場所はいくつか思いついたニックだったが、そのなかで人が滞在するのに適している場所となると一気に候補が減り、更に砂漠から近かったということもあって選ばれたのがこの町だった。


「まあお勧めと言っても、儂も実際に来たのは初めてなのだがな。どうだ? ここならかなり特別だと思うのだが?」


『ふむ。確かに他に比べて明らかに環境魔力が濃いが……何故こんな所に町があるのだ?』


「む? 何故とは?」


『いや、普通に考えてここに町を作ろうとは思わんだろう?』


 そう言うオーゼンの意識は、町の外に見える二つの山に向かっている。こんな近距離に正反対の性質を持つ山が二つ存在していることも異常だが、その間に町を作ろうという発想がオーゼンには全く理解出来なかった。


「ああ、それか。簡単な理由だ。このチョード・イーネンは、一年を通して全く気温が変動しないのだ」


『ほぅ? そうなのか』


「正確には、夏の暑さは火山の熱とは比較にならず、冬の寒さも雪山から吹き下ろす冷気からすれば無意味に等しい。そのせいでこの一帯だけはほぼずっと同じだということだったかな? 確かムーナがそんな話をしていたような……」


『なるほど。気温が変動しないというのは、確かに色々と便利なこともあるだろうな』


 顎に手を当て当時された説明を思い出すニックに、オーゼンもまた納得の言葉を返した。


「それと、観光客がここに長期間滞在すると体調を崩すという話も聞いたな。逆にここで生まれ育った者が長期間町を離れても体調を崩すらしいが」


『その辺は、正しくこの環境魔力の影響だろうな。外から来た者は濃い魔力に当てられ、逆に外に行った者は普通の……ここに比べれば薄い魔力のせいで体調が維持できないのであろう。まあ一年もあれば馴染むであろうが』


「なるほど、そうなのか。であれば、ここは合格ということか?」


『ああ、十分だ。このくらい大気に魔力が満ちていれば、ひと月も滞在すれば元通りになるだろう』


「そうか! ならば早速宿をとっておくことにしよう」


 オーゼンの太鼓判に、ニックは声を弾ませ宿を探して町を歩いて行く。安定した気候を利用した大規模農業を主産業とするイーネンにはそれを売り買いする行商人がひっきりなしにやってくるため、彼らとその護衛を泊めるための宿が通りにいくつも建ち並んでいる。


 そんななかでも、ニックはそこそこ上等な宿をとった。装備を直していないのでボロボロの身なりのニックだったが、この周辺の魔物は決して弱くはないので装備を破損している冒険者はそこまで珍しいものでもなく、またニックが金貨を見せたことで特に問題も無く部屋を取ることができた。


「ふぅ。とりあえずはこれで一安心だな」


 一週間分の宿賃を先払いしたことで上機嫌になった宿の主から湯桶をサービスされ、軽く体を拭いて旅の汚れを落としたニックが椅子に背を預け息を吐く。


『うむ。まあもっとも、貴様が我の所有者に相応しい魔力を有していれば、そもそもこんな所に来ずとも自己修復は出来たのだが……』


「それは言うな、オーゼン。無いものは仕方なかろう」


『フッ、わかっておるわ。だが一応留意はしておけ。我の自己修復には相応の魔力が必要だ。それを貴様が自前で用意出来ない以上、今後も我が壊れた場合……万が一我が自意識を無くすほど破損してしまったならば、何らかの方法で我に魔力を送り込むのだ。さすればきっと我は蘇るであろう』


「ああ、覚えておこう。もっとも二度とあのような失態を演じるつもりは無いがな」


『そうだな。信じておこう、我が所有者たる者、ニックよ』


 一瞬真剣な表情になった後不敵に笑ったニックに、オーゼンも信頼の言葉を返した。根拠は全く無いが、ニックが同じ失敗をするとはオーゼンにも思えなかったからだ。


『では、これからどうする? 我としてはこの町かその周辺に留まれれば問題無いが』


「ふーむ。数日ならともかく、ひと月も滞在するということであれば、ここの冒険者ギルドに顔を出して依頼を受けてみるのがよさそうだな。まあその前にこれをなんとかせねばだが……」


 言って、ニックは我が身を覆う皮鎧に視線を落とす。切り裂かれたり穴が開いたりとなかなかにボロボロなそれは、素人の手入れでどうにかなる状態ではない。


『では、鍛冶屋を訪ねるのか?』


「いや、それでも最初に行くのは冒険者ギルドだ。そこで紹介してくれる店なら、余程の事が無い限りある程度の腕は保証されているからな」


 今のニックが求めているのは、世に知られていない伝説の職人ではなく、ごく普通に腕の立つ職人だ。特に無茶な要求をするつもりもないので、であればギルドで腕の保証された工房に仕事を依頼するのが一番間違いがない。


 ということで、ニックは宿を出ると表通りを歩いて冒険者ギルドへと足を運ぶ。大勢の冒険者が行き交う関係上、大抵の町では大通りに面した目立つ場所に存在するため、今回も特に迷うことも無くその場所にたどり着くことが出来た。


「邪魔するぞ」


「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ」


 挨拶をして中に入るニックに、受付嬢が笑顔で挨拶してくれる。現れた新人に一瞬周囲にいた冒険者の視線が集まったが、それもすぐに霧散した。


 明らかに戦闘破損したと思われる上等な皮鎧を身につけた、身長二メートルを超える巨漢の筋肉親父。それはどう見ても歴戦の戦士であり、いかに昼間からギルドにたむろしているような微妙な冒険者であっても、そんな相手に絡むほど馬鹿ではなかったからだ。


 朝の忙しい時間帯をとうに通り過ぎ、空いているギルドの中をニックは悠々と歩く。そのまま受付嬢の前までいくと、銅のギルドカードを提示しつつ声をかける。


「今日この町にやってきた銅級冒険者のニックだ。仕事を受ける前に防具の補修をしたいのだが、よい鍛冶屋を紹介してもらえぬだろうか?」


「銅級? あ、はい。鍛冶屋さんですね。でしたら……」


 ニックの見た目や風格から一瞬首を傾げた受付嬢だったが、すぐに気を取り直して一軒の武具店を紹介してくれた。礼を言ってギルドを出ると、ニックはその店に向かって歩き出した。そうしてたどり着いた先で店主に鎧を見せたが……


「うーん。これはちょっと難しいですね」


「そうなのか? 適当に穴を塞いで補修してくれればいいだけなのだが」


 ニックが脱いで渡したエルダーワイバーンの皮鎧を手に、店主が難しい顔で唸る。


「ただ穴を塞ぐだけならすぐにでも出来ます。でもその場合穴の部分の強度が格段に落ちるんで、防具としては見た目だけの欠陥品になってしまいますね。同じ魔物の皮があればどうにでもなるんですが……」


「うーむ、そうか……」


 店主の言葉に、ニックは軽く肩を落とす。旅の身であるニックに予備の皮を持ち歩く余裕はなく、残りは全てアリキタリの町で売り払ってしまっていた。あれからそこそこ時間も立つため、流石に今から戻って買い戻すというのは現実的では無い。


「どうしてもと言うことであれば、この鎧に他の魔物の素材を合わせて、仕立て直すというのはどうでしょう? この皮に見合う素材となると注文になってしまうので、すぐにと言うわけにはいきませんが」


「おお、それはいいな! よし、では素材は儂がとってくることにしよう!」


 店主の提案に、しょげていたニックの顔に元気が戻る。こうしてこの町でのニックの最初の行動は、町周辺にいる魔物狩りに決定した。

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