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父、見つける

 ガイドさんと名乗った女性型ゴーレムの後を着いて、ニックは遺跡の中を歩いていく。そうしてたどり着いたのは、女王蟻のいた部屋だ。


「ギギー?」


「失礼致します」


「ギギーッ!?」


 ガイドさんが女王蟻の巨体をヒョイと持ち上げて脇に置くと、その背後から大きな扉が姿を現した。


「おお、そんなところに扉があったのか!」


「どうぞ、こちらです」


「うむ。あー、ではまたな。えー……なあオーゼン、あの自己紹介からして、この女王蟻も『アナウンスさん』という名前なのか?」


 驚きに触覚をクルクル回す女王蟻に声をかけようとして言葉に詰まり、ニックはオーゼンに問いかける。


『いや、あれはおそらく本物のアナウンスさんの挨拶をそっくりそのまま「挨拶」という行為として学習したのだろう。要は「こんにちは」とか「初めまして」が全てあの口上に含まれているということだ』


「ほほぅ、そうなのか」


『おそらくだがな。同様に貴様に向けられた「アナウンスさん」というのは「人間」という意味だろう。故にこそ年齢も性別も違う貴様も「アナウンスさん」なのだ。貴様が蟻達の個体を識別できず、全てを「蟻」と呼ぶのと同じだな』


「おお! 流石はオーゼン、わかりやすいな!」


『当然だ。我はアトラガルドの至宝だぞ?』


 感嘆の声を漏らすニックに、オーゼンが少しだけ得意げに答える。そのまま女王蟻への挨拶は手を上げる程度で済ませて歩き進むと、やがて両開きの大きな扉が二人の前に現れた。


「こちらになります。では、私はこれで」


「そうか。案内ごくろうだったな。ありがとうガイドさん」


 笑顔で礼を言うニックに、ガイドさんはペコリと頭を下げて来た道を戻っていった。それを見送ってからニックは改めて扉をノックし、声をかけてみるが……中からは何の返事も無い。


「むーん? 人を呼んでおいて誰もいないのか?」


『いや、これは……ニックよ、気にせず扉を開けて中に入れ』


「ぬ? それは流石に無礼ではないか?」


『我の考えが正しければ、問題無いはずだ。さあ、行くのだ』


「ふむ。まあお主がそう言うなら……」


 今ひとつ気は進まなかったが、オーゼンの言葉に従いニックがゆっくりと扉を開ける。すると部屋の中で大量の埃が舞い上がり、ニックはすかさず口を押さえる。


「ぐっ、これは……!?」


『やはりそういうことか……さあ、入ろう』


「うむ……………………」


 相当な年月誰も踏み入らなかったであろう部屋を、ニックは慎重に歩く。それでも積もりに積もった埃は一歩毎に宙を舞い、まるで吹雪の中を歩いているかのようだ。


「げほっ、げほっ……おいオーゼン、これはどういうことだ?」


『簡単な理屈だ。あのガイドさんとやらも、アナウンスさんと同様に最初に決められた通りの行動しかしていないのだ。誰かが王者に勝って新たな王者となったら、オーナーのところに案内する……そういう指令を受けているだけなのだ』


「ならば、儂を呼んだオーナーとやらは……」


『もうとっくにいないのだろうな。そしてそれをガイドさんは理解できぬのだ』


「それは何とも……悲しい話だな」


 つい先ほどまで一緒だった女性型ゴーレムの姿を思い出し、ニックは軽く目を伏せる。


『まあ普通の魔道人形であればそれが当然で、限界だ。むしろ我と違って人格が無いからこそ耐えられたということもあるだろうしな。


 さ、それよりもこの部屋をくまなく探すのだ。ここにならば他に無い手がかりがあるやも知れぬからな』


「うむ。わかった」


 オーゼンの言葉に頷き、ニックは慎重な手つきで部屋の中を探索し始めた。他と違って埃だらけ……つまりこの部屋には掃除の手などが入っておらず、必然机やら何やらの原型を留めているものがいくつもある。


「皮肉なものだな。掃除されるより放置される方が物が残るとは」


『触れぬというのは最高の保存方法だからな。空調まで止まっていれば更に完璧だったが、人がいる前提では流石にそれは望めなかったか……おっと、その板のようなものを取り出してくれ』


「ん? これか?」


 金属製の机の引き出しの中に横たわっていた謎の板を、ニックはそっと指で摘まんで取り出す。


『そうだ。それを床……机……貴様の掌の上に乗せ、その上に更に我を乗せてくれ』


「これでいいのか?」


 ニックは広げた掌の上にその板を乗せ、その上に鞄から取り出したオーゼンを乗せる。するとオーゼンの体が僅かに輝き、次いで金属製の板にも青く光る線が走る。


『よし、我の魔力で動かせるようだな。中身は……むぅ、大分破損しているな。それでもなにか……』


「良くわからんが、頑張れオーゼン!」


『すまぬ、集中するので少し静かにしてくれぬか?』


「ぐぅ、わかった…………(頑張れオーゼン)」


 わざわざ小声で声援をあげなおしたニックに内心苦笑しつつ、オーゼンは金属製の板……アトラガルドにも存在していた情報端末……の中から様々な情報を引き出していく。


(物の流れ、資金の流れ、人の流れ……大分歯抜けだが、これだけ数があれば……)


『お?』


「む? 何かわかったのか?」


『うむ。おおよそであるが、現在地がわかったぞ』


 得意げなオーゼンの言葉に、しかしニックは首をかしげる。


「現在地? 別に最初から迷っていたわけではないが?」


『違うわ愚か者! アトラガルドにおける現在地がわかったのだ。いや、本当に正確な位置は微妙だが、それでもいくつか「百練の迷宮」のありそうな場所に見当がつく』


「おお、それは凄いな! ならば早速そこに向かうのか?」


『いや、まずはもう少しここを調べてみたい。さしあたってはそこの金庫の中身だな』


「金庫? この四角い奴か?」


 オーゼンの言葉にニックがオーゼンを鞄に戻しながら金庫の方に顔を向ける。だがその表面はつるっとしており、扉を開くための鍵やダイヤルなどの仕掛けどころか扉そのものが見当たらない。


「これが金庫なのか!? 確かに以前にも何処かの遺跡で見かけたことがあったが、ただの金属の塊にしか見えぬのだが……」


『個人の魔力波形を特定して開く物だからな。本人が触れることでのみ開くのだが……貴様なら無理矢理開けられるのではないか?』


「殴ればひしゃげるとは思うが、それでは中の物も壊れてしまうであろうしなぁ……むーん?」


 オーゼンの無茶ぶりに、ニックは思わず腕を組んで考え込む。単純に壊すだけなら簡単だが、極めて硬い外側だけを破壊して中身を無傷で取り出すとなると、力任せに殴り飛ばすわけにもいかない。


『……無理か?』


「いや、やってみよう」


 四角い金属の塊を前に、ニックは腰を落として右腕を引く。そうして放ったのは拳ではなく指を真っ直ぐに伸ばした抜き手であった。狙い違わず金属の壁を貫くことに成功すると、そのまま指を曲げてグッと力を入れることで、無理矢理金庫の扉をむしり取る。


「どうだオーゼン! 上手くいったぞ!」


『……言っておいて何だが、本当に出来るのだな』


「ガッハッハ! まあな! 中身を壊さないように指が金属扉を貫通したところで腕を止めるのが若干難しかったが、慣れればどうということもなさそうだ」


 金庫にされるほどの硬さを持つ金属を壊すことより、壊しすぎない加減をすることの方が難しかったと笑うニックに、オーゼンはもはや呆れて言葉も無い。だがその結果開かれた金庫の中には、ニックは勿論オーゼンもまた絶句するようなとんでもない物が入っていた。

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