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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
外伝その3 お試しお父さん 「最強無敵のお父さん 最強過ぎて異世界に突撃する」

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父、考察する

「た、倒せない!? 陰獣を倒せないというのは、一体どういうことなのですか!?」


 驚愕に一瞬固まっていたアルガだったが、すぐに我に返ると淑女にあるまじき勢いでニックに食ってかかる。


「まあまあ、そう慌てるな。どうと言われても、言った通りだ。今の儂の様子を見ていたであろう?」


 ニックの振るう拳の威力は、素人であるアルガが遠目に見ても相当なものだった。だからこそ何をしているのか、どうして陰獣が死なないのかを不思議に思って声をかけたわけだが……それが倒さなかったのではなく、倒せなかったのだとなると話が大きく変わってくる。


「そんな……まさか全神(ゼン・ラー)の勇者様が、陰獣を倒せないなんて……!?」


「ははは、そう悲観することもあるまい」


「何故ですか!? これでは我等人類の未来が――」


「それは儂がいなければできないことであったのか?」


「っ!?」


 ニックの言葉に、アルガは思いきり頭を殴られたような衝撃を受ける。目を見開き口をわなわなと震えさせ……ふとその体から力が抜けていく。


「そう、ですね。正しくその通りです……何と、何と愚かで恥知らずだったことか……」


 空を割って現れた、全神(ゼン・ラー)の勇者。クイコミリアムとの模擬戦で見せた、圧倒的な力。それを目の当たりにしたアルガは、いつの間にかニックの力に頼ることを当然として考えてしまっていた。


 それはどれほど傲慢で身勝手な願いだろうか? そしてこんなことでもなければ、自分は最後までそれに気づけなかったのではないか? 情けなさと恥ずかしさで、アルガはその顔を伏せる。


「申し訳ありません。私はいつの間にか、ニック様に頼り切りになっていたようです」


「気にするな。倒せぬとはいえそれ以外のことはできるのだ。殴り飛ばせば弱らせることもできるし、こうして……よっと」


 遠くに飛ばしたはずの陰獣が、いつの間にやらすぐ側まで戻ってきてニックの背後から飛びかかってきた。だが当然それに気づいていたニックは振り向きざまにあっさりと陰獣の体を掴み、両手でガッチリと押さえ込んでしまう。


「捕まえることもできる。単にとどめを……そう、決着だけはこの世界に生きるお主達がつけねばならぬという、それだけのことだ」


「……わかりました。貴重な情報、ありがとうございました」


 そう言って一礼すると、アルガがニックの捕まえた陰獣にそっと触れる。すると一瞬にして陰獣の体が膨れ上がり、そのままパンと言う軽い音を立てて弾け飛んでしまった。


「うぉっ!? 今のは?」


「先程も申しました通り、私の体には自分でも制御しきれない強い加護の力が宿っております。なのでこの程度の相手であれば、触れるだけで倒せるのです。


 もっとも、激しく動き回ると自分の体を痛めてしまうので、そんな小さな陰獣ですら自分で捕らえることはできないのですが」


「何ともままならぬものだ。儂が見てやれればいいのだが……」


 単純に体を鍛えるだけであれば、ニックならば十分以上の指導ができる。が、神の加護という自分では体感できない不確定要素が混じってしまうと、下手な指導をするわけにはいかない。ましてや相手が一国の王女となれば尚更だ。


「フフ、お気持ちだけはありがたく……それで、どうされますか? 時間にはまだまだ余裕がありますけれど」


「そうか。ならばもう二、三匹……できれば種類の違う陰獣と戦ってみたいところだ」


「畏まりました。では今度は森の中に入ってみましょうか」


 そんな風に会話を交わし、ニックは更に幾度かの戦闘を重ねていく。そしてその途中、用を足すために少しだけアルガから離れたところで、ポケットの中のオーゼンがそっとニックに話しかけてきた。


『なあ貴様よ。本当に陰獣を倒すことはできんのか?』


「ん? そうだな……幾つか思いつく手段はあるが、どれも気軽には試しづらいな」


 たとえば「王の鉄拳」ならば、おそらくは陰獣を消し飛ばすことができる。が、日に一度しか使えないうえに、オーゼンが眠っている間は王能百式が使えない……つまりいざという時に「王の尊厳」が使えないということなので、よほど危急の状況でもなければ試そうとは思えない。


 もしくは世界の壁を殴り壊せるほどの一撃であれば、耐性だの相性だのを完全に無視して粉々に打ち砕くことができると思われる。とはいえそうホイホイと世界の壁を割ってしまえばいつどんな不具合が起きるかわからないのだから、そちらもまた気軽に試すようなことではない。


「最も簡単かつ可能性が高いのは、『流星宿りし精魔の剣(インスターグラム)』を持ってきてそれで切ってみることだ。だが異世界間の物品のやりとりに関する法則がわからぬ以上、今すぐとって返して持ってくるわけにもいかん。


 となれば、現状では陰獣を倒せないというのが結論で間違いないな」


『そうか……いや、待て。魔剣でいいのならさっきの騎士、クイコミリアムだったか? あの男が使っていた剣はどうだ?』


「うむん? 確かにああいう剣が幾つもあるなら、借りて使えば倒せそうだが……ふむ、ちょっと聞いてみるか」


 出すものを出して戻ったニックが、早速アルガに話を聞いてみる。だがアルガの返答は困ったような表情に集約されている。


「聖剣ですか? 聖鎧と違い、確かに聖剣の方は我が国の国宝で、国からクイコミリアムに貸し出しているものですが……申し訳ありません。流石にそれをニック様にお渡しするのは、私の独断では……」


「いや、聞いてみただけだから気にせんでくれ。断っておくが、ミリアムから無理矢理に聖剣を取り上げてはならんぞ? 儂は剣が無くても戦えるが、騎士であるミリアムから聖剣を取り上げては戦えなくなってしまうだろうしな」


「そう言っていただけると助かります」


「しかし、そうなるとやはりあれに類するような……神の加護を剣というか、武具に直接宿らせるようなものは無いのか?」


「はい。そういう効果のあるものは例外なく聖遺物と呼ばれ、どれも所有者が決まっておりますので。調べるにしても加護の力があっては難しく、かといって壊して調べるなどできるはずもなく……」


「まあそうだな。ならばやはり、儂はあくまでもお主達を助けることに注力し、最後はお主達の手で決めてもらうのがよさそうだ」


「はい! ニック様の助力がいただければ、きっと勝利を掴み取り、神を解放できるはずです!」


「うむうむ! では、そろそろ帰るとするか」


 気づけば、空が赤く染まり始めている。昼間の光量が若干弱いかなというくらいで、光の神を封じられたこの世界でも普通に日は沈み、そして日は昇るのだ。


 町への再入場は、当然ながら何の問題もない。数は少ないながらもいい匂いを漂わせている露天に後ろ髪を引かれるニックと、そんなニックの様子にクスクスと笑うアルガの二人はのんびりと城への道行きを楽しみ、そして夕食の時。


「失礼致します。勇者様、少々宜しいでしょうか?」


「うむん? ミリアムではないか。どうかしたのか?」


「はい。実は……」


 食事の手を止めたニックに、クイコミリアムが昼間の会議の内容をニックへと伝えていく。その内容は一緒に食事をしていたアルガもまた初耳だったため、二人で真剣に耳を傾け……そして話を聞き終えると、先に口を開いたのはアルガの方だった。


「なるほど。当初の予定を変更して、少数精鋭ですか……確かにニック様が陰獣を倒せない以上、大軍勢で移動するのは徒に被害を増やしてしまいかねませんね」


「えっ!? あの、姫様? 勇者様が陰獣を倒せないというのは……?」


「ああ、その報告はまだでしたね。食事の後で陛下にお伝えするつもりでしたが……どうやらニック様は陰獣を倒す……いえ、殺すことができないようなのです。なのでニック様の力はあくまでも陰獣の足止めなどの補助として考え、陰獣を仕留めることは我等の手で為さなければなりません」


「そ、そんな!? あれほど凄まじいお力があるのに、陰獣が倒せないなんて……っ!?」


「貴方の気持ちはわかりますが、事実です。そしてそれでよかったと思っています。皆が、陛下が出した結論と同じく、この世界の問題はこの世界に生きる我々で決着をつけるべき……きっと神はそう仰っているのでしょう」


「……確かに、そうですね。しかしそうなると、同行者の選定基準を一段と厳しくする必要が――」


「あー、ちょっといいか?」


 話し込み始めてしまった二人に、ニックが徐に声をかける。すると二人は即座に会話をやめ、ニックの方へと顔を向ける。


「何でしょう?」


「確認なのだが、同行者は誰を指定してもいいのか?」


「勿論です。一応私だけは無理なのですが、それ以外であれば可能な限り勇者様のご意見を尊重させていただきます。誰か目に付く者がおりましたでしょうか?」


「うむ、それなのだが……」


 そこで一旦言葉を切り、ニックがニヤリと笑みを浮かべる。


「なあアルガよ。お主儂と一緒に来るか?」


「「…………は?」」


 王女と騎士、二人の間の抜けた声が豪華な食堂にピッタリと重なって響いた。

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[一言] まな板の鯉作戦である!!
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