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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
外伝その3 お試しお父さん 「最強無敵のお父さん 最強過ぎて異世界に突撃する」

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父、初対戦する

「ほう、これが王都の町並みか……何と言うか……」


 昼食を終えたニックは、その足で城を出て町へと足を踏み出していた。初めての異世界の町にキョロキョロと辺りを見回しながらそう言うニックの隣では、厚手の外套を頭から被った少女が、その声色に苦笑で答える。


「遠慮せずに仰ってください。王都という割には今一つ活気がないと」


「むぅ……」


「仕方ありません。もうすぐ予定されている聖地奪還作戦は、言い換えればここが大量の陰獣に襲われるということでもあります。少し前まではこの町並みにも子供の笑い声が溢れていたのですが……」


 王都スデニヌイデルンは、スッパダカリア王国において最も堅牢な防壁に囲まれた町だ。だが世界中で考えるならば飛び抜けて防備が厚いというわけではないし、同規模の防衛力を持っていた大国が既に三つ滅ぼされている。


 そのうえで、それらの国を滅ぼしたのと同じ規模の襲撃が来ることが予想されているのだから、民が不安に感じるのは当然だ。然りとて国内ではここより堅牢な町はなく、他国への引っ越しなど早々できるはずもない。となれば食料を買い込んで家で大人しくしているというのが、庶民にできる精一杯の対策であった。


「ですが、それももう少しの間だけです。何せ全神(ゼン・ラー)の勇者であるニック様がおいでになってくださったのですから!」


「ははは、それは期待に応えねばならんな」


 胸の前で手を組んで微笑んでみせるアルガに、ニックもまた笑って返す。そうしてしばし雑談をしながら町を歩いていくと、程なくして町の中と外を隔てる門の所まで辿り着いた。


「町の外へ出るのでしたら、身分証の提示をお願いします」


「む、身分証?」


「申し訳ありません。ニック様の身分証はまだ手配の途中で……ですので、ここは私にお任せ下さい」


 困り顔をするニックに、アルガが一歩前に出て門番の男に話しかける。


「この方の身分は私が保証致しますので、このまま町の外に出していただけますか?」


「誰だお前は? 誰であろうと身分証は…………っ!?」


 外套をめくって光の下に晒されたアルガの顔を見て、門番の男が固まる。門番は歴とした城の兵士であるため、王女の顔を見間違えたりはしない。


「え、え!? 姫様!?」


「ふふ、外出の許可はとってありますが、それでも騒ぎになることは本意ではありませんので、一応ご内密に。ということで、通していただけますか?」


「は、はい! 勿論です!」


 ニッコリと微笑むアルガに、門番の男は直立の姿勢で道を空ける。同行するニックが何者であるのかは気になったが、己の好奇心のために王族を引き留めることなど当然しないし、できない。


「では、参りましょうニック様」


「うむ」


 アルガと連れ立つことで、ニックは問題なく町の外に出ることができた。その後は陰獣を探すために道から外れた場所を歩きながらも、アルガとの雑談は続いていく。


「にしても、今更だがよくお主の外出許可が出たな?」


「それはもう、ニック様の活動を補佐するとなれば、今現在のこの国における最優先事項ですもの。それに今回はあくまでも王都の周辺の探索ということでしたから」


 もっと危険な場所に出向くというのであれば、適当な騎士を同行させることになっただろう。だがその場合常識の違いなどからニックが問題を起こしたり巻き込まれたりした時に、その場で判断を下せる裁量にどうしても限界が生じてしまう。


 だからこそのアルガであり、王女の身分でもまだ足りないほどの事態……たとえば万が一他国の王族と何かあった場合など……のため、父であり国王であるウマレタからの全権委任状も渡されているのだ。


「そうか。ま、儂が側にいるのだから危険に巻き込まれることはないはずだが、歩き疲れた場合は言ってくれ。背負うなり城に送るなりいいようにしよう」


「お気遣いありがとうございます。ですが大丈夫です。戦いにこそ使えませんが、私はかなり強い神のご加護を受けておりますので」


「そうなのか?」


「はい。ニック様がおいでになった時、半神(ハン・ラー)になっていたでしょう?」


「あー。まあ、うむ。なっていたな」


 濡れてスケスケになっていたアルガの姿を思いだし、ニックが頷く。服自体は着ていたわけだが、肌が透けて見えていたという点を考慮すれば、確かに半裸と言えなくもない。


半神(ハン・ラー)にまで至れるのは、この国では今は私だけです。ただ加護の力が強すぎるせいで却って鍛錬もできず、戦う事はできないのですが……とはいえ体力は十分にありますので、ご心配には及びません」


「そうか。扱いきれぬ強い力というのもまた難儀なものだからなぁ。わかった、だが無理はするなよ?」


「はい。足を引っ張らないように気をつけます」


 互いに相手を優先するが故に微妙に噛み合わない会話をしつつ、更に二人は歩いて行く。そうして三〇分ほど歩くと、ほど近い森の入り口付近にガサリと動く黒い影を発見した。


「む? 獣……にしては気配が違うな? あれが?」


「はい、陰獣です。騎士団が掃討作戦を行ったばかりなので、生まれたばかりの弱いものだと思いますが……」


「そうか。では色々と試してみるから、ここで待っていてくれ」


「畏まりました。ご武運を」


 アルガに見送られ、ニックは森の方へと近づいていく。日陰にあってなお黒いその姿は、間違いなく尋常の生命ではない。


「とりあえず捕まえてみるか」


 ニックが無造作に手を伸ばし、黒いナニカ……陰獣をひょいと捕まえる。全長四〇センチほどとウサギくらいの大きさの陰獣がジタバタと暴れるが、ニックの手から逃れられるはずもない。


「よしよし、触れられぬということはなさそうだな」


 ニックが最も懸念していた「加護が無ければ触れることもできない」という可能性が排除され、まずはホッと胸を撫で下ろす。ならば次はとニックはポケットからオーゼンを取りだし、陰獣の側に近づけていく。


「どうだオーゼン? 何かわかるか?」


『うーむ、強いて定義するのなら、実態を持った精霊というところか。我の魔力が全く通らぬから、体内の構造は把握できん。その素材を加工して生活に利用しているというのだから、物理的に存在しているのは間違いないが……物理的な力が通じるかは疑問だな』


 たとえば魔力の詰まった革袋があったとして、その革袋を殴ったとしても中の魔力が影響を受けることはない。革袋を破る程の力で殴ればまた違うかも知れないが、袋が破れた結果魔力が漏れることがあったとしても、殴るという行為そのものが魔力をどうこうすることはないのだ……常識の範囲内では。


「わからんのなら試してみるしかないな。フンッ!」


「ピギィ!」


 手にした陰獣をニックが軽く殴ると、陰獣が甲高い声のようなものをあげて更にバタバタと暴れる。そのまま何度も殴り続けるが、陰獣にダメージを負ったような様子はない。


「しぶとい……いや、効いていない、か? ならば……フンッ!」


「ピギィィィ!」


 手にした陰獣を放り投げ、ニックが割と力を込めた一撃を放つ。ウサギどころか熊であっても跡形も無く消し飛ぶ威力の拳を食らい、陰獣は派手に吹き飛んで地面に叩きつけられるが……


「……ピ、ピギィィィ!」


「なんと!」


 五秒ほど動かなかった陰獣がヨロヨロと起き上がり、更に数秒すると何事も無かったかのようにニックに向かって飛びかかってくる。ニックはそれをもう一度殴り飛ばしたが、結果は変わらない。


「これは……?」


「あの、ニック様? 先程から何をなさっているのでしょうか?」


 明らかに弱い……それこそなりたての新兵であろうとも楽に倒せる陰獣が幾度倒されても元気に動き回っている様に、不審に思ったアルガがたまらず声をかける。するとニックは陰獣を遠くに殴り飛ばしてから振り向き……


「うむ。どうやら儂には陰獣は倒せないらしい」


「……え? えええぇぇ!?」


 苦笑するニックの言葉に、アルガは王女にあるまじき悲鳴のような声をあげてしまった。

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[良い点] 大賢者フクキテル 王都スデニヌイデルン 脱いだり着たり忙しいですねぇ ニックに倒せない獣が居たとはなぁ… さすが異世界 インスタの剣なら倒せたかもしれない
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