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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
外伝その3 お試しお父さん 「最強無敵のお父さん 最強過ぎて異世界に突撃する」

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790/800

裸王、会議をする

 ニックがアルガと昼食を堪能している頃。城内謁見の間にて、クイコミリアムはウマレタ王に調査結果の報告をしていた……なお、鎧の形は既にごく普通の全身金属鎧の状態に戻っている。


「ふむ。ではやはり……?」


「はい。王都周辺の陰獣は、その全てが弱体化しておりました」


 王の問いに、クイコミリアムは膝をついたまま答える。通常ならば喜ばしいその報告も、しかし今は手放しに喜ぶことはできない。


「それで、我が騎士達の方はどうであった?」


「は。私を含め五武以上の上級騎士にはほぼ影響が無いと思われますが、七武以下の者達は顕著に力が下がっておりました」


「そうか。やはり大賢者フクキテルの言葉は正しかったか……」


 王都周辺および街道付近の陰獣の掃討は、通常ならば地区担当の兵士達の仕事だ。それを王国最強の騎士であるクイコミリアムが率いる騎士団が行ったのは、大賢者フクキテルの推論を確かめるためである。


「光が弱まれば陰もまた薄くなる。その影響はより力の弱い者ほど大きくなり、強い者には現れない……となると、当初の予定であった大軍団による聖地奪還作戦は再検討をせざるを得ぬだろうな」


 光の神ラーの座す聖地ハダ・カンボは、当然ながら強い光に満ちていた。それは同時に濃い陰を生み出しているということでもあり、聖地周辺の陰獣は総じて強い。


 対して人の世界に生きる英雄と言うべき強者は、それほどの数がいない。無論世界中から力あるものを集められるならば話は別だが、死ぬ可能性の高い作戦に自国の最高戦力をほいほい貸し出す国などあるはずもない。


 それでも短期……たとえば一〇年以内に世界が滅ぶとかであれば違ったであろうが、何十年か何百年か、いつか来るかも知れない滅びを避けるためにというお題目ではどの国も動かない……いや、それで動いてくれそうな国は、既に滅亡してしまっている。


「恐れながら陛下。ここはやはり少数精鋭を送り込み、聖地奪還を目指すのが宜しいのではないでしょうか?」


「そうだな。それが現実的なところだが、問題はその精鋭を誰とするかだ」


 居並ぶ重臣の一人の言葉に、ウマレタ王は悩ましげな声を出す。


「単に倒すだけでいいというのなら、迷わずクイコミリアムと騎士団を派遣すればよい。だが件の陰獣に手を出した後に発生する陰獣の大襲撃が問題だ。最高戦力を派遣してしまえばその後の国の守りがおぼつかず、然りとて弱兵を送ったところで無駄死にさせるだけ。


 さて、どうしたものか」


「陛下、ここは全神(ゼン・ラー)の勇者様に、お一人で挑んでいただくのはどうでしょうか?」


 と、そこでまた別の重臣がそんな提案を口にする。その場にいた全員の注目が集まるなか、その人物は更に言葉を続けていく。


「勇者様であれば、元々この国の戦力として数えていないのですから、ご不在になられたとしても国の防衛に問題は生じません。そして全神(ゼン・ラー)の勇者であれば、その力は我等には想像もつかぬほど強大なはず。であれば……」


「我等を助けるために神が使わしてくれた勇者様を、小間使いのように単身で聖地へ送れと? それは流石に恥知らずに過ぎるのではないか?」


「然り! この地に生きる我等が安全な場所に引き籠もり、勇者様だけを戦わせるなど!」


「静まれ!」


 喧噪に包まれた謁見の間を、王の一喝が鎮める。一転して沈黙の満ちた場で、王は静かに愚かな発言をした臣下を見た。


「誰もが考え、だが誰も口に出せぬ最も有効な策。己が汚名を被ることを厭わず余の代わりに言ってくれた其方の忠義、確かに受け取った。


 だが、やはりその策は選べぬ。余は王である以上、この国とここに生きる民を最優先せねばならぬ立場だが……この世界に生きる一人の人間として、二度と光に顔を晒せぬ道は選べん。すまんな」


「何を仰いますか陛下。我等臣下一同、皆心は同じでございます」


 言葉だけとはいえ謝罪を口にしたウマレタ王に、暴論を述べた男が恭しく頭を下げる。それに釣られるようにその場にいた全員が王に対する恭順を示し、王は静かに頷いてからクイコミリアムの方に顔を向けた。


「ということだが、どうだクイコミリアム? 我が国最強の騎士にして将であるお前の意見を聞きたい」


「は。では僭越ながら……実はここに来る前に、私は勇者様と模擬戦をして参りました」


「何と!? それは初耳だが……全神(ゼン・ラー)の勇者様、その力はいかほどであった?」


「私などでは遙かに計り知れぬほど。この聖鎧ヴィクトリアスを三武にて纏い、聖剣スッパダカリバーの力を解放して渾身の一撃を放ちましたが……それを正面から笑って受け止められました」


「それほどなのか!? 何という……正に全神(ゼン・ラー)の勇者。その全身に神の力を宿す、光の神の代弁者だ。しかしそこまでの力となると……」


「はい。相当な実力者であろうとも、下手に同行させては勇者様の足を引っ張るだけになるかと思われます」


「そう、か…………」


 その言葉に、ウマレタ王は再び深く考え込む。聖剣と聖鎧を持ち、三武の力を使いこなすクイコミリアムはこの国の切り札にして要だ。特に聖剣による広範囲のなぎ払い攻撃は大量の陰獣を一度に排除するのに極めて有効であり、防衛戦力としては絶対に外せない。


 だが、クイコミリアムを除外してしまうと、その下の騎士は一気に小粒になってしまう。これは騎士達がふがいないというよりも、単純に適性の問題だ。得られる神の加護の強さが実力に直結するこの世界では、生まれながらに持つ加護を受け入れられる器の大きさこそが重要であり、単純な努力だけではどうあっても越えられない壁が存在してしまう。


「どうだ? 誰ぞ同行者を推挙したい者はあるか?」


「……………………」


 ウマレタ王の呼びかけに、しかし今度は誰も声をあげない。如何に忠臣とて人である以上欲もあり、己の縁者に全神(ゼン・ラー)の勇者と共に巨悪を討ち滅ぼし神を救い出したという栄誉を与えたいとは誰もが思っているが、そんな縁者がクイコミリアムに匹敵する実力者かと言えば、全員が否と首を振るしかない。


 自分達の欲と国家、ひいては世界の存亡。その二つを天秤にかけて欲が沈むような輩はこの場には立てないのだ。


「僭越ながら陛下。我等が勝手に論議するよりも先に、勇者様のご意見を伺ってみるのは如何でしょう? その上で勇者様の希望を最大限に叶えるべく補助人員を固めるのが宜しいかと」


「うむ、それもそうだな。我等が勝手に決めた同行者を押しつけるより、勇者様自身が戦いやすいように選んでいただく方が賢明か。わかったクイコミリアム。お前の意見を採用しよう……大臣、勇者様は今どちらに?」


「昼食……はもう食べ終わっているでしょうな。となると……」


「練兵場で聞いた話によると、確か午後は町の外に出て、実際に陰獣と戦ってみたいとのことでしたが……」


「そうなのか。外となると追いかけて呼び戻すのはやや大事になってしまうし、勇者様の活動を邪魔してまで急ぐほどではない。ならば今夜にでも今の話をお伝えして、数日中に答えを出していただくことにしよう。異論はあるか?」


 そう言ってウマレタ王が謁見の間を見回すが、声を上げる者はいない。


「ならばこれにて今回の会議は終了とする。皆持ち場に戻ってくれ」


「ハッ!」


 次々と一礼して出て行く臣下達を見送り、謁見の間に一人となったウマレタ王はようやくにして体の力を抜き、深く息を吐いてから玉座の背にもたれかかる。


「神は越えられぬ試練を与えぬというが……ならば何故勇者様はやってきたのだ? 世界の危機に瀕してなお一致団結できない我等人間の不甲斐なさを嘆き、諦めて手を出されたのだろうか? それとも……」


 その呟きに、答えが返ってくることはない。ただ服の袖をそっと捲り上げれば、徐々にヒリヒリとした焼け付く痛みが晒した肌を焦がしていく。


「偉大なる光の神ラーよ。無能な我等が罰を受けるのは構いません。ですが何も知らぬ無垢な子供達の未来には、どうか貴方の優しき加護が与えられますように……」


 見る者がいなくなりただの人となったウマレタ王は、一人静かに神へと祈りを捧げるのだった。

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