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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
外伝その3 お試しお父さん 「最強無敵のお父さん 最強過ぎて異世界に突撃する」

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父、神話を聞く

「ほう、ここが儂の部屋か」


 案内された部屋は、相応の調度品や家具、大きなベッドなどが据え付けられたごく普通の貴賓室であった。唯一ニックの認識と違いがあるとすれば、幾つかある窓には真っ黒な分厚いカーテンが取り付けられており、何となく薄暗いという印象を抱かせることくらいだ。


「では、そちらにお座り下さい。すぐにお茶の準備をさせていただきます」


「ああ、わかった」


 アルガの言葉に、ニックは部屋に据え付けられていたテーブルに着く。それを確認してからアルガがニックの正面に座ると、すぐに使用人がお茶の用意をして部屋から去って行った。


「せっかくだ。まずはいただこう」


「お口に合えば宜しいのですが」


 目の前に置かれた湯気の立つティーカップを口につけ、ニックが一口飲む。鮮やかな翡翠色をしたお茶はスッキリとした後口で、喉を通り抜ける涼やかな感触がニックの意識をはっきりと目覚めさせてくれる。


「うむ、美味いな」


「ありがとうございます。では早速お話を……そうですね、この世界に伝わる創世神話からお話しようかと思いますが、宜しいでしょうか?」


「ああ、是非頼む」


「では、僭越ながら……」


 自らもまたお茶を一口飲むと、アルガがゆっくりと話を始める。それはこの世界に生きる誰もが知っている、始まりの物語だった。





 かつて、この世界には闇しかありませんでした。何も見えない寒くて真っ暗な世界。そこで暮らす人々は心まで真っ暗で、いつもションボリと沈み込んでいました。


 ですが、ある時それを見た神がそんな人々を哀れみ、この地に光をもたらさんと降臨しました。温かく優しい神の光に照らされた人々の心は希望に満たされ、光の神ラーを心から讃え敬うことで穏やかな日々を送るようになりました。


 ですが、光はよいものだけを運んできたわけではありません。全てのモノは光に照らされると(かげ)を作り、強い光はより濃い陰を発生させます。何より強い神の光は何よりも濃い陰を生み出し、遂にその陰から邪悪な獣、陰獣(えいじゅう)が生まれてしまいました。


 陰獣はとても凶暴で、人も動物も見境無く襲います。ですが神の光から生まれた陰獣は、人の力では傷つけることができません。そこで神は自らの力の一端を人に与えることにしました。自身の光に人が触れることで、加護を与えて陰獣と戦えるようにしようと考えたのです。


 ただし、神の加護は人の体には強すぎました。受け入れきれない神の力は人の体を蝕み、命まで焼き尽くしてしまいます。やむなく人は衣服を纏い、神の加護から自分達を守るようになります。


 こうして人は衣服の有無で神の加護を制御できるようになり、陰獣と戦いながらこの世界で生きることができるようになったのでした――





「……以上が、この世界に伝わる創世神話となります。と言ってもこちらは子供向けに大まかなところを短く纏めたものとなりますので、詳細に関しては後ほど原典の方をお読みいただければと思います。ご要望でしたらすぐに用意させますので」


「わかった。なるほど、神の加護なぁ……」


 話し終えてお茶を飲むアルガをそのままに、ニックは自分の手を見つめる。未だに裸のままであるニックだが、神の加護と呼べるような力は何も感じられない。


「むぅ……」


「どうかなさいましたか?」


『何か感じるのか?』


「いや、何でもない……ああ、何でもない(・・・・・)


「そうですか?」


『それは何も感じていないということか? 考え得る可能性として最も高いのは、この世界で生まれていない者には影響が出ないということだろうか? 他には単純に貴様が強すぎて、微弱な加護など感知できないということも……いや、そちらはないか。貴様が自分の体の変化を感じ取れぬとは思えぬからな』


 ニックの意図を正確に読み取り、オーゼンがそう考察の言葉を重ねる。とはいえ全ては推論だ。少なくとも今すぐに神の加護の正体を確かめる方法など、如何にオーゼンといえども持ち合わせてはいない。


「では、続いて今現在この国の……いえ、この世界の置かれている状況をお話しても宜しいでしょうか?」


「ん? ああ、そうだな。問題ない、聞かせてくれ」


「はい。神の恩寵に満ちた世界とはいえ、私達も人ですから欲があります。それでも陰獣という共通の脅威があったため、人同士の大きな争いが起きることは滅多になく、長く平和な時代が続いていたのですが……」


 そこで一旦言葉を切ると、気持ちを切り替えるようにアルガが一口お茶を飲む。だがその表情は暗いままで、語る声も心なしか沈んでいるように感じられる。


「今から一〇年ほど前です。光の神ラーの座す場所に、一匹の陰獣が現れました。その陰獣はまるで身投げでもするように神の光にその身を晒し、当然ながら瞬時にその身を焼き尽くされました。


 ですが、強い光は強い陰を生みます。完全に消え去る前に己の陰から再生した陰獣は、再び神の光に向かって飛び込んでいきます。それを幾度も繰り返すうちに陰獣はどんどん強く大きくなり――」


「……ん? ちょっと待ってくれ。その光の神というのは観念的なものではなく、実物がこの世界に存在するものなのか?」


 元の世界でも神を信じる者は幾らでもいたが、神をその目で見た者などいない。ならばこそ問うたニックに、アルガは不思議そうに小さく首を傾げる。


「え? ええ、そうです。神は聖地ハダ・カンボにて、遍く世界を照らしておりました。ですが強大に育った陰獣によって神はスッポリと覆い隠されてしまったことで、神の光がこの世界に届くことは無くなってしまいました。今はまだ残滓が残っておりますが、それもいつまで保つか……」


「そういうことなのか。だが神の光が陰獣を生み出す原因となっているのであれば、それが封じられている今は陰獣も増えないのではないか?」


「それは……わかりません。陰獣はその名の通り影から生まれるのですが、影など世界中の何処にでもありますから、理屈としてはそうだろうと思っていても、本当に生まれていないのかを確認する手段がありません。


 それに何より、陰獣は途轍もない数が存在しております。仮に増えなくなっていたとしても、世界中の戦士達が一致団結して陰獣を狩り尽くすまでに何十年かかるか……しかもそこまでやっても、神を封じている陰獣が身じろぎ一つするだけで漏れた光から新たな陰獣が生み出されるのでしょうし」


「何とも分の悪い話だな。最初にその神を封じているという陰獣を倒せていれば違ったのだろうが……」


「神の光を直接浴びて滅ばない陰獣を、神から分け与えられた力しか持たない人が倒すことは敵わなかったそうです。それでもせめてその巨体を押しのけ、神の光をこの地に呼び戻せればと思っていたのですが……そこに現れたのが、全神(ゼン・ラー)の勇者であるニック様です」


スッとアルガが席を立ち、ニックの隣までやってくる。そうしてニックが見つめる中、アルガは徐にその場でひれ伏し、床に額を押しつけてひれ伏した。



「既に幾つもの国が神を助けるべく巨大な陰獣に戦を仕掛けましたが、その全てが敗北に終わり、報復のように現れる大量の陰獣の襲撃により、大国が三つ滅んでおります。


 だからこそ今! 戦う力が残っている今のうちに、どうしても総力を結集して陰獣を倒し、光の神ラーを解放しなければならないのです! 私にできることであれば何でも致します。この心も体も、命すらお捧げ致します! なのでどうか……どうか我等に力をお貸しください」


 切実なアルガの言葉を、ニックは無言で受け入れる。自分の娘よりも年下の少女が覚悟を以て示した行為を、つまらない建前で穢すことなどできるはずもない。


「伏してお願い申し上げます。これから生まれる子供達に、光溢れる世界を繋ぐため……全神(ゼン・ラー)の勇者、ニック様!」


「お主の想いは伝わった」


「では……!?」


 あげられたアルガの顔には、希望の光が宿っている。その黄金の瞳を見つめ、ニックは力強く頷いてみせる。


「うむ。まだ幾つか話を聞いたり調べたりする必要はあるだろうが……世界中の子供に未来を繋ぎたいというその願いのためならば、儂にできる限りのことは力になると約束しよう!」


「ああっ…………っ!」


 ドンと胸を叩きながら、ニックが笑う。その強く逞しく、寄り添うように温かく優しい笑顔の向こう側に、アルガは確かに神の姿を見た。

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[一言] >神は聖地ハダ・カンボにて 無くはなさそうなこのネーミングよ
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