表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
外伝その2 聖女の願い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

781/800

聖女、眠りに就く

「さて、そうと決まれば早速行動だ!」


「えっ、でもニック様、今はまだ夜中ですけど……」


「まあそうだが、そう時間に余裕があるわけではないのだろう?」


「それは……」


 困り顔で言うニックに、ピースは何も言えなくなってしまう。自分自身のことではあるのだが、正確な残り時間……寿命などわからないからだ。


「そんな顔をするな。何、迷惑をかけた分は元気になったら謝ればいいのだ。ということで、まずはお主だ。アトミスと連絡はとれるか?」


「勿論ですわ! 事情を話して協力を仰げば宜しいのですね?」


「うむ! では儂は……」


 ぴょこんと手を上げて返事をする小ピースに頷くと、ニックは徐に部屋の扉へと近づきながらその手に「鍵」を出現させる。黄金に輝く鍵を鍵穴に差し込んで意識を集中し、開いた扉の先に現れたのは当然外の廊下ではなく、何処かの宿の一室と思われる場所。


「いたな。おいフレイ、起きるのだ!」


「んぅー? 何、父さん……?」


 ニックの呼びかけに、寝ぼけ眼でフレイが身を起こす。仮にも勇者と呼ばれた存在が余人に接近されてこんな反応を示すのは、フレイにとってニックの気配だけはいつ如何なる時でも警戒に値しないからだ。


「って、あれ? 父さん!? いつこっちに――」


「話は後だ。悪いが、今すぐお前に力を貸して欲しいことがある」


 真剣な表情でそう告げる父に、フレイの意識が一瞬にして目覚める。


「わかった。アタシは何をすればいいの?」


「とりあえず身支度を調えてくれ。その間に話をしよう」


「了解」


 ベッドから出たフレイが手早く着替えを済ませる間に、ニックはピースが死にかけていること、助けるためには今までに配布した聖水を回収する必要があることを話した。


 無論、それだけでは大量の疑問が残る。実際フレイには「そもそも何故ピースが死にかけているのか」すらわからない。


 だが、その理由をフレイは問わない。大事な友達が危機にあり、それを父が助けようとし、自分にもできることがある。それだけわかっていれば動くためには十分だ。


「いいよ、父さん」


「では行くぞ」


 ニックが開けていた扉を通り、フレイもまたピースの部屋へとやってくる。するとそこには小さなピースの他、既にアトミスの姿もあった。


「む、早いな」


「まーな。この手で蘇らせた娘の危機だ、急ぐに決まってるだろ?」


 ニックの呟きに、アトミスがニヤリと笑って答える。だがその笑顔もつかの間であり、すぐに真剣な表情でベッドに寝ているピースの手をとり、手にした小さな魔導具で何かを調べていく。


「…………予想より大分悪いな。むしろこの状態で稼働……いや、生きていることの方が不思議なくらいだ」


「ならばどうする? まさかお主ほどの天才が、儂が聖水を回収してくるまでピースの命を繋ぎ止められぬなどとは言わんだろうな?」


「ハッ! 誰にものを言ってやがる! 当然できる……が、ここじゃ無理だ。そこからウイテルに運ぶから、オッサンはピースの体をできるだけ静かに運んでくれ」


 そう言ってアトミスが視線を向けた先には壁に立てかけられた扉が存在し、その向こうには無数の魔導具が立ち並ぶ金属の壁で覆われた部屋がある。ニックはアトミスにも「銀の鍵」を渡しているので、それを使ったのだ。


「わかった。フレイ、ピースの容体が急変したから、こちらで療養させるために移動すると教会の者に伝えてきてくれるか? 多少混乱を招くだろうが、お前の名前で抑えてくれ」


 娘に勇者の肩書きを利用させるなど、ニックとしても苦渋の選択だ。だがニックもフレイも本当に大切なものを間違えたりしない。顔を歪めて頼む父に、フレイは笑顔で頷いてみせる。


「任せて! じゃ、終わったらアタシもそっちに……いや、ムーナとロンを回収してから行くわ。あの二人が何処にいるか知ってる? 確かピースのお見舞いに来てたはずなんだけど」


「お二人なら、昼間来て下さいましたわ……なので、おそらくは町の宿に泊まっているかと……」


 フレイの問い掛けに、心なしか息の細くなったピースが答えた。苦しくも辛くもない代わりに殆ど力の入らなくなった体は、今ニックの腕の中にある。


「そっか。じゃ、ここが片付いたら宿を回ってみるわ。また後でね、ピース」


「はい。また後で」


「では行くぞ」


 組んだ水桶に波一つ立たないほどの静かな動きで、ニックはピースを抱きかかえて進む。その先ではアトミスと小ピースが慌ただしく動いており、その騒ぎを聞きつけたイデアも目を擦りながら部屋の奥から姿を現した。


「お兄ちゃん? どうしたの……?」


「悪いイデア。後でそっちのピースに説明させるから、ちょっと待っててくれ。よしオッサン、ここにピースを」


「わかった」


 アトミスの指示で、ニックはほのかに青く光る液体に満たされた揺り籠のようなものに、慎重にピースの体を沈めていく。そうして全身が液体に浸かりきると、アトミスが何かを操作し、揺り籠の上に透明な蓋が出現して封をした。


「これは溺れたりはせんのか?」


「大丈夫だ。呼吸まで肩代わりしてくれるから、これで消耗は最小限に抑えられるはずだが…………三日だ」


 水中に揺れるピースを厳しい表情で見つめながら、アトミスが言う。


「この状態でも三日が限度だ。それより保たせるなら腕や足……なんなら首から下を全部切り落として万能触媒(ゴルドラム)を抽出し、頭だけを維持するって言うなら二週間は保たせてやるが、そんなやり方は浪漫がねぇ。


 だから三日だ。正確には集めた聖水を精製して使える状態にする時間も必要だから、一日半くらいだ。とにかく早く、とにかく大量に聖水を集めてここに持ってきてくれ」


「……わかった、必ずやり遂げよう」


 思った以上の時間のなさに、ニックの顔にも余裕がない。そんなニックを気遣ってか、オーゼンが努めて明るい声で話しかける。


『で、貴様はどうやって聖水を集めるつもりなのだ? まさか持っていそうな人間を片っ端から調べて回り、力尽くで奪うなどとは言うまいな?』


「ははは、最後の手段としてはそれもあるが、方法はちゃんと――」


「父さん!」


 と、そこで部屋の外からフレイ達が駆けつけてきた。水の揺り籠に眠るピースの姿を見て、ロンとムーナが驚愕の表情を浮かべる。


「そんな、どうしてぇ……?」


「くっ、拙僧が何も見抜けぬ無能であったが故に……っ!」


「二人とも、話は後だ。で、フレイ。お前に頼みたいことなのだが」


「うん、何をすればいいの?」


「以前に世界中に声をかけたことがあったであろう? あれをもう一度使って、世界中の人々に聖水を各地の教会に届けてもらうように頼んでくれぬか?」


「あー、そういうことね。でもそれには……イデアちゃん、お願いできる?」


「勿論! すぐに準備するね!」


 小ピースから説明を聞いていたイデアが、フレイの頼みを快諾して走って行く。夜であっても昼間の如き魔導の光に照らされるウイテル内部を二人の少女が走り抜け、そして今一度勇者の声が世界に響く。


「世界中の皆さん、聞こえますか。アタシはフレイ……勇者フレイです!」





「んあ? 何だよこんな夜中に……?」


「勇者フレイ!? 何だよ、また何かあるのか!?」





「夜分遅くにごめんなさい。でも、どうしても今すぐに皆さんにお願いしたいことがあるんです。


 アタシの大切な友達が、今死にかけています。彼女を助けるために、どうしても聖女ピースの作った聖水が大量に必要なんです。だからもしそれを持っている方がいたら、近くの教会に届けてもらえないでしょうか?


 勿論、対価として教会での正規の購入……じゃない、お布施の額の倍で買い取ります。またアンデッドに悩まされているとかでどうしても聖水が必要な場合は、アタシやアタシの仲間達が代わりにそれをどうにかします。だからどうか、聖水をアタシ達にください!


 今までと違って、これはアタシの自分勝手な我が儘です。だけど、でも!


 お願い、アタシの友達を助けて!」


 綺麗事で飾るでもなく、勇者の肩書きで押しつけることもなく。ただまっすぐに助けを請う勇者の言葉が、その晩世界中に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面白い、続きが読みたいと思っていただけたら星をポチッと押していただけると励みになります。


小説家になろう 勝手にランキング

小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[一言] むぅ? 聖女ピースが死にかけてる、って言わない理由が何か・・・?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ