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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
外伝その1 皇帝の憂鬱

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皇帝、困惑する

「『ぼうけんのしょ』の調査?」


「そうだ。それを頼みたい」


 時は僅かに遡り、とある町の宿屋。そろそろ就寝しようと考えていたフレイが手にした小さな木の枠の向こうから、アトミスがそんな話を持ちかけてくる。


 ちなみに、二人が話をしているのは手のひらに乗る大きさの扉と『王の鍵束』を用いた簡易通信機だ。小さくすることで常に携帯することができ、また扉の部分を二重構造にすることで一方的に扉を開いて相手に干渉することができないように工夫された、極めて便利な逸品である。


「今俺達はウイテルで色々調べてるんだが、どうも『信仰の書(フェイス・ブック)』……姉ちゃん達の言う『ぼうけんのしょ』の調子が悪いんだよ。で、妹に聞いたら、姉ちゃんがかなり無茶な使い方をしたって聞いてな」


「あはは……それは、うん。ごめん」


 本来自分に集まる勇者の力を、無理矢理に逆流させて世界中に配る。魔導具に関する知識など全く持ち合わせていないフレイではあったが、それが大変なことであったことくらいは簡単に想像できる。


「ま、そのおかげで世界が無事なんだし、いいけどな。ただそんなわけだから、一回実物をちゃんと調べたいんだよ」


「そっか……ん? でもそれなら、直接そこに跳べばいいんじゃないの? ウイテルもそうやって行ったんでしょ?」


「それがなぁ。転送装置自体は生きてると思うんだが、どうも『ぼうけんのしょ』の周囲に変な魔力干渉が起きてるっぽいんだよ。強引に跳べなくもないとは思うんだが、失敗したらどうなるかわかんねーからな。他の手段があるならできるだけ選びたくない」


「うっ、ひょっとしてそれもアタシのせいだったりする……?」


「それがわかんねーから調べたいって言ってんだよ。ということで、悪いけどちょっと現地に行ってくれるか? で、着いたら連絡くれ」


「わかった。でも『ぼうけんのしょ』って何処にあるの? やっぱり冒険者ギルドの本部?」


「さあな。俺冒険者ギルドの本部の場所とか知らねーし。ただ地図で言うなら、この場所だ」


 そう言って、アトミスがかつてフレイがシズンドルの場所を知ったあの地図に浮かぶ光点を指さす。フレイが小さな扉に顔を押しつける勢いで覗き込むと……


「あれ、そこって……?」


 当時、フレイはそこに光点があることを知っていた。だがその光点は「魔導船の存在」を示しているのだと勝手に勘違いしていた。


 だが、実際には違う。そここそが『ぼうけんのしょ』……勇者の力の源泉たる『信仰の書(フェイス・ブック)』の存在する場所。


「ザッコス帝国の、帝都オチブレン……!?」





「なるほど? それで余のところに帝都の地下を掘り返す許可を取りに来た、と……」


 謁見の求めに応じたマルデに、目の前で傅く勇者フレイがそんな話を告げる。そしてそんな勇者の隣に立っているのは勇者パーティの魔女や竜神官ではなく、ヨレヨレの白衣を着た若い男だ。


 なお、ムーナ達と別行動なのは彼女らもまた別件で動いており、アトミスが「なるはやでオナシャス」と調査を急かしたためである。


「にわかには信じがたいというか、他の者が同じ事を語るのであれば世迷い言と切って捨てたい内容なのだが……」


「ハッハッハ! 驚く気持ちはわかるけど、現実ってのはそういうもんだ! いいから穴掘らせてくれよ!」


 皇帝たる自分を前に、一切謙ることなく白衣の男が嘯く。これもまた不敬罪で即座に投獄できるような態度ではあるが、告げられた男の立場を考えればそんなことができようはずもない。


(これが、魔族が長年人類と戦いながら復活を悲願した『魔神様』で、古代帝国の英知を受け継ぐ技術者で、数千年の時を経て世界を浄化し続けた救世主で……何だそれは? 仰々しい肩書きが多すぎるだろう)


 事の経緯を語るために、フレイは自分が旅の途中で得た知識もマルデに話している。それによればこの何ともヘラヘラした男こそがそういう幾つもの役目を果たした偉人らしい。


(余の目には俗人にしか見えんのだが……余のように暗愚を演じているという感じでも無いであろうし、ふーむ?)


「アトミス殿……だったか? 帝都に穴を掘るということだが、具体的にはどうするつもりなのだ?」


「うむ! 手段はいくつか用意してるが……最終手段としては帝都を丸ごと吹き飛ばすってのもアリだな」


「なっ!?」


「ちょっ!?」


 平然と告げられたアトミスの案に、マルデは思わず声をあげてしまう。その背後では何故かフレイも驚いていたが、とりあえずそちらは無視だ。


「それは、どういう? アトミス殿は、我が帝国と戦争をお望みなのかな?」


 暗愚の仮面を脱ぎ捨てたマルデが、鋭い視線でアトミスを睨む。だが王の威圧を受けてなお、アトミスは動揺すること無く言葉を続けていく。


「ちげーよ。最終手段だって言ったろ? 勇者が必要無くなったとしても……いや、そもそも勇者に関係なく『ぼうけんのしょ』が停止するのは世界を維持するという観点から避けなきゃならん。


 だからアンタ達が『たとえ世界が滅んでも自分達の権利、利益が脅かされることだけは絶対に許せない』とばかりにここに居座り抵抗を続ける道を選ぶなら、最後の最後にはそういう『貴い犠牲』を押しつけることになるだろうって、それだけの話さ」


「…………つまり、我等にこの地を明け渡せと?」


「いや? 許可が出るなら、普通にこの城の地下に魔導具で穴を掘るだけで済むぜ。まあこんなでかい建造物の地盤を削るんだから、一応城から避難しておいた方がいいとは思うけど」


「それは……どちらも随分と受け入れづらい提案だな」


 帝都を明け渡すなど論外だし、城の地下に穴を掘るのも防犯上の理由からとてもではないが許可できない。というか、どの国のどんな王であろうとも今の提案に頷く者などいないだろう。


「とは言え、どっちかは受け入れてもらわねーとなぁ。直接入れる転移陣もあるはずなんだが……うげっ!?」


 と、そこで懐から取り出した光る板を見たアトミスが露骨に顔をしかめる。


「ん? どうしたのだ?」


「いや、ちょっと調べてみたんだが、『ぼうけんのしょ』にアホみたいに魔力が集まってるっていうか……これ、爆発すんじゃね?」


「爆発!? 貴様、一体どういうつもりだ!?」


「俺じゃねーし! 修理に来たって言ってるのに、自分で壊すわけねーだろ!」


「ならどうしろというのだ!? 予想される爆発の規模は!?」


「ちょっと待てよ……えーっと、係数がこうで魔力密度がこれだから……間違いなくこの城は吹っ飛ぶな。この数値の上昇率だと、爆発まであと三時間ってところか」


「はぁ!?」


 頭を掻きながら言うアトミスに、マルデは間抜けな声をあげてしまう。突然三時間後に城が吹き飛ぶなどと言われてしまえば、その反応も当然だ。


「こりゃ本気でマズいな。おい勇者の姉ちゃん、もう許可とかどうでもいいから、さっさと城の底を掘り抜くぞ! それでも割とギリだが……」


「えっ、えっ!? 話の流れが急すぎてついて行けないんだけど!?」


「いいから、姉ちゃんは城の兵士を――」


「待て!」


 慌てて謁見の間を出て行こうとするアトミスを、苦渋に満ちた表情を浮かべたマルデが呼び止める。


「何だよ? 今急いでるんだけど?」


「チッ、背に腹は代えられん。『ぼうけんのしょ』のある部屋へ跳べる転移陣の場所を教えてやる」


 アトミスが嘘を言っている可能性もあったが、本当であった場合に被る被害があまりにも大きすぎる。黙っていても勝手に穴を掘られそうだったし、全力で阻止したうえで城ごと全部が吹き飛んだのでは泣くに泣けない。


「何だよ、やっぱり知ってたのかよ! こんなピッタリ『ぼうけんのしょ』の真上に城が建ってるから、絶対繋がってるとは思ってたけどよー!」


「先祖が何を考えてここに城を建てたのかなどは知らん! が、確かに秘密の通路はある。ウラカラ、お前は念のため城から人員を避難させろ」


「は!? いや、しかし陛下は……」


「余は行かねばならん。余しか場所を知らんのだし……こうなったからには全てを見届ける義務もあるからな」


「……わかりました。ご武運を」


 グダグダと言い合いをすることなく、ウラカラは一礼してすぐに謁見の間を後にする。そんな理解の早い臣下を満足げに頷いて見送ると、マルデもまた颯爽と歩き出した。


「さあ、こっちだ。急ぐのだろう? 早くせよ」


「何だよ、偉そうだな……いや、皇帝だから本当に偉いんだろうけど」


「何でこんなことに……うぅ、ムーナ達も連れてくればよかった……」


 そんなマルデの背後を、アトミスとフレイはブツブツと呟きながら追従していくのだった。

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