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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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父、帰還する

「よしよし、これで配置は完了っと。後は……」


「おーい!」


 決戦の終わりから、おおよそ三〇分ほど。既に武装を解除しヨレヨレの白衣姿に戻ったアトミスが目の前に光る窓を四枚ほど並べて作業をしていると、遠くから野太い声が呼びかけてくる。


「おお、オッサン!」


「全部の骨を壊して来たぞ! お主の方は……」


「ああ、終わった」


「そうか……」


 何処かサッパリしたようなアトミスの声に、ニックはそれ以上を聞かない。が、二人の間に何があったのかと、この世界がどうなるのかは別の問題だ。


「で、これからどうするのだ? 儂には何も見えんのだが、その……汚染魔力? とやらはどうなったのだ?」


「え、オッサン見えてねーのか!? まあ、それならそれでそっちの方がいいかも知れねーけど」


 ニックの目には何も映っていないが、アトミスの目には世界全体がどす黒い霧に覆われている様がはっきりと見えている。こんなものを放置したらどう考えても悪い事しか起こらなそうだが、その対処は当然考えてある。


「んじゃ、ちょっと作業をするから、もう少し待っててくれ」


「わかった」


 そう言ってニックから視線を外すと、アトミスは再び目の前に浮かべた光る窓に意識を集中させる。そうしてしばらく指先を動かすと、程なくして四つのうち三つの光る窓を閉じた。


「うーし、それじゃいくぜ。スイコム・バキューム、起動!」


 ターンッと音がしそうな勢いで光る窓を指で突くと、現在位置を頂点とし、球形の世界の東西南北と最底辺の極点に配置した五機のギルゼン系魔導兵装(マグスギア)が光を放ち、世界を覆う汚染魔力をアトミスのいるこの場へと収束していく。


「きたきたきたきた! うわ、すげー色だな」


 そして収束した魔力が、アトミスの掲げる透明な球体のなかに吸い込まれて行く。そこにはニックでも見える形で黒く濁った水のようなものが少しずつ溜まっていき、やがてその容量が八割ほどになったところで増加が止まった。


「おぉぅ、割とギリだったな」


「それが汚染魔力という奴か? あれだけの大きさの骨に閉じ込めていたにしては、随分と少ないように見えるが」


「そりゃそうだ。オワリンデはこの力を自分で利用するために安全マージンをとってたし、何より長期保存を前提にしてたからな。


 対してこれは、ただ最高効率で集めて圧縮しただけだ。こんな濃度の汚染魔力なんて危なくて何にも使えねーし、三日もすりゃ弾け飛んでまた汚染魔力がばらまかれちまう。


 ってわけだから、さっさと地上に戻るぞ」


「そうなのか。わかった、では凱旋と行くか!」


「凱旋……ハッ、そうだな。間違いなく俺達の勝利だ」


 冗談めかして言うニックに、アトミスが苦笑する。そのままパンパンと己の頬を二度叩くと、展開していた魔導兵装(マグスギア)達を遠隔で回収し、二人は改めて世界の内側へと戻っていった。


「はー、やっぱり空が青いってのはいいな!」


「……ふと思ったのだが、世界の外側がああなっているのなら、ここに見えている空というか、太陽や月などは一体どういう存在なのだ?」


「それなー。アトラガルドでも研究してた奴がいたらしいけど、結局よくわかんねーって結論だったはずだぜ」


「そうなのか?」


「ああ。違う世界の空を映してるとか、『一なる世界』の記憶が再現されてるとか、あるいは世界そのものが神の見る夢だなんて話もあったし……ま、世の中わかんねーことの方がずっと多いってことだよ。それよりほら、地上が見えてきたぞ」


「むぅ……?」


 微妙に腑に落ちないものを感じつつニックが地上に目を向けると、世界の至る所に白い骨の柱が屹立し、その側では人々が必死に戦っているのが砂粒のような大きさで見える。


「こちらの戦いはまだ続いているのか」


「みたいだな。つってもほとんどの骨柱は魔力が抜けてスッカスカになってるし、大丈夫だろ。唯一例外があるとすれば……」


「娘達のいる場所か」


「そういうこった。ま、そっちも相当消耗してるみてーだから、心配いらないだろうけど」


「うむ。では気をつけて降りるとしよう」





『コツコツコツ。全く以てしつこいでアールな』


「フンッ! あったり前でしょ! 元勇者舐めんじゃないわよ!」


 呆れた声を出すボルボーンに、フレイは鼻を鳴らして鋼の剣を突きつける。勇者の力を無くしたフレイの実力は一般的な銀級冒険者程度まで落ち込んでしまったが、魔王の使う強力な補助魔法とムーナやロンのサポートがあれば、骨柱から湧いてくる青いスケルトンを倒し続けることも不可能ではない。


「てか、しつこいのはそっちじゃない! いい加減諦めたら? もう大して魔力も残ってないんでしょ?」


『コツコツコツ。そういうわけにはいかないのでアール!』


 そうして倒し続けた結果、骨柱から出現するスケルトンの色の比率が徐々に変わってくる。最初は青ばかりだったというのに、今は赤どころか白いスケルトンすら稀にとはいえ出現する。勇者と魔王のパーティからすればそんなものは敵どころか障害物ですらなく、もはや戦局が動くことは考えられない。


「おーい!」


 と、そこに空から声がかかる。フレイ達が見上げれば、空から落ちてきた人影がこちらを向いて手を振っており、地上すれすれでふわりと対空すると軽い土埃を立ててニック達が大地へと降り立った。


「父さん!」


「お父様!」


 二人の側に、フレイとピースが駆け寄る。


「お帰りなさい父さん」


「ああ、ただいまフレイ」


「お父様! 上はどうなりましたか?」


「ハッハー! そんなの空を見りゃわかるだろ?」


 ピョンピョンとその場で飛び跳ねはしゃぐピースに、アトミスはニヤリと笑って上を指さす。それにつられてフレイ達が空を見上げれば、そこにあったはずの赤い蛇の姿が今はもう何処にもない。


「あんな巨大なものを、本当にどうにかしちゃったのねぇ。まあニックならやれると思ってたけどぉ」


「ですな。こと敵を倒すという内容に関して、ニック殿に任せたならば何の心配もいらないとわかっておりましたが」


「流石お父様ですわ! それで、あのコーマンチキな女はどうなりましたの?」


「あー、オワリンデは……」


「コーツコツコツコツコツコツ!」


 皆の会話を遮るように、ボルボーンの大きな声がその場に響く。今までと違い明確に聞こえたその声の方向に視線を向ければ、近くにあった骨柱のなかから他のスケルトン達と同じようにボルボーンの姿が現れた。


「お、何だ? 遂に本体がご登場か?」


「コツコツ。前にも言ったでアールが、世界中に展開している骨柱は全てワガホネの本体なので、この体も骨柱も等しくワガホネの本体でアール。


 まあ確かにこの体には思い入れもあるでアールし、こっちの方が話しやすいと思ったのでこうして現れたわけでアールが……魔神様、いや、機人(マシン)デウスよ。お前がここに戻ってきたということは、我が創造主は……」


「倒したぜ。俺がこの手でとどめを刺して、最後を見届けた」


「コツコツ。そうでアールか……」


 アトミスの言葉に、ボルボーンが骨をカラリと鳴らす。骨だけの顔に表情などというものは無いが、それでも心なしか項垂れているように見えなくも無い。


「なあボルボーンよ。もういいではないか。お前は十分に戦った。ならば――」


「コツコツコツ。何を勘違いしているでアールか、魔王様?」


 最後にもう一度懐柔を試みたオモテボスの呼びかけを、しかしボルボーンはカラカラと骨を鳴らして遮る。


「確かにワガホネの魔力は大分消耗してしまったでアールが……それでもまだこのくらいは残っているのでアール!」


「ぬっ!?」


 そう言ったボルボーンの体から、突如として青い光が噴き上がった。そこから感じられる力は完全な状態のオモテボスよりなお強く、全員がその場で身構える。なおニックがボルボーンを殴らずフレイを後ろに庇うだけに留めたのは、単純に殴り壊しても意味が無いと学んだからだ。


「そしてこの力で……今こそ我が創造主の最後の命令を実行する時でアール!」


 瞬間、まるでフレイが勇者の力をばらまいた時のように、世界中の骨柱から青い光が迸った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最終決戦でしょうか? お父さんとオーゼンさんの大暴れを期待いたします 次回も楽しみにしております
[一言] >世界中の骨柱から青い光が迸った あれはニック染みの光だ・・・!!(アムロレイ並感)
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