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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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娘、誤解される

「……………………え?」


 誰のものかわからないその呟きは、しかしその場の多くの者が共通して抱いた気持ちだろう。そんな呆気にとられる観客達を前に、魔神デウスことアトミス・ローマンは、頭を強かに打ち付けがに股で尻を丸出しにして倒れる女をそのままに勝利の雄叫びをあげる。


「おっしゃぁぁぁぁぁぁ! やっとやってやったぜぇ! よーし、ピース! フィニッシュだ!」


「畏まりました、お父様!」


 アトミスの呼び声に、いつの間にやらこの場所にやってきていたピースが嬉々として答える。その頭には何故か真っ赤な兜を被っており、手に持った板には太字で「ドッキリ大成功」と描かれている。


「てってれー!」


「だーいせーいこーう!」


 二人で寄り添いポーズを決めるアトミスとピースの背後で、ポスンと小さな爆発が起こる。だがそんな光景を前に、いち早く我に返ったボルボーンがカタカタと骨を鳴らした。なおせっかく召喚しフレイを足止めしていたスケルトンゴーレムは、受けた衝撃が強すぎて既に崩れ去っている。


「な……な……!? 何が!? 何が起きたでアールか!?」


「えー? わかんないのー? いちから? いちから説明しないとわかんないのー?」


「うわ、ウッザ」


 顔を突き出しつま先をトントンと鳴らしながら言うアトミスに、自分が煽られているわけでもないのにフレイの口からそんな感想が漏れる。そんなウザさの化身と化したアトミスを前に、しかしボルボーンにはそんな遊び(・・)に付き合う余裕などこれっぽっちも存在しない。


「馬鹿な!? 何故!? 何故お前が意識を取り戻しているでアールか!? それにエクス! どうしてお前が……!?」


「ハァ? 何言ってんだお前。あれだけ長期間精神汚染(クラッキング)を仕掛けてくる奴がいる場所に、何の対策もしないで行くわけないだろ? てかむしろそっち系の対策こそ万全にするに決まってるだろ? 馬鹿なの? ねえ、馬鹿なの?」


「お父様、こんなスッカスカの骨が賢いわけありませんわ! そもそもこんな服を着せる時点でセンスの欠片もありません!」


「あ、そう言えば何その服。ちょっと浪漫を感じるんだけど」


「お父様!?」


「待って。ホントに待って」


 目の前で繰り広げられる茶番に、流石に耐えきれなくなったフレイが思わず二人に声をかける。助けに来たはずの相手が窮地どころか余裕の態度で敵を煽っているという現状に、フレイの理解は追いつく気配がない。


「ん? おお、そうだった! 我が愛しの妹よ!」


 と、そこで突然ヨレヨレの白衣を着た男が、両手を広げて唇を突き出しドタドタと駆け寄ってきた。全く敵意も悪意も感じられない、そして完全に素人の動きということもあって、反応の遅れたフレイは男が抱きついてくるのを容認してしまう。


「うわっ!? ちょ、何いきなり!?」


「ほーら、恥ずかしがらなくていいんだぞー! お前の大好きなお兄ちゃんだぞー!」


「やめっ! 辞めて! 違うから! アタシはアンタの妹じゃないから!」


「……フレイぃ? 貴方何してるわけぇ?」


「ムーナ!?」


 呆れたような声に必死に振り返れば、自分が作った亀裂からやってきたであろうムーナが拍子抜けしたようにこちらを見ている。


「何があったのかと思って慌ててきたのに、何で知らない男とイチャイチャしてるわけぇ?」


「個人の趣味思想にどうこう言うつもりはありませんが、人前ではもう少し慎みを持つ方が宜しいかと愚考しますぞ」


「二人とも馬鹿なこと言ってないで、コイツを何とかしてよ!」


 現在進行形で突き出した唇を押しつけてこようとするアトミスを必死に抑え込みつつ、フレイがムーナ達に声をかける。だがその反応は何とも渋い。


「何とかって……どうするのぉ? 流石に抱きついてる相手を魔法で吹っ飛ばすなんて無理よぉ?」


「というか、フレイ殿が振り払えばよいのでは?」


「そうなんだけど! でもこれ、見た目より強いのよ!」


 自分に張り付いて離れない白衣男の膂力は、その見た目から感じられるものよりずっと強い。思いきり殴り飛ばせば流石に外せるとは思うが、攻撃されているわけでもない相手にそこまでするのは流石に躊躇われる。


「さあ、チューだチュー! お兄ちゃんにチューをするのだー!」


「うわぁ、最高に気持ち悪いですわお父様! でも次は私にもお願いします!」


「アンタも何言ってるのよ!? てか離れて! 離れてってば!」


「むちゅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


 見知らぬ男の唇が、フレイの眼前に迫ってくる。勇者として丁寧な扱いを受けてきたからこそここまで直情的な接触を図られたことのないフレイはどうしていいかわからず……ついうっかり、それを口にしてしまった。


「イヤー! た、助け、助けて父さん!」


「儂の娘に何をやっておるのだ、この腐れ外道がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「ぽぐわっ!?」


 叫びから、瞬き一つ。何人も辿り着けないはずの場所に空間を割ってあっさりと飛び込んできたニックの拳が、狙い違わずアトミスの顔面を思いきり殴り飛ばした。


「まったく、如何に儂の娘が世界一魅力的だとは言え、やっていいことと悪い事があるであろうに! 大丈夫か、フレイ」


「あ、うん。アタシは平気だけど……」


 久しぶりに見る父の姿に思うところはあれど、しかしフレイはその背後で尻を突き上げ倒れている男の方に視線を向けた。凄まじい勢いで吹き飛び、床に三回弾んでから倒れた男の側では謎の少女が「お父様ー!?」と叫びながら何やら手当てらしきものをしているのが見える。


「……あの人は平気なの?」


「うむん? 死なぬようには加減したが……なあフレイ。お主の好みについてあれこれ言うつもりはないが、流石にあれはどうかと……」


「ち、違うわよ! あんなの全然、そういう相手じゃないし!」


「えー、そうなのぉ? 何も言わずに突然飛びだして駆けつけるような相手なんでしょぉ? なら――」


「違うって言ってんでしょ! ムーナ、アンタ遂に脳みそまで脂肪になったわけ?」


 ニヤニヤしながら言うムーナを、フレイはギロリと睨み付ける。だがそんな視線を向けられたムーナは楽しそうにその身をよじるだけだ。


「いやぁん。怖いわぁ!」


「しかしそうなると、あの御仁は一体? フレイ殿は何故こんなところに?」


「そう言えば、ここは何処なのだ? 真っ暗なのに見えるというのは何とも不思議だが……む? あそこにいるのは前に殴り飛ばした骨男ではないか?」


「ここが何処かはアタシも知らないけど……てかそうよ! アンタなんでさっきからずっと黙ってるのよ! これは一体どうなってるわけ!?」


 手にした聖剣に向かってフレイが話しかける。普通なら頭がおかしいと思われるところだが、誰の反応よりも早くフレイの口から別人の声が響く。


『ご、ごめんなさい。あたしにも何が何だかよくわからなくて……』


「えっ、何今の? フレイの口から違う人の声が聞こえたわよぉ!?」


「ふむん? 儂の娘を乗っ取ろうとする不貞の輩か? 殴るか?」


「なんで殴るのよ!? 違うから! この子は勇者を生んでる人っていうか、聖剣の中身っていうか……とにかくアタシはこの子のお願いを聞いてここに来たの!」


「聖剣の中身ぃ!? 何それ、すっごく興味があるんだけどぉ」


「つまりあれか? 儂の娘に取り憑いた不届き者を排除するには、聖剣を殴って壊せばいいということか?」


「だからなんで殴るの!? 壊さなくていいから! これはアタシの意思だし、大丈夫だから!」


『ごめんなさい。でも、あたしどうしてもお兄ちゃんを助けたくて……』


「むぅ……いや、こちらこそすまぬ。どうも娘のこととなると気がはやってしまってな」


 娘に害を為すかも知れぬと息巻くニックだったが、年端もいかぬ少女の声で素直に謝られてしまっては立つ瀬が無い。ションボリと肩を落とすニックに、ムーナが追い打ちのような言葉をかける。


「そういう所、ニックの悪い癖よぉ! もういい年なんだから、もうちょっと落ち着きなさぁい」


「ぐっ……今は何も言い返せぬ……」


「あの、宜しいですかな? 結局ニック殿が殴った御仁は一体――」


「ボルボォォォォォォォォォォォォォォォン!!!」


 わちゃわちゃと混乱する空間に、ずっと沈黙を守っていた女の声が響き渡る。めくれ上がったスカートを直し立ち上がった女の呼びかけに、状況が処理能力を超えて固まっていたボルボーンが素早く近づき前に立つ。


「どういうことなの!? 何なのこれは!? 何でこんなことになってるの!?」


「そ、それはワガホネにもさっぱり……」


「フッフーン。じゃ、何も知らない、わからないお前達のために、ここらで一つ解説タイムといこうじゃないか!」


 全ての会話を遮ってそう言ったのは、膝をガクガク震わせながらドヤ顔を決める白衣の浪漫主義者であった。

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[良い点] 素晴らしいざまぁ展開です。 [一言] 最初の頃は本気で移動すると周囲に被害が~とか言ってた気がするがついに空間を飛び越えて来るようになったのか.....あれ?鍵束の意味.....
[良い点] は、早い…叫び終えた時点ですでに空間ごと殴り終えてるだと! [一言] 何と言うか……もう敵さん詰んでるだろう。 ニックが居るだけで、此処からひっくり返す手段が思いつかない。
[良い点] 「もう来た!」「早い!」「これで勝つる!」 さす父ですなぁ… オールスター勢揃いだ! 
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