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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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骨男、呼び戻す

 時は僅かに遡り……それは世界の何処にも存在しない場所。自らが最も神聖だと信じるその場所に、ボルボーンはデウスを連れて転移してきていた。


「コツコツコツ。さ、魔神様。ついたでアールぞ」


「うっ…………あ…………」


「む? 意識が混濁しているでアールか? それはいかんでアール。早く対処しなければ」


 インジケーターを確認して魔神の自我がほぼ消失しているのは確認しているが、それでもボルボーンは魔神をその場に残し、やや早足で唯一この空間に存在する巨大な柱へと近づいていく。


「遂にこれを起動するときが来たでアールか……思えば長かったでアール」


 感慨深げに呟くボルボーンの頭に、数千年にも渡る計画の成就に至るまでの過程がゆっくりと流れていく。


「魔力の生成と循環、それに伴い生じる汚濁の浄化。そこに許容量を遙かに超える汚染を流し込み続けることで浄化核たる魔神の魂を塗りつぶし、心の壊れた魔神を機人デウスとして操って、この世界から前文明の遺産という汚濁を一掃する。まさかここまでかかるとは思わなかったでアール」


 かつてこの地に繁栄と新たな命をもたらした魔神。だが実際は単なる人間である魔神が、それほどの偉業をたった一人で成し遂げることなどできるはずもない。そこには魔神を手伝った幾人もの天才がいて……そしてその一人に、強烈な回帰派の人間がいた。


 その者は魔神の仕事を手伝いながらも、どうにかしてこの力で世界を浄化できないかとずっと考えていた。だが自身の才能ではどうやっても魔神の裏を掻くことなどできず、半ば諦めかけていた頃。最後の詰めの段階で魔神の口から聞かされたのは、信じられない内容だった。





「浄化核……ですか?」


「ああ、そうだ。他の三つと違って、ここは魔族と人間の戦闘によって生じる魂の位相差を利用して魔力を生みだしてるんだが、この場合どうやっても不純物……所謂『負の感情』ってのが装置の中に蓄積されちまうんだよ。


 で、それを定期的に浄化する必要があるんだけど……」


 ヨレヨレの白衣を着た、如何にも頼りなさそうな男。どうあがいても越えられない壁を常に見せつけてくる天才が、その時ばかりは困った顔で頭を掻いている。


「モノがモノだけに、これの浄化は人間じゃねーと上手くいかないわけよ。ま、心を浄化できるのは同じ人間の心だけって感じ?」


「はぁ。ではどうするのですか? 定期的に生贄を差し出させるとか?」


「いやいや、そんな物騒なことしたら絶対これを壊そうとする奴が出てくるでしょ! 毎年生贄を要求する謎の魔導具とか、何も知らなかったらそりゃ壊すって」


「なら説明書きをつけておきますか? あるいはしっかりとした文献を残すとか……」


「それもまあありっちゃありだけど、確実性に欠けるんだよねぇ。どれだけそれが必要だって説いても『それでも俺は人の未来を、可能性を信じている!』とか言ってぶっ壊す勇者(バカ)が絶対現れるし。


 何だよそれ!? 信じたからって何も変わんねーだろ! せめて代替手段を用意したうえで、いつでも再稼働できる状態で停止するくらいにしとけよ!」


「……では、どうするんですか?」


「うん。それなんだけどな? 色々考えた結果、俺が『浄化核』になることにするわ。ま、これも妹のためだしね!」


 その結論を聞いたとき、その者は内心で狂喜乱舞した。自分がどうしても越えられぬ壁が、まさか「汚染を濾過するフィルター」などという最高にくだらない消耗品になってくれるなど、これを笑わずにいられるはずがない。


 表向きでは引き留める振りをしつつ、裏ではより一層仕事に励むことで、程なくしてその計画は実行に移される。そうして「モノ」に成り下がった天才を満面の笑みで見送ったのだが……天才はそうまで堕ちてもなお天才だった。


 どれほど力を尽くしても、あの男の残した魔導具に干渉できない。表面を軽く撫でるくらいならともかく、根幹部分は何をどうやってもコードの一文字すら書き込めない。


 そうして悩みに悩んだその者がとった最後の手段は、天才と共に技術者が去った地で己の作り上げた魔導具を上から被せるように設置し、己自身もまたその装置の核として間接的に大本の魔導具に干渉するという、極めて迂遠なやり方であった――





「精神汚染が限界まで進むと汚染源を強制的に排出する機巧には焦らされたでアールが、それを『魔王』とすることで更に汚染を加速させ、更に他の三つを何度も稼働させることで『死の螺旋(デスコード)』の負荷も増大させる……何もかもがいい具合に噛み合ったおかげで、最後はあっという間だったでアールな。外を歩いていたのはビックリしたでアールが……」


「あ…………お…………れは…………?」


「おっと、感慨に浸っている場合ではないでアールな。さあ魔神様。今妹君に合わせてあげるでアールぞ」


「い……もうと……?」


「そうでアール。魔神様にとって、妹君の復活こそが全てだったのでアール。だからこれからは妹君と二人仲良く暮らしていくのでアール」


「いもうと……俺の妹…………っ」


 何千年もかけて汚染したというのに、「妹」という言葉にだけは激しい反応を見せる魔神に、ボルボーンは底知れぬ執念のようなものを感じる。ひょっとすればそれがここまで堕ちた魔神すら立ち直らせる鍵になるかも知れないが……だからこそそれが最後にして最高の切り札にもなる。


「では、感動のご対面でアール! 管理者権限でシステムにログイン。今こそ我が真なる主を呼び覚ますのでアール! コマンドワード『骨復活(リ・ボーン)』!」


ウォォォォォォォン…………


 巨大な獣の遠吠えのような音が、何も無い空間に響き渡る。それと同時に柱の表面の一部が開き、守られていた中身が露わになる。


 そこに在ったのは、硝子の容器に収められた二〇代前半と思われる基人族の女性の姿。容器の中から薄い黄色をした液体が排出され、正面の扉が開くと中からその女性がドサリと床に倒れ込み……そしてヨロヨロと起き上がる。


「うっ……ここは……?」


「お目覚めでアールか? 我が創造主よ」


「貴方は……ボルボーン? それにそっちにいるのは…………!?」


 顔を上げたその女性は、ボルボーンの横で妹、妹と呟きながら虚ろな目をして立っている男の姿を見つけ、その目に狂気と驚喜を同時に宿らせる。


「フッ、ハッハッハ! アッハッハッハッハ! やった! 遂にやったのね! あれから一体どれだけ経ったのかわからないけど、そう、遂に! 遂にこの男を……っ!」


 激しく哄笑をあげてから、女がパサリと長い髪を整え、魔神の方へと歩いて行く。


「ふふふ、ごきげんようお兄様」


「お兄様……? 妹、俺の妹は……?」


「あら酷い。私が貴方の妹のマキナですわよ? この顔をお忘れですか?」


「妹……お前が、俺の妹……?」


「ええ、そうです。だからもう何も心配はいりません。これからお兄様は、私の胸で永遠に眠っていればいいだけです。何も考えず、ただ大好きな(いもうと)と一緒に」


「妹……妹と一緒に…………」


 粘り着くような嫌らしい笑みを浮かべる女性に、魔神がフラフラと近寄っていく。が、その手がマキナに届くより先に、何も無いはずのこの場所に突如として衝撃が走る。


「ちょーっと待ったーっ!」


「コツ!?」


「何!?」


 黒い空間にヒビが入り、光と共に飛び込んできたのは二〇にも満たないであろう基人族の女。その手に持った剣は激しい光を放っており、どういうわけかその声が二重に聞こえる。


「待ちなさい! そいつはアンタの妹じゃないわ!」

『待って、お兄ちゃん! それはあたしじゃない!』


「チッ! ボルボーン!」


「お任せでアール! 『殺戮骨兵(キリングボーン) 単軍召喚(レギオンレイド)』!」


 ボルボーンの呼び出した青い骨兵士達が、その女の……勇者フレイの行く手を遮る。どういうわけか異常に強くなっている勇者であっても、それを一瞬で切り伏せることは敵わない。


「妹、妹が呼んでる……」


「さあデウスお兄様。余計なことは忘れて、早く一つになりましょう?」


「妹……一つに…………」


「待ってって言ってるでしょ!?」

『思い出してお兄ちゃん! お兄ちゃんはデウスなんて名前じゃ――』


 勇者が叫び、聖剣を振るう。だがその手も声も魔神デウスには一歩届かない。


「フフッ、私の勝ちよ」


 勝ち誇るマキナの前にフラフラとやってきた魔神は、そっとその腰に手を回し、笑みを浮かべた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 夢で見たあの兄妹かー お兄ちゃんそこまで天才だったのかよ
[一言] いよいよクライマックスからグランドフィナーレでしょうか。 楽しみであり、少し寂しくもあります。
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