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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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父、困惑する

「ふむん? これでいいのか?」


 新たに耳に生じた何かに、ニックは自らの指を這わせて形を確認しつつ言う。


『なるほど、こうなったのか。機能としては外部から入った音声を我の処理能力で翻訳し、貴様の耳に伝えるといった感じだな』


「つまり儂の耳には儂にわかる言葉だけが伝わってくるということだな? ならば早速……」


 ニックが改めて巨大蟻の鳴き声に意識を向けると、今までギーギーとしか聞こえなかった音が確かに言葉として理解出来る。


「新規登録 アナウンスさん 大歓迎……」


「……オーゼンよ。言っていることはわかるようになったが、これは正しく翻訳されているのか?」


 蟻の口から発せられる言葉に、ニックは思わず眉をひそめる。意味のある言葉であることは理解出来るが、その内容が正しいという自信が持てなかったのだ。


『機能的には問題無いはずだが……そもそも最初の部分を聞けなかったのが痛いな。せめてもう一度最初から話を聞ければいいのだが……』


「おお、そう言えばそうだな! なあお主。すまぬがもう一度最初から話を聞かせてくれぬか?」


 オーゼンの意見に、ニックは納得顔で巨大蟻に話しかける。


『いや、待て貴様。この「王の万言」は入力専用であり、貴様の声を相手がわかる音に変換できるわけでは……』


「畏まりました」


『わかったのか!?』


「何故そこまで驚く? さっきからこちらの言葉に反応していたではないか?」


『そうなのだが……いや、それでも……』


 こちらの声や雰囲気に反応するのと、「もう一度話してくれ」という言葉を正確に理解するのとでは知能レベルが数段違う。


(つまりこの蟻はそれ程賢いということか? ますます意味がわからん)


 ただ体が大きくなっただけの蟻に、何故そんな変化が起きているのか? オーゼンの内心の問いに、今はまだ答えは返らない。代わりに巨大蟻が人間などひと噛みで胴体を両断しそうな巨大な口を動かし、改めて最初から話をし始めた。


「初めまして! 私は当施設の対話型入力装置、アナウンスさんです! 気軽にアナちゃんって呼んでくださいね?」


「……なあオーゼン、儂はこれにどう向き合えばいいのだ?」


『我に言われても……生体部品を用いた魔導人形の存在は知っているが、流石に直立する巨大な蟻を模して作られるとは思えんが』


 突然飛び出した場違いに明るい挨拶に、ニックはおろかオーゼンまでも戸惑いを隠せない。だがそんな二人をそのままに、巨大蟻の言葉は続く。


「私は 長期間 本拠地ホーム 待機してください 出撃不可 範囲内から」


「んー? どういう意味だ?」


『まるでつぎはぎのような言葉だな。ある程度の予想はつくが……まとめるのは最後の方がいいな』


 突然話し方の変わった巨大蟻に、ニックは首を傾げるもオーゼンは俄然真剣さを増して聞き入る体勢を整える。


「私は 生産拠点 長期間」


『ふむふむ。母体……この場合女王蟻ということか?』


「希望 アナウンスさん 新規登録……」


『それは流石にどうなのだ……?』


 オーゼンの言葉は巨大蟻には届かないのだが、それでも律儀に相づちを打ちながらオーゼンが言葉の解析を続ける。そうして全てが聞き終わったところでまとめられたのは、次のような内容であった。


『わかったぞニックよ。どうやらこの蟻達はここの遺跡内部で生活しており、ここにいる「アナウンスさん」とやらを神格化しているようだ』


「……それだけか? 随分と長く話していたようだったが?」


『そう言われてもな。あのような非効率的な単語の羅列では、ひとつの意味を持たせるのに無駄に冗長になるのはある程度仕方なかろう?』


「む、そう言われればそうか」


 オーゼンの言葉に、ニックはひとまず納得の答えを返した。何となく腑に落ちないものを感じはしたが、それを追及するのは良くないような気がしたのだ。


「それで? 結局儂は何かした方がいいのか?」


『他の者達にも姿を見せて欲しいということらしいが、そもそも我としては是非この遺跡は調べたい。であれば貴様の巨体だ。その合間に勝手に人目……この場合は蟻目か? に触れるであろうから、特に意識してせねばならぬことはないな』


「そうか。では早速探索を開始しようではないか! 邪魔したな、女王よ」


「アナウンスさん ありがとうございます!」


「お、おぅ」


 ニックの耳に聞こえてくるのは、微妙に甲高い女性の声だ。女王蟻の巨体との差違にどうにも違和感を覚えるが、そこは突っ込むことなくニックは部屋を出た。


「それでオーゼン。何処か目をつけた場所があるのか? 無ければ端から回ろうかと思うが……」


『そうだな。ではまずはとにもかくにもその「アナウンスさん」とやらの実物を見に行かぬか? ここをまっすぐ行って突き当たりにある大きな扉を抜ければ、アナウンスさんがいるという場所らしい』


「わかった」


 オーゼンの言葉に頷き、ニックは部屋……というよりは城の入口広間ほどの広さのある場所を歩き進む。そうしてたどり着いた扉を開けた先には、ニックをして驚きの光景が広がっていた。


『はーい、みんなー! 今日も元気にバトってるかなー! みんなのアイドル、アナウンスさんだよー!』


「「「アナウンスさん!!!」」」


「おぉぉ……?」


 その部屋の中央には、光り輝く床の上に浮かぶように基人族の女性が浮かんでいた。そしてその現実感のない体の周囲を、大量の蟻が囲んでいる。その視線は一様に中央にいる「アナウンスさん」に惹きつけられ、彼女の一挙手一投足に対しギーギーと鳴き声を……内容はアナウンスさんに対する賛美……あげている。


「何というか、凄まじいな」


『神に熱狂する信者というなら、こんなものなのではないか? しかしあれがアナウンスさんか……幻影魔法ではあろうが、まさか我のように人格が付与されているのか? おい貴様、すまぬがもっと近寄ってくれ』


「この人混みの中をか!? わ、わかった」


 蟻達は一様にニックの腰ほどの背の高さであり、直立しているため面積当たりの密度は地を這う蟻に比べて何倍も高い。そんな人混みのなかに分け入るため、ニックが一番外側に立っていた蟻の肩に手をかけた。


「妨害!?」


「ぬっ!? す、すまぬ。儂はどうしてももっと前に行きたいのだが…………?」


 一瞬ギラリと目を光らせ、カチカチと威嚇するように口を鳴らした立ち蟻だったが、ニックの姿を確認した瞬間その動きが完全にとまる。


「アナウンスさん……」


 不意に、蟻の棒のような手がニックの体に触れてくる。最初は恐る恐る、次は少し強めに突かれるも、明らかに攻撃ではないそれをニックは黙って甘受する。


「アナウンスさん……アナウンスさん!?」

「アナウンスさん! アナウンスさん!」

「感謝! アナウンスさん! 新規登録!」


「おおおぉぉ!? 何だ何だ!? 何が起こったのだ!?」


 一人があげた鳴き声があっという間にその場にいた全員に伝播し、数え切れないほどの蟻の群れがニックに向かって押し寄せてくる。そこから感じる生半ではない圧力に思わずニックがたじろぐと、突然バンと床を打ち鳴らす音が響いた。


「停止! アナウンスさん 緊急停止!」


「「「なんという悲劇!」」」



 その言葉に全ての蟻達の動きがとまり、今度はニックに向かってひれ伏してくる。


「……な、なあオーゼン。同じ言葉を繰り返すようだが、儂はこれにどう向き合えばいいのだ?」


『まあ、あれだ。貴様ならできる。頑張れ』


 無責任なオーゼンの言葉と自分を囲む蟻の群れに、ニックはしばし無言で立ち尽くすのだった。

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