表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

724/800

父、薬を使う

「うっ……」


「ナットゥ!?」


 勝利の興奮から冷めてきたナットゥが、腕から襲い来る激痛にその場でフラリと倒れそうになる。オックラーやメクァブが慌てて駆け寄ろうとする中、真っ先にその体を支えたのはまさかのニックであった。


「おっと、大丈夫か? 随分と酷い怪我だな」


「ニック……俺なんかより、お前こそ大丈夫なのか……?」


「はは、儂はこの通りだ。鍛えておるからな!」


 そう言ってニッと笑うニックの体は、確かに何処も怪我をしたようには見えない。あれだけの時間森の主を押しとどめてそうだという事実に、ナットゥは痛みを堪えて苦笑を漏らす。


「そうか。金テカのニック、本当に強い……なのに俺、情けない。この程度で……」


「馬鹿を言うな。お主はきっちり戦士としての仕事をこなしたではないか。それを蔑むような事を言っては、お主と共に戦った戦士達の誇りをも貶めることになるぞ?」


「む、それは駄目……わかった。俺、頑張った」


「ああ、そうだ。それでいい。というか、まずは腕の治療をせねばな。おい、これはどうするのがいいのだ?」


「金テカのニック! こっちに!」


 声を張り上げ問うニックに、治療の準備をすませたメクァブが答える。すぐにそこまでナットゥを運ぶと、地面に横たえたナットゥの腕をメクァブがやや強引に掴んだ。


「ぐあっ!?」


「我慢しろ! まずは腕についた主の体液、全部拭う。そのあと薬つけて、ヌメルの膜で覆ってから更にネヴァールの糸で固定する」


「ふむん? それで治るのか?」


「……わからない。ここまで酷いと、治っても上手く動かないこと、ある。でもそれ以上はどうしようもない」


「なら儂の手持ちの薬を使った方がいいな。主の体液だけ綺麗に落としてくれ」


「ニックの薬……? わかった」


 訝しげな表情をしつつも、メクァブが自分の手にヌメルの膜をタップリと満たし、その手でナットゥの腕についた森の主の体液を拭っていく。ひと撫でごとにナットゥが激痛でもだえるが、それを気にしていてはどんどん火傷が進んでしまう。


「ニック! できたぞ!」


「うむ。ではこれを……」


 ヌメヌメが無くなり、代わりにブシュブシュと血を噴き出しているナットゥの腕に、ニックは魔法の鞄(ストレージバッグ)から取りだした高級な回復薬を振りかける。すると見る見る間に皮膚が再生していき、数秒後には傷一つ無い腕がそこにあった。


「う、お……? 俺の腕、治ってる……!?」


「うむうむ、大丈夫そうだな。っと、お主の手も大分痛んでおるようだな。ほれ、手を出せ」


「あ、ああ……!?」


 驚き戸惑うナットゥをそのままに、ニックはメクァブにも声をかける。そうして差し出された手にも薬の残りを振りかければ、真っ赤に焼けただれていたメクァブの手もまた元通りに戻っていった。


「凄い、痛くない…………金テカのニック、ひょっとして神か?」


「神ではないな。あの山の外には、こういう薬が存在するのだ。誰でも簡単に手に入るとまでは言わんがな」


「そう、なのか…………本当に、世界広い……」


 大きな目をパチパチと瞬かせ、治った手を見つめてメクァブが呟く。ナットゥもまた体を起こして腕の調子を確かめてみるが、特に違和感は感じられない。


「俺の腕、普通に動く! 金テカのニック、命の恩人! 俺、お前にどんな礼でもする! どうすればいい?」


「気にするな……というのも逆に気を遣わせてしまうか。ならば酒の一杯も奢ってくれればいい。最高に美味いのを頼むぞ」


「わかった! 俺、戦士の誇りにかけて、最高の酒用意する!」


「ふふふ、楽しみにしておこう」


 ニヤリと笑うニックに、ナットゥは満面の笑みで頷いて答える。そうしてそのまま立ち上がると、改めて周囲を見回し皆に声をかけた。


「皆、聞け! 周り見ろ! 隣見ろ! 友いる。仲間いる。怪我した者いるが、死んだ者一人もいない!」


 ナットゥの言葉に、その場に集う戦士達が皆笑顔で周囲を見回す。そこに欠けている者はなく、笑顔に笑顔が返ってくる。


「死んだもの、ただ一つ! 我らの敵、森の主だけ! ネヴァール族とヌメル族、力合わせた我らの完全勝利だ!」


「「「ウォォォォォォォォ!!!」」」


 改めてのナットゥの勝利宣言に、今一度場が沸き立つ。一人の死者も出ない勝利は長い歴史の中でも初めてのことであり、その喜びに限りなどありはしない。


「では、これより主の死体の処理、取りかかる! 連絡係、ネヴァールとヌメルの集落に主の討伐成功、伝えろ! 残りはここで作業だ!」


「オー!」


 ナットゥの宣言に、腰を下ろして休んでいた戦士達が立ち上がってそれぞれの仕事を始める。主の死体からこぼれ続ける体液はそのまま放置すると森を侵し続けるため、ヌメル族の戦士達がヌメルの膜で無害化するまで薄め続け、その護衛をネヴァール族の戦士がするというのがこの討伐の最後の行程であった。


「これで本当に終わるか……金テカのニック。感謝する。この勝利、お前のおかげ」


「よせよせ。儂の助力などほんの少しで、この勝利は間違いなくお主達の努力の結果だ。胸を張るがいい」


 やり遂げた顔で言うナットゥに、ニックは柔らかく微笑んで答える。嬉々として事後処理を始めた戦士達の姿を眺めると、その胸に熱いものがこみ上げてくる。


「……そう言えば、結局この森の主とやらはどこから来たのだろうな? コイツの移動した跡を辿っていけばわかるのではないか?」


 森の主の巨体が通った道は、はっきりとした傷跡として密林に残されている。これを辿れば主が現れた場所を見つけるのは簡単ではないかと思ったニックだったが、ナットゥが静かに首を横に振る。


「駄目。森の主、クサルの大地から出てきた、わかる。でもそこから先、わからない」


「クサルの大地?」


「そうだ。ここからずっと北に行ったところに、草も木も生えない場所、ある。多分そこで森の主、生まれてる」


「発生地がわかっているのか!? ならばそこを監視するなりしていれば、もっと素早く対応できるのではないか?」


「クサルの大地、近づくと息、苦しくなる。近くは魔物も獣もいないから、食料の調達もできない。長く監視する、無理」


「そうなのか……しかし気になるな。そういうことならちょっと見てくるか」


 ニックの漏らしたその呟きに、ナットゥが「何を言ってるんだコイツは?」という顔でニックを見る。


「ニック、俺の話聞いたか? クサルの大地、近づく危険」


「勿論聞いていたが、怪しいが近づけなかった場所となれば、行ってみれば色々と発見がありそうではないか。儂ならば平気だろうしな」


「何でそうなる!? 金テカのニック、俺の恩人! そんな危ないことさせられない!」


「そう言われてもなぁ……」


「ハッハッハッハッハ!」


 二人がそんな会話をしていると、不意にメクァブが大声で笑い出す。


「流石金テカのニック! 股間だけじゃなく心も頭もテカテカ! ハッハッハッハッハ!」


「……それは褒められているのか?」


 微妙な表情を浮かべるニックに、メクァブは更に笑い続ける。そうしてひとしきり笑うと、目に浮かんだ涙を拭いてニックに向かって笑顔で宣言した。


「よし、なら私も一緒に行く!」


「メクァブ!? クサルの大地、危険! お前だって知ってるはず!」


「勿論知ってる。でもヌメルの膜あれば、少しくらいは平気。だから私も金テカのニックと一緒に行く! 二人で凄くテカテカになる!」


「あー、よくわからんが、一緒に行くというのであれば構わんぞ。この森で暮らしているお主の方が、儂より色々詳しいだろうしな」


「任せろ、金テカのニック!」


 常識ではあり得ないニックの考えに、メクァブが意気投合して笑う。そんな二人の姿にナットゥはガリガリと頭を掻くと、激しく頭を振って悩んでからその答えを出した。


「あーもう! わかった! なら俺も行く!」


「ナットゥ、来るか? 私とニックだけで十分だぞ?」


「うるさい! ヌメル族が行ってネヴァール族が行かない、あり得ない! 金テカニックはネヴァールの友! ネヴァールの戦士、ナットゥが共に行く!」


「なら三人で行く! おーい、ナメココ!」


「オックラー! 話ある! ちょっと来い!」


 そうと決まればと、ナットゥとメクァブはそれぞれオックラーとナメココにこの場を託す。当然引き留める二人を何とか説得すると、三人は一路森の主の残した大きな道を辿ってクサルの大地へと進んで行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面白い、続きが読みたいと思っていただけたら星をポチッと押していただけると励みになります。


小説家になろう 勝手にランキング

小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[一言] クサル…。 硫化水素の辺りかな? この世界独自の要素の可能性も高いからなんとも言えないけど。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ