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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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父、懇願される

「着いたぞ。ここが我らヌメル族の集落だ…………」


 心なしか元気のない声で先頭を歩いていたメクァブが、足を止めてそう告げる。簡易的な木の柵で囲まれたそこはネヴァール族の集落と同じように見えるが、よく見ると細かいところが違う。これは使える資材や文明の発展度は同じでも、それぞれの身体的特徴に違いがあるからだろう。


「よくぞ来た、ネヴァール族よ。我らヌメル族はお前達を客人として…………メクァブ、何でそんなに疲れてる?」


「なんでもない……」


 妙に疲れた様子のメクァブに門番の女性が不思議そうに問い掛けたが、当のメクァブはそう言って力なく首を横に振る。


「うぅ、まさか触ることすらできないとは……」


「ヌメルの戦士、それはもうヌルヌル。でも逃げる敵にはあんまり意味、無い……」


「他の戦士達も、どうした? 一体何があったのだ!?」


「気にするな。真に強き者の強さ、身に染みて実感しただけ」


「…………?」


 よく見てみればメクァブ以外のヌメルの女戦士達も気落ちしているようだったが、一族最強の戦士であるメクァブにそう言われては門番の女性はどれほど気になってもそれ以上問うこともできない。


 なお、こんなことになった理由はニックが「その話を続けるというのであれば、最低限儂に触れる程度の実力は見せてみろ!」と宣言し、ヌメルの女戦士達が全員でかかっても指先をかすらせることすらできなかったからである。本気で困っていたニックが見せた割と本気の回避能力は、厳しい密林で鍛えられたヌメルの戦士といえどもとても捕らえられるものではなかったのだ。


「ま、まあいい。我らが長老、奥で待ってる。お前達、みんな通れ」


「私が案内する。ナットゥとニック、着いてこい。他の者達はネヴァールの戦士、相手してやれ」


「え、俺も行く――」


「オックラーは私と行く!」


「は? 何で俺!? ちょっ!?」


 騒ぐオックラーの首をガッチリと掴んで、ナメココがその場を去って行く。その光景を苦笑いしながら見送ったナットゥとニックは、メクァブの案内で集落の最奥にある大きな家へとやってくる。そうして中に入れば、そこには他のヌメル族に比べると明らかに背の小さいしわくちゃの老婆が部屋の中央奥にそっと座っていた。


「ばば様、ネヴァールの客人、連れてきた」


「はいはい、ありがとうねぇメクァブ。ネヴァールの客人、遠いところからよく来てくれた。ヌメル族の長老モズクが、皆を歓迎するよぉ」


 メクァブの言葉に、ばば様と呼ばれた老女……長老モズクがゆったりとした口調で話し始める。プルプルと震えるモズクにナットゥが儀礼的な挨拶を済ませると、その深い皺に隠れた目がジッとナットゥとニックの姿を見つめる。


「これはまた、強そうな戦士だねぇ。これなら今回も森の主を倒せるかも知れないねぇ」


「今回も? 長老様、前の森の主のこと知ってるのか?」


「知ってるよぉ。森の主と戦う、これで三回目」


「三回!?」


 モズクの言葉に、ナットゥが思わず驚きの声を上げる。


 森の主が蘇るのは、おおよそ四〇年に一度。それが三回目ということは、最低でも八〇年程度は生きていることになる。平均寿命が五〇年に満たない……もっとも、それは寿命ではなく森で命を落とす者が多いからだが……両種族にとって、その長寿は驚嘆に値した。


「ばば様の命、最高にヌルヌル。死神の手、滑ってばば様の命掴めない。私の母の母が産まれたとき、ばば様はもうばば様だった」


「そうだねぇ。沢山生きたねぇ」


 ぽつりとそう呟くと、ばば様の顔が上を向く。随分と見えなくなったその目に映るのは、遠い遠い昔の記憶。


「森の主、初めて出た時、私はまだ子供だった。私を世話してくれた戦士達みんなが森の主に挑み、沢山怪我をして、沢山死んだ。


 次に森の主出た時、私はもう(ばば)だった。私が世話した戦士達が森の主に挑み、沢山怪我をして、沢山死んだ。


 そして今、また森の主出た。私が世話した戦士達の子供や孫が、また森の主に挑む。それが傷つくところ、私はもう見たくない。


 ああ、何故私はまだ生きているか? 何も出来ないこの命で皆を守れるならば、今すぐにでも母なる森にこの身捧げるのに……」


 天を仰ぐモズクの目から、つうと涙がこぼれていく。深い皺に流れゆくそれは時の流れの如く止まらず、床へと滴りぽたりと落ちる。


「ばば様……大丈夫! 私強い! ナットゥも強い! ヌメル族とネヴァール族が力を合わせれば、森の主、簡単に倒せる! それに、今回はニックもいる!」


「ニック……? ああ、お客人だねぇ。メクァブ、お客人は強いのかい?」


「強い!」


 涙をそのままに問うモズクに、メクァブは力強く断言する。


「金テカのニック、誰より強い! 世界の壁を越えてきた、世界の広さを知る男! 私にテカテカの世界を見せた! 金テカのニック、誰にも負けない!」


「そうかい。メクァブがそう言うなら、そうなのかも知れないねぇ」


 優しげな声でそう言うと、モズクはニックの方に顔を向け、床に手を突きゆっくりと頭を下げていく。


「お客人、金テカのニック。どうか私の子供らを、守ってやってください……」


「ばば様!?」


「長老様!?」


 床に頭をこすりつけて子の安寧を願う長老に、メクァブとナットゥは互いに驚愕の声をあげる。だがそんななかニックだけは無言で立ち上がると、静かにモズクの方へと歩み寄っていく。その言葉にどれだけの思いが込められているのか。それを想像すれば、軽々しく「頭をあげてくれ」などと言えるはずもない。


「長老殿」


 故にニックはモズクの目の前に片膝を突くと、その肩にそっと手を置き覚悟を込めた言葉を返す。


「わかりました。儂の力が及ぶ限り、全力で皆を守ると約束しましょう」


「ありがとうねぇ…………っ!?」


 そんな男の顔を見ようと、モズクが頭をあげ……だがその途中で、膝立ちのせいで丸見えになったニックの股間にモズクの視線が吸い寄せられる。暗い闇の中でなお光り輝くのは、あまりにもテカテカな黄金の獅子頭。


「おおお、何と雄々しく、何とテカテカ! 金テカのニック、ニックの金テカ。どうかどうか、皆を宜しくお願いします……」


「無論です……長老殿? 何処を見て……!?」


 拝むような動作をするモズクの視線に違和感を覚えたニックだったが、すぐにその視線が向かっている先に気づいて素早く姿勢を変える。


「ああ、金テカが……」


「いや、長老殿? これを拝まれるのは、何とも……」


「おお、ばば様も見たか! ニックの金テカ、凄くテカテカ! その奥にある胤も、きっと猛烈にテカテカ! だから私欲しいのに、ニック、なかなか胤くれない……」


「そうなのかぃ? 金テカのニック、メクァブは三人も子を産んだとても立派な戦士。この子ならまだ五人は産める。なのにどうして?」


「いやいやいやいや。そういう問題ではなくてですな!」


「私の命、もうすぐ終わる。生きている間にメクァブの子供、抱きたかった……」


「ばば様……大丈夫! 私頑張る! だから、な?」


「何が『だから』なのだ!? というか、既に三人抱いているのではないのか!?」


 体を起こしたモズクがわざとらしく横にふらつき、いつの間にやら側にやってきていたメクァブがその体をガッシリと支える。そのうえでピッタリと息の合った二人に同時に視線を投げかけられては、流石のニックも大声で叫ばざるを得ない。


「というか、まだ肝心の森の主に関する話を全くしていないではないか! まずはそちらが先であろう!」


「……チッ」


「……長老殿?」


「なんでもないよぉ。じゃ、森の主に対する話をしようかねぇ」


「あ、ああ。宜しく頼む」


 素知らぬ顔で話を再開したモズクに、ナットゥがやや引きつった顔でそう答える。その隣にこれ以上ないほどにしょっぱい表情となったニックが戻ってきて腰を下ろすと、ようやくにしてネヴァール族とヌメル族の「対森の主戦略」の話し合いが始まった。

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