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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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父、世界を見せる

「約束だ。今回の戦い、我らヌメル族はお前達ネヴァール族の下につこう」


 ひとしきり騒ぎ終えたところで、メクァブがそう言ってその場で膝をつく。すると他のヌメル族達も同じように膝をついて頭を下げるが、その光景に待ったをかけたのはこの場の最上位者であるナットゥであった。


「待て、その必要はない」


「何故? 負けた方が下、そう約束したはずだ」


「そうだナットゥ! 俺達勝った! なら――」


「騒ぐなオックラー!」


 勢いに任せて声をかけてくるオックラーを、ナットゥは一喝して諫める。


「勘違いするな! 勝ったのは金テカのニックで、我らネヴァールじゃない! 勿論戦えば俺達が勝つが……今はそれ、大事じゃない」


 そこで言葉を切ると、ナットゥが跪くメクァブの側へと歩み寄り、まっすぐに手を伸ばす。


「俺達が必要なのは、配下じゃなく仲間。どちらが上でも下でもなく、協力して戦わなければ森の主、倒せない。


 だから俺達ネヴァールに力を貸してくれ! 勇敢なるヌメルの戦士よ!」


「……フッ。ナットゥ、相変わらず甘い。でも甘いだけ違うこと、私達知ってる」


 小さく笑ってから、メクァブが伸ばされた手を掴んで立ち上がる。互いに見つめ合う瞳に映るのは、尊敬すべき戦士の顔。


「いいだろう! 我らヌメルの戦士、ネヴァールの戦士と共に森の主と戦う!」


「我らネヴァールの戦士、ヌメルの戦士と共に森の主を倒す!」


「「今この時、我らは共に強敵に立ち向かう、森の戦士なり!」」


「「「ウォォォォォォォォ!!!」」」


 二人の宣言に、先程までの騒ぎと比較してもなお大きい歓声が森の中に響き渡る。ついさっきまで直接拳を交えていた者達すら今は肩を組み互いを讃え合っており、そこにわだかまりは感じられない。


「フッフッフ、お前は私が鍛えてやる!」


「うっ!? ナメココ……」


「大丈夫! すぐに一人前の戦士、なる!」


「ぐぅぅ……」


 唯一オックラーだけはナメココにバシバシと背中を叩かれ微妙な表情を浮かべていたが、それでもいがみ合ったりはしていない。そんな様子にメクァブは満足げに頷くと、その足を森の奥へと向けた。


「よし、そうと決まったら、お前達ヌメルの集落に案内する! 我らの長老、お前達の話聞きたがるはず」


「わかった。ネヴァールの長老の言葉、ヌメルの長老に伝える。皆行くぞ!」


 ヌメルの先導に従いナットゥが歩き出せば、その場の全員が移動を開始する。魔物などが辿れないようにあえて険しい道を何度も曲がりくねりながら歩いて行くと、ふとニックの側にメクァブがやってきた。


「おい、金テカのニック! 大丈夫か?」


「うむん? 大丈夫とはどういう意味だ?」


 ただ森を歩いているだけなのに心配されて、ニックは思わず首を傾げる。


「ナットゥ、お前が森の外から来たと話してた。森歩く、大変。ここで生まれた我らとて、訓練しないと危ない。なのにお前、平気なのか?」


「ああ、そういうことか。無論だ。この程度なら何ということもない」


「そうか……ひょっとして、あの山の向こうはもっと凄いか?」


「凄い? あー、どうだろうな。こことは違うのは間違いないが、そもそも山の外は広いからな」


「広い……我ら皆、森で生まれて森で死ぬ。森の外のこと知らないし、わからない。広いとはどのくらい広いのだ?」


「どのくらいと言われると難しいな。何百倍、いや何千倍か? もっと広いと思うが……そうだな、ほんの少しではあるが、実際に見てみるか?」


「見る? それは無理。我らあの山、越えられない。それとも金テカのニック、私を連れて山越えるか?」


「それも出来るが、もっと簡単な方法だ。少しここで足を止めてくれればできるが、どうする?」


「……お前、何するつもりかわからない。でも山の外、興味ある。おい皆! 少しだけ止まれ!」


 メクァブが大声を出せば、メクァブの代わりに皆を先導していたナメココを筆頭に全員がその場で立ち止まる。


「これでいいか?」


「うむ。では、ちょいと高く跳ぶ(・・・・)ぞ?」


「跳ぶ? 何を――――――――っ!?!?!?」


 メクァブの背後に回り、その胴を抱きしめたニックが力強く大地を蹴る。するととんでもない勢いで地面が遠ざかっていき、流石のメクァブも恐怖のあまり固まってしまう。


「ウ、ウワ、ウワァ!? な、何!? た、高――」


「ほれ、大丈夫だからよく見ろ」


「何が大丈夫!? 何を見ろ…………………………………………」


 激しく動揺していたメクァブだったが、意識して見たその光景に一瞬にして心が奪われる。そこには文字通り世界が広がっていた。


「どうだ? 世界は広いであろう!」


「……ああ、広いな。とても広い。とても眩しい」


 正面には山の向こうに広い平原が広がっており、空を見上げれば雲に手が届きそうになる。翻って見下ろす足下には自分達が生まれ育った森があり、天高く舞い上がったここから見れば、あれほど広大だと思っていた森は随分とちっぽけに感じられる。


「だが、これですら世界のほんの一部でしかない。真白く染まる雪山や、無限に燃え続ける黒き沼。万を越える人が暮らす大都市に天を衝く巨大な塔。他にも……ほれ!」


「あれは……っ!?」


 ニックが見た方向にメクァブもまた視線を向ければ、霧に霞んだ向こう側には天に浮く城が見える。


「ははは、天空城が見えるとはなかなかに運がいいな!」


「島が、空に浮いてる……!?」


「そうだな。どうやって浮いてるのかはサッパリわからんが、とにかく浮いているのだ! 儂は行ったことは無いが、儂の娘は仲間と共にあそこに行ったらしいぞ」


「ニックの娘、あそこに行った!? ニック、跳んでる! なら娘も跳べるのか!?」


「いや、娘は魔導船……空を飛ぶ大きな船に乗っていったのだ。さて、ではそろそろ降りるぞ」


 いい具合に中空を蹴って速度を調節しながら、ニックが元の場所へと降り立つ。周囲の者達がその信じられない光景に呆気にとられるなか、そっとニックが腕を放せば、メクァブもまた今の出来事が夢ではなかったのかと放心状態で立ちすくむ。


 そんななか、いち早く正気に戻ったのはやはりナットゥだ。


「に、ニック!? お前、空飛べたのか!?」


「ん? まあな。あ、だがあの山はちゃんと歩いて越えて来たから、お主達でもいずれは越えられる者が出てくるはずだ。あれは決して世界の果てなどではない。今メクァブに見せたように、世界というのはあの山の外までずっとずっと広がっているものだからな」


「そ、そうなのか……」


「ニック!」


 まるで当たり前のようにそう言われ、ナットゥは何と言っていいのかわからなくて言葉を失う。そしてそんなナットゥを完全に無視して、目をキラキラと輝かせたメクァブがニックに向かって猛烈に抱きついてきた。


「うぉっ!? 何だ!?」


「お前凄い! 金テカのニック、強くて空飛ぶ! 私、お前気に入った! 集落ついたら、早速私に胤つける!」


「胤!? いきなり何を言い出すのだ!?」


 突然の爆弾発言に、ニックが思わずメクァブの体を引き剥がそうとする。だがメクァブはヌルヌルと体を滑らせニックの腕から巧みに逃れる。


「お前私に勝った。そして私、ヌメル族最強の戦士! 二人の子供ならきっと強くなる! 大丈夫、私今まで三人産んでる! みんな強い子! だからニックの子供もきっと強くなる!」


「はぁ!? 三人も産んでいるなら、結婚しているということであろう!? ならばそんなことをしては駄目ではないか!」


「? 強い男と強い女で強い子供を増やせば、集落の力増してみんな幸せになる。なら一番強いニックの子供産むのは当然。何が駄目か、意味わからない」


「なっ!? あー……おぉぅ!?」


 結婚や出産などに関する価値観が全く違うであろうメクァブの言葉に、ニックは言葉に詰まってしまう。常に死と隣り合わせであろう過酷な地に生きるメクァブに、自分の恋愛や貞操観念を語ったところで間違いなく理解できないと思ったからだ。


「さあ、それじゃ早く集落、行く! 私が終わったら、お前達も順番に胤つけてもらえ!」


「やった!」


「空飛ぶテカテカの胤! 子供も飛べるようになる?」


「その前に私も外、見てみたい! 金テカニック、私も飛ばして!」


「待て待て待て待て! 外が見たいというのなら跳ぶのは構わんが、胤つけなど絶対にやらんぞ! 儂が愛しているのは妻だけなのだ!」


「ハッハッハ、そんなの私達気にしない! 胤だけくれたら、我らで空飛ぶ子供育てる!」


「儂が気にするのだ!」


 ヌルヌルとまとわりついてくるヌメル族に、ニックはたまらず声を上げて必死にその場を離脱した。然りとて自分だけ先に集落に行くわけにもいかず、結局目の届く範囲で追いかけっこに興じることになってしまう。


「金テカニック、捕まえる!」


「ヌメルの戦士、舐めるな!」


「その程度で儂を捕まえられるものか!」


 その何とも言えない馬鹿騒ぎは、ヌメル族の女戦士達が疲れ果てて諦めるまで、おおよそ一時間ほど続くのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 偶々この作品を見つけて、あまりの面白さに一気読みしてやっと最新話に追いつけました! なろう作品はすぐ行為に及ぶのが多くて苦手なのが多いんですけど、この作品はそんな事もなく安心して読めます。…
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