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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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父、励まされる

 その後程なくして始まった宴は、実に盛大なものだった。老若男女分け隔てなく皆が肉を食い酒を飲み、肩を組んで大声で歌ったり力比べを始めたりと、素朴だが幸せに満ちた時はニックの心をじんわりと温めてくれる。


 無論、話題の中心はニックだ。鎧や服という殻を脱ぎ捨て見事な肉体美を披露していることや、大量の肉を提供したこと、そして何より村の男達を簡単に倒してしまったことで、未婚の娘のみならず何人も子供を産んでいるご婦人からすら求婚され、ニックはそれを苦笑いでかわしていく。


「ハッハッハ! ニック、随分と好かれているな!」


「ナットゥか。儂には妻も娘もいるから無理だと何度も言っているのだがなぁ」


 そんな状況を見かねてか、ナットゥが酒の入った瓶を片手にニックの方へ近寄ってくる。


「ネヴァールの女、みんなネバネバ。そう簡単には諦めない。だがニックの心はもっとネバネバ。絶対変わらない、俺、なんとなくわかる」


「ああ、そうだ。儂のような男を好いてくれる女性には悪いが……儂の心も体も人生も、何もかもが妻と娘に捧げたものなのだ。どれほど懇願されようとも、それを他の者にわけてやることはできん」


「そうか。ま、気にするな。ネヴァールの女、粘り強いがしつこくはない。駄目とわかったらちゃんと諦める。あー、でも、種だけつけてくれとは言われるかも知れん」


「いや、それだと問題の解決になっておらんのだが……ん?」


 癖も酒精も強い白く濁った酒を飲みながら話しをするニック達だったが、不意にナットゥの足下に小さな影が走り寄ってくる。


「ター!」


「む? おっと」


 やってきたのは六歳くらいと思われる少女。褐色の肌に輝く笑顔を浮かべて、駆けてきた少女がナットゥの足に縋り付く。


「ター! 捕まえたー!」


「ははは、捕まった! ニック、紹介する。この子はヒキワリィ。俺の娘」


「おお、娘か! 儂はニックだ、宜しくな、ヒキワリィ」


 ナットゥがひょいと抱き上げた娘に、ニックが自分の顔を近づけて言う。するとヒキワリィはニックの鼻をプニプニと指でつついてから、元気いっぱいに挨拶をした。


「ニックー? アタシ、ヒキワリィ! ター、ニックは何?」


「ニックは強い戦士だ。オックラーを倒し、集落の男達を倒した」


「ターより強い?」


「むっ!? それは……」


 無邪気な娘の質問に、ナットゥが眉根を寄せて言葉に詰まる。この集落で最強の戦士であるナットゥは、当然ながらニックの強さを感じ取っている。が、実際に戦って負けたわけでもないのに娘の前で「自分の方が弱い」とは言いたくない。


 然りとて戦士の誇りがその場しのぎの嘘を言うことを許さず……困るナットゥに、ニックは軽く苦笑いを浮かべてからヒキワリィに話しかける。


「ははは、儂とナットゥは戦ったことがないから、どちらが強いかはわからんな。ただ一つ言えることは、お父さんは最強だと言うことだ」


「お父さん、最強? なら、ターは最強?」


「そうだな。儂も娘の為ならどんな敵でも殴り飛ばせる。お主の父もきっと同じであろう。そうではないか?」


「当然だ! 俺はネヴァール族最強の戦士! 集落の皆を、娘を守るためならどんな敵だってネバネバにする!」


「ター! 最強!」


「うむ、最強だ!」


 はしゃぐヒキワリィとそれを抱き上げ笑うナットゥの様子に、ニックの胸が熱くなる。


「やはり家族というのはいいものだな」


「うん? ニック、家族とうまくいってないか?」


「そうではない。が、娘は今大きな使命を背負い、一人で頑張っているのだ。その努力を親の勝手で手伝って無碍にするわけにもいかんだろう?」


「それはそうだ。ネヴァールの戦士、成人のために狩りをする。だがいくら心配でも、親がそれを手伝ったら台無し」


「そういうことだ。子供が成長するためには、親は子から離れねばならぬ時が来る。そしてどれほど離れていても、親は常に子を想い、子もまた親を想ってくれているとは思うが……それはそれとして、一緒に居られぬのはやはり少々寂しいものだと思ってな」


 僅かに伏し目になって言うニックに、ナットゥは娘を降ろしてニックと肩を組む。


「ネヴァールの民、心までネバネバ。みんながみんな粘る糸で繋がってる。


 ニックはネヴァールの民じゃない。でもお前と娘なら、きっとネバネバの糸で繋がってる。その糸、どれだけはずそうとしても絶対にはずれない。ネヴァールの糸は絆の糸」


「……ああ、そうだな。ありがとうナットゥよ」


「気にするな。お父さんが最強なら、最強の俺が励ます、当然」


 年長者として励ます側ばかりだったニックだが、今回は珍しく年下の男に励まされ、その顔に照れくさそうな笑みを浮かべる。それを誤魔化すように手にした杯の酒を飲み干すと、ニックは徐にその場で立ち上がった。


「ふふふ、今夜は実に気分がいい! ということで、ここは一つ素晴らしい宴会芸でも――っ!?」


 その瞬間、遙か森の奥から強烈な何かがその場を吹き抜けていった。ただ一人の例外もなく全員がその「何か」が来た方向に顔を向けるなか、ニックの隣にいたナットゥが怯える娘を抱きしめながらぼそりと漏らす。


「まさか、主が目覚めた……?」


「主?」


 問うニックに、ナットゥは顔色を悪くしながら静かに頷いて答える。


「そうだ。この森の奥、主いる。ネヴァールの戦士、何度も主を倒しているが、何十年か経つと復活する」


「客人ニック、今すぐこの森を出る。本当に山を越えて来たなら、また越えて向こうに戻る。主の動きは遅い。反対に逃げれば簡単に逃げ切れる」


 いつの間にか側にやってきたトロロゥが、ニックに向かってそう諭す。だがそれに頷くほどニックは薄情な男ではない。


「申し訳ありませんが、その助言には従えませんな」


「何故? 山越える、準備足りないか? なら僅かだが食料を渡す。宴の肉の礼」


「そういうことではありません。山を越えて逃げることは簡単ですが、儂はそうしたくないのですよ。ここで共に戦わせてはもらえませんかな?」


「何故!? ニック、客人! ネヴァールの民違う! どうして我らのために戦う!?」


「どうして、ですか……」


 問い詰めるトロロゥに、ニックはゆっくりと集落の中を見回す。さっきまでの喧噪が幻であったかのように静まりかえる広場には、ナットゥやオックラーは勿論、散々に投げ飛ばした若者達や薬湯を用意してくれた女性の姿も当然ある。


「確かに儂はネヴァールの民ではありません。ですがこの地にやってきて、男達と拳を交わし、女達と会話を交わし、酒を飲み肉を食い、共に笑って歌って時を過ごしました。


 ならば我らは友であり、友のために戦いたいと思うのは当然ではありませんか。それに何より……」


 そこで一旦言葉を切ると、ニックの視線がナットゥの足にギュッと抱きついているヒキワリィに向く。見られていることに気づいたのか不安そうなヒキワリィがニックを見ると、それに応えるようにニックはニッと笑顔をみせてからトロロゥの方に顔を向け直す。


「どんな世界、どんな場所であろうと子供は宝だ。子供を守る為に拳を振るうことに、それ以上の必要がありますかな?」


「ニック……っ!」


 その言葉に、ナットゥがこみ上げる思いをそのままにニックの名を口にする。それに大きく頷いて答えると、ニックはその場で拳を振り上げ大声で叫んだ。


「怯えるな! ネヴァールの戦士達よ! お主達を簡単にあしらった儂が、お主達と共に戦い、お主達を勝利に導く! 友を! 家族を! 同胞を! 守るべきものを守るため、今こそ拳を振り上げるのだ!」


「「「ウォォォォォォォォ!!!」」」


 巻き起こるのは激しい歓声。その場に溢れていた怯懦を一瞬にして振り払ったニックに、ナットゥが静かに歩み寄ってニックの肩に手を置く。


「ニック……」


「ふふふ、どうだナットゥよ。これならば……」


「それ、俺の仕事……せっかく、娘も見てたのに……」


 皆に背を向け、ニックにだけ見せているナットゥの顔がこれ以上無い程にションボリとする。その背後では彼の娘であるヒキワリィも「オー!」と元気に拳を振り上げている。


「あー、それは…………何と言うか、本当にすまぬ……」


『まったく、貴様という男は……』


 股間から聞こえる呆れ声に反論する余地もなく、ニックもはナットゥに心から謝罪の言葉を口にするのだった。

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