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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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父、糸を引く

「ガッハッハ! 力比べだけではなく、勝負そのものも儂の勝ちのようだな……ぬぅ、取れぬ……」


 高笑いをして勝利宣言をしつつ、体に張り付いたネバネバの糸を取ろうと悪戦苦闘するニックに対し、周囲のネヴァール族達は呆気にとられた表情を向ける。


「な、何で!? ネヴァールの糸、かなりネバネバ! それだけ巻き付いたら石竜だって動けない! なのにどうして動けた!? 殻付き、お前ヌメルの戦士か!?」


 そんななか、地面に倒れていたオックラーが鼻を押さえて起き上がりニックを問い詰める。きちんと手加減したとはいえ気絶しなかったオックラーの頑丈さに密かに感心するニックだったが、そんなニックが口を開くよりも先にジッと事の成り行きを見守っていたナットゥが言葉を発した。。


「落ち着けオックラー。ヌメルの戦士、殻付き、無い。だからニックはヌメルの戦士、違う」


「でも、じゃあなんで!?」


「それは俺にもわからん……ニック、どうやってネヴァールの糸を破った?」


「ぬぅ? どうと言っても、普通に引っ張っただけだぞ? ほれ、こうやって……」


 言いながら、ニックは体に張り付いた糸を摘まんで引っ張る。すると糸は結構な強度を持ってビヨンと伸びていくが、限界を迎えたところでブツンと切れた。


「……信じられない。ネヴァールの糸、凄くネバネバ。それを引っ張って千切るとは……」


 ニックの成した所行に、ナットゥが大きく目を見開く。だがそれを現実として受け入れると、今度は鼻を押さえたままのオックラーにその顔を向けた。


「オックラー、ニックはネヴァールの裁きに勝った。何か言いたいことはあるか?」


「うぅ、俺、負けた。ニックは殻付きの弱虫だが強かった。言い訳はしない。俺、ニック認める」


「他の者はどうだ? 誰か他にニックに挑む者、あるか?」


 ナットゥの問い掛けに、しかし周囲にいたネヴァール族で応える者はいない。その沈黙を以て答えとし、ナットゥは改めてニックに対して話しかけた。


「ネヴァールの裁きは下った。殻付きニック、我らはお前を受け入れる」


「お、そうか? それはありがたいのだが……なあ、この粘つく糸はどうやったら綺麗に取れるのだ?」


 割と重要な場面ではあったが、ニックはどうしても自分の体に巻き付く糸が気になって仕方がなかった。拭っても拭っても粘り着くそれに困り果てているニックを見て、ナットゥは微妙な表情で小さくため息をつく。


「あー、ネヴァールの糸、すぐには取れない。集落に落とす薬、ある。着いてこい」


「うむ、わかった!」


 クルリと背を向け歩き出すナットゥに、ニックは後を着いて歩き始める。周囲をネヴァール族に囲まれ、然りとて遠巻きに見られているだけだったニックに最初に話しかけてきたのは、やっと鼻血が止まったオックラーだ。


「おい殻付き! お前殻付きなのに強いな!」


「うむん? まあ鍛えておるからな……ずっと気になっていたのだが、その『殻付き』とはどういう意味なのだ?」


「殻付きは、殻付き。お前体に余計なものつけてる。殻付きは弱虫の証!」


「体に余計な……というと、この鎧や服のことか? いやしかし、こんな密林で裸というのは危険ではないか?」


 森の中というのは存外に危ない。生えている草は触れ方によっては容易く皮膚を切り裂く鋭さをみせるし、触れるだけで腫れたり爛れたりする液を出すものもある。また羽虫などに刺されればそこから病気になったりすることもあるため、山歩きに慣れた者ほど木々のあるところでは肌を露出しないように気をつけるのが常識だ。


 だが、そんな常識を問うニックにオックラーは軽く馬鹿にしたような顔で答える。


「森が危ない、弱い奴だけ。だから子供はみんな殻付きにする。でも戦士はそんなことしない。鍛えた体、森で傷ついたりしない」


「うーん、つまりあれか? この森を裸で歩ける強さというのが戦士として認められる最低限ということか?」


「そうだ! 殻付きの戦士、無い! ネヴァールの戦士、みんな強い!」


『武具の強さを完全に否定しているのか。確かにこの環境で大量の金属を手にして武具を仕立てるのは現実的ではないのだろう。ならばこそそれに頼らぬ価値観が育ったというところか』


「なるほどなぁ。ちなみにだが、その毛皮は殻付きとは違うのか?」


「違う。ネヴァールの戦士、強いけど変態じゃない」


「お、おぅ、そうか……」


『クックック、随分原始的な連中のようだが、それでも貴様よりは羞恥心が発達しているようだな……ぐおっ!? また貴様はそうやって!?』


 実に楽しそうに笑い声をあげるオーゼンをとりあえずニギニギしながら、ニック達は密林の中を進んでいく。そうして一時間ほど歩くと、開けた視界の先には大きいが穏やかな流れの川とその周囲に数十の簡素な家が建ち並んでいる場所へと辿り着いた。


「皆、帰ったぞ!」


「戦士の帰還だ!」


 ナットゥとオックラーの声に反応して、家や川縁から続々と人が集まってくる。説明通り女性と子供は蔦をより合わせたような粗い服を身につけているが、老人であろうとも男は皆毛皮の腰蓑と外套だけの八割方裸な格好だ。


「よくぞ戻ったナットゥ」


「長老様」


 そうして集まってきた人のうち、長く白いヒゲを垂れ流した老人が一歩歩み出て声をかけると、その場でナットゥ達全員が膝をついて頭を垂れる。釣られてニックも膝をつこうとしたが、ナットゥがそれを手で制し、それを確認した長老が徐に口を開く。


「狩りに出たはずのお前達が、獲物では無く人を連れ帰った。その殻付き、何者だ?」


「この殻付きは、ニック。ネヴァールの裁きにてオックラーを打ち倒したため、客人として招きました」


「ほぅ!」


 ナットゥの言葉に、それを聞いていた集落の者達からざわめきが巻き起こる。ニックは与り知らぬことではあるが、オックラーはこの集落で二番目に強い戦士であり、それに「殻付き」が勝ったというのはとても信じられなかったからだ。


「簡単には信じられない。が、ナットゥが言うなら嘘ではあるまい。殻付きニック、長老トロロゥの名の下に、ネヴァールの民はお前を客人として受け入れる」


「ありがとうございます、長老殿」


 トロロゥの言葉に、ニックは立ったまま頭を下げて礼を述べる。するとトロロゥは鷹揚に頷いてみせ、そのまま言葉を続けていった。


「うむ。ではまずネヴァールの糸を落とすことから始める。女衆よ、客人のため、薬湯を用意せよ」


「はい!」


 トロロゥの言葉に従い、その場にいた女性の何人かが集落の奥へと走って行く。それを確認すると長老はニックの側まで歩いてきて、しげしげとその鎧を見回した。


「むぅ、見事な殻。それにこれは……ネヴァールの糸が切られている? 客人、どうやって糸を切った? 腰にある殻の牙か?」


「ああ、いえ。これは剣で切ったわけではなく、こうして……」


 やや胡乱な視線を向けてくる長老に、ニックはナットゥ達に見せたように糸を引っ張って引きちぎってみせる。するとトロロゥもまた大げさに驚き、だが次の瞬間にはニッコリと笑みを浮かべた。


「なんと!? ネヴァールの糸、猛烈にネバネバ。それを引きちぎるとは……ニックは殻付きだが真の戦士! 強き客人を迎えられたこと、ネヴァールの長として嬉しく思う」


「ははは、ありがとうございます」


「よく聞け皆よ! 強き殻付き、ニックの歓迎の宴を開く! 望む者あれば、ニックに糸を引いてもらえ!」


「「「おおおーっ!」」」


 トロロゥの宣言に、集落内部が一気に活気づく。どうやら歓迎してくれるらしいが、それを素直に喜ぶ前にニックには確認すべきことがある。


「長老殿? 歓迎していただけるのはありがたいが、糸を引くというのは?」


「強い戦士が訪れた時、ネヴァールでは若い男がこぞって挑む。この地では強くなければ生き残れない。強きに憧れ強きを望む。だから強い戦士は若者の糸を引かねばならない」


「あー、要するに向かってくる男達と戦ってやればいいのですな?」


「そうだ。強き殻付きニック、若者達の糸をしっかりと引いてやってくれ」


「わかりました。そういうことならば喜んでお引き受けいたしましょう」


 自分が何をすればいいかがわかったことで、ニックは改めて周囲を見回す。すると下は六歳くらいの子供から上は三〇歳くらいと思われる男まで、キラキラ、あるいはギラギラした視線を自分に向かって投げかけてきている。


「殻付きニック! 俺と勝負!」


「俺も俺も!」


「いいとも! 何なら全員纏めてかかってくるがいい!」


「っ!? 殻付き、調子にのってる!」


「みんなでやる! ネヴァールの男、強さ見せる!」


「おぅ、こい!」


 大人も子供も入り乱れて飛びかかってくるネヴァール族を、ニックは薬湯の準備ができるまで上機嫌で何度も何度も倒し続けた。

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[一言] 鍛え上げた男達と結んで縛って組んずほぐれずヌルネチョか とろろとか山芋もあるんだろうか
[気になる点] メッカーブは? メッカーブさんはいないの? ここは海から遠いから? そんなの差別だ! [一言] 既に本筋よりネーミングの方に意識が向いている点について。
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