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最強無敵のお父さん 最強過ぎて勇者(娘)パーティから追放される  作者: 日之浦 拓
本編(完結済み)

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父、裁きを受ける

 中央集積倉庫(セントラルサーバー)を探すと決めたことでニックの旅路はこれまでとは打って変わって、道もなければ人もいないような場所も積極的に歩くようになった。それは今までと比べれば格段に難しい旅路となったが、ニックの身体能力があればどんなに険しく厳しい自然も大した問題にはならない。


 その結果今まで誰も入れなかったであろう前人未踏の密林にて……ニックはふと足を止め、ゆっくりと周囲を見回していく。


「ふむ、囲まれているな。気配からするとおそらく人だと思うが……」


『こんな場所でか? 人に会うのは随分と久しぶりだな』


 二〇ほどの気配が広く前方を覆うように感じられるなか、ニックの言葉にオーゼンが気楽な口調で言う。たとえ何が囲んでいようとニックが害されることなどオーゼンには想像もつかないし、ニックにしても強い警戒心だけで殺意を向けられているわけではない現状では厳しく対処する必要性を感じない。


「儂に何か用か?」


 ならばこそ、ニックはもっとも近く、そして大きく感じられる気配に向けてそう声を投げかける。すると程なくしてガサガサと草を掻き分けて姿を現したのは、獣の皮で作られた腰蓑と外套を纏う、三〇を少し過ぎたくらいだと思われる半裸の大男。


 やや赤みがかかった頭髪は複雑に編み込まれており、鍛え上げた筋肉を宿す褐色の肌を惜しげもなく晒したその男は、手にした槍の石突きをドスンと地面に叩きつけながら大声でニックに問うてくる。


「ここ、俺達ネヴァール族の森。でも、俺、お前知らない。お前何者? どこから来た!?」


「うむん? 何処と言われると、あの山の向こうからだが……」


「嘘を言うな! あの山、ネヴァールの戦士でも越えられない! お前、嘘つき!」


「嘘ではない。確かに険しい道のりだったが、越えられぬということはなかろう?」


「嘘つき! お前、嘘つき!」


「むぅ……」


『いや、あの山を越えられるのは貴様くらいなのではないか?』


 一方的に責められるニックに、オーゼンが微妙な声で言う。ニックの越えてきた山はこの密林を囲うように存在し、どの場所も壁と表現した方が近い程に険しく切り立っている。


 休憩場所など無いに等しく水も食料も現地調達はほぼ不可能、おまけに周囲をワイバーンなどの空を飛ぶ魔物が縄張りとしているため、崖を登っている最中は常に飛行型の魔物に襲われる危険性がある。


 そんな場所を常人ならば二週間ほどかけて登り続け、更に同じ時間をかけて下山しなければこの密林と外の世界とを行き来することはできないのだから、彼らがあの山を事実上の世界の壁として見ているのは至極当然のことだろう。


「むぅ。儂でなくても金級冒険者辺りならば越えられると思うが……いや、それでも向き不向きはあるから、絶対とまでは言わんが」


「お前、何一人で言ってる!? 嘘つき、どこから来た!? 言え!」


「おっと、すまん。いやしかし、これはどうしたものかな」


 如何に常識からかけ離れていようと、ニックがあの山を越えてきた……怯えて近づかない魔物を無視して鼻歌交じりに壁を登り、一日で辿り着いた山頂で眺めがいいからと一泊してから降りてきた……ことには変わりがない。この場の誰かを連れて行って山を登ってみせることは可能だが、流石にそんな悠長な証明には付き合ってくれないだろう。


 かといって無視して通り過ぎたり、問答無用で殴ってしまうのも駄目だ。初めて訪れる場所でせっかく出会った人々を無視するのはあまりに退屈な選択であるし、ましてや何かされたわけでもないのに暴力に訴えるなどニックがするはずもない。


『いっそここで高く跳んでみせてやればいいのではないか? 雲より高く跳べるのを見せれば、それ以上は何も言うまい』


「あー、そういう方法もありか。よし、ならば……」


「ナットゥ!」


 ニックが足に力をこめようとしたところで、不意に正面の男の背後から別の男が声をあげる。似たような格好ながらも正面の男よりやや若くやや小柄なその男の呼びかけに、正面の男が振り返って答える。


「オックラー、何だ?」


「こいつ、ネヴァールの地に入った! ならネヴァールの裁きをする!」


「ぬ…………」


 ナットゥと呼ばれた槍持ちの男が、オックラーという男の提案に思案顔をする。だがオックラーはそんなナットゥを見て更に激しくいきり立つ。


「何を迷う!? こいつ殻付き! 弱虫! 俺が負けるはずない!」


「いや、しかし……」


「ナットゥ!」


 強く詰め寄られ、ナットゥが眉根を寄せて考え込む。そうしてしばし無言の時が流れると、やがてナットゥは真剣な顔つきでニックに向かって声をかけてきた。


「おい、お前。名前、あるか?」


「儂の名か? 儂は鉄級冒険者のニックだ」


「テツキュー……ボウケンシャー? 何だそれは? それがお前の部族か?」


「所属しているという意味では近いのかも知れんが、部族と言われると違うような……というか、お主達冒険者が何なのかわからんのか!?」


「知らん! 我らはネヴァール族! ボウケンシャーなどではない!」


 驚き問い返すニックに、オックラーが大声で答える。いつの間にか姿を現していた他の男達やナットゥもそれに異を唱えないため、どうやら本当に知らないらしい。


「ぬぅ、まさか冒険者を知らぬ者がいたとは……」


『やはりあの山脈で文化や知識が分断されているのだろうな。それでも言葉が通じているというのであれば、やはりこの者達もアトラガルドの崩壊時にここに移り住んだ者の末裔なのだろうが』


「そんなことどうでもいい! 弱虫の殻付きニック! お前ネヴァールの裁きを受けるか!?」


「受けるもなにも、そもそもそのネヴァールの裁きとやらは、一体どういうものなのだ?」


 明確な敵意を持って接してくるオックラーではなく、ナットゥの方に顔を向けてニックが問う。


「ネヴァールの裁きは、選ばれし戦士と罪人が戦う事。強き戦士は正しき戦士。勝てば皆ニックを認める。どうする、やるか?」


「なるほど、そういうことなら受けて立とう!」


 何ともわかりやすい説明に、ニックはニヤリと笑ってやる気を出す。改めてオックラーの方に向き直ると、開いた両手を前に突き出して構えとした。


「さあ、かかってこい!」


「殻付き、生意気! 俺、弱虫になんて負けない!」


 そんなニックの手をオックラーがガッシリと掴み、指を絡めて力比べの体勢となる。だがどれほどオックラーが押し込んでもニックの体はピクリとも動かない。


「ふふふ、どうしたオックラーとやら? お主の力はこんなものなのか?」


「ウガァァァァァァァ!」


 オックラーの太い腕に渾身の力が籠もり、浮き出た太い血管がビクンビクンと脈打つ。一族共通らしい褐色の肌はやや赤みがかってきており、にらみ合う顔は射殺さんばかりにニックを見つめて歯を食いしばっているが……対するニックの表情は、ただ楽しげに笑うのみ。


「どうやら力比べは儂の勝ちのようだな。ではこれで……終わりだ!」


「うぉぉぉぉ!?」


 両手を組み合ったまま体を捻り、ニックがオックラーを横に吹き飛ばす。オックラーの巨体が為す術もなく宙を舞い……だが離れたオックラーの手とニックの手の間に、謎の白い糸がビヨンと伸びる。


「ぬぉ!? 何だこれは!?」


「ぐはっ!? でも、まだだ!」


 驚いたニックが自らの手を擦り合わせるが、伸びる糸はどうやってもはずれない。そうしてニックが白い糸に気を取られている間にギリギリで体勢を立て直したオックラーがニックの周囲を走り回ると、ニックの体に粘つく白い糸がグルグルと巻き付いてその体を拘束していく。


「何と面妖な!? ぬ、足もか!?」


 無論ニックもただ黙って立っていたわけではない。その場を移動するために足をあげたが、いつの間にやら自分の足にも白いネバネバが絡まって大地に張り付けられている。


「ネヴァールの戦士、みんなネバネバ! 殻付き、もう動けない!」


「「「オックラー! オックラー! オックラー!」」」


 そうしてメーショウの鍛えた青い鎧が見えなくなるほどに白い糸をネバネバと巻き付けられたニックの前に、勝ち誇った顔を浮かべるオックラーがやってくる。周囲からはオックラーを讃える声が響き渡り、それに応えるようにオックラーが拳を握る。


「殻付き、まあまあネバネバだった。でもネヴァールの戦士に勝つには粘りが足りない! これで終わりだ!」


 オックラーの拳が、ガッツリと全身を拘束されたニックの顔面目がけて振り下ろされる。それに対してニックは……


「お主がな!」


「はぎゃっ!?」


 体を締め付ける糸をあっさりと引きちぎり、驚愕するオックラーの顔面にニックの拳が無慈悲に突き刺さった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 謎の白い液体 [一言] ネヴァール族のナットゥとオックラー・・・ 相変わらず震撼せずにはいられないぜ
[良い点] 白く粘りのあるベタつく何かが筋肉親父に襲いかかる [気になる点] 健康的になりそうな名前ですねー 歌舞伎的なアレか指先を狐さんにする手首か出るアレか…
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